※今までに書いたもの
- 神をも恐れぬ
- 冬虫夏草
- 神徳はゆっくりのために
- 真社会性ゆっくり
※注意事項
- このお話はゆっくりいじめ系1755 真社会性ゆっくりの続きです。
- 人間は介在しません。
- 登場するゆっくりは全滅しません。
- ぼくのかんがえたさいきょうゆっくりが登場します。
- 全部で4か5ぐらいまで行く予定。
- ……おいィ? 結局書きたい部分が全編通じてプロットに含まれてないんだが?
- なので、そこからさらに派生する予定。
ゆっくり、ゆっくりしていたの。
れいむはとってもゆっくりできるばしょで、ゆっくりゆらゆらゆられていたの。
おめめはまだみえなかったけど、おみみはちゃんときこえていたよ。
だから、おかあさんたちがどこにいるか、おねえちゃんたちはどうしているのか、れいむはもうわかってたの。
おねえちゃんはさんにんがみっつなの。でもあとひとり、ひとつじゃないおねえちゃんがどこかにいるの。
れいむはさんにんがみっつのあとのひとつなの。いちばんしたのいもうとなんだよ。
(ゆっきゅちうみゃりぇちゃいね?)
(ゆっ。ゆっくちちようにぇ、りぇいむ?)
まだ、れいむたちはしゃべれないの。でも、れいむがこころのなかでおもったら、まりさおねえちゃんがやっぱりこころのなかでそんなふうにこたえてくれたの。
ゆっ。れいむたちはまだしゃべれないけど、こころのなかはつながっていたよ。
おかあさんのゆっくりしたくきさんで、みんなこころがつながていたんだよ。
(ゆっ? まりしゃはゆっきゅちちないょ?)
(みょんもゆっくちできにゃいよー)
(ゆっきゅりしゅるにゃんちぇ、ときゃいはじゃにゃいわ)
(どぼちてしょんなこちょゅぅにょぉ!!)
(りぇいみゅこしょなんちぇこちょゆぅにょぉぉぉ!)
……でも、ほかのおねえちゃんたちはゆっくりできないゆっくりみたい。
(あたりみゃえだよ……りぇいむもゆっくちちにゃいでね!)
ぷくぅ! このおねえちゃんまでこんなこという。れいむ、ほんとうにかなしくなっちゃうよ。
ほかのどのおねえちゃんより、はやくにれいむにはなしかけてきたこのおこえ。
れいむがはじめて「ゆっくちちたい」っておもったときに、このおこえがきこえてきたとおもうの。
ゆっくりしちゃだめ、なんていってるおねえちゃんは、このおねえちゃんだけだとおもってたのに。さんにんがみっつのおねえちゃんが、ゆっくりしちゃだめなんていっているよ。
ゆっくりできるこはれいむとゆっくりできるまりさおねえちゃんだけ。
ぷんぷん、そんなのじゃおかあさんがゆっくりできないよ!
「ゅっ、おちりゅよ!」
でも、さきにうまれるのはゆっくりできないおねえちゃんなの。おこえがきこえたからきっとそうなの。
とってもざんねん。れいむとゆっくりできるまりさおねえちゃんなら、おかあさんをとってもゆっくりさせてあげられるのに。
そうおもったら、れいむももうおこえがだせることにきがついたんだ。
「……ゆぅ。もうまちぇにゃいよ! れいみゅ、ゆっきゅちうみゃれりゅょ!」
「ゆゆっ! まりしゃもうみゃれりゅよ!」
よこで、ゆっくりできるまりさおねえちゃんのおこえもきこえたよ。だから、ぐるってからだをよこにむけたの。おめめもいつのまにかみえていて、そこでおねえちゃんがわらっていたよ。
だから、れいむがまんできなかったの。はやくうまれておかあさんをゆっくりさせてあげるんだ。
ゆっくりできるまりさおねえちゃんも、おんなじことかんがえてたみたい。だからふたりで――、
「あっ、おねえちゃんよりしゃきにうみゃれちゃだみぇえ!」
くきさんからはなれても、まだゆっくりできないありすおねえちゃんがなにかいってたけど、そんなのしらないの。
(れいみゅ……それでいいにょ?)
くきさんからはなれたのに、まだあたまのなかにあのおねえちゃんのおこえがひびいてる。まだれいむのあたまのなかにいるんだ。
でも、ゆっくりできないゆっくりなのに、ゆっくりしてるのがわるいよね?
ありすおねえちゃんのおこえはどんどんとおくになっていって、かわりにびゅうんってちかづいてくるのはぴかぴかひかるくささんにおおわれたじめんさん。
「ゅゅっ?」
「ゅぎゅっ!?」
ぺちん、ごろごろ。
じ、じめんさんもゆっくりしてね!
たかいところからおちたれいむたち、ちょっといたくてなみださんがでてきた。おかあさんにごあいさつしたいのに、おこえがすぐにでてこないの。
なんとかおこえさん、だせるかな。そうおもったら、もうみんなそろっていたよ。
そしたら、しぜんにおこえがでてきたんだ。おかおはまだいたかったけど、きにならないの。ゆぅ、ってむねいっぱいにいきすいこんで、
「「「「「「「「「「ゆっきゅちちていっちぇにぇ!!」」」」」」」」」」
がんばってさけんだよ。みんないっしょ、きれいにそろったの。
めのまえをみあげたら、そこにはとってもゆっくりしたおかあさん。かぐやとえーりん、っておなまえなの。れいむ、うまれるまえからしってるよ。
「……? おきゃしゃん、どうちちぇへんじしてくれにゃいの?」
「まりしゃはわきゃるょ。おきゃしゃんはとちぇもゆっくちちてるんにゃにぇ!」
……おかあさん、とってもゆっくりしたゆっくりみたい。
ごあいさつしたのに、にこにこわらってごへんじくれないの。
ゆっくりできないおねえちゃんたちも、おかあさんたちとおなじにわらってじーっとおめめとおめめをあわせてるだけ。
(れいみゅ、おかあしゃんはとってもゆっくちしてりゅよ。れいみゅは、ゆっくちしてもりゃうためにがんばりゃにゃいとぃけにゃいんだよ)
ひとりだけ、まだこころのなかにいるゆっくりできないおねえちゃんがなにかいってるけど……れいむ、むずかしいことわからないよ。
いまわかるのは……とりあえず、くきさんからごはんがもらえなくなって、おなかがとってもすいてることだけだよ。
「ゆぅ。まりしゃおにゃきゃがしゅいたょ」
「ゆっ。おにゃかすいちゃにぇ」
「おにゃきゃしゅいたらゆっくちできにゃいよ……」
ゆぅ。れいむとゆっくりできるまりさおねえちゃん、なかまはずれになっちゃった。
おなかもすいたし、こころのなかのおねえちゃんもだまっちゃったし。とってもかなしいきぶん。
……おかあさん、いつになったらおへんじとごはんをくれるのかな?
そう、おもったときだったんだ。
「ゆっくりしたいこを、ゆっくりさせてあげてね!」
とってもゆっくりしたくろいおかみのおかあさんが、とってもゆっくりしたきれいなおこえでおへんじをくれたの。
やっぱり、とってもゆっくりやさしいおかあさん。れいむとおねえちゃんがおなかすいてることに、きがついてくれてたんだ。
ゆっくりできないおねえちゃんたちも、とってもうれしかったみたい。
だって、れいむとまりさとどうじにみんなもいっしょにすぅっていきをすいこんで、おおきなおこえをだしたんだから。
「「「「「「「ひゃぃ、ひみぇしゃま!」」」」」」」」
「「ゆっくちちちぇ……ひみぇしゃま?」」
……おねえちゃんたちは、おおきなおこえで『ひみぇしゃま』ってよんだよ。
ひみぇしゃまって、だれだろうね?
(おかあしゃんは、ひみぇしゃまにゃんだよ。りぇいむもいますぐに、『ひゃい、ひみぇしゃま』っていわにゃいとだめだよ)
ゆ? ゆゆっ? どういうこと?
こころのなかのおねえちゃんが、ちょっとおこったような、ちょっとあわてたみたいなおこえでいいうの。
なにがなんだか、わかんない。まりさおねえちゃんもおんなじみたい。
ちょっとびっくりして、ちょっとこわくて、れいむとまりさおねえちゃんはふたりでかおをみあわせたの。
そしたら、まりさおねえちゃんのうしろにほかのおねえちゃんたちがおっきくくちをあけてあつまってるのにきがついたんだ。
「「「「「「「れいみゅとまりしゃ、ゆっくちさせちぇあげるにぇ!」」」」」」」」
「あびぇしっ!?」
「たわらびゃっ!?」
みみもとで、おねえちゃんたちのおっきなおこえ。
そしたら、ものすごくものすごく、いたいいたいになったの。でも、すぐにいたいいたいはなくなったの。なんにもかんじなくなっちゃった。
おめめとおみみは、まだみえたしきこえてたよ。いたいいたいはなくなったけど、だかられいむがもうゆっくりできなくなったことはわかったの。
……さいしょ、「あびぇしっ」てへんなおこえー、とかおもっておもってのに、よくきいたられいむのおくちからでてるこえでほんとうにびっくりしちゃったよ。
「ゆっ、ゆびゅっ、びゅぶぉらっ!?」
「やっ、やみぇちぇ! ゆっきゅち、ゆっきゅ……ぐびゃ」
あ。
おねえちゃんたちにつぶされたまりさが、ぽんぽんからたくさんあんこをだしちゃった。
れいむもみょんおねえちゃんにりぼんをとられて、まりさおねえちゃんにきれいなかみのけをかみちぎられて、みょんおねえちゃんとちぇんおねえちゃんにまっかなほっぺをかじられて、ほかのおねえちゃんたちにおなかとせなかをかみやぶられちゃった。
もう、たくさんのあんこがながれちゃってるね。もうわかんなくなっちゃったけど、とっても、とってもいたかったようなきがする。
「「……どぉちて……みょ……もっ、ゆっきゅ……」」
わからなくて、こわくて、かなしくて。どおちてってきいたの。
せっかくおかあさんにごあいさつしたのに、おねえちゃんにつぶされて、おかあさんたちはとってもたのしそうにれいむとまりさおねえちゃんがつぶされるのをみてて。
おかあさんも、おねえちゃんも、ほかのみんなもぜんぜんやめてくれなくて。
「「「「「「「ゆっくちちていっちぇにぇ!!」」」」」」」」
うん、おねえちゃんたち。
れいむ、もうすぐとっても、いつまでもゆっくりできそうだよ。
いたい、っておもったのはほんとうにさいしょのいっしゅんだけだったんだ。
いまは、もうなにもかんじないの。おみみはどんどんきこえなくなるし、おめめもどんどんみえなくなるの。
(……だから、ゆっくちちちゃだみぇっていったにょに……)
こころのなかのおねえちゃんのこえだけは、まだよくきこえるの。
……ううん、これはおねえちゃんのおこえじゃないよ。やっとわかったよ。このおこえ、もうひとりのれいむのおこえなんだね。
れいむがしなくちゃいけないことを、ちゃんとしってるこころのなかのれいむのおこえだったんだ。
……れいむ、わからなくて。なんかいもちゅういしてくれてるれいむをむししちゃった。ごめんね。
でも。
「さあ、おたべなさい!」
「むーちゃ、むーちゃ!」
「しやわしぇ〜!」
「うっみぇ、むっちゃうみぇ!」
おかあさんが「おたべなさい」って。
おねえちゃんたちが「むーちゃ、むーちゃ」って。
どんどんみえなくなるおめめにさいごにみえたのは、みんなとってもゆっくりしたおかお。
よかったね、ゆっくりしちゃだめなはずなのに、みんなゆっくりしているよ。
でも、どうしてれいむはゆっくりできなかったの?
どうしてれいむはゆっくりしちゃだめだったの?
「どぼ……ちて……きょ、なこちょ……」
れいむにはわからないよ。
どんどんれいむがへっていくよ。
れいむがどんどんなくなっていって、もうすぐなにもなくなっちゃうよ。
わからない、れいむはおかあさんやおねえちゃんたちといっしょにずっとゆっくりしたかっただけなのに。
ずっとゆっくりしたかっただけなのに、どうしてまりさおねえちゃんとれいむだけずっとゆっくりさせられるの?
どうして。
どうして。
どうして。
どうして。
どうし
* * *
「……ゆううぅぅぅぅっ!?」
葉っぱの布団を跳ね飛ばし、一匹のまりさがほの暗い巣穴の中で目を覚ました。
起き抜けにあげた悲鳴と共に吐く息は荒く、まともに跳ねることもままならずに壁際まで転げながら駆け寄る姿は尋常ではない。
ようやく辿り付いた壁を背にして、怯えきった表情で周囲を窺う。
一呼吸、二呼吸。右を、左を疑念に満ちた眼差しで確認するうちに、土壁から伝わる地熱の暖かさが恐怖に凍りついたまりさの心を少しずつ溶かしてゆくようだった。
室内には、まりさ以外の誰もいない。
平たい石をあつらえた『てーぶる』、同じように平たい石に柔らかい干草を敷いた『べっど』、それに部屋の一角に奇妙なコロニーを形作っている多種多様なキノコの植生。
ヒカリゴケに仄かに照らし出されたその佇まいは、いつもとなんら変わらぬ平穏に包まれていた。
その事を確認して、さらに理解し、やっとまりさは深い安堵の吐息を吐いた。ここは、普段となにも変わらないまりさの個室だ。
恐れるべき何者もこの場に存在しない事を理解して、未だ身を襲う震えは決して冬の寒さによるものではない。
「……またか。だからわたしゃ、ねむるのはきらいなんだぜ」
独白するまりさの顔に浮かぶのは、嫌悪とも後悔ともつかぬ色。眠るのが嫌いになったのは、何時の頃だったろうか。
まりさは『ひめさま』をゆっくりさせるためだけに生み出される数多くの働きゆっくりの中の一匹である。
母親は亡くなった先代の『ひめさま』だから、今の『ひめさま』にはりーだーまりさにとって妹にあたる事になる。
もちろん、真社会性ゆっくりにとっては女王ゆっくりと働きゆっくりの血縁など排泄物ほどの価値も持たないが、このまりさは他の個体に比べても能力的に優れていた為、働きゆっくりの指導的立場に任じられていた。
その分、他のゆっくり達より責任を負うべき部分が増え、今のように本来なら休息が与えられるべき時間にも呼び出されることも増えたが――このまりさにとってはむしろ、それは歓迎すべきことでもあった。
ほとんど大半の『ゆっくり』を本能的に否定する働きゆっくりにとって、彼女らに許された夜の眠りは数少ないゆっくりタイムとなる。
だが、このりーだーまりさは、眠るという行為にゆっくりを感じとることができない。
忘れたい、いや忘れていたはずの悪夢を、何時の頃からか眠るたびに見せ付けられるからだ。
「……こわがるひつようはないのぜ、まりさ」
既に日課となった呪文を呟きつつ、そんな自分に嫌気する。
古い過去の悪夢が、何時まで経っても色褪せない。むしろ、ここにきて却って鮮明に思い起こせるようになっていた。
最初は、見ても忘れるほどに儚く悲しい夢として。
何時しか、はっきりと脳裏に刻まれた過去の恐怖の追憶として。
再度、深々と溜息を吐く。
夢の主役も、最初は自分自身だったように思う。
今は、あの時に死んだ――自分自身が食らい尽くした、同じ茎に生まれた姉妹に変わっていた。
その主役交代が何故起きたのか、いや、その夢を何故見るようになってしまったのか。
今のまりさには、その理由がよくわかっている。
「ゆぅ……わかってても、どうしようもないんだぜ?」
三度目の溜息を吐いた時、部屋の入り口近くで何かの気配がした。今度は、まりさは慌てなかった。
怖がる必要はない。まだないはずだ。
「りーだー! えーりんさまがよんでるよ、さんばんのはたけにゆっくりいそいでね!」
「ゆっ。わかったのぜ」
ほら、何も恐れる事はない。現れたのは、まりさがりーだーを努めるグループのれいむだ。
突然、てゐやれーせんがみょんを引き連れてこの部屋を訪れる事など心配する必要はないのだ。
自分はえーりんさまも認めるれっきとした、『ゆっくりしないゆっくり』なのだから。
まりさがおぼうしの皺を直し、部屋を出た時にはすでに使いのれいむの姿はすでになかった。
おそらく他のりーだーたちのもとへ伝令に向かったのだろう。あのれいむもその他の働きゆっくりに勝る能力を買われ、えーりんに取り立てられたゆっくりだ。
「ということは……なにかおおごとがあったのぜ?」
れいむが急いで別のどこかへ出向いた理由はなんだろうか。ゆっくり二匹が交差できる程度の幅を持つ洞穴を急ぎつつ、りーだーまりさは独りごちた。
複数の幹部達が急に召集を受けるというのは、実のところ珍しい。優に数千を数えるゆっくりがひしめくこの巣穴の事、班の一つがおおむね百匹からなる働きゆっくりのグループの数も多い。ちょっとした用事なら、その班の一つで事足りてしまうのだ。
先日のれみりゃ狩りなどがそうだ。通常種のゆっくりが数十と束になって立ち向かってにも敵わないれみりゃ家族でも、百を超えるゆっくりを要する班なら一つでこれを捕獲する事が出来た。
それがこのようにいくつも緊急の召集を受けるというのであれば、これは並大抵のことではない。まりさは待ち受けるだろう面倒を思い、「ゆぅ」と少し憂鬱の中に表情が沈んた。
「はっぱさんにしーしーするよ!」
「かれえださんにうんうんするよ!」
道中、やたらと洞穴の広さが拡大した一角で、しあわせ〜な顔で用を足す配下のれいむとまりさの背後を通った。どんな面倒が待ち受けているかも知らず、どうにも気楽なことだと思わざるを得ない。
もっとも、その二匹の行為はただの生理現象というわけではなく、りーだーまりさの班の従事する仕事そのものでもあったから何事をいうこともなかったのだが。
ここはトイレであって、トイレではない。そこはトイレであると同時に、ゆっくりの排泄物と枯れ葉や木の枝――そしてそれ以外のとあるナニカを肥料として作ったキノコ畑でもあった。
ここではヒカリゴケがびっしり生える湿った土壁から、大きなスポンジ状のキノコが大量に生えていた。まりさの部屋にあった多種多様なキノコとは、種類が明らかに異なっている。これが、この巣穴に住まうゆっくりたちの主食となるキノコなのだ。
ゆうかもいないこのゆっくりの群れに、いつ栽培という概念が根付いたかは分からない。
概念というより、本能だったかもしれない。生れ落ちた瞬間には、働きゆっくりたちは育てるべきキノコを知り、排泄すべき場所を知り、属すべきグループを知識として持ち合わせているのだ。
長大な巣穴には、この畑以外にも多くの畑がある。その全てがキノコ栽培を行う召集場所に指定されたこの三番の畑は、まりさの受け持つ畑だった。
ここのキノコの発育は他の畑に比べても良い。そしてその味はといえば、ひめさまから特にお褒めの言葉を頂くほどに他の群れを寄せ付けない品質を保つ代物だった。
まりさにとっては、この畑こそは彼女が決して持つ事ができない子供の代わりを果たす自慢の代物だった。
他のゆっくりには決しておくびも見せないが、これでりーだーまりさは色々と努力と工夫を重ねて今の立場と能力を築き上げている。
特定のゆっくりにゆっくりを捧げる為に、自分はゆっくりしないことが本能に根ざしたこの群れの中でも、なお日夜意識して更にゆっくりしない日常を保っているのだ。
ただただ本能の指示するがままに、機械的にキノコを栽培する他の群れと一緒にしてほしくないというのが彼女の本音でもある。
(……ひょっとして、ひんしつのしどうなんだぜ?)
それなら、幾つもの班が呼び出されるのも納得がいく。その類の会合ならば、りーだーまりさにはお褒めの言葉を掛けられる理由こそあれ、不安を覚えるべき理由は何もない。
先ほどまで渋面だったはずの顔に、にへら、とだらしない笑いが浮かんだ。数多居並ぶ仲間たちの前で、自分の功績がたたえられ、誉められる。その願望は、たちまちまりさの餡子脳の中でいつしか既成事実と化してしまった。
それを思えば、自然と洞穴を低く跳ねる足取りも軽くなるというものだ――もっとも、まりさにはただ数々の成果の結果として序列の昇進を告げられた事はあっても、『誉められる』などという情の篭った行為を与えられた記憶などなかったのだが。
それでも、どこかで「そんなはずないのぜ」、なんてまりさの冷静な(或いはシニカルな)部分が覚めた結論を下していたとしても、まりさのアクティヴシンキングは止まらない。
(ひょっとして……ゆっくりしてもいいみぶんになれるかもしれない?)
またどこかで「そんなはずないっていってるのぜ」と自分ではない別のまりさが呟いた。
別にいいじゃないか、とまりさのポジティブな部分は意にも介さない。無意識のうちに、楽しくない忠告を受け付けない。
期待するだけなら、ただだ。不安がることだって、それだけならただだ。
どっちもただなら、今を楽しく過ごせる夢想を選び取ったほうが、過ごしやすいに決まっているじゃないか。
(「……ゆふぅ」)
自分ではない別のまりさが、深々と溜息をついたような気がした。
続く諦め交じりの声は、どこか霞みがかって先より遠くから聞こえたようにも思う。
(「そうだね。まりさがゆっくりしたいなら、それはもうすぐかなうかもしれないね」)
(ゆゆっ。そうだよ、まりさはそのためにがんばってきたんだぜ!)
遠ざかる声は、いつしかまりさのものとは別ゆっくりのものとなっていた。しかし今のりーだーまりさには、その意味を探るだけの余裕すらない。
この呼び出しは、きっと自分を褒め称える為の召集なのだ。そう手前勝手に結論づけて、まりさはリズミカルな足取りを畑の中央にできていたゆっくりだかりへと向けた。
どうにも兵ゆっくりの姿が目立っていたが、召集の指定場所はここで間違いないはずだ。他にゆっくりのたむろしている場所もないようだったし。
まりさはぐいっとゆっくりたちの輪を掻き分けてその中心へと向かい、
「ゆっ。さんばんのりーだーまりさ、およびをうけてきたの……」
そのままの笑顔と姿勢で、凍りついた。
「ウサウサ☆」
「ゲラゲラ☆」
「ゆびゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!?」
そこに、その部屋の中に存在したのは。
「ちちちっ、ちーんぽっ♪」
「まらぺにしゅ! まらぺにしゅっ!」
「ゆびぇっ! ばびぇっ! ぶべべぇ……ぼびゅっ」
暴行を加える大勢の兵ゆっくりと、暴行を受ける数匹の働きゆっくり。それを無言の笑顔で見守る、大勢の働きゆっくりたち。
「ゆっ、あっ、あっ……」
そして既に物言わぬ饅頭と化した幾匹もの働きゆっくりだったものたち。
即ち今まさに振るわれる無慈悲な暴力と、直近の過去に加えられた仮借ない暴力。
姉妹であるモノたちの間に存在する、一方通行の無機質な関係。ただ一匹がゆっくりするためだけの、鉄のルール。
即ち、支配と服従。その厳格な執行。
それは、つい先ほど、遠い昔、どこかで、目の前で、見た光景に、余りにも酷似していて――、
「ウサウサウサ☆……あっ、きたうさね、まりさ」
「げらげらげら!」
場に響いた冷ややかな笑声に、ようやく半笑いの形で凍りついた表情が溶けた。
溶けて、崩れた。喜色の代わりに恐怖が精神と表情の支配権を握った。りーだーまりさは声もなく、「ひっ」と息を呑んで立ち竦む。
兵たちを率いるてゐとうれいせんが笑っている。
二匹が浮かべる冷ややかな笑みも、狂騒的な嘲笑も、はっきりとりーだーまりさに向けて送られている。
周囲に集うた兵ゆっくりや働きゆっくりたちの笑いも、全てがりーだーまりさへと向けられている。
――嬲られる働きゆっくり達の悲痛なうめき声は、いつしか聞こえなくなっていて。
(「ほら、やっぱりそんなはずなかったのぜ?」)
また、頭の中のどこかで、別のまりさが呟いた気がした。
最終更新:2009年05月26日 20:06