ゆっくりいじめ系1918 ダメな子 1

 初めに。

 某所で、初SSを書きたくて仕方ない気持ちにさせてくれたレス、実際にSS内で引
用させてもらったレス、参考とさせてもらったレス。
 楽しませていただき、参考とさせてもらった他のSS達。
 感謝します。
 また、勝手に引用・参考させてもらったレスを書き込んだ人達に、お詫びと感謝を。



「ゆゆ……ありすはレイパーだし、ぱちゅりーは弱っちいし……どっちもクズ。まだ、
れいむの方がマシだよ……」
「まりさは強くて元気で、ゆっくりしてるね! れいむはまりさとゆっくりしたいよ!」
「むきゅん……れいむは無能で愚か。ありすなんて我が儘でレイパーで役立たず以下。
となると、まりさが奴隷にふさわしいわ」
「れいむなんて、うすのろなゴミ。ぱちゅりーは一回すっきりしてあげただけで、しん
じゃうわよね。とかいはのありすには、まりさがぴったりね」

──しかしまぁ、見事にゲスな連中が揃ったもんだ。
 すぐそこに相手がいるのに、それぞれがそれぞれ自分勝手な考えを一人言としてブツ
ブツと喋り続けている4匹を眺めて、つい溜め息が漏れる。
「じゃお? じゃお?」
 その俺の足下に、めーりんがそっと擦り寄ってくる。“気分が悪いのか、嫌なことが
あったのか”と気を遣ってくれているのだ。
 このめーりんとは、それなりの月日を過ごしてきている。長く一緒にいれば「じゃお」
としか鳴かない相手でも、言いたいことが何となく伝わるものだ。犬の言いたいことが
わかる、という人だっているし。
 なにより、めーりんはこちらの解釈が正しいかどうか、ちゃんと確認が出来る相手だ。
俺の言ってることは、めーりんにきちんと伝わっている。言葉が理解できない相手では
ないのだ。ただ、悲しいかな、めーりんは「じゃお」以外に発声することが出来ない…
…というだけで。

 そのめーりんは今、見るからに痛々しい姿をしていた。
 丸い体にちょうど左上から右下へ、袈裟懸けと言った感じで包帯をグルグルと巻きつ
けている。左目は包帯の下だし、口も右半分が包帯がかかっていて喋りにくそうだ。包
帯でしっかりと締め付けられているのだから、上手く飛び跳ねることも出来ないだろう。

 俺がちょっと畑へと出ている隙に、野良ゆっくりの4匹が勝手に家へと上がり込んだ
らしく、戻ってきたときには4匹がかりで寄って集ってめーりんを虐めていた。部屋も
グチャグチャに荒らされていて、めーりんは傷だらけで命の心配をしたほどだ。
 まぁ、畑を荒らされるよりはマシだったのかもしれないが……
 荒れた部屋はそのままに、久しく使っていなかった囲いに4匹を放り込むと、めーり
んの手当てをした。幸い、小麦粉はあったので、話に聞いていたとおりに水で濃いめに
溶いてめーりんの傷口を塞ぐべく塗りたくる。
 “おれんじじゅーす”なんて、貧乏暮らしではそうそう手に入るわけも無し、溶き小
麦粉だけでは目に見えた回復も望めないようで、やむを得ず傷口が開かないように包帯
でグルグル巻きにしたのだ。

 それにしても……この4匹は、なんと裏の扉を外して進入したらしい。ゆっくりの体
当たりで外れてしまう、立て付けの悪い扉。ボロ屋暮らしの貧乏生活に、我がことなが
らまた溜め息が出た。

「じゃお〜……」
 溜め息を繰り返すこちらを見上げて、めーりんも悲しげな声を出す。
「大丈夫だよ。ただ、あの4匹に呆れただけさ」
 その4匹は、今は囲いの中に閉じこめられている状況だ。“囲い”と言っても、そう
大仰なものではない。
 赤ん坊や子供が、誤ってストーブに触れてしまわないように、尖りのない柵で囲って
近寄れないようにする。その囲いを、もう子供も大きくなりいらなくなったというご近
所さんから譲って貰ったのだ。
 高さは大人の腰ほどしかないが、それでも鉄製で造りもしっかりしている。土間の片
隅にしっかりと据え付けて固定し、上に板で蓋をして重しをおけば、成体のゆっくりで
も簡単には脱出できないし、飛び跳ねることもろくに出来ない。
 元は、めーりんがまだ聞き分けの無かった頃、お仕置きとして放り込んでおくために
貰ったものだが……その使い道自体は、2〜3度ほどしかなかった。
 お仕置きなどよりも、『この家を守って欲しい』という一言の方が、めーりんを素直
にさせてくれた。俺が一緒に住むことにも、家主は俺の方であることにも、めーりんは
ほとんど抵抗を示さなかった。
 守る場所を与えられ、守ってくれと頼まれたことが、めーりんの誇りであり喜びとな
ったらしい。

「じゃ〜お?」
「そう、呆れてるの。まったく、酷い連中……最低なヤツらだってな」

「なんだと!? まりさは最高にゆっくりしてるゆっくりなんだぜ!」
「酷いのはお兄さんだよ! ゆっくりしないで早くここから出してね!」
「最低なんて言葉、この博識なぱちぇには無縁よ! 訂正しなさい!」
「とかいはのありすに向かって最低だなんて、お兄さんはとんだ“いなかもの”ね!」

 ほとんど同時に、4匹が叫ぶ。他のヤツの一人言が聞こえていないようだったので、
自分の思考に埋没しているのかと思ったんだが、しっかりと聞き咎めたらしい。
 「最低」という単語は、ゆっくりのプライドをおびただしく傷つけるものじゃないと
思ってたんだが……

「最低なお兄さんは、さっさとここからまりさを出してゆっくりしんでね!」
「ここはれいむのゆっくりぷれいすだよ! さっさと出て行って美味しいご飯をもって
きてね!」
「順番が逆よ。出て行く前に、ご飯を持ってこさせないと。れいむはホントに無能ね。
ご飯を持ってきたら、お兄さんもぱちぇの奴隷にしてあげるわ」
「でいぶは゛ぶのうなん 「とかいはのありすは、いなか臭いごはんじゃ満足しないわ
よ。さぁ、さっさとゆっくりさせなさい!」
「ぎぃでぇえええっ! でいぶのいうごどぎぃでぇええ!」

 「ここから出せ」「ここは自分の“ゆっくりぷれいす”だ」「ご飯を持ってこい」
「さっさと出て行け」
 お決まりの台詞の、大合唱だ。れいむ種が他の三匹にいくらか食ってかかろうとした
が、それもすぐに合唱の輪に加わる。
 それを放っておくと、「ゆっくりさせないオジンは、しね」「しね」「しね」と、人
なら『そんなことを口にしてはいけない』と子供の頃に躾けられる単語の大連呼。

「じゃっ!? じゃぉおっ! じゃおぉおおんっ!!」

 怒っためーりんが、飛び跳ねて4匹に抗議し始めた。失礼なことを言うな、“しね”
なんて言うな、と。自分が守るべき場所で暮らす、自分が守るべき人に、そんなことを
言うな、と。許さない、と。
 傷だらけの体で。傷の痛みも忘れて。
 慌てて抱き留めて、落ち着かせるためにそっと撫でてやった。

「俺は平気だから、ほら。めーりんも落ち着いて。傷が開くぞ?」
「じゃ、じゃお……じゃおぉおん……」
「俺は大丈夫だから」

「大丈夫なら、さっさとご飯を持ってきてね! まりさを怒らせると、お兄さんもめー
りんみたくボロボロになるんだぜ!」
「これだけ言われないとわからないなんて、お兄さんはバカなの? しぬの? ゆっく
りしないで、れいむをここから出して美味しいご飯を食べさせてね!」
「むきゅ……人間は理解力が低いから、仕方ないわ。ゆっくり理解できたら、さっさと
ぱちぇを解放するのよ」
「とかいはのありすに触れられる、貴重なチャンスよ。さぁ、丁寧にここから出して。
そしてとかいはなお食事を用意しなさい」

「……だから、そこから出すのは愛し合う素敵なカップルだけだよ」

 思いつきと言えるほどのものではない。ただ、別々の種が4匹連れだってというのが
珍しくて、ふと言ってみたのだ。
 4匹は、お互いの中から最高の相手を選んで、素敵で幸せな……こいつらの言い方に
倣うなら、“とてもゆっくりしたカップル”だけが出られる、と。

「まりさは、友達から一人選ぶなら、誰が良いんだ?」
「ゆ? ゆ〜……れ、れいむ……かなぁ?」
 不承不承、といった感じだ。
「ありすはレイパー。ぱちゅりーは弱い。どっちもクズだから、まだマシなれいむって
わけだ?」
「ゆあ!? な、なんでそれを……あれ!?」
「んなっ!? なんでごどいう゛の゛ぉ゛お゛お゛っ!!? ありずはどがいばなだげ
よぉおおおっ!!」
「むきゅ、確かにぱちぇの体は弱いわ……でもクズなんて許せない! 謝罪するのよ!」
「俺じゃなくて、まりさが言ってたんだよ、さっき。聞こえてなかったの?」
「「ばでぃざぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!」」
「ゆぁあああ!? ち、違うんだぜ! まりさは、その、わ、悪くないんだぜ!」

「とりあえず、他のみんなの意見は? そっちを先に聞いた方が良いだろ」

 俺の言葉に、ずいっとありす種が前へ出て、得意げに喋り始めた。
「それなら言わせてもらうけど、とかいはなありすから見れば、れいむなんてダメね」
「なんでダメとか言うのぉおお!?」
「だって、おしゃれをわかってないクセにおしゃれを気にしてるフリをしたり、何も出
来ないクセに偉そうにしたり、全然“とかいは”じゃないわ!」
 れいむ種がぎゃーぎゃー文句を言うが、どこ吹く風。みんな自分の考えをよく聞くが
良いと、ありす種はさらに言葉を続ける。
「ぱちゅりーもダメね。とかいはな愛を受け止められない体の弱さは、ダメダメよ。全
然なってないわ」
「むきゅ、こっちもありすなんてお断り。ボキャブラリーも貧困な低脳のありすなんて、
レイパーになって害を振りまくだけの、おぞましい存在よ」
「失礼なこと言わないでぇ! とかいはよぉ!」
「何かと言えば“とかいは”って言葉に逃げるのね。とかいはって何か、説明も出来な
いクセに」
「と……! とかいははとかいはよぉ! 洗練されたありすに与えられるありすのため
の……こ、言葉よ!」
「“称号”という単語も出てこないのね。“単語”って言葉もわからないかしら?」
「ゆぁあああっ! 弱っちいぱちゅりーなんて、とかいはのありすが制裁してあげるわ
ぁああ!」

「待て待て待て。喧嘩より先に、誰が一番良いのか教えてくれよ」
「だから! まりさだって言ってるでしょう! 何度言ってもわからないなんて、お兄
さんは本当にいなかものね!」
「まりさよ。選択肢にすらなってないのに選べだなんて、お兄さんはとんだ低脳ね」
「……れいむは駄目なのか?」
「「ダメよ」」
「どぼじでぇえええええっ!?」

「……じゃおぉ?」
「そうだね……俺にもどうしてなのか、さっぱりわからないよ」
「じゃお」
「ちなみに、めーりんなら誰がいい?」
「じゃ〜お」
 全員、嫌だと即答。まぁ、当然かもしれない。俺もこの中から一匹、飼うのを選べと
言われたら、どれも嫌だと答えるだろう。

「ぱちゅりーもありすも、まりさが良いらしいけど、そのまりさはれいむが良いんだっ
てさ。お前達が駄目だと言った、れいむが」
「ゆっ!?」
 びくっと、まりさ種が身を引く。
 れいむ種は貶されていた。ありす種とぱちゅりー種は喧嘩しかけていた。三匹とも、
方向性は違ってもかなりボルテージが上がっている。
 その三匹が一斉にまりさ種を注目したのだから、びびってしまったのかもしれない。
「駄目なれいむを好きになっちゃうまりさは、やっぱり駄目なんじゃないかな?」
「ゆあっ!? なに言ってるの、お兄さん! バカなの!? しぬの!? まりさダメ
なんかじゃないんだぜ!」
「れいむだってダメなんかじゃ 「むきゅ〜、まりさはちょっと賢くないから、考え違
いをしているのよ」
「まりさ、賢いんだぜ!?」
「ぎぃでぇえええ! どうじででいぶのいうごど 「まりさはツンデレなだけよ」
「ツンデレなんて、知らないんだぜ!?」
「ありすはバカだから、他に言葉を知らないだけよ、まりさ」
「あ゛り゛す゛は゛と゛か゛い゛は゛だ゛っ゛て゛い゛っ゛て゛る゛で゛し゛ょ゛ぉ゛
お゛お゛!」
「“とかいは”でも“賢い”でもいいけど、れいむを良いと言ってるのは、まりさだけ
みたいだな。まりさが変ってことかな?」
「へ、変じゃないよ! まりさは変じゃないんだぜ!」
「むきゅ? まりさが賢いのなら、当然ぱちぇを選ぶわよ」
「何を言ってるの、いなかもののぱちゅりー。見る目があるまりさは、当然とかいはの
ありすを選ぶわ」
「ち゛が゛う゛で゛し゛ょ゛ぉ゛お゛お゛お゛!? ばでぃざは! でいぶがいいっで
いっでぐでだんだがら!」
 貶され続けた怒りからか、先ほどから言葉を無視されている微妙な疎外感からか、涙
と涎でぐちょぐちょに汚れた顔を醜悪に引きつらせて、れいむ種ががなり立てる。
 ありす種も発作的に感情を剥き出しにしていた割には、立ち直りが早い。自分を素早
く取り繕える辺りが、都会派……じゃなくて“とかいは”ということなのだろうか?
 なんにせよ、人の目からは醜いとしか言いようのないれいむ種の様子に、まりさ種も
引いているようだ。
「ま……まりさも、れいむはダメだよ……」
「ゅがっ……!?」
「だ、だって、汚いんだぜ? 今のれいむの顔……」
「当然ね。れいむはうすのろなゴミだもの。おしゃれさんなんて自分で言ってるけど、
大笑いよ。でも、とかいはは優しいから、いつもは笑うのを我慢してあげてたんだから」
「れいむは頭も悪いし、無能よ。何も出来ないんだもの。汚くならないように気をつけ
ることだって、出来ないのよ」

「どうじでぞんなこというのぉぉおお!? れいむは可愛いよ! みんなのアイドルだ
よぉ! みんなで仲良く、バカでまぬけなクズめーりんでもいじめて、すっきりしよう
よぉぉおおおおっ!!!」
「今、なんつった、てめぇ」

 ガシャンッ! と激しい音に、驚いた4匹がこちらへと向き直る。
 まりさ種が言い訳をするよりも、ありす種が嘲笑うよりも、ぱちゅりー種がご託を並
べるよりも、早く。
 囲いに手をかけ、れいむ種を睨んだ。あいにくと囲いの柵には大人が手を差し入れら
れるほどの幅がないが、もし手が届けば即座に鷲掴みにしていただろう。

「うちのめーりんに、なんて言ったんだ、糞れいむ?」
「れいむはクソでもダメでもないよ!! れいむは怒ってるんだからね!! れいむに
ゆっくりさせないオジンはゆっくりしないでさっさと……ゆあ!? 何をするの!?」
 囲いの上に置いた木の板をずらして、れいむ種を掴み上げるとすぐに蓋を元通りにす
る。
 囲いの中では、俺がれいむ種を掴み上げる間、ぱちゅりー種が「まだダメよ」とまり
さ種を制止していた。ありす種も、それを聞きつけたのか大人しくしていることにした
ようだ。

「ゆゆ〜〜♪ お空を飛んでるみたい〜♪」
「そりゃ良かったな」
「ゆぶぶぶぶぶぶぶぶっ!?」
 暢気な台詞を吐くれいむ種を、そのままグルグルと振り回す。すっぽ抜けないように
掴んだ指に力を込めているので、ギリギリとれいむ種の頭に食い込んでいった。
「いだだだだだだだ! やべべべべべ! ゆぐっゆゆぐぐぐぐででででな゛な゛な゛な゛
な゛な゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
 れいむ種を振り回している俺を、まりさ種は恐怖に固まったかのような表情で、あり
す種は嘲りの笑みを浮かべて、ぱちゅりー種は冷ややかな目で、一言も発せずに見てい
る。
 振り回す腕を、どんどん早めていく。わずかな休憩も無しに、ひたすら回し続けた。
 畑仕事に比べれば、ゆっくりを振り回すことくらいたいした労でもない。一刻回し続
けろと言われたら……まぁ、謝るが。四半刻くらいなら、なんとかなるだろう。

「やめてあげてねーとか言わないのか? 言わないのなら、このまま続けるけど」
「ゆっ……!? そ、そうだよ! やめてあげてね! れいむがゆっくりできないよ!」
 まりさ種の声で、すぐにやめてやった。れいむ種は「ゆへ〜ゆへ〜」と、ろくに呼吸
も出来なかったのか、怒りの暴言すらないまま大息を吐き続けている。
「どうしてそんなことをするの!? れいむをゆっくりさせてあげてね! そしてまり
さをここから出して、美味しいご飯を持ってきて、まりさのゆっくりぷれいすから出て
行ってね!」
「やめなさい、まりさ。れいむは無能なんだから、いつかぱちぇ達の足を引っ張るのは
目に見えていたのよ」
「ゆっ? ど、どういうこと、ぱちゅりー?」
「つまり、れいむはとかいはじゃないから、ゆっくり出来なくても仕方ないってことよ、
まりさ」
「語彙のないありすは喋らないで。時間の無駄だから」
「弱っちいくせに、さっきから生意気よ、ぱちゅりー!」
「ど、どういうことか、まりさにはわからないよ……で、でも! まりさはバカじゃな
いんだぜ!?」
「ありすの説明じゃ、誰もわからないわ。この場合、バカが証明されたのはありすね」
「ぱ゛ちゅ゛り゛ぃ゛い゛い゛い゛!! い゛い゛か゛げ゛ん゛に゛し゛な゛い゛と゛、
と゛か゛い゛は゛の゛あ゛り゛す゛も゛お゛こ゛る゛わ゛よ゛ぉお゛!!」
「もう怒ってるだろ」

「「ゆぶべっ!!?」」

 三匹が言い合っているうちに囲いの蓋を開け、中のありす種へ向けてれいむ種を投げ
つける。軽くだったから、2匹ともたいした怪我はしないだろう。
「どがいばのありずに、なにじづれいなごどじでるどぉおおおっ!?」
「いっ、いだ……! いだぃよぉお……ゆっぐじできないぃい……」
「ゆあ!? れいむ! しっかり!」
 れいむ種は、投げつけられたまま体をビクビクとさせているばかりで、こちらへ罵声
を放ってこない。
 手を確認すると、れいむ種を掴んでいた親指に餡がついている。よく見れば、れいむ
種の後頭部にぽっかりと穴が穿たれてもいるし……どうやら力を込めすぎて、皮を破っ
てしまったようだ。

「じゃ、じゃお……? じゃおぉ……?」
 後ろから、めーりんがおずおずと声をかけてきた。
 囲いの中では、痛みに震えるれいむ種と、それを気遣うまりさ種や、それにたいして
冷淡に放っておくように言うぱちゅりー種やありす種の、珍妙な口論が展開している。
「……じゃおぉん?」

 めーりんをこの囲いに閉じこめた回数はごく少ないが、それなりに役立ててきた。畑
を荒らしに来たゆっくりを閉じこめて、動かなくなるまでいたぶるために。他のゆっく
りを虐め抜くところを、めーりんに見せつけたことの方がずっと多いのだ。
 畑を荒らすなど、悪いことをしたらどんな酷い目に遭うかを教えるために。そして、
そんな酷いことを人間は出来てしまうのだと……人間が、どれほど恐ろしいかを教える
ために。
 だから、めーりんはまたそれが始まるのかと思っている。
 めーりん自身を痛めつけるよりも、それはずっと効果的な躾だったらしい。同時に、
悪いゆっくりはどうせ人間にお仕置きされるのだから、遠慮せずに退治して良いのだと
めーりんも考えたらしく、同族にも手加減しなくなった。
 とはいえ……どうも俺のやり方は甘やかしているのと同じなのか、うちのめーりんは
あまり強くない。
 めーりん種には、畑を守り、ゆっくりの群れを相手に単身大立ち回りを演じた……な
どという武勇伝の噂すらあるのに、うちのこの子と来たらこの四匹に虐めまくられてい
た。
「怪我が治ったら、頑張って強くなろうな」
「じゃおぉおん……」
 我が身の情けなさを嘆いた後、キリッと決意の目を俺に向けてきて「じゃおじゃお」
と回復後の努力への意気込みを語ってくる。そんなめーりんが可愛くて、つい優しく撫
でてしまう。
 ……やっぱり、甘やかしすぎなのかもしれない。
「めーりんは怪我をしてるから、今日はゆっくり休んだ方が良い。寝床を作ってあげる
から……」

「「「クソめーりんより(まりさ/れいむ/ありす)をゆっくりさせてねっ!!!」」」
「黙れ糞ども。回すぞ?」
「「「ゆぴぃい!!!?」」」

 たいして広くもないこのボロ屋の中じゃ、囲いのある土間から一番離れた場所でも、
しっかりと四匹の声は聞こえるだろう。
 あの四匹が騒ぐせいで、怪我をしているめーりんがゆっくりと休めないのは困る。
 畑の脇にある、物置小屋……小屋とも言えないオンボロだが、それでも屋根もあれば
壁もある。扉はないし隙間風も入り放題だから、冬場はつらいどころの騒ぎじゃないが
……幸い、今は暑い盛りが過ぎたばかりで、眠りやすい夜が続いているから、大丈夫だ
ろう。
 糞の様な4匹に一瞥をくれただけで、俺はさっさとめーりんを抱きかかえて、畑へと
向かった。

──そういえば、ぱちゅりーだけは「自分をゆっくりさせろ」とは言わなかったな。

 ふと気になったが……まぁ、どうでもいい。



 小屋にしつらえてある、高棚。高さは、大人が前に立つと首から上が棚の上に来るく
らいで、奥に置いたモノを取るためには、台を使わないとちょっと高いかと言うくらい
だ。この上なら、仮に夜中の間、野犬などがうろついたとしても安心だろう。
 台を使ってそこへ藁を敷き、着られなくなったボロの古着を丁寧に洗ったものを上に
被せて、めーりんの寝床を作る。中心を、めーりんの体よりちょっと大きめに凹ませれ
ば完成だ。
「今夜はここで我慢してくれな?」
「じゃおっぉおんっ!」
 ここから、畑を夜通し見張っていると意気込むめーりんに、ちょっとホロリと来る。
あの四匹に比べたら、うちのめーりんはちょっとくらい弱くても何の問題もないほどに
良い子だ。
「今日はゆっくり休む。ちゃんと体を治すことも、めーりんの仕事だよ」
「じゃおぉ……?」
「役立たずなんじゃなくて、怪我を治さないとお家も畑も守ってもらえないからだよ」
「じゃお……じゃお! じゃおぉん!」
「よし。それじゃ、ゆっくりおやすみ」
「じゃ〜おぉん!」


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最終更新:2009年01月11日 13:28
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