ゆっくりいじめ系2032 座敷ゆっくり

(急に降り出した雨 小さな温泉旅館)
「ふー。酷い目にあった。ずぶ濡れだよ。急に降ってくるんだもんなあ。」

「ようこそお越しくださいました。大変だったでしょう。」

「あのー。すみません。泊まりの客じゃあないんですが、その・・・お風呂、入ってもいいですかね?
 見ての通りずぶ濡れで。」

「ええ、どうぞどうぞ。お泊りでない方も大歓迎ですよ。」

「それともう一つ。なんというか・・・非常に厚かましいお願いなんですが・・・」

「お召し物の事ですか?それなら大丈夫ですよ。お客様がお風呂に入られている間に乾かしておきます。
 ゆっくり温まっていってください。」

「いやー、助かります。荷物は駅のコインロッカーに預けておいたもんで・・・着替えが無いんですよ。」

「その代わりと言ってはなんですが・・・」

「はい、なんでしょう。」

「今度こちらにいらした時は、うちの旅館に泊まっていってくださいね。」

「ははは。わかりました。このあたりには毎年旅行で来てるんですよ。来年は必ず寄らせて貰います。」




「いやー。いい湯でした。ほんとは露天風呂も楽しみたかったけど、この大雨じゃあ・・・」

「あの、お客様・・・非常に申し上げにくい事なのですが・・・」

「なんです?」

「先ほどニュースで流れていたんですが、町の方へ向かう県道が土砂崩れで通行止めになった様で。
 迂回路が無いんですよ。復旧は今日中には無理な様なのですが。」

「そりゃあ丁度いいや。もっとゆっくり温泉に入りたいと思っていたところです。
 今日はここに泊る事にしますよ。」

「ええ。このあたりで泊まれるところはうちだけなので、うちに泊まってくださいと言いたいところなんですが。
 実はお部屋がすでに全て埋まっておりまして・・・」

「え・・・空いてないんですか?」

「一応、一部屋だけ空いております。空いてはいるんですが・・・
 申し上げにくい事というのは、その空いている部屋の事なんです。」

「?」

「その部屋はちょっといわくつきでして。その・・・出るんですよ・・・」

「出る?幽霊でも出るんですか?」

「その部屋・・・座敷わらしが出るんです。」


(栗の間)
女将に案内されたのは中庭を通った先。『栗の間』と書かれた離れだった。
普段客を泊める事は無いらしいが、毎日綺麗に掃除しているのだろう。こざっぱりとして中々良い部屋だ。
ただ、部屋全体の古めかしい造りや、時を経て変色した柱や天井などが、いかにもといった印象を与える。

普通、座敷わらしを見た者には幸運が訪れると言われるが、ここの座敷わらしは他とは少し違うらしい。
女将の話によると、この部屋で座敷わらしを見た客は神隠しに会うの事があるのだという。
女将からは座敷わらしを見た際の注意をいくつか受けた。

『この部屋に出る座敷わらしは赤いリボンを付けた女の子です。ただ、ちょっと変わった姿なのですが・・・
 座敷わらしをみたら絶対に「ゆっくりして」と言ってはいけません。
 座敷わらしが喜んでいつまでも部屋に居座るからです。』

『座敷わらしを見たら「向こうはもっとゆっくりできるよ」と言って部屋の外を指してください。
 そうすれば座敷わらしは部屋から出ていきます。』

『あと、座敷わらしを絶対に泣かせない様にしてください。
 今までお客様が居なくなった時は、必ず夜中に座敷わらしの泣き声が聞こえてきました。』

『確かに座敷わらしを見た者には幸運が訪れると言われています。
 かつてこの部屋で座敷わらしを見たお客様の中にも、財を築いた方が居られた様です。
 ですがあまりにも頻繁に神隠しに会うお客様が出るので、先代の頃からこの部屋を使うのを止めたんです。』

『いいですか。くれぐれも好運に与ろうなどと思わず、座敷わらしが出たらすぐに追い出してください。
 私どもも何度か見ていますが、追い出したからと言って不幸になる事はありません。
 ゆっくりしてと言わない事。向こうはもっとゆっくりできるよと言ってすぐに追い出す事。
 絶対に泣かせない事。この三つを必ず守ってください。』

女将はこんな事を言っていたが・・・最後の『泣かせない』というのはともかく、すぐに追い出すのはもったいない。
折角の幸運を掴むチャンスだ。逃す手は無い。幸運の神様の後頭部はつるっぱげだと言うし。
座敷わらしにはぜひともゆっくりしてもらい、俺にも幸運を分けて貰おう。




「ゆーゆー。」

「ん?なんか声がした?」

「ゆー。」

「後ろから・・・出たな!座敷わらしちゃん!会いたかっ・・・うわっ!生首っ!!!」

「ゆぅ?」

「お、女の子の・・・生首・・・幽霊・・・」

「ゆぅゆ?」

「ん?リボン・・・赤いリボン・・・て事は、お前が座敷わらしだな。」

「ゆ♪」

「そうか・・・ふふ・・・ふふふ・・・これで、これで俺も大金持ちに・・・
 おっと、そうだ。座敷わらしよ『ゆっくりして』いってくれよな。そして俺を大金持ちにしてくれ。」

「ゆ~♪」

「ははは、何言ってるかは解らないが喜んでるみたいだな。」


俺が「ゆっくりしていってくれ」と言うと座敷わらしは喜んで部屋中を跳ねまわり始めた。
時々こちらに笑顔を向けながら、あっちでゆーゆー、こっちでゆーゆー。
何が楽しいのかは解らないが、部屋の中ではしゃいでいる。

その様を俺はじっと眺めている。なぜだろう?見ていて全然飽きない。
ぽよんぽよんと跳ねまわる彼女の姿に、完全に心を奪われてしまった。
可愛い・・・食べてしまいたいくらいに・・・
触ってみても大丈夫だろうか?頭を撫でてみたい・・・
いや、違う。撫でるのでは無い。もっと違う何か・・・
なんだ・・・なんだ、このモヤモヤとした気持ち・・・


(覚醒)
「ゆ~~~~~~~。」

調子にのって跳ねまわりすぎたせいだろうか。座敷わらしがテーブルの角に頭をぶつけた。
顔から笑みが消え苦悶の表情を浮かべる。

ゾクゾクッ

う・・・なんだ、この感覚。彼女の笑顔が苦しみの表情に変わるのを見たら・・・
急に心の底から浮かんできた感情。黒い・・・抑えきれない・・・


 『イジメタイ・・・イジメタイ・・・イジメタイ・・・』


「ゆ~。」

彼女が俺にすり寄ってきた。慰めて欲しいのだろうか。
胡坐をかいている俺の足の上にぴょんと跳び乗り、ゆーゆー鳴きながら甘えるような仕草をする。

はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・

今ここで彼女の額にでこピンしたらどんな顔をするんだろう。どんな声で鳴くんだろう。
座敷わらしを泣かせてはいけない?それがどうした。泣かせなければいいのだろう?
なぁに、大丈夫。大丈夫だ。一度だけだ。一度だけ・・・

ビシィッ!!!

渾身の力を込めた中指が彼女の額にヒットする。

「ゆぴぃいいいいいいいい!!!!!」

突然の出来事に驚き飛び上がる。そして遅れて襲ってきた激痛。
あまりの痛みに部屋中をぴょんぴょん飛び回る。
ようやく落ち着くとこちらに向き直る。真っ赤に腫れた額が痛々しい。

「ゆっ!」

怒っている、とでも伝えたいのだろうか。大きく息を吸い込み、ほっぺたをぷくっと膨らませ、
俺の事をキッと睨みつける。

ふ・・・ふふふ・・・ほら、大丈夫。大丈夫。泣いてない。泣いてないよ。
もう一度・・・もう一度・・・泣かせなければいい。泣く前に止めたらいい。
まだ大丈夫。まだ大丈夫。

俺はゆっくりと立ち上がると彼女を捕まえようと近づく。
一歩・・・また一歩・・・
俺の両手が彼女に近づいていく。彼女の表情から威嚇の色が消え、じりじりと後ずさりしていく。
代わりに顔に浮かんできたのは脅え、恐怖。

はぁ、はぁ、はぁ、その顔!その顔!もっと!もっとだ!もっと見せてくれ!!!

ビシィッ!!!!!!

「びぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!」

ははっ、はははっ!逃げてる!逃げていく!!!
痛みで、恐怖で、顔をくしゃくしゃに歪ませて!
こんな狭い部屋で、どこに逃げようと言うのかね!


 『ニガサン・・・』


ははははっ!!!無駄無駄!ほうら、捕まえた!
暴れてる!暴れてる!あはははははははははははははははははははははは!

次は何をする?何をする?ねえ、何をしようか?
叩く?抓る?引っ張る?焼く?

うふふふふ・・・そうだ!閉じ込めちゃえ!
この花瓶・・・丁度いい大きさ。これを上から被せて・・・

「くらいよ!こわいよ!だして!ここからだして!」

「やめて!おねがい!れいむをいじめないで!!!」

あはっ!喋るんだね!喋れるんだね!
いいよ!いいよお!もっと!もっと叫んで!叫び声を聞かせてくれっ!!!悲鳴を!悲鳴を!悲鳴を!

「おねがい・・・ここからだしてぇ・・・」

いいよぉ。だしてあげるよぉ。さあれいむ、君の悲鳴を聞かせておくれ。

「いたいっ!いたいよ!かみをひっぱらないでね!」

「おろしてね!ゆっくりおろしてね!」

うふっ!うふふっ!ライター・・・ライター・・・ライター・・・どこいった?
あった!これで・・・これで・・・うふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ・・・

「ゆぎゃあああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「あじゅいいいいいいいい!!!!あじゅいよおおおおおおおおお!!!!!!」

「だずげで!だれがだずげでよおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・もう・・・もう駄目だ・・・

「ゆええええええええええええん!ゆえええええええええええええん!!!」

辺り一帯に響き渡るほどの大声。れいむは遂に泣き出した。
その泣き声に呼応するかの様に、男に異変が起きる。
眼は真っ赤に血走り、口から牙が生え、色白で華奢な青年が赤黒い大男に変わっていた。


 『ヒャア!もう我慢できねえ!gy・・・』


(翌朝)
「お客さん、お客さん。ご無事ですか?」

「返事がありませんね・・・」

「失礼しますよ。」

女将と女中が部屋の中に入る。中には誰もいない。

「やっぱり、いませんね・・・神隠しにあったんでしょうか。」

「たぶん・・・やっぱりこの部屋は使ってはいけなかったんだ。私のせい・・・」

「ちゃんと注意はしたんですから、あまり自分を責めないほうが・・・」

「・・・」

「ところで、神隠しにあった人はその後どうなるんですか?
 映画みたいに後でひょっこり現れるとか?」

「私も詳しくは知らないんだけどね。神隠しにあったひとは、もう戻ってこれないみたい。
 言い伝えによるとね、どこか別の世界に連れて行かれるらしい。」

「別の世界・・・」

「そして姿を鬼に変えられて、鬼としてそこで一生を過ごすんだって。」

end

作者名 ツェ

今まで書いたもの 「ゆっくりTVショッピング」 「消えたゆっくり」 「飛蝗」 「街」 「童謡」
         「ある研究者の日記」 「短編集」 「嘘」 「こんな台詞を聞くと・・・」
         「七匹のゆっくり」 「はじめてのひとりぐらし」  「狂気」 「ヤブ」
         「ゆ狩りー1」 「ゆ狩りー2」 「母をたずねて三里」 「水夫と学者とゆっくりと」
         「泣きゆっくり」 「ふゅーじょんしましょっ♪」 「ゆっくり理髪店」
         「ずっと・・・(前)」 「ずっと・・・(後)」 「シャッターチャンス」

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2009年01月26日 10:20
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。