ゆっくりいじめ系2092 はじめてのチュウ

おぜうさまのかりすませっていがあるかもだど~☆
まいどのこどながら虐待表現すぐなめだど~☆




単なる気まぐれだった。
その日俺は何を思ったか道端でボロボロになっていたゆっくりありすを保護してやろうと思った。
いつもなら職場でいやというほど見ているゆっくりなんて気にも留めない。
だがその時、道端で搾り出すように呻き声を上げるそれがどうしても気になったのだ。
なぜ俺がこんな気まぐれを起こしたのか。今となって俺はあの時の自分を恨む。
むしろあの時はいい事をしたぐらいにしか思っていたのだ。
あんな事さえしなければ、きっと俺は今でも当時と同じような生活ができていたに違いない。


怪我をしたありすは既に虫の息だった。
実際に息をしていたわけではないが、細々と苦しさに喘ぐだけだった。
とりあえずオレンジジュースをかけて手ぬぐいで包み、囲炉裏の近くにおいておく。
正直ゆっくりの治療法なんてさっぱりだったが、この適当な生き物なら明日の朝にはきっと回復しているだろう。
あまり深く考えずにそのまま放置するとしよう。
俺は布団を敷くと横になり、最近加工所に入ってきた機械のマニュアルに目を通す。
ゆっくりを処理するラインを動かす機械の制御と管理が俺の仕事だった。
なんでも外の世界から流れてきた機械を河童が改造して作られたものだそうだ。
水車小屋から動力を引っ張っていた時代とは大違いだな、と欠伸混じりに紙の束をめくる。
そのうち眠気が襲ってきた。何も抵抗する必要もないので俺はマニュアルをほっぽり出すと、そのまま眠りについた。

次の日起きると案の定ありすは回復したようだった。
苦しそうにしている様子もなく、「ゆゆー」と寝息を立てている。
手ぬぐいを力で引き抜きとありすはそのまま独楽のように転がり土間に消えていった。
冬はどうも寒くて困る。まあ暖かい冬が来てもそれはそれで嫌だが俺は寒いのはどうも苦手だ。
囲炉裏に火を入れてお湯を沸かしているといつの間にか脇にありすが戻ってきていた。
「ありすをたすけてくれたのはおにーさん?」
墨をかきながらああ、と答える。
「ゆっ!とかいはのありすをたすけてくれるなんておめがたかいわね!
 おにいさんもとかいはってみとめてあげるわ!」
はいはいと適当にあしらうと俺はお茶漬けを流し込んだ。
「おなかがすいたの!ありすにもなにかたべさせてね!」
いつもなら静かなはずの朝もこいつが居るせいで随分とにぎやかである。
俺は次から次へと飛んでくる質問弾幕を華麗にスルーしながら朝食を済ませ、加工所へ向かう準備をした。
いつの間にか質問弾幕から腹が減った弾幕に変わっていたのでカビの生えた蜜柑を3つ与える。
外に勝手に出ないこと、寒くなったら桶に引っかかった手ぬぐいに包まる事を言いつけると俺は家を出た。

職場である加工所に着くと早速ラインの点検をし、朝礼を済ます。
ベルトコンベアーの速さを調整しながら、周りの機械の不調や欠陥を直しては報告書を書く。
そうやって工場内を右往左往しているうちに一日が過ぎて行くのだ。
作業をしながら俺は頭の中で今正にラインで処理され叫び声をあげている生物のことを考えていた。
なんでも最近はこの近辺でもゆっくりが出ているらしい。
加工所ができて直ぐの頃は、ここに連れて行かれると処分されると分かっていた為か、近寄ってくる奴などまずいなかった。
だが近頃になってえさが少なくなったのか、或いは職員が歩き回らないことを知った個体が出てきたのか。
この建物の直ぐ近くでもときたまゆっくりを見かけるようになった。
昨日拾ったゆっくりも恐らく噂を聞きつけやってきて、運悪く帰宅途中の職員にでも見つかってしまったのだろう。

そうこうしている内に退勤時間が迫っていた。
仲の良い同僚たちと他愛も無い話をしながら最後の調整と記録を片付ける。それが終われば帰宅だ。
同僚と別れて一人家路を辿る。
何故俺は昨日あんな事をしたんだろうか?
こんな風に単調な日々に退屈してしまい、何か変わったスパイスでも使ってみようと思ったのか。
或いは他の仲間のようにゆっくりでもいじめてストレスを発散してみようと思ったのかもしれない。
人は日々に変化を生むために「気まぐれ」を起こす。
俺みたいなちっぽけな人間が気まぐれを起こしたって誰も気にとめはしないし、影響が及ぶ範囲も微々たる物だ。
それが妖怪や神の類になると、紅い霧をあたり一面に撒き散らしてみたり、季節の流れを止めてみたり、というスケールのデカイ話になるのだろう。
こうなってみると俺も妖怪に生まれてみたかったなぁ、などというどうしようもない願望が出てくる。
せめてそういう妖怪とか幽霊の類の事件に巻き込まれてみたりとか。
玄関前に立つ。今日も何の変哲も無い一日が終わる。
「はぁ……しょうもねーなぁ」
ため息をつくと俺は引き戸を開けると中に入った。
なにやらありすがごはんが足りないだの都会的でないだの文句を言っていた。
だがこんな奴に構っている気力も無いので、布団を敷くと今度は芽の出てしまったじゃがいもを与え、そのまま寝てしまった。


そんな日が続いたある週末、よく機械のレクチャーに来る河童からなにやら薄べったい大きな鎹のような機械を渡された。
なんでも外の世界で使われる映像を流す機械だそうで、箱いっぱいにあるから一つくれるという。
一緒に映像の記憶媒体も4、5枚受け取る。大切に使ってねと残すと機械の納入書に筆でサインを残すとさっさと帰ってしまった。
これも彼女なりのきまぐれという奴なんだろうか。
とりあえず何処をどういじれば映像が見られるのかは分からないが、新たな遊び道具が手に入ったことになる。
俺の楽しみなんて1週間に一度(ぐらいで)発行される「文々。新聞」ぐらいなもんだ。
これで今晩は暇をつぶすことが出来るとわくわくしながら帰路に着いた。
家に帰るとありすがしきりに喚いている。
ここ1週間でずいぶんこいつの騒音にも慣れてきた。
ただ慣れてきた、という事は次第に飽き始めたということにもなる。
新鮮さを失ってしまえばそれは「いつもと同じこと」となって、生活に溶け込んでいく。
なんとなく寂しいような、虚しい様な複雑な気持ちになりそうだ。
「おにーさんまたありすをおいてどこかにいってたわね!
 ありすはたいくつでたいくつでしかたがなかったのよ!ちょっとあいてしなさい!」
要するに遊んでほしいってことか。
まだ遊んで楽しいと思えるうちに遊んでおいてやるか。


「あー……」
なんてこった。ものの10分で飽きてしまった。
最初のうちは転がしたり振り回したりしていた。歓声だか悲鳴だかをあげて動き回るありす。
だがだんだんリアクションがワンパターンであることに気づいてしまい、一気にボルテージが下がってしまった。
こいつらはこんな変化の無い生き物だとは……俺がもしゆっくりだったら多分生後3週間で退屈死にしているところだ。
と、ここで先ほどの映像を映す機械のことを思い出した。
俺は早速機械に記憶媒体(と言われた円盤)をセットし適当にボタンを押してみた。
なにやら動き出したようだが「ディスクが読み込めません」というなぞの文章が表示されてしまう。
ディスクというのは多分形からしてさっきの記憶媒体のことだろう。
セットの仕方がおかしいのかな?それともこのディスクがダメなんだろうか?
なんども入れたり出したりを繰り返して居ると、とうとう映像が流れ始めた。
どうやら文字が書いてある面を上にしなくてはいけなかったらしい。
「ゆっ、なにしてるのおにーさん!」
一人で囲炉裏の火掻棒で遊んでいたありすがこちらに気づいてやってくる。
「んー、いや職場でもらった機械で遊んでるんよ」
「ゆゆゆっ、それっておもしろいの?」
いや、まだ見てないんだから分かるわけ無いだろう。
俺はとりあえず見始める前に布団を敷き、それから寝転がって鑑賞と洒落込むことにした。
どうやら何かのラブストーリーのようだ。
加工所のような外見の建物だらけの場所で男女が変な機械に乗っていた。
どこかで見たことあるような……大八車を二台つなげて、屋根つきの行者台を乗っけたような形だ。
非常に面白い風景だ。いろいろな機械であふれている映像の中の世界。
俺は人間そっちのけであたりの風景に気をとられていた。
だがやはり仕事帰りである故にまぶたが重くなっていき、何時の間にか眠りについていた。

朝起きるとありすが枕元で映像の消えた機械に寄りかかるように寝ているのが目に入った。
どうやらこいつは俺が寝た後もずっとこの映像を見ていたらしい。
今日は休日で何処にも行く必要がない。
とりあえず一日ゆっくりこの映像機械で楽しむとしよう。
しばらくするとありすも起きたようだがどうも様子がおかしい。妙にそわそわしている。
「なんだ、気分でも悪いのか」
「ゆっ、そ、そんなんじゃないわ!」
ならいいや。俺は再び画面に視線を戻した。
映像の中の世界はどうやら移動手段が随分と発達しているようだ。
昨日見た機械以外にも2輪で動く機械や、たくさんの小屋が連なって移動するような機械まである。
俺もこういう機械を持ってればな。加工所へ行くのも楽でよいのだが。
「ね、ねぇおにーさん!」
不意にありすに話しかけたれた。
「あー?なんだ」
「とっ、とかいてきな……」
また都会的か?もうその言葉も聞き飽きた。
どうせ俺は田舎もんだ。ていうかこの幻想郷に居る限りはどいつもこいつも田舎もんだろうが。
「とかいてきなれんあいをしましょう!」
「死ね」
俺は再び鑑賞に戻った。
「じゃ、じゃあせめてありすにちゅーしなさい、ちゅー!
 とかいてきな恋人たちはちゅーをするのよ!」
饅頭の分際で接吻とは……
だが確かに考えてみればゆっくりたちが接吻をするという話は聞かない。
連中の愛撫は大抵すーりすーりのみで、その後は直ぐにぺにまむすっきりの流れだ。
子供達にえさを口移しで与えることもあるらしいが、それは接吻とは言わないだろう。
「そういやお前らってキスとか普通しないもんな」
「そうよ!だからとかいてきなありすはみんなとちがってきすをするのよ!」
なるほど、恐らく昨日の映像の中に人間同士のキスシーンでもあったのだろう。
それでこいつはそれを「都会的」だと思い込み、俺にキスを強要しているのだ。
「誰がゆっくりとなんか口付けするかよ……」
そういうと顔を背けた。
「ゆゆっ、せっかくとかいはのありすがちゅーしてあげるっていってるのに!
 ゆっくりできないおにいさんはしね!」
言いつつ俺の顔に飛び掛ってきた。
平手で床にたたきつける。だがまた起き上がって飛び掛ってくる。
俺はまるで一人でドリブルの練習をするがごとくありすをたたき返す。
そのうち、「ゆ゙あ゙ぁぁぁ!!ありずのがわいいおがおがあああああああああああ!!」
と叫びながらどこかへ跳ねていってしまった。


それからというもの家に居る間は顔を防御しながら生活する羽目となった。
隙を見計らってはありすが何処からとも無く飛んでくる。そしてそれを叩き落す。
まるできりが無いので加工所においてあったれみりゃのお面をつけて生活することにした。
効果は抜群で、ありすがよってくることは無くなった。
「おにいざんはどごおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!?」
と、喚き散らすありすはなんとなく見ていて面白かった。

さすがにうっとおしくなったので、俺はありすに条件を出して黙らせることにした。
それは週一度発行される文々。新聞を近くの大きな集落から取ってくることだ。
この家はお世辞にも集落から近いとは言えず、正直町まで出かけるとは手間である。
しかも発効日が1日ずれることはざらであるため無駄足になる可能性は高い。
なのでその手間をこいつに稼がせることにしたのだ。
そうすれば俺は余すことなく暇を楽しむことが出来る。
そしてその対価として「キス」を条件に出した。
期間は2ヶ月だ。
ありすはこの条件を飲んだ。
そして週末になると集落に出かけ、日が暮れるまで天狗が新聞を売りに来るのを待っていた。
無駄に集落に行く必要が無くなったばかりか小うるさいのがいなくなったおかげで俺の週末は充実したものとなった。

好きに時間をすごす、或いは出かけて帰ってくると何時の間にか新聞が軒先に置いてある。
あとは適当にありすの相手をしてすごす。こんな日々が1ヶ月以上続く。
またこれが生活の1サイクルとして体にしみこみ始めていた頃の事だ。
俺は週末友人の家に遊びに行った日の事だ。
既に日は暮れており、明日仕事なのに長く居座り過ぎたと後悔しながら家路を急いでいた。
家に帰ると違和感を覚えた。帰ってくると飯だのなんだのと騒ぎ立てるありすが居ない。
もちろん囲炉裏のそばにに文々。新聞が置いてあることも無かった。
荷物を置くと囲炉裏に火を入れる。体が温まったところで大きく息を吐いた。
別にありすを心配する訳でもないが、どうしてだろうという疑問は持った。
多分行っている途中どこかで襲われてしまったか、或いは耐えられなくなって逃げ出してしまったか。
そろそろ終わりという時期に限ってそれは無い気がするので前者の可能性が高い。
ま、いっか。あんなのとキスせずに済んだだけラッキーと思うことにした。
俺は明日仕事ということもあり、戸締りして早めに寝ることにした。


また数日が過ぎた。
何時もどおりラインを見ながらベルトコンベアーの速さを調節していた。
無機質でごちゃごちゃしたラインからはあのゆっくりという生き物の断末魔が聞こえてくる。
「い゙や゙だぁあああああああああああぁぁぁ!!」
「ゆっぐりできないよ゙おおぉぉぉぉ!!」
「れいむぅ……ゆぎっ……いぃぃぃぃぃ……」
「だじゅげでらんじゃまぁっ!」
いくらあの生き物が叫ぼうと俺の知ったことではない。
いや、何も感じないといったほうが正しいかもしれない。これも所謂「慣れ」というやつだ。
最初はそれが多少の罪悪感につながっていたが、半年もするとそれが普通になる。
むしろこれを「音楽」ぐらいに思って楽しむ奴まで居る。
あのありすもああやって断末魔を上げ、苦しみながら死んだのだろうか。
今となって少しかわいそうな気がしてきた。
流石にゆっくりとは言えしばらくの間一緒に居ただけに少しは愛着というものが沸く。
ゆっくりとして生まれてしまった以上はこういう運命を辿りやすいのは仕方が無い。
そこは割り切るしかないが、彼らにしてみればそんなとんでもなく理不尽な話は無いだろう。

友人から昨日読み終わったという新聞を受け取ると家路に着いた。
週はじめだと言うのになんだかどっと疲れた気がする。
新聞が読みたいところだがとっとと寝てしまおう。風邪をひいては話にならない。
そう思い枕元に新聞を放置すると布団にもぐりこむ。
静かな夜だ。寒い季節で虫も居ないのでなおさらである。
まぶたを閉じて眠りに落ちようとなるべき何も考えないようにする。
と、その時。不意に土間のほうから音がした。
扉にぶつかる鈍い音。
どん、どん、と何かぶつかるような音がする。
近くの畑からバケツでも飛んできたのだろう。
大して気に留めずに目を閉じた。

次の日、家を出るとちょうど玄関にボロボロになった文々。新聞が落ちていた。
なるほど、こいつが昨日扉に当たっていたのか。
俺は新聞を拾うと途中のゴミ捨て場に放り込むと、そのまま出勤した。

次の日もまた入り口に新聞が落ちていた。
その時は偶然だろうと放っておいた。
だが次の日も、また次の日も新聞は落ちていた。

いくらなんでも4日連続で同じ場所に同じような汚い新聞が落ちているのはおかしい。
誰かが故意にやっているとしか思えない。そして俺はこの犯人に心当たりがあった。
あのありすだ。
俺はあのありすは死んだものだと思っていたが、もしかして生きていたのだろうか。
真意を確かめるべく、俺はその日帰宅すると扉をじっと見つめたまま新聞が置かれるのを待つことにした。
待つ事30分、とうとう扉になにかがぶつかる音が始まった。
ガタガタとゆれる扉に手をかける。
一呼吸置くと俺は一気に扉を開いた。
辺りを見回すが誰も居なかった。
その代わりに、風に揺られてページがめくれあがった敗れて、湿って、土まみれになった文々。新聞だけだった。
呆然と立ち尽くしていると、突然俺の胸にドン、と何かがぶつかったような感じがした。
思わず後ずさる。何かがあたったようには見えなかった。
だがその後もドン、ドンと確かに「目に見えないもの」が体当たりをしている。
俺はこの衝撃に覚えがあった。
そう、この感覚はあのありすが「キスするのよ!」といって飛び掛ってきたときの感触に良く似ているのだ。
恐ろしくなった。一旦敷居をまたぐと完全に外に出た。
しばし止んだと思われたが、また直ぐに体当たりを繰り返す。
何とかして逃げなければ……俺は体当たりされたと同時に俺は家に駆け込み扉を閉めた。
すると直ぐに追いかけてきた「目に見えないもの」が扉に体当たりをはじめた。
扉をつっかえ棒でしっかり固定すると、俺は手に火掻き棒を握った。
「おにーさぁん……あげでぇ……」
「うるさい!誰があけるかこの化け物め!」
「もうにかげづたっだよぉ……ありすは……とかいてき……に……なりだいのぉ……」
「黙れぇっ!ゆっくりごときとキスなんてするはずないだろうが!
 とっとと三途の川でも渡ってエイキッキに真っ二つにされちまえ!」
「ゔ、ゔああぁぁぁぁぁ!」
叫び声とともに体当たりの音が激しくなった。
「いだがっだのにいぃいぃぃいい!ありず、あんなにいだがっだのにぃぃぃぃ!」
やっぱりこいつはあの日何処かで虐待鬼意さんに襲われたんだろう。
俺は扉をけり返す。いい加減頭にきた。
叩き潰してやるとばかりに扉をにらみつける。
あのありすを拾ってきた2ヶ月前の俺を恨んだ。
夜は長い。日がのぼるまでにはあと8時間近くあった。

何時の間にか体当たりはなくなっていた。
気づけば土間で一人寝転んでおり、手には火掻き棒が握られたままだった。
俺は急いで必要最低限の貴重品と荷物を持つと一目散に友人の家へ向かった。
事情を話す。
「なんでそんなことしたんだよ……」
友人は呆れながら眠気と恐怖でフラフラになった俺を見て言った。
一瞬の気まぐれがこんなことになるとは……自分のことではあるが、俺でも呆れてしまう。
夕方まで友人の寝室を借りて睡眠をとった後、友人と一緒に神社へ相談へ行く。
その友人は所謂虐待鬼意さんと呼ばれる人である。
「幽霊のゆっくりだなんて最高にレアゆっくりじゃないか。
 ゆっくりみょんやゆゆこは別としてな。おら、ワクワクしてきたぞ!」
そう意気込む友人の脇で、俺は賽銭箱に手元の小銭をすべて流し込んだ。
冗談じゃない。俺は紅白の巫女様にありがたい御札を頂くと、友人とともに家へ向かった。

土間の柱に結界用の御札を貼り付けると、俺はどっかりと囲炉裏の前に腰を下ろした。
「さぁて、どうやって痛めつけてやろうかねー。
 あ、お前お経は唱えてくれるるなよ、せっかくの珍ゆっくりが台無しになっちまうからな」
そういうと友人は草刈用の鎌や包丁の柄に先ほどもらってきた御札を貼り付けていた。
瞳は期待にらんらんと輝いている。
こいつの目ならたとえそれが幽霊であってもゆっくりが見れるような気がする。

午後10時過ぎにとうとうそいつはやってきた。
まだ昨日と同じように、ドンドンという音が扉から聞こえてきた。
「敵さんのお出ましだなっ!」
彼はすくっと立ち上がると土間に下りた。
俺も一緒に立ち上がると昨日と同じように高温になった火掻き棒を手に取った。
「よし、あけるぞ」
友人の声に俺はうなずいた。
ガラッ、という音とともに扉が開くが、やはり昨日と同じように相手の姿は見えなかった。が。
突然扉があった位置に閃光が走った。同時に
「ゆぎいいいいいぃぃぃいいぃぃぃぃぃ!」
という身の毛がよだつような、ふつうのゆっくりとは異なる強烈な叫びが聞こえた。
「おぉ、凄いな、さすがは博霊の巫女様の結界だ」
友人の感心したような声が聞こえる。
「さぁて、これからダーツゲームでもするか」
不意に彼の右手が上がり、鎌が閃光めがけて振り下ろされようとした。
だがその時、勢いあまって振り上げた瞬間に鎌が後ろにとび、そして偶然にもお札に突き刺さった。
「ばっ……な、なにやってんだよ!」
とたんに閃光が消えた。
「し、しまった結界が……」
俺はあわてて部屋の置くに逃げようとする。その際に誤って手に持っていた火掻き棒で天井から下がっていた白熱球を割ってしまった。
部屋が暗闇に包まれた。差し込むのは月の光のみとなった。
暗くなった足元、俺は何かに引っかかり盛大に転んだ。
「どこだぁーゆっくりぃ!幽霊だろうがブルーレイだろうがの3枚卸にしてやらぁ!」
友人が俺と玄関の間の直線距離上で鎌を振り回している。
起き上がろうと仰向けになった。と、その時、腹部に何かの重みを感じた。
首だけ起こす。するとそこにはボロボロになったありすが月の光に照らされて不気味なシルエットを浮かび上がらせていた。
頭の裂け目から餡子が漏れ出し、髪は抜け落ちめちゃくちゃになり、目があるべきところには黒い空間が広がっているのみで、歯も所々欠けて居る。
ありすのシンボルである黒いカチューシャも無くなっている。中身が足りないのか足回りに皮がたるんでいた。
悪寒が走る。俺は叫び声を上げると持っていた火掻き棒をありすに刺した。
だがそれはありすには貫通せず、そのまま俺の腹の上に火傷を負わせる。
思わず火掻き棒を投げ出してしまう。しまった、手元に武器らしい武器が無くなってしまった。
「おに゙い゙ざあぁん……」
ありすの顔が迫ってくる。体の力が入らない。
「ありず、じゃんどじんぶんどっでぎだよ゙おぉ……」
ばさ、と首元に湿った文々。新聞が落ちてきた。
「だがら……ありずどばじめでのぢゅー……」
「ふ、ふざけんなクソ饅頭……!」
「はじめでのぢゅー……ありずはどがいはなのよ゙……」
ずりずり、と迫りくるありすのグロテスクな顔。
心臓がバクバクなっている。気がどうかなりそうだ。
「やぐぞぐ……じだでじょぉおおぉぉぉ!」
俺は恐怖のあまり意識を失った。


目を覚ますと俺はなぜか布団の中で寝ていた。
体を起こすと脇で友人があの映像機械で遊んでいるのが目に入った。
「おぉ、起きたかバカヤロー。お前昨日は丸1日起きねえんだもん、心配したぜ」
なんだ、俺は1日無駄にしてしまったのか。俺は上半身を起こすと辺りを見回した。
部屋の中はそう荒れては居ないが、天井からは割れたままの白熱球がぶるさがっている。
「あの時俺が鎌でゆっくりを串刺しにしてなかったらどうなってたことやら」
どうやら気を失った直後にこいつが飛んできて俺の上に乗っかっていたゆっくりを駆除してくれたらしい。
「びっくりしたぜ。半透明のゆっくりなんてはじめてみたぞ。
 鎌で刺したら消えちまったよ。もう少し遊べれば言うこと無かったんだなぁ」
そういうと御札の張られた釜を俺の布団の上に置いた。
「さて、それじゃあお前も起きたことだし俺はもう行くぜ」
友人は腰を上げると扉に向かって歩いていった。
「あぁ、どうもありがとう」
「いや、いいって事よ。俺も面白いもの見られたしな」
友人が土間に下りる。俺はせめて彼を見送ろうと立ち上がった。
と、その時床に新聞が落ちているのが見えた。
文々。新聞だが、あのゆっくりの物とは違い今日付けの綺麗なものだった。
多分こいつが買ってきたんだろう。
「おぉ、悪いとは思ったが新聞先に読ませてもらったよ。
 今週はその紅魔館のメイド長の詰め物の話が最高だな」
手がふるふると震えだす。
「これは……お前が買いに行ったのか……?」
「そんなわけ無いだろ。万が一お前が起きてなんか異変があったら困るだろ?
 だから俺は昨日今日とこの部屋でくつろがせてもらったんだが。
 で、今朝それが家の前にある工具入れに挟まってたからお前の家でとってる新聞だとばかりおもったんだが」
言い終わるのを待たずに新聞を囲炉裏に叩き込んだ。
メラメラと新聞が燃えて灰となり、部屋に嫌なにおいが立ち込める。
友人のほうに向き直る。突然新聞を燃やしだした俺に驚きを隠せないで居る彼に向かって俺は口を開いた。




「文々。新聞はな……定期購読の配達、やってないんだよ……」


おわり




あとがぎ

うっう~、ま~じゃんのおだいでかいだんだど~♪れみりゃがんばっだど~♪
訳(だいぶ遅くなりましたが麻雀での大貫さんからのお題「はじめてのチュウ」で書かせていただきました。
   はじめて、があまり関係なくなってしまいましたがお許しください)

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最終更新:2009年01月31日 16:02
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