「どうも~~♪ みなさんの永遠のアイドル小悪魔ちゃんで~~す♪」
この日、三日ぶりと言う久し振りの休暇を貰った小悪魔は、お気に入りのれみりゃで作ったサンドウィッチ(パチュリー丼などとは一切関係がない)をバスケットに入れて屋敷の外へ来ていた。
五月の風は心地よく、それでいて少し暑さを伴っている。
もう少ししたら、夏野菜がたくさん実るだろう。
キュウリ畑や、枝豆・茄子といった畑に侵入してもがき苦しむゆっくりを想像しながら、小悪魔は目的地へと歩を進めてゆく。
なんたって三日ぶりの久々の休暇なのだ、思う存分満喫しなければならない。
彼女の次の休暇までは、あと四日もあるのだから。
「ゆ~~♪ ゆ~~♪ ゆっゆっゆゆ♪」
「「「「ゆ~~~~~~♪ っくり~~~~~~~♪」」」」
よく見れば、道のあちらこちらに家族や友達単位で固まって歌を歌っているゆっくりがたくさんいる。
冬が明け、越冬から出てきたゆっくり達が、春の空気にあたって無意識にポジティブになっているのだろうが、既に一カ月近くたっているのに、未だにこの調子なのは、ゆっくりという所以だろうか。
しかし、夜中まで続けばさぞかし黄身の悪い光景なのだろうが、昼間であればそれは違う。
「素敵なお歌ですね♪ 聞かせていただいたお礼に、こぉれ、差し上げます」
「ゆっゆ!!! すっごいおいしそーなたべものだよ!!」
「きっとあまあまだよ!!」
「れいむたちのおうたがゆっくりしてたからだね!!」
ニコリとほほ笑むながら、中腰でクッキーを渡す小悪魔。
「ゆ~~♪ ゆっくり~~♪」
「おかーしゃん!!! おいちーね!!」
「うっめぇ!! これめっちゃうっめぇ!!!」
「こ」と「れ」のあいだに、嫌味に聞こえないように【ぉ】を挟むのがポイントのその仕草ならば、世の中の健常な男性ならば皆一ころだろうが、ゆっくりは与えられたお菓子に夢中でそれに気がつかない。
ああ忌々しい忌々しい。
「ゆげーー!!! どぐはおっでるぅーー!!!」
「ゆっきゅりできにゃいよーー!!!」
「までぃざーーーー!!!!」
口に入れてから数刻の間を置き、青くなってブルブル震えながら次々と倒れてゆくゆっくり達。
それの光景は、自分たちの前に食べたモノがどうなっているのかを見ているはずだが、どんどん広がってゆく。
そんな様子を笑顔で観察しながら、小悪魔は裾についたほこりを落としてその場を後にした。
「こぁっこっこぁ~~♪」
その後、生まれたての赤ちゃんを連れた初散歩中の新婚のゆっくりにも同様にクッキーをやったり、いっぱいの自然との触れ合いを楽しみながら、たどり着いた目的の丘。
その場所は、とても見晴らしがよく、快晴の天気と重なった為か、思わず生粋の少女の様な声を上げる小悪魔。
「むっぎゅーーー!!!!」
「しねよ♪」
この景色にまったく合わない声が響き渡った瞬間、小悪魔の顔に青筋が浮かぶ。
が、声の主がゆっくりであると気が付くと、その主を探して歩き回る。
「むっぎゅーーー!! むっぎゅーー!!」
草むらの中、そこにいたのはやはりゆっくりだった。
一匹のぱちゅりぃが、うつ伏せに寝転んでもがき騒いでいる状態。
これが実際のパチュリーであったら、小悪魔は満面の笑みで悪戯大成功!! と語尾にエクスクラメーションマークを数十個位つけて喜びまわるのだろうが、如何せん相手はゆっくりであり、罠を仕掛けたのは本人ではない。
「どうしたんですか? ぱちゅりぃさま?」
以上の事で、彼女が声をかける道理は無いだろうが、そこは小悪魔。
いつもの、とても有能な司書その口調でぱちゅりぃに尋ねる。
「むっぎゅーー!!! ……むきゅ? はやくぱっちぇをたずけでぇーー!!!」
「はいはい助けますよ。それで、どうしたんですか?」
「もんすたーが!! ぱっちぇのあじにーーー!!!」
「モンスター。……ですか」
そういう小悪魔が視線を落とすと、ぱちゅいぃの足に絡まっている枯れた蔓が見えた。
引き抜けば、直ぐに取れるような。
「はいはい。今とって差し上げますよ」
こいつらやっぱり大バカだ、と言っているような顔で小悪魔はぱちゅりぃに話すが、とうのぱちゅりぃは痛みで気付かない。
実際、素面の状態でも気がつくことはないだろうが。
「むっぎゅーーー!!! ほのーけーのごほんもよんでおくべきだったわぁーー!!!」
とは、罠から外したあとのぱちゅりぃの第一声。
泣き叫ぶぱちゅりぃの足から蔓を外し、抱きかかえて立たせた後、小悪魔は何故こんな事になったのか、とぱちゅりぃに尋ねていた。
「むぎゅ……。ぱちゅりのごほんをさがしてたら、ぼーごまほーにやられたのよ!!」
「はぁ、ご本を探してたんですか」
小悪魔としては、新しい罠のヒントを得ようとしたのだが、目論見が外れてしまいがっかりしたようだ。
「むきゅ!! でも、あなたもなかなかみどころがあるわ!! とくべつにぱちゅりぃのししょにしてあげるわ!!」
「結構です♪」
さぁどうだ。とでも言いたげに胸をはるぱちゅりぃの提案に、間髪いれずに返事を返す。
しかし、実際の場合結構ですは肯定の意味にとられるかもしれない小悪魔得意の高等契約術であるから、きちんと要りませんと答えましょう。
「むぎゅーーー!!! どうじでーーー!!!」
さて、小悪魔からふざけんなこの鶯饅頭野郎との返答を受け取ったぱちゅりぃは、まるでスイッチのように、コロコロと表情を変えて絶叫を上げていた。
至極楽しそうにその光景を眺めていた小悪魔だったが、何か面白いアイディアが思い浮かんだようで、ぱちゅりぃの顔をじぃっと眺めながら、声をかけた。
「それじゃあ、ぱちゅりぃさまも日符の勉強をしますか?」
「むきゅ!! もちろんよ、さっそくじゅんびしてちょ~~だい!!」
ご利用ありがとうございます。とだけ返事をして、小悪魔は魔法で火をおこす。
決してシャワーやいきなり的なナニではない。
なぜなら小悪魔はウヴだから、ウに「゛」でウヴだから。
「むっぎゅーーーー!!!! ……むきゅきゅ?」
火をおこすことくらい、小悪魔にとって相手に恋の炎をつけるほどにどうってことは無いのだが、ぱちゅりぃは度肝を抜かれたようで、目を点にして炎と小悪魔を見比べている。
「むっきゅーー……。なかなかやるわね。これは、……これはなかなかのまほーよ!!」
「いえいえ。私はそれほどでも。さぁさぁ、次はぱちゅりぃさまの番ですよ」
「むきゅ? ぱっちぇは、まだほのおがつかえないっていったでしょ!!!」
「だから使えるようにするんじゃないですか。ささ、その中へお入りください」
そう言って小悪魔が指さす先は、メラメラと燃え上がっている炎の中。
青々と燃え上がっているそれは、自然に生きるゆっくりにとっても異質なものとわかるのだろう。
「むきゅきゅ……なにいってるの? これは……」
「魔力のあるぱちゅりぃさまなら、私みたいな低級の炎なんてヘッチャラですよ。手っ取り早く魔法を覚えるには、こうやって直に触れることが大切なんです」
何かを言いたげなぱちゅりぃの声を遮り、安全性を唱える。
これが人間相手なら、ちょっとスカートを振って横目で見たりするのだろうが、ゆっくり相手にそんな事は不要らしい。
「むきゅ!! そうね!! それじゃあ、いくわよ!!」
「ハイ。ちゃっちゃと逝ってください!!」
成功を喜ぶ小悪魔を横目に、ぱちゅいぃは意を決したかのように炎へと飛び込んで行った。
「むっきゅきゅ~~♪ これでぱっちぇも、ろわいるふれいやをつっかえっる……むきゅ?」
しかし、喜び勇んで炎の中に入ったぱちゅりぃだったが、いざ中に入ってみると小悪魔の言うとおりになるはずも無く、見る見るうちに全身炎に包まれたいった。
「むっぎゅーーーー!!! ぱっぢぇのろーぶがぁ!!!!」
小悪魔の出した炎は、ぱちゅりぃを直ぐに焼き払うことはせず、ゆっくりと、しかし確実に高温の炎で焼き払っていく。
「むぎゅーー!! はやぐーーー!!! だすげでーーーー!!!」
「ゴメンナサイぱちゅりぃさま。こぁったら消し方忘れちゃいました♪ ご自分で水魔法を使ってくだ~さい」
忘れたのなら仕方が無い。
ぺろっと舌を出し、ニコニコとその様子を見つめる小悪魔は、心配する気持ちがからっきし無いような笑顔でそう返事をすると、お昼の肉まんを取り出して昼食を取り始めた。
「むぎゅーーだずけでぇーー!! だずけでーーー!!!」
「こっここぁこぁ~~~♪ こっここぁこぁ~~~♪」
「むぎゅーー!!! あっじゅいわぁーー!!! しゅーぎょーさいばーんよぉーー!!! このあぐまぁーー!!!」
「このあくまではなく、小悪魔です。次からは、名前はしっかり呼んでくださいね♪」
最期の力を振り絞って助けを求めるぱちゅりぃだったが、食事に夢中の乙女が気付くはずも無く、
ぱちゅりぃの意識は次第に途切れていった。
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「で? これはなに?」
「お土産です。ホクホクの鶯餡が美味しいですよ」
「ちなみに、これなんていう料理」
「ぱちゅり~魔女焼き饅頭です」
「却下ね」
「こあぁ!!!!」
最終更新:2011年07月27日 23:24