ゆっくりいじめ系2562 怖い人間とゆっくりするには(後編)

前編より



「美味しいね!すっごくゆっくり出来るよ!」

「ゆっくり!ゆっくり!」




「オイオイ…何だよこりゃあ…」


場面は変わり村の畑の中。
仲良く農作物を齧る3匹のゆっくりの前に男が立ち尽くしていた。
男は人の言葉を解するこの生物の事を他所の村人から聞いてはいたものの
見るのは初めてな事もあって、どうしたものかと頭を抱えていた。


「「む~しゃ!む~しゃ!しあわせ~♪」」


そうとも知らずに食事を続けるゆっくり達。
いい加減止めない事には始まらないと考えた男は
三匹のゆっくり達の近くにしゃがみ込んでまず食事を止めさせた。


「オイ、お前等な」

「ゆ?人間さん?」

「「「ゆっくりしていってね!!」」」


それを聞いて『話に聞いた通りだ』と眉を顰める男。
ゆっくりー中身は餡子だが、基本的に草食で畑に姿を見せる事もあり、
     何かに遭遇すると大きな声で『ゆっくりしていってね!』と叫ぶこの生き物。
     どうして森の餌にならないでここに来れたのか、実に不思議だ。


だが、その辺の説明は賢い人が上手い事見つけ出せば良い。
俺の仕事は野菜を育てる事とそれを守る事なのだからな。

男は困った様な表情で
人の言葉を解すると言うゆっくりに説明する事にした。
これはお前等の食っていいものではないと。


「どうしたのオジさん!ゆっくりしていってね!」

「あのなぁお前等、これは…」




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「やっぱ死んでるんじゃねーかな?」

「いいや、息してるよ」

「ゆぅ…ゆぅ…」


場面は変わり、4匹のゆっくり達がいるのはある小さな廃屋の中。
元々は誰かの倉庫だった様だが、少年達が産まれた頃から誰も使っておらず
今では少年達の秘密基地として活用されている。
廃屋とは言え綺麗好きな少年達の手によって掃除が行き届いている為
中は綺麗なものである。

ぱちゅりー達は秘密基地に行く途中の
この少年達に見つかって気絶し、連れて来られたのだった。



「ゆっくりって何食うんだろ?」

「そんなの知るワケないだろ…
 りんごでも食わせ…オイ、起きたぞ!」

「………?」


横たわっているぱちゅりーは気絶から目覚めた時、
何か暖かいものの上に自分の体があるのを背中に感じた。
何だかゆっくり出来るもの、いつかの母の頬の様な暖かいもの。
ふと視線を動かすと他の3匹も寝ているのが見えた。
柔らかい毛布の上でゆーゆーと寝息を立てて寝ている。


「急に動かなくなったから死んだかと思ったな」

「っていうか今でも動いてない」


その視線が少し上を向いた時、ぱちゅりーは恐怖に凍りついた。
見下ろしているのは数人の人間。
自分達を殺そうとした人間達よりもかなり小型だが、同じ姿をした生き物。
ぱちゅりーは余りの恐怖から声も出なくなった。


「…………!!」



「何で動かないんだろ?つまんねぇな」

「やっぱコレ、怪我だったんだろうな」


そう言ってぱちゅりーを持ち上げてひっくり返す少年。
凍りついたまま動けないぱちゅりー。

ぱちゅりーの底部には包帯が巻いてあった。
顔まで覆わない様にと、下膨れの部分に不器用に何重にも巻いてあるそれは
ぱちゅりー達を持ち運ぶ際に一人の少年がぱちゅりーの怪我を見つけ、
治療のつもりで巻いたものだった。


「○○、もういい加減暗くなるから帰ろうぜ
 おれ薪割り手伝わなきゃいけねーんだ」

「おお」

「コイツ等どうするの?」


「……放っておくか、持って帰るわけにもいかないし」



そう言って二人の少年達はぱちゅりー達を一瞥すると
鞄を肩にかけると廃屋から出て行き、民家の方へと夕暮れの道を歩いて行った。


「…………」


ぱちゅりーは最後まで口を開く事が出来ず
震えながら少年達の背中を見送る事しか出来なかった。



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ぱちゅりーが少年達に出会った次の日。
4匹のゆっくり達はまだ廃屋の中に居た。


廃屋の扉は開かれていた。
昨日の少年達がゆっくりが出て行ける様にと開けておいたからだ。
しかし4匹が出て行かなかったのは、ぱちゅりーがまだ動けないからだった。


「ゆっくり食べていってね!」

「早く良くなってね!」

「むきゅ…れいむ、ありがとう…ごめんね」


動けないぱちゅりーにご飯を用意する3匹。
ぱちゅりーは巻かれた包帯のせいで
今までの様にまりさの帽子の上に乗せられても、直ぐに滑り落ちてしまう。

それが包帯のせいだと中々気付けない4匹は、
やはりぱちゅりーを見捨てられず、人間の巣の中で過ごす事を余儀なくされた。


「…!?
 オイ!○○!昨日のゆっくりまだいるぞ」


その日の夕方近くになってから、また昨日の少年達は姿を現した。
少年達が驚いたのは、この4匹のゆっくりが
きっと一晩の内に何処かに行ってしまうだろうと考えていたからだ。
(当然の事ながら少年がぱちゅりーに包帯を巻いたのは
 不器用ながら善意からのものだった、
 少年はそのせいでゆっくりが廃屋から出られなくなるとは想像していなかったのだ)


「「「「……………」」」」


そんな事も知らない4匹にとっては絶体絶命の状態。
何しろ違う個体とは言え、
自分達の群れを滅ぼそうとしたのと同じ生物が5人も集まったのだ。

当然4匹は恐怖で震える筈であった。
だが、ぱちゅりーは昨日の件から今まで何も考えずに過ごして来たわけではない。
人間達が昨日、何故自分達に対して何もしなかったのか。
それを考えていたのだ。

一晩掛けて考えたその結果、
ぱちゅりーは『何も喋らなかったから人間は自分達に危害を加えなかった』
そう解釈するに至った。

思い返してみればあの日、群れが滅ぼされた日に人間に向かって
色々話しかけてから急に人間は暴れ始めたのだ。
食い扶持を減らされた事もあったのだろうが
もしかしたら人間は自分達ゆっくりの喋り方が嫌いなのかもしれない、と。

ぱちゅりーは他の3匹のゆっくりにも
人間が来たら決して口を開かない様にと釘を刺しておいた。
口を結んで少年達を見上げる4匹のゆっくりの前で
話に聞いているゆっくりとは随分違うな、と首を傾げる少年達。

実際の所、これは身動きの取れなくなるという窮地に立たされたぱちゅりー達が、
殆ど自分を安心させる為に考え出した無茶苦茶な作戦であった。


「やっぱ紫のだけじゃなくて他のも喋んないね…」

「おかしいよな…ゆっくりって喋るんじゃないのかよ?」


「「「「…………………」」」」


だが、この的外れな思い込みこそが
後にぱちゅりー達を救う事になる。




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「帰れ!この饅頭もどき!!」


「「「ゆわーーー!!!」」」


男がゆっくりに農耕について説明してから20分後、
そこには畑から放り出されて宙を舞うゆっくりの姿があった。

比較的我慢強いところのあるこの男も
ゆっくりに農耕を概念を説明する事を諦めたのだ。
べたべたっ、と音を立てて土の上に落ちるゆっくり達。


「ゆっぐり”でぎないぃぃいぃ!!」

「ゆ”ぐうぅうぅ!!
 オジさんもゆっくり出来ない人なんだね!大っ嫌いだよ!」

「帰れ帰れ!二度と来るな!バカ饅頭!」

「ゆん!ありす!まりさ!もう行こ!」


そう吐き捨ててプンプンと山の方へと跳ねて行く三匹のゆっくり達。
全くゆっくりしていない。

結果的にこの様な形になってしまったが、
短い時間の中で男は畑のものは自分達が育てた物だと言う事を
ゆっくりに懸命に教え込もうとした。

種を野菜の赤ちゃんと例え、
土の中で太陽の光と、自分達の与える水と栄養を食べて成長する事も。
そして自分が母親代わりとなって何ヶ月も世話をする事で
ようやくこの様な姿になって、自分達の食べ物になってくれるのだと。
そこまで育てた自分達にこそ食べる権利があり、
だからこそゆっくり達はこれを食べてはならないと。


『オジさんは赤ちゃんを食べるの?』
『そんな事よりゆっくりしていってね!』
『このご飯は勝手に生えてくるんだよ!!』
『おじさん!嘘はゆっくり出来ないよ!』
『む~しゃ!む~しゃ!しあわ』



ゆっくりに野菜の事を教える事は、実に難しい。
だがあんな目に遭わせてやったんだからもう来ないだろう。
去って行くゆっくり達を青筋を浮かべて見送りながら、男はそう願った。



「おぉーい!!○○!今のゆっくりだろ!?」


そこに男の友人が訪ねて来た。
それは男と同じく畑を耕す者。


「おお○○3日ぶり、聞いてくれよ
 初めてゆっくりを見たんだが
 キャベツ齧られたんで今追い出したところなんだ」

「途中から遠くで見てたよ
 災難だったな、お前も」

「でも、痛い目に遭わせてやったんだから
 もう来ないだろ……『お前も』?」

「…あのゆっくり達、今お前がやったみたいに
 一昨日俺が痛めつけてやった奴等と同じなんだ…」


「え?」


「一昨日は俺のところに来たんだよ
 あいつら、そんなに頭は良くないんだってさ
 …○○サンなんてとうとう畑で見つけ次第殺すようになったぞ」





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結果から言うとぱちゅりーの立てた作戦は成功した。
少年達は喋らないぱちゅりー達に対して暴力を持って干渉する事は当然無く、
それどころか少年達がオヤツにと家から持って来た煎餅やキュウリまで与えてくれた。

それに対して、4匹のゆっくりは警戒心から中々口をつけなかったが
少年の中の一人が自分の分の煎餅に口をつけると
4匹は安心して目の前でいい匂いを放つ煎餅に口をつけ始めた。
(細かく砕かれた煎餅はカケラも残さず美味しく食べたが
 過去のトラウマから、野菜であるキュウリだけは決して手をつけなかった)


少年達は自分達で塩を付けながらキュウリを食べると、
廃屋の中でドタバタとチャンバラ遊びを二時間程してから
また昨日の様に、扉を閉めずに家へと帰っていった。

初めは内心恐怖でどうにかなりそうだったぱちゅりーも、
ありすも、れいむもまりさも勝ち誇った顔つきで確信していた。
自分達が喋らなければ人間はゆっくりしてると。


何故なら少年達が無口な自分達に対して危害を加えない事に加えて
少年達の中の一人が連れて来ていた、4匹のゆっくりと同じ様に口を利かない子犬が
少年達に大切そうに扱われているのを見たのだ。

それを見た4匹のゆっくりは最早、間違いない、
喋らなければ自分達は怖い人間達ともゆっくり出来る、そう確信した。


だが、少年の中の一人が帰り際に言ったこの台詞。


「じゃーなゆっくり!ゆっくりしてけよ!」


「「「「ゆっくりしていってね!!」」」」



4匹はそれを言った瞬間死を覚悟した。


しかし『やっぱそれだけは言うんだな』と笑って廃屋から出て行く少年達を見て
ぱちゅりー達は『ゆっくりしていってねだけは言っても大丈夫』と認識した。


この廃屋に少年達以外の、
あの日ぱちゅりー達の群れを滅ぼした人間と
同じサイズの人間が来るのはこの次の日の事だった。


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「どうじでごんな”ごどずるのぉおぉぉお!!?」


場面は移り、いつかゆっくりを放り投げた男の畑の中。
男の目の前には頬を蹴られて泣くゆっくりありすとゆっくりまりさ。
そしてそれぞれの口から吐き出されたキャベツのカケラ。
この二匹のゆっくり、かつて男に放り投げられたゆっくり達と同個体である。
その顔を真っ赤に染めて男は次の様に言った。


「お前等!二度とここに来るなと言っただろうが!」

「どぼじでえぇえぇ!?
 ばでぃざもあでぃずもゆっぐりじだがっただけなのにいいぃぃ!!」


「…………」


それを聞いた男は少し頭を冷ました様で、泣きわめく2匹のゆっくりに対して
また1から、野菜は自分の育てたものでゆっくりのご飯では無い事を、
そしてここに来るのはお互いの為に良くないと説明しようとした。


「…いいかお前等、この前も言った事だがな
 ここにある野菜…いや、ご飯は俺が作ったものでな」


「…ゆ!まりさぁ!こっちだよ!」

「まりさ!こっちに来て加勢して頂戴!」


話を聞けと怒ろうとした瞬間、男は
二匹の視線の先に随分大きなゆっくりまりさが跳ねているのを見た。
そのゆっくりまりさは二匹の声に気付くと
怒った様にこちらに向かって急いで跳ねて来た。
それを見て畑の主である男は嫌な予感しかしなかった。

大きなゆっくりまりさが2匹の元に辿り着くと
男をまるで敵の様に睨んでから叫ぶ様に言った。


「ゆ”!人間さんがまたご飯を独り占めしてるんだね!
 いい加減ゆっくりさせてね!
 ご飯を守るよみんな!」


「「「えいえいゆー!!」」」



そう言って男を囲んで攻撃して来る3匹に増えたゆっくり。
2匹の体当たりは大した事は無いが、
大きなゆっくりまりさの体当たりは当ったところが少し痛むくらいの衝撃がある。


「オイお前等!やめろ!!」


急な展開に驚き、ゆっくり達から少し距離を取った男は
後ずさりながらなんとか冷静さを取り戻し、
こちらに向かって跳ねて来るゆっくり達を見ながら
前々から考えていた事を頭の中で纏めようとしていた。


「ゆっくり!ゆっくり!」

「…………」


そうする事は悪い事なのだろうか?
目の前のゆっくりを殺す事は悪い事なのだろうか?
山に住むゆっくりは人間と違って山の中のルールに従う野生動物と同じだ。
俺が稀に殺す機会のあるその野生動物と目の前のゆっくりを区別している理由は何だろう?
同じ言葉を使う?それは何の意味があるだろうか?


数瞬の内に生まれた疑問に対して、男は
ゆっくりまりさからのふくらぎへの噛み付きの痛みの御陰で
強引ながらも答えを出せた。



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男の視線の先にあるのは広がった餡子やカスタードに段々と集っていく、蟻の行列。
そして痙攣する大きなゆっくりまりさ。
激情にかられてやってしまったと少し嫌な気分になったが
それも大したものでは無かった。


「ゆ”っ……ゆ”っ……ゆ”っ」

「………………」


痙攣している大きなゆっくりまりさはまだ生きている。
いっそのこと楽になって貰おうかと男は思ったが、
かつて他所の村から来た男に聞いた話を思い出して止めた。

『近くの山の中のどっかに群れがあるんだよ
 どこかって?見つけるのは簡単だ
 捕まえた一匹を群れまで道案内させりゃいいんだからな』


その言葉を思い出してから男は一つ後悔した。
それは小さな方のゆっくりを殺さずに残しておけば良かったと言う事。
コイツでは大き過ぎて持ち運びに苦労する。


そんな事を考えていた男がふと、廃屋のある方向に目を向けると
このゆっくりよりも小さそうなゆっくりが廃屋の周りで跳ねているのが見えた。

縛る事で動けなくなるのかどうかは疑問だったが、
男は縄を用いてボロボロのゆっくりまりさを縛って倉庫に置くと
ゆっくりと廃屋の方向へと歩いていった。



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「ゆっくり!ゆっくり!」

「ゆっくりしていってね!」


廃屋の前の野原で追いかけっこをして遊ぶゆっくりありすとゆっくりれいむ。

口を開かないというのもゆっくり出来ないと感じる4匹のゆっくりは
許された只一つの言葉『ゆっくりしていってね』だけは喋る様になっていた。

それは不思議な感覚だった。
まるでそれが元々の自分達の言語だったかの様に、
最近ではその言葉だけで4匹の間では大体の意思疎通が出来る様になっていたのだ。


「ゆっ?」

「「ゆゆ?」」


二匹はその体に影がかかった事に気付き、その視線を上げた。
その先に居たものは知らない人間。
それも成体の人間、先程の男である。


「「ゆ”ゆ”ーーーー!!」」


「あっ!おい、待て!」


ゆっくりれいむとゆっくりありすは今度は恐怖から
男が驚く程の叫び声を上げると廃屋の玄関へと跳ねていった。

4匹のゆっくり達が今まで少年達に対して、それ程怖がらずに相手出来ていたのは
かつて群れを滅ぼした人間よりもずっと小さかったから。
そういう所もあったのだ。

あの群れの崩壊の日から、久しぶりに成体の人間を見た2匹は
男から何かゆっくり出来ないモノを敏感に感じ取り、
ぱちゅりーとまりさが昼寝している廃屋の中へと、
そして少年達のいる廃屋の中へと入っていく。
それを追って男も廃屋に入っていった。




「……?
 こんなトコで何やってんだお前…」

「ちゃ…チャンバラごっこ…
 父ちゃんこそ何やってんの?」



「「………………」」




「ゆっ…ゆっ…」


父親に秘密基地とチャンバラごっこを見られた少年と
ゆっくりを追って子供達の秘密基地に入って来た、その父親との気まずい空気の中
ゆっくりれいむとゆっくりありすの泣き声だけが静かに響いていた。




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「コイツ等はそんなのと絶対そんなのと違うって
 野菜も食わないし、それに人間の言葉だって喋んないじゃん」

「つってもなぁ…」

「ほら見て、野菜食べない
 最初からこうだったんだって、そうだろ皆!」


差し出されたキュウリから逃げる様に顔を背けるゆっくりれいむ。
そして少年の言葉に頷く周りの少年達。

この時、既に4匹のゆっくりは少年達の秘密基地のマスコット的存在となっており、
少年達は自分達の秘密基地であるこの廃屋に住み着いた
(と言ってもぱちゅりーが動けないだけだが)4匹のゆっくり達と
『秘密を共有している』という意識から仲間意識を持つ様になっていた。

男がこのゆっくりを捕らえようとしていると知ったその息子は
4匹のゆっくりを守る様に父親を説得し始めたのだ。


「ホントだ…ゆっくりってのも色々あるのかね?」

「でしょ?」


先程のゆっくりだったら迷わずキュウリを口に含んだ事だろう。
それに廃屋の玄関で会った時から今に至るまで
4匹のゆっくり達は怯えた視線を男に送るばかりで何も喋らない。
目の前でゆっくりはまるで先程のものとは別生物の様だ。

そう思った男は
何もこんなにゆっくりを保護しようとしている息子から
無理にゆっくりを捕らえる事も無いと考え、
先程の2匹のゆっくりに向かってごめんなと謝ると
今度は唯一他のゆっくりと姿の異なるぱちゅりーが気になって目を向けた。


「………」

「ゆっくりしていってね…?」


無言でこちらを見つめる男に怯えながら
取り敢えずの挨拶を済ませたぱちゅりーは、
返事をしない男に対する恐怖でまたその身を強張らせた。


「何だよアレ?包帯?
 お前等、あんなのをゆっくりに巻いてたら動けなくなるんじゃねぇの?」

「あぁ、それは怪我してたみたいで…
 でももう治ってるかも
 ちょっと解いてみようぜ」


少年の手がぱちゅりーを素早く持ち上げて包帯を解き始めた。
何重にも巻かれた包帯が床に落ちてとぐろを巻いていく。


「む…きゅ?」

「怪我、もう治ってるみたいだな」


そう言って少年はぱちゅりーを床に置いた。
数日ぶりに露になったぱちゅりーの口から下の体。
包帯から解放されたぱちゅりーは開放感と共に、
その裂けかけていた底部が既に治っている事を実感した。


「ゆ…ゆ…」

「ん?」



「ゆっくりしていってね!」



久しぶりに言った本心からの『ゆっくりしていってね』
この少年がぱちゅりーの怪我を治したわけでは無かったが、ぱちゅりーは
目の前の少年がいつからか自分を縛る様になった鎖を解いてくれた様な気がしたのだ。
その喜びからぱちゅりーは少年に言いたくなったのだった。
ありがとうという意味の『ゆっくりしていってね』を。


その意味を理解したのか、していないのだろうが
少年は頭を掻くと父親に耳を引っ張られながら
畑仕事を手伝いの為に廃屋から連れ出された。
そしてその後ろを子犬がトコトコと付いていった。



この日を境にぱちゅりー達は少年達にだけは信頼を置く様になり、
夕方に来る彼らに対して『ゆっくりしていってね』と歓迎する事さえする様になった。

結局4匹のゆっくりは、ぱちゅりーの底部が治る事で
いつか見つけたゆっくりプレイスに戻れる事も出来る様になったが
それはせずに廃屋の中で暮らす様になった。
廃屋に来る人間はゆっくりしてるし、この廃屋も雨風も通さず、
ご飯も周りにあり、4匹全員で住める立派なゆっくりプレイスだと分かったからだ。

4匹は少年達以外の、成体の人間に対しても、
いくつかの事件を通じて段々と心を開く様になっていくが、それは別の話である。




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それから数日後の山の中。
村の男達は数人で山道を歩いており、
その中の一人が縄で縛られた大きなゆっくりまりさの縄を掴んで乱暴に揺すっていた。


「ゆぎいいぃいぃぃ!!だずげで!!
 ゆるじでえぇえぇ!!」

「うるさいな全く…
 ホレ、次はどっちだ?」

「ごご!ごごの広場に皆がいる”よ”!!」

「おぉ、アレか?
 本当だ居た居た
 オイ皆!こっちだこっち!」





「ゆ?皆!人間さんが来たよ!
 ゆっくり挨拶してね!」

「「「ゆっくりしていってね!!」」」


「…………」


男達は冷めた目つきで挨拶をするゆっくり達を見渡した。
ぱちゅ達の抜けた時点ではまだ20数匹は居た群れの
ゆっくり達の数は既に10匹ちょっとまで減っていた。
『狩り』に行った際に段々と始末されていったからだ。


「オイ、お前等全員これを見ろ」


そう言った男が手の中で暴れるゆっくりまりさを
集まっているゆっくり達に向かって放り投げる。


「「「ゆ…?」」」


ズザーッと音を立てて着陸する大きなゆっくりまりさ。
実はこのゆっくりまりさ、この群れのリーダー的存在だった個体だ。


「「「まりざああぁあぁ!!?」」」

「「どうじでええええぇえぇえぇ!!?」」


ゆっくり達の悲鳴に眉を顰めた男は
今度は背負った籠から齧られたキャベツを取り出す。
かつてゆっくりに齧られたキャベツだ。


「ゆ!人間さん!それをれいむにゆっくり頂戴ね!
 そうしたらおじさんの事ゆっくり許してあげるよ!」


そのキャベツを見てポンポン跳ねて男に近づいて来るゆっくり達。
そのゆっくり達に教え込むように男は説得を始めた。


「…いいか、そこのゆっくりまりさはこの野菜を食べたからこうなった
 これから俺等人間の元に来てこの野菜を食べる奴は」

「ゆぴ」


男の説得が終わるまで待たずに
一人の男が集まって来たゆっくりを一匹踏み潰した。
説明を始めようとしていた男は驚いた風も無く
ゆっくりを踏みつぶした男に顔を向けた。


「ゆ”ゆ”!?」

「もういいだろそんなマネは
 とっとと終わらせて戻ろうぜ」


「れいむぅぅぅうぅぅうぅ!!?」

「この前2匹も殺しておいてなんだが
 丁寧に長い時間かけて恐怖を絡めながら教えれば
 きっといつかは聞く様になると思うんだがね…」


「どぼじでごんなごとずるのぉぉおおぉおおぉお!!?」

「来る前に決めていた事だろ?
 …それにそんな時間掛けても俺等には何の得も無い」


「ゆっぐりでぎない人間はゆっぐりしねえぇぇえ!!」

「全部踏みつぶせば解決する事なんだからな」




この群れのゆっくり達にとって、それは気付きようも無い事だった。
人の言葉を理解出来なければゆっくりまりさは
人間に群れの場所や情報を教える事も無かった事に。
人と同じ言葉を話さなければ人を怒らせる事も無かった事も。

この日群れは壊滅し、以来この村は
畑を荒らす他のゆっくりの群れに対しても
他所の村がそうする様に群れ単位で責任を取らせるようになった。







      ゆぎゃああぁあぁぁあぁ!!!








「ゆっくりー!
 ゆっくりしていってね?」
『れいむ、今何か聞こえなかった?』

「ゆっくり!ゆっくりしていってね!」
『分かんないよ!ゆっくりしていってね!』



その頃4匹のゆっくりは廃屋の中で、どこまでもゆっくりしていた。

いつしか4匹の喋る言葉は『ゆっくりしていってね』の中の10文字だけとなり、
それだけで会話をする様になっていた。
不思議な事に、かつて使っていた言葉を使って話す事はもう出来なくなってしまったが、
そんなものはもう4匹のゆっくりにとってどうでも良い事だった。


日が昇ってからゆっくりと廃屋の外に出て、
その辺りに生えている雑草をついばみ、たまに『お煎餅』を貰う。
たまにあの少年やおじさん達がくれる『お煎餅』は凄くゆっくり出来る。

お腹が膨れたら4匹揃って横になってお昼寝をする。
そしてお昼過ぎに起きては皆で遊んで、
夕方になったら廃屋の中で少年達と遊んで、帰っていくのを見送ってから
また巣で食べる為のご飯を口の中や帽子の中に詰めて廃屋の中へ持ち帰るのだ。

どこまでも争いの無い平和な廃屋の中。
4匹のゆっくりは皆、幸せ一杯に暮らし、
どんな時でもゆっくり出来るようになった。


                ー完ー



ーーーーーーーーーーー後書きーーーーーーーーーーーーーー

前作がゆっくりボールマンさんの作品と余りに被ってて恥ずかしかった…
ボールマンさんすいませんでした。





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最終更新:2009年05月02日 01:57
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