ゆっくりいじめ系2855 ペットショップのまりさ達

まりさが目を開けた時、周りは一面の薄暗闇に覆われていた。

「みゃみゃ…どこぉ…どこにゃのぉ…」

母親をしきりに呼ぶが、返事はない。
とにかく不安であった。
生まれた時からゆっくりは言葉を話せるとはいえ、基本的には赤ん坊である。
母親の愛情が欲しい。そして近くで自分の小さな体を支えて欲しい。
まだよく見えない目を瞬かせながら、暗闇の中を彷徨う。

むにゅ

なにか柔らかいものに当たったような感触。

「みゃみゃ!?」

しかしそれは母親としては小さすぎる、自分と同じ大きさのゆっくりまりさであった。

「ゆっくちしちぇいっちぇね!!」
「ゆ…ゆゆ…ゆっくち…しちぇいちぇにぇ!!」

相手の方は数十分前に産まれたのであろう。
幾分か口調もはっきりしている。
自分のお姉さんなのだ。赤ちゃんまりさは思った。

「ゆぅ~」
「ゆ…ゆ…」

この二匹が最初と二番目に生まれたまりさ達である。つまりは長女と次女だ。
二匹は自然とお互いの体を擦り合わせながら暗闇の中で過ごした。
知らない世界の中で、お互いにまだ柔らかい肌をぴったりと合わせる。
今は隣にある感触だけが、自分がここに存在しているのかすら分からなくなってしまう、そんな不安を和らげてくれた。

「ゆっくち!」
「ゆっ!」

その内にまた一つ。また一つと声が上がりはじめ、産声をあげた赤まりさ達は身を寄せ合った。


ガラガラッ

扉が開く。
刺し込むのは目もくらむような明るい光。
小さなまりさ達は一層強く体を押し付け合った。
生まれて初めて目にする光。
眩しいのだ。

「今回は少し多いな。忙しくなりそうだ」

男はその名の通りおしくらまんじゅうをしている赤まりさ達を見るなり独り言を漏らす。

「ゆみゅ?」

男の手がチビゆっくり達の集合体に伸びてくる。
摘まみあげられる一匹の赤まりさ。

「おお、なかなかの髪色だ。これはブリーダー行きにするか」

ブリーダー行き。
それはバッジ付のゆっくりとなり、優しい飼い主の元で暮らせる可能性があることを意味する。
しかし、そうなるまでの道のりは長い。
見た目で選ばれた良質なゆっくりはブリーダーの手によって育てられる。
しかし、何せゆっくりが過剰なほど存在する世の中だ。
ブリーダーに適性を欠くと判断された多くのゆっくり達はそこでゆん生ゲームオーバー。
数少ない選ばれた赤ゆっくり達も厳しい体罰も与えられながら育てられる。
どちらにしてもこのまりさには辛く険しい道が待っているのだ。

男はそのようなことは微塵も考えず、帽子や髪などを手早くチェックし、赤まりさを幾つかの段ボール箱に分けていく。
その手つきは熟練したもので、柔らかい赤ゆっくりの扱いにも長けていたが、中には掴みあげられるだけで嫌悪感を示すものもいる。

「やめちぇね!じじい!」
「これは駄目だな」

男は摘まみあげた赤まりさを持ってその部屋の隅に向かうと、
赤まりさに断末魔の叫びすら発させないように一瞬で握りつぶしてゴミ箱に放りいれた。

繁殖用の親ゆっくりから機械的に産みだされる、安価な命。
生まれた時から人間に反抗するようなゆっくりは修正する手間を考えると捨てたほうが早い。
死に際に声を出させないようにしたのは、他の赤まりさ達に感づかれないようにするためである。
まりさが人間に反抗して殺されたと知れば、他の赤まりさ達は自分の気持ちを押し殺して黙るようになるだろう。
それではいけない。
もちろんこの段階で飾りの欠損、髪の傷みなどがある個体も同様に捨てる。

こうして早速、まりさ達は残留組、ブリーダー組、廃棄組に分けられる。
ブリーダに送るまりさを丁寧に箱に詰めた後、店に残す物の中からさらに飼育用と赤ゆっくりのままでの販売用に分ける。
飼育用の物は子ゆっくり、成体ゆっくりになるまで育ててから販売するわけだ。
長女まりさと次女まりさは一緒にこの飼育用のまりさ達のケースに放り入れられた。

飼育用のゆっくり達には専用の生活スペースが与えられる。

そこは快適な空間だった。
赤ゆっくり達には様々な遊び道具、シーソー、滑り台、トンネルなどが完備されている。
寝床もふかふか。とてもゆっくりできそうな場所だ。

それもそのはず、このスペースに来たゆっくりは育てられ、赤まりさなどよりも遥かに高い値段で売られる。
それだけに普段は手塩にかけて育てられる。運動もその一つである。
ちょっとのことで怪我をするようなゆっくりは購入者にも喜ばれない。

「ゆゆ~ん!」

赤まりさ達は思い思いの遊具に向かって跳ねていく。
元来、活発なまりさ種。
今まで母親と触れ合えなかった寂しさを紛らわすように遊びに夢中になる。
もちろんこれも店の方針である。

「おねーしゃんももいっしょにあしょぼうね!!」
「ゆゆっ!!じゃあこのぎっこんばったんであしょぼうね!!」

次女まりさは長女まりさと一緒にシーソーで遊び始めた。
生まれて最初に出会った相手だから、ということもあるのだろう。二匹はとにかく仲が良かった。
特に次女まりさの方は母親から得られなかった愛情を姉から求めているのだろう。
ひたすら姉と一緒に遊ぶことを求めた。

空調も完璧。
思う存分ゆっくりする赤ゆっくり達。母親には会えないままとはいえ、とにかく今は幸せであった。
明るい声が閉鎖された部屋の中に響き渡る。

そんな時、男が食事を運んでくる。
これだけいい思いをしているのだから食事もきっと良いものなのだ、と考えたのだろう。
遊具で遊んでいた赤ゆっくり達が一目散に集まってくる。

しかし、男が持っている皿に入っている食事は気色の悪い黒緑色をした、見るからに美味しくなさそうなものであった。
ペースト状になっているので噛む力の弱い赤ちゃんゆっくり達にも食べられそうだったが…
一番先に生まれて、お姉さんとしての自覚が芽生え始めていた長女の赤まりさが勇気を出して舌を触れさせてみる。

「ゆげぇ…まじゅぅ…」

それは明らかに「不味く作られた」ゆっくりフードであった。そして栄養価だけは無暗に高い。
長女まりさに続いて口を付け、あまりの激烈な味に不平を漏らし始める赤まりさ達。

「ゆぅ!ゆぅ!こんにゃのたべられにゃいよ!!」
「そんなに言うなら食べなくていいぞ」

好き嫌いをする子供へのお決まりの台詞を放ち、皿を引き上げると男は部屋を後にした。

「ゆぅ…」
「おにゃかがしゅくとゆっくちできにゃいね…」

空腹に耐えながら赤まりさ達は眠りについた。
朝、開店前に男がペースト状の食事を持って入ってくる。
食欲というものは偉大である。この時点で、ほとんどの赤ゆっくり達がそのグロテスクな食べ物を口に運び始めた。
中には涙を流しながら食べている物もいる。

これも教育の一環。
生まれた時から不味い食事を与え続けることで、どんなものでも美味しそうに食べるようになる。
これは購入者に大変ウケる。確かに用意した食事を、自分のペットが嬉し涙まで流して食べてくれたら感動するであろう。
特にゆっくりの場合は簡単に舌が肥えてしまうので、子供のころから不味い食事に慣れておくと少しでもそれを軽減できる。
こういった気配りがされているのだ。

こうして順調に育てられた赤まりさ達。
二週間ほど経ち、彼らが子ゆっくりサイズとなった時、選別にかけられる。

ここで売りに出されるまりさは幸せだろう。
なぜなら、子ゆっくりというのは選定基準が緩いからだ。
買っていく人は、「赤ゆっくりから育てるのは面倒だけど、子ゆっくりならば自分にも育てられそう」と考えている人がほとんどである。
値段も手頃・一人でも扱いやすい・性格もまだ矯正可能な時期。以上の利点から子ゆっくりは人気が高く、多少癖のある個体でも売れる。
成体になってしまってからでは、平均的に高いレベルの個体が求められることになる。
そして選定に落ちた成体ゆっくりは…バックヤードに回ることになるわけだ。

不幸にも成体での販売用と決まったまりさ達だけが飼育用スペースに残された。
本人達はこれからもまだ中で遊べると思い、キャッキャッと喜んでいる。
その中にあの二匹のゆっくり姉妹も含まれていた。

彼女たちの想像に反して、これから厳しい躾の日々が待っている。
まずは、その準備として彼らの帽子にはバッジが取り付けられる。

「ゆゆぅ!きらきらだよ!」
「おねーさんのもきれいだね!」

バッジ。ゆっくりはキラキラしたバッジを好むが、飼いゆっくりに付けられる其れとは似て非なるもの。
金メッキされてはいるが、そこには数字が割り振ってある。
ただの個体識別用のバッジだ。
そして始まる恐怖の日々…


ペットは飼い主に従順でなければならない。
自分のゆっくりを追求することなど決して許されない。
このため、子まりさ達の行動はすべて監視されている。

許可が出るまで待つことが出来るか。
食事を美味しそうに食べるか。
お互いに喧嘩をしないか。
常に笑っていられるか。

全ては監視カメラでチェックされている。
店長は閉店後、店内整備などを終えた後、そのビデオを早回しでチェックする。
そこで一瞬でも「ゆっくりできないよ…」などと落ち込んだ表情をするまりさがいれば、すぐさまそのナンバーのまりさの処罰が決定する。

「ちくちくはゆっくりでぎな゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い゛い!!」

針。商品に大きな傷をつけずに痛みでもって分からせる。
まりさ種は主にその無邪気な性格が購入者に評価される。
ゆっくりまりさは常に購入者の家庭を明るくする存在でなくてはならないのだ。
笑顔を作らないまりさに価値は無い。

もし途中で店長が再起不能と判断した場合は、繁殖用に回される。
店の裏、暗いところで二匹並べて縄で縛りつけられ、定期的にすっきりして子供を作るだけの存在となる。
オレンジジュースを毎日少しずつ補充すれば、死ぬまでに数千匹の赤まりさを産みだす。コストパフォーマンスはかなり高い。

ある日、次女のまりさがこの厳しい検定に引っかかった。
夜眠るときに、「ゆっくりねるよ!!」と自分の行動を宣言してしまったのである。
男が電気を消して部屋を出ていくところだったので油断していたのだろう。

「そこは『おやすみなさい』だろうが!こっち来い」

地獄耳で就寝宣言を聞きつけた男に掴みあげられ、針を目の前にかざされる次女まりさ。
その目にはじんわりと涙がにじみ出る。

「いや…」

鋭利な針が柔らかい肌に刺し込まれていく。
ゆっくりの肌は非常に敏感である。
まりさは頬を貫くその激痛に悶絶した。
口からは泡を吹き、白目を剥いて気絶している。
男はオレンジ色の液体をスプレーで吹きかけると、ぺしぺし叩いてまりさを起こした。

「もうやるんじゃないぞ」

オレンジジュースをかけて修復されたものの、まりさは火が消えたように元気を無くしてしまった。
このまま明日の朝まで塞ぎこんでいるようならばその時は再びお仕置きが待っている。
笑っていない、からだ。
そうなってしまえば悪循環に陥り、繁殖用への道が現実的になってくるだろう。

「ゆっくりしていってね」
「ゆぅ?」

そんな次女まりさに長女のまりさは優しい声をかけてあげた。
ゆっくりしていってね。それは相手にゆっくりして欲しいという想いを込めた言葉。
上の立場から人間を見た言い方だ、ということでその台詞を発することは一切禁止されている。

にも関わらず。
長女まりさはその言葉で妹を元気付けようとしてくれた。
次女まりさはそれが嬉しかった。

「いっしょにゆっくりしようね…」
「ゆゆ…ありがとうおねーさん」

二匹は、あの出会った日のように、身を寄せ合いながら眠りに落ちていった。


試練を経て、より販売に適した性格付けがされたまりさ達は、やっとのことで店頭に出される。
展示用ケースに一匹ずつ入れられたまりさ達。
そのケースの裏側に店員が印字されたラベルシールを貼っていく。

『2009/07/01~07/15』

これはまりさ達の販売期間。
期限が切れたコンビニ弁当の如く、この期間が終わると中にいるまりさはゴミ箱行きだ。
狭いケースの中で長期間生活していると体力も落ちてくる。体調が悪くなってしまうものもいる。
そうなれば、展示スペースの関係上、新しく仕入れたものを追加した方が常に良い状態のものを売れる。

そしてこれにはもう一つ、重要な理由がある。

「お前たちはこれから二週間以内に売れないと捨てるからな」
「どぼじでええええええええええええ!!!!」
「まりさはこんなにゆっくりしてるのにいいいいいいいいいい!!!」

一気に泣き喚き、ケース内でガタガタと音を立てるまりさ達。
一見、ストレスを与えるばかりで逆効果にも思える。
しかし、これこそが販売期間を設ける最大の理由である。

売りだされる前の晩にこれを告げられたまりさ達はただ己の不幸を嘆く。
そして人間の理不尽を呪う。
しかし、一晩もすれば厳しい訓練を経てここまで来た彼女たちは悟るのだ。

助かるにはたった一つの方法しかないのだと。



「いらっしゃいませ!!」

開店。

客がちらほら入ってくる。

「にんげんさんおはよう!!まりさとあそんでね!!」
「まりさならにんげんさんのともだちになってあげられるよ!!」
「ゆっ!ゆっ!まりさはぼーるあそびがしたいな!!!」

瞳をキラキラさせ、ケースの天井に頭をぶつけんばかりに飛び跳ね、客にアピールし始めるまりさ達。

これが店側の目的。
全ては今までまりさ達に教えてきたことをこの二週間に集約させるため。
ただでさえ退屈な展示ケースの中だ。
ずっと居られると思えば、あのまりさ独特の媚びたような表情でまったりしながらご飯を貪るだけの愚鈍な饅頭になってしまうかもしれない。
それではいけない。

活発なまりさ。
元気なまりさ。
明るいまりさ。

銘々が笑顔を取り繕い、人間に「ウケる」まりさを演出する。
全ては買ってもらうため。全ては生き残るため。

そしてあの姉妹も。

「まりさはとってもげんきいっぱいだよ!!」
「まりさをかっていってね!!」

皮肉にも隣同士のケース。
しかし、今はそんなことは関係ない。
自分を買ってもらう事だけがまりさの幸せ。


「お買い上げありがとうございます!!」

一匹のまりさが売れた。

自分も
自分も
自分も

(何で見てくれないの?)
(まりさはこんなにゆっくりしてるんだよ?)
(まりさの方があいつなんかより良い子にしてられるよ?)

会計カウンターに置かれて満面の笑みを浮かべる仲間を賛辞の言葉で送りだす余裕などない。
まりさ達の目は客の方を向いていた。
自分だけが買って貰えれば良い。他のまりさを買うくらいなら自分を買ってほしい。
笑顔の仮面の下で渦巻く黒い情念。まりさ達は明らかに「ゆっくりしていなかった」


「本日はどうもありがとうございましたー!!」

閉店時間になる。結局売れたのは先ほどの一匹のみ。
まあそんなものだろう。あと13日もある。店長はまずまずの滑り出しだ、と頷きながら店内の清掃を始めた。
しかし、まりさ達はそうもいかなかった。

「ゅゅ…」

全員へにゃりとケースの床にへたり込んでしまった。
一日中気を張って客にアピールしていれば流石に疲れてしまう。
これがあと二週間も続く。それが苦痛でしかなかった。
それでもやらねばならない。怠れば確実に死が待っているのだから。

「ゆゆ…だいじょうぶ?」
「ゆっ?」

閉店後の暗くなった店内で長女まりさが次女まりさに話しかける。
ケース同士は仕切られているので、反対側は見えないが、ケースを通して声が伝わる。
「透明な箱」のように防音性能抜群の装置でないから出来ることだろう。

次女まりさは一瞬戸惑った。
彼女だってライバル。敵は一人でも多く蹴落とした方がいい。
そう結論付け、咄嗟に思いついた罵倒の言葉を投げかける。

「うるさいよ!しね!!くずまりさ!!」
「ゆぅ…」


長い沈黙が続いた。


「ゆっくりしていってね…」

突然、隣のケースから聞こえてくる優しい声。
とても落ち着く。それになんだかとっても懐かしい響き。

「ゆっくりしていってね」

次女まりさは条件反射的にそれに返事を返していた。

「ゆっくりしていってね」
「ゆっくりしていってね」
「ゆっくりしていってね」
「ゆっくりしていってね」

二匹は何度も何度もその言葉を繰り返した。
一日中客に向かって叫んで疲れていたにもかかわらず、二匹はそれを延々と繰り返し続けた。
ゆっくりとしての根源的な欲求がどんどん溢れてくる。
ゆっくりしたい。そしてその「ゆっくり」を誰かに少しでもいいから分けてあげたい。そんな欲求。
その言葉を口にすればするほど、自分の中に生き生きとした感情が蘇ってくるのを感じた。

「うるさいよ!!」
「まりさははやくねたいよ!!だからだまってね!!!」

他のゆっくり達に批難されるまでそれは続いた。
その時、既に二匹の心のなかは温かい気持ちで一杯になっていた。



その日から二匹は「おかしくなった」
「おかしい」というのはあくまで店員視点のものである。
彼女達自身は本来の姿を見せていたと言えるだろう。

「ゆっくりぃ」
「ゆっくりしていってね!!」

眉を曲げ、馬鹿にしているのか媚びているのか判断しかねるような表情で「ゆっくりしていってね」を言う。

「何だあれ?」
「ウザ…」

客はそんな二匹の前を怪訝そうな顔をしながらそそくさと通り過ぎていくだけであった。
既に一般人のゆっくりに対する認識は喋るペット、というものでしかなかった。
「ゆっくり」なんてのは名前だけ。犬猫の代わりに一緒にお話ができるペットが欲しい、そんな人が大半だったのである。

店長もこれには困惑した。
販売中の商品である以上、針などで傷をつける訳にもいかない。
まだ残り二週間弱残されているとはいえ、売れ残るのは必至。

「はぁ…なんでこうなっちまったんだ?」
「ゆー!おにーさんゆっくりしていってね!!」
「まりさはゆっくりしてるよ!!」

「「ねー!」」

客のいなくなった店内でため息をつく店長をよそに、まりさ姉妹はお互いにゆっくりしていってねと言い合っていた。

今この店で、一番ゆっくりしていたのはこの二匹であることは言うまでもない。

あくる日も、その次の日もまりさ姉妹は売れなかった。
次々と売れていく兄弟に対して嫉妬を隠せずにいる他のまりさ達と違って、彼女たちの落ち着きぶりはある意味で尊敬に値する物だった。


「このまりさください」

その言葉を聞いた時、その場にいた全員が目を丸くした。
この時ばかりは何にも動じず、ゆっくりするばかりだった次女まりさも目を見開いた。

ひとりは嫌。
今まで一緒だから耐えれてきたのに。

「おにーさんまりさもかってね!!」
「ん?」
「どうもすみません。当店の管理が不十分だったようで…」

ゆっくりの方から購入者に指図するなどもっての外。
店長は客の男を大変に気遣っていた。
何せ不良品を通常価格で買い取ってくれた神様である。
機嫌を損ねて帰られてしまっては元も子もない。

しかし、実際にその男は一点の怒りも見せず、その提案について熟考していた。
成体二匹。安い買い物では無い。
それを見越した店長がガラリと態度を変え、男に次女まりさを勧め始める。

「では…お詫びと言ってはなんですが、両方お買い上げの際はこちら半額にいたしますよ」
「そうだなぁ、んー。成体ゆっくりが二匹いれば…」
「まりさもまりさといっしょがいいよ!!」
「そうか。まりさがそう言うのならそうしよう」
「ありがとうございます!!」

二匹は初めて外の世界に出た。

その顔は外の快晴の青空のように晴れやかなものだった。





果たして姉妹まりさは幸せだったのか。

普通の客は「ゆっくりした」ゆっくりなど買わない。見向きもしない。

では、彼は一体なぜまりさ達を買ったのか。

それは間違いなく彼が「ゆっくりしている」ゆっくりを求めていたからだろう。

そしてそのような価値観を持っているのはゆっくりと深いかかわりを持っている者のみ。

果たしてまりさの行く先は天国か地獄か。

それは読者のみなさんのご想像にお任せするとしよう。

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最終更新:2011年07月28日 03:52
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