ゆっくりいじめ系2984 合わせ鏡の奥 1

  • それなり俺設定注意










ありすは主張する。自分は美ゆっくりだと。
飼い始めてから数ヶ月経った1体の綺麗なありす。

美しい髪。
プリプリの美肌。
碧眼の瞳。
輝くようなカチューシャ。

ありすは当然の自信を持って言う。
自分が選ばれたゆっくりだから当たり前の事だと。
この美貌を観覧できる幸せを存分に味わえと。


だが…。
それは違うぞ。ありす。


髪は俺が洗って櫛で鋤いたから美しい。
肌は俺が食事を与えているから美しい。
瞳は俺が目薬を注しているから美しい。
飾は俺が丁寧に磨いているから美しい。

お前はその間、都会派だ。田舎者だと騒いでいただけ。
何一つ、自分で美しくなろうとする努力をしない。
いや…。する必要が無いんだろうな。
俺に任せれば勝手に全てしてくれるんだから。

俺はお前を飼った目的が解っているのか?
癒しを求めて購入したんだ。
仕事に疲れてから帰宅して、その口から出るのを期待したのは、
おかえりなさい。おつかれさま。いいこにおるすばんしてたよ。

そんな幻想を容易く打ち破る言葉。

「ありすはおなかすいたわっ! いなかものは さっさとよういしなさいっ! 」
「おふろにはいって さっぱりーっ! のじかんだわっ! 」
「ごはんをたべたい?あとでゆっくりたべてねっ! ありすがかわいくないのっ!? 」

安らぎは。どこにも無い。
外見の美しさを打ち砕く汚らしい言葉。嫌らしい表情。
表面と内面のギャップが酷すぎて、より醜悪に感じる。

俺はもう耐えられなかった。

ありすを掴んで透明な箱に入れる。
外出時、野良が家に進入して危害を加えられないように購入したケース。
ありすが息苦しい思いをして欲しくないから、少し大きめのを奮発して選んだのだ。
それがこんな事に使われる。
多少心苦しかったが。もう、どうでもよくなった。

「ここからだしなさいっ! いなかものっ! 」
「ごはんはまだなのっ!? とかいはなでぃなーをよういしなさいっ! 」
「あんよがよごれてしまったわっ!さっさとふきなさい! 」

好き勝手に吼えて騒ぎまくる。
随分時間が経った頃に、やっと身に迫る異変を感じたようだ。
多少さっきより言葉使いが卑屈に変わる。

「ゆっ…。ゆ〜ん! おにいさんここからだしてねっ! 」
「ありすが ちゅっちゅしてあげるわっ! とってもゆっくりできるのよっ!」
「きょうはおにいさんといっしょにねてあげるっ!
 べ…。べつになんともおもっていないんだからねっ! 」

耐えられない。陳腐な演技と濁った瞳。
見るだけで嫌悪と憎悪が湧き出してくる。
なんでこんなゆっくりを飼ったのだろうか? 俺の目が狂っていたのか?
違う。こいつが腐っているから全て悪いんだ。

「うつくしいありすにさからうのっ! このいなか……、」

憎しみを込めて拳を振り上げた。
ケースが砕ける。強く叩きすぎたらしい。
割れたガラスの破片がありすに降り注ぐ。
悲鳴を上げながら迫り来るガラス片をありすは凝視していた。
避ける事も、何かで防ぐ事もしなかったありす。
その凶器は美しい髪を削ぎ、美肌を切り裂く。

悲鳴。
美しい髪が! プリプリの美肌がっ!
どぼじでごんなごどずるのっ!?
とっても美ゆっくりなありすなのにっ!
更なる抗議を田舎者の飼い主にする時、視界の捉える。

指で透明なキラキラしてる物を摘んでいる。
それが空に放たれてありすの右目に落下。深々と突き刺さる。
その直後に灼熱の激痛が体中に響き渡った!
今まで感じた事の無い衝撃に精神が壊れそうになる。
口からは悲鳴しか出ない。言葉? そんなもの紡ぎだすのは不可能に等しい。

そのまま置き去りにされた。痛くて涙が溢れる。
辺りはガラス片が飛び散って歩く事も出来ない。
その場で、蹲り痛みと空腹に耐えて夜を明かした。





朝日が昇る。
結局昨夜は眠れなかった。
痛み,悲しみ。そして、飼い主に対する怒りで。

どうしてこうなったのだろう?
何も悪い事はしてないのに。美しいことは罪なの?
ありすは、天井を見続けながら思いに耽る。

右目はズキズキ痛んで、あんよは涙でフニャフニャ。
外に通じる、穴の開いたガラス面。脱出しようと考えたが、
割れ残ったガラスが鋭く尖り、触れる事を拒絶する。
温室育ちのありすは、痛みにあえて向かう事はしたくなかった。

そこに飼い主が通りかかる。
こんな事をした飼い主は許さない! ありすの美貌をなんだと思っているんだ!

「ゆっくり しゃざいをようきゅうするわっ! 」

飼い主はありすが声を掛けているのに、何の反応も示さない。
スーツに着替えて朝食を取る。パンの焦げるいい香りが部屋に満ちる。
ありすはお腹が鳴るのを感じた。
昨日の夜から何も口にしていない。泣きすぎて喉も渇いた。

「とかいはな もーにんぐをもってきてねっ! 」

美味しい朝食を食べさせてくれたら、少しは譲渡してもいいよっ!
ありすは上から目線でそう考える。
だが、ありすはもう飼いゆっくりでは。無い。

只の。家に居る。害獣だ。

飼い主は一瞥した後、ゴミ箱に向かう。
そして、その中身を箱の中にばら撒いた。
ありすはそれを覚えていた。一昨日出された田舎者な昼食。
口に合わないから捨てさせたのだ。皿を引っくり返して抗議した物。

それが、今。腐臭を放って眼前に散らばる。
これを食べろというのか?ありすはこの様な食事は臨んでいないっ!

「こんなものたべられるわけないでしょぉおぉぉぉっ゛!? 」

美肌どころか、お腹を壊してしまう!
コラーゲンたっぷりのドリンクも用意されて無いっ!

錯乱したように反発するが、何も改善されないまま飼い主は外出した。
ありすは憎しみの眼差しで、飼い主が去った場所を睨み続ける。





夜になってしまった。

飢えと乾き。そして、右目の鈍痛。
空腹に耐えられず、床に散らばる食べ物も口にしてみた。
でも、マズイとか美味いのレベルでは無い事を知る。
混ざった細やかなガラス片が、口内を切り刻む。

直ぐ吐き出したが、ガラス片は刺さったままだ。舌で擦り落とそうとする。
状況は好転するどころか、舌までも切り傷だらけになって悪化の道を辿る事になってしまった。
食欲も失せた。辺りは臭い。あんよはカピカピ。
もう。動く気力さえも無い。
ゆんゆん泣きながら、顔を伏せる。

数時間後、飼い主が帰宅。
手には新しいケースを持っている。
凄くにこやかな顔をしてありすに近づいてきた。

ありすは思った。ゆっくり反省して謝る事にしたのだと。
治療をして貰って、またあの美貌を取り戻す。
多少、美味しくない食べ物でも我慢して食べてあげるわっ!
自分的には大譲渡したつもりだった。だけど…、


都会はなコーディネートをしてあげるよ。ありす。


その言葉が全ての始まり。
新たなる世界へ通ずる扉の鍵となる。


ありすはその言葉を良い方に捉えた。
これで以前の生活が帰ってくると。
優しく持ち上げられて、飼い主が暖かく迎えてくれる。

だけど、幻想はそこまで。
髪を無造作に掴まれて宙に浮いた。
ブチブチと頭頂部から聞こえて、パラパラと金髪が下に舞い落ちていく。
そして、ありすの右目に刺さったガラスを空いた指先で摘んで…。
一気に引き抜いた!

「ゆ゛ぁおぉあぁぁぁぁぁぁあっ゛!? 」

鈍痛が激痛に戻る。
手にしたガラスを壊れたケースに投げ入れた後、何かをつぶやいて。
ありすの右目を抉り出した。

ありすの左目に、右目だった物が映し出される。
今まで自分の体内にあった大事なパーツ。
それが。何故か外に出ていて。飼い主に握り潰される。

「あ…!あじずのぎれいなおべべがぁあぁぁぁぁぁっ゛!? 」

指の間から流れ落ちる液体。それは嘗て目玉だった物。
ありすは夢であって欲しいと願った。
でも空虚となった右目の部分が、嫌と言うほどこれが現実だと語りかけてくる。
そして、新しいケースへと放り込まれた。

床に無様に叩きつけられたありす。そのまま跳ねて壁にぶつかる。
すると、目の前には不細工なゆっくりが居た。
ありす種なの? でも…、なんて醜いのだろう。
ありすの美貌には到底叶わないその姿。
近寄られるのも嫌だと思って口を開けた。

「いなかものの のらはちかづいてほしくないわっ! 」
「みのほどをしってねっ! いなかものっ! 」
「いなかものっ!! いなかものっっ!!! 」

醜悪な顔をして居座り続ける。
なんて図々しいのだろうか。ありすに惚れないでねっ!
お断りなんだよっ! そんな事もわからないのっ?いなかものっ!

罵声の最中に口の中のガラスが煌いた。
目の前のありすも動きが止まり、そして近づいてくる。
世話しなく動いた後、驚愕の顔になりブルブルと震え顔面蒼白。
それは、鏡の前のありすと同じ顔をしていた。

「どういうことなのぉおぉぉぉぉぉっ!? 」

にこやかに飼い主は答える。
そこは美しいありすの為の、ドレッサールームだと。

一面に大きな鏡が貼り付けてあるケース内。
鏡にありすの全体像がクッキリと映し出される。
右目は無く、髪はボサボサ。あんよは薄汚れて肌はカサカサ。
醜い。これが自分? 信じたくない。

「あ…。ありずのとかいはなからだがぁあぁぁっ!? 」

涙がまた溢れ出す。
こんな乾いた体の何処から滲み出てくるのだろうか?
ますます水分が枯渇する。それでも涙は止まらない。
そこで飼い主は驚いた顔をする。
コーディネートはこれからなんだと。
まだ何も始まっていない。
微笑みながら、飼い主は刃物を手にする。


ハサミで髪を虎刈りにされた。
鏡に写る綺麗な金髪の束がバサバサと床に落ちる。
そして口の中にタブレットを放りこまれて飲まされた後、
汚い肌を紙ヤスリで削られる。

「やべでっ! やべでぐだざいっ! どかいはじゃないわっ! 」

頬の涙後から、汚れてパリパリになったあんよ。
全ての場所に細やかな擦過傷が満遍なく刻まれた。
空気が僅かに触れただけで、ズキズキと痛む。
薄い膜が張って治癒したが、傷跡が醜く残ってしまった。

命より大切な煌びやかな飾りを取られた。
手にしているのは彫刻刀。グリグリと彫られて文字を刻まれる。

「ありずのずでぎな かちゅ〜しゃがぁあぁぁぁっ゛!? 」


すてきなかちゅーしゃ とかいはなありす


ありすにも読める素敵な平仮名で刻み込まれたカチューシャ。
これで都会派なコーディネイトは一旦終了。
変り果てた自分の姿を見ているありすは、ただ泣き続ける。
側に置いた餌にさえ手を付けない。
生ゴミだから口にしないだけかも知れないが。

そして、数日が過ぎる…。





ある夜、飼い主がありすを賞賛する。
ベタ褒めと言っても過言ではない。
しょうがなく生ゴミを口にしている時の出来事だった。
自分の姿が見たく無いから、鏡に背を向けた生活が続いていた。
そんなありすを褒める。何を考えているのだろうか?

食べていた餌を、美味しそうな餌を取り替える。
本気で謝りながら、再度容姿を褒め始めた。
久しぶりに向いた鏡には醜い自分。
コーディネイトしたのは、この飼い主。
右目も無く肌は切り傷の跡だらけ。髪は虎刈り。
カチューシャも刃物で削られた。
前と何ら変わらない醜態。
また涙が溢れる。

でも飼い主は力説する。
そのワイルドさと、美しさが共存した姿が素晴らしいと。
素敵で以前とは比べようが無いと。

ありすは最初疑った。
でも毎日力説されれば、そのような気にもなってくる。
ワイルドで素晴らしいかも? 食べ物も美味しくなったし、
飼い主が体を拭いてくれるようになった。

そして、美の基準が変動した。
鏡の前でポーズも取り始める。
ゆんゆん言いながら、左右に小刻みに踊りだす。
なかなか悪くないかも知れないと、満足気に鏡のありすを見つめる。





それからまた数日が過ぎた、ある日の夜。
優雅なディナーを口にしている時に、飼い主が言葉をかけてくる。
美しいありすの子孫を残さなければいけないと。
ここで絶やすことは世界の罪になると。

ありすもその提案に迷わず乗った。
都会派な赤ちゃんが一杯欲しい。相手はまりさを希望した。

にこやかに了承した飼い主。
まだ見ぬ赤ちゃんと幸せな家庭を想像するありす。
浮かれているありすは気付かない。
黒い笑みが混じる飼い主の企みに。





「ほんとうにかわいい およめさんなんだねっ!? 」

まりさは期待に胸を躍らせる。
数分前にショップで売られていたまりさ。
悪食と汚い言葉使いで、難有りコーナーに格下げされた商品。
本人は、「みるめがないやつばっかりなのぜっ! 」と威勢を張っていたが、
処分の日が迫って来た。というか、タイムリミットは明日。
まりさは、「がっでぐだざいっ! 」と情けなく懇願していた。
そんなベチョベチョの顔で悲壮感を前面に出している時、一人の男が目に現れた。

「まりさはつよいんだよっ! うそをついたらおしおきだぜっ! 」

可愛いゆっくりのお婿さんを探しているらしい。
まりさは必死で自分をアピールした。
こんなに素晴らしいと。どんなにゆっくりしているのか。
そして自分を選んでくれた。
狭いケースから外の世界へと飛び出す。

「ゆ〜んっ。たのしみだよ〜。」

幸せそうに微笑む。
どんな美ゆっくりなのだろうか?
まりさのお眼鏡に叶うゆっくりだといいなっ!

「ゆっ? ゆっくりついたんだねっ! ゆっくりたんけんするよっ!
 …ゆー〜んっ! なかなかだねっ! まりさはきにいったんだぜ!!
 ここをまりさのゆっくりぷれいすにするよっ!!! 」

この様な醜態を晒したゆっくりは、即、潰される。
飼いゆっくりにするにしても野良でも関係ない。瞬殺だ。
でも、ニコニコした飼い主を見てまりさは付け上がる。
飼い主から、まりさが住まわせてやっている! ランクに転落した。
それに合わせて、本来の言葉遣いの悪さが表面に出てくる。

「ゆっくりおよめさんにあわせてねっ! あまあまもちょうだいねっ! 」

ゆっへっへっ。
野良の様な仕草と品の無い笑い方をしながら威嚇。
流石は難有りゆっくり。躾が皆無。
そんなゆっくりを飼い主が優しく持ち上げて、番の待つ部屋に向かう。

「すてきなまりさねっ! ゆっくりして…。」
「なんなんだぜえぇえぇぇぇっ!? ゆっくりできないぃいぃぃぃっ! 」

まりさは絶叫。無理も無い。
間の前には美ゆっくりとは程遠い物体。
それが2体も居たのだから。

「なんでゆっくりできないのが ふたつもあるのぉおぉぉっ゛!? 」
「ありすはひとりよっ! 」

「こんなのとはゆっくりできないよっ! だましたのっ!? 」
「とかいはなありすにあやまってねっ! 」

「だまれぇえぇっ゛!? ゆっくりできないゆっくりはしねっ! 」
「どぼじでぞんなごというのぉおぉぉっ゛!? 」

「これはばんしにあたいするよっ! かいぬしはゆっくりかくごしてねっ!! 」
「ゆぇえぇぇぇんっ゛!!!」

いきり立つまりさをケースに放り込む。
無様な声を上げて着地。そして、ありすを怒鳴り散らし拒絶する。
近づいて来たら、容赦はしないと。

ありすは解らなかった。
自分は美しくコーディネートされたのでは無かったのか?
都会派なドレッサールームも手に入れた、最高の美ゆっくり。
自信が揺らぐ。やはり醜いのか?

そこに飼い主の声が届く。
なぜそんな事を思うのかと。自信を持てと。そして…、
都会派なありすが、まりさにコーディネートしてやればいいと。

「かえしてねっ!? まりさのすてきなおぼうしかえしてねっ! 」

まりさが目の前で帽子を目掛けて跳ねていた。
涙目で必死に跳躍する。そんな高さでは一生かかっても取り返せない。
大切な帽子に釘付けだ。ありすの事など眼中に存在しなくなる。

飼い主は片方の手から数種類の道具を転がす。
ありすには解った。それはコーディネートする為の機材だと。
その中の1つを加えてまりさに突進する。

「かえさないとひどいよっ!まりさはつよ……ゆべえぇっ゛!? 」

左目に激痛が走る。
それと同時に視界が無くなった。
痛いというか熱い。体は硬直した様に動かない。

「ゆがぁあっ゛!? なじじでるのぉおぉぉぉっ゛!? 」
「うごかないでねっ! まりさっ! 」

ありすは串でまりさの左目を刺した。
グリグリと抉って取り出そうと試みる。

「やべろぉおぉぉぉぉっ゛!? ゆっぐりできないぃいぃぃぃっ゛!!!」

ありすはコーディネートは体で覚えていた。
後は実行に移すだけ。これは中々の重労働だ。
ゆっくりとりだすよっ!
その叫びと同時に、目玉が抉り出された。

「まりざのおべべがぁあぁぁぁぁぁっ゛!? 」

ありすは誇らしげに微笑む。
次なる獲物を口に加えてまりさに擦り寄った。
まりさは恐怖で後ずさる。嗚咽と下から砂糖水を漏らしながら。


まりさの金髪が乱雑に刈られた。
悲しみで胸が張りさけそうだった。おさげも容赦なく切られる。
そして、体が汚れてる。とありすは言う。
まりさが動かないように、飼い主が上から抑えつけた。

さぁ ありす。と言う。
わかったわ。と答える。

口にはゆっくり出来なさそうなザラザラした物。
器用にヤスリ部分を避けて銜え、まりさに迫る。
イヤイヤと首を振る。涙を流し懇願した。
それでもありすは止まらない。
頬の部分に触れた。悲鳴が上がる。
そして、悲鳴は絶叫に変わった。

「ゆ…。ゆじっ!? あぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ゛!!! 」



拷問に等しい時間が終わった。
永遠に続くかと思われた激痛。
やっと開放された安心感と体中の痛みに耐えている時、
眼前に酷い格好のまりさが居た。
その隣には醜いありす。
己の姿を鮮明に見て、あまりの醜態に嗚咽が止まらなくなる。

ありすはコーディネイトを終えた充実感で一杯だった。
そこに飼い主の言葉がかかる。
仕上げがまだ残っていると。
うっかりしていた。まだ最後の大切な事が終わっていない!
ありすは飼い主に感謝する。

「ゆっ? 」

まりさの遠くに帽子が置かれた。
大切なお帽子は無傷だったようだ。心底安心する。
こんな目に遭わせたありすを制裁してから、飼い主もお仕置きするよっ!
痛むあんよを動かして、ズリズリと牛歩で進むまりさ。
そして目にする。ありすが帽子に接近する姿を。

「ゆっくりおぼうしから はなれてねっ! 」

まりさは焦る。
だが、足が思うように動かない。
そして帽子の真ん中から、刃物が突き出た。

「う゛わあぁあぁぁぁぁぁぁっ゛!!? 」

懸命にありすは動いて、無残に帽子を切り刻む。
切れ端になって落ちていく帽子の一部。
自分の身を切られている感触をまりさは受けた。
素敵なお帽子が! お飾りのリボンがっ!
全てありすにコーディネートされて、原型を留めなくなっていく。

「ゆっくりおわったわっ! 」

ありすは宣言する。

片目。
虎刈りの髪。
傷跡が浮き出た肌。
刻まれたお飾り。

飼い主は拍手でアーティストを賛美した。
ありすは照れる。「べつによろこんでいないんだからねっ! 」と。

「とってもすてきよっ! まりさっ! 」
「…………………。」

どこが素敵なのだろう?
こんな醜い姿。とてもゆっくりできない。
でも、ありすは幸せそうに微笑んでいる。
飼い主は大絶賛だ。頭は大丈夫なのだろうか?

「とってもとかいはだわっ! 」

そう言いながら擦り寄ってくる。
体の痛みは多少和らいだ。反撃を試みれば出来る体調。
だけど気力が湧いてこない。
ただただ、無言で鏡を見つめ続ける。


まりさは全てを諦めた。

足が思うように動かなくなり、先日にはピクリともしなくなった。
トイレも食事も一人では出来ない。
だけど、甲斐甲斐しくありすが世話をしてくれる。不自由は感じられない。
献身的な介護をしてくれるありすが、美しく見えた。

諦めた境地で目の前を見据えた時、救いの何かが心の隙間に入りだす。
まりさも狭い箱庭の住人となった。
飼い主は優しく歓迎する。

その日の夜。ゆっくりは子供を身ごもる。





まりさの腹が大きく膨らんでいる。
ありすの提案で胎生にんっしんっにしたのだ。
より丈夫な美ゆっくりの子孫を残す為に。
動けないまりさが、母体を希望した。
あれから数週間が経つ。そろそろ生まれてくるだろう。
せっせとありすは、タオルを用意して準備万端に備える。
そしてその時が訪れる。

「かわいいあがぢゃんがうばれるよぉおぉぉっ゛! 」
「がんばって! まりさぁっ! 」

メリメリと腹が開いて赤ゆっくりの顔が出る。
なんでこんなにふてぶてしい顔で生まれてくるんだろう?
飼い主は潰したい感情を押し殺しながら、見つめていた。

空に打ち上がりこの世に生を受ける。
続いて2体目も打ち上がる。
宿した赤ゆっくりはこれで終り。
そして、図ったかのようなタイミングで挨拶をする。

『『ゆっきゅりしちぇいって…ね…? 』』

最高の挨拶をしてお母さん達をゆっくりさせる。
それが赤ゆの最初の使命!
このミッションを成功した子供が、親に目を掛けられる。
もう既に生存競争は始まっている。
将来をゆっくり過ごす為の第一歩だ。

その第一歩が、尻蕾みになって掻き消えた。
目の前にはお父さんとお母さん。のハズだ。
確かにそこには二人居た。
でも。あれは本当に親なのだろうか?

『『ゆっくりしていってねっ!!! 』』

親かも知れない物の声が、重なって耳に響く。
ゆーゆー言いながら、息荒くしている帽子(?)を被った物は動かずに、
もう一方の、キズだらけな飾りを付けた物が接近してくる。

「とってもとかいはなあかちゃんだわっ! 」

スリスリをしてくる。
でもフワフワを感じない。ゴリゴリと線で擦られている感じ。
正直。気持ち悪い。

赤ゆは離れる。
眼前の物は何で? の顔をしていた。
目を逸らした際、あるものが視界に入る。
自分と同じ、ゆっくりした姿をした同類。
隣を見ると妹も目を輝かしてそれを見つめていた。

そこに駆け寄る。
お友達になる為に。
ピョンピョン跳ねて急いで近寄った。
向こうも自分に気付いたのだろうか? 同じく駆け寄る姿が見えた。
それに答えるように、スピードを上げる。

そして、熱い抱擁する為に滑空する。
なんて情熱的なのだろうか! 将来お嫁さん候補にきまりだねっ!
幸せな未来と感触を求めて互いに合わさる。
…と同時に、硬い何かに当り跳ね飛ばされた。
コロコロと転がっていく。
赤ゆは怒り心頭だ。

「ちょかいはなありちゅに にゃんてこちょちゅるのっ!? 」

美肌に傷が付いたらどうしてくれようか?
謝るだけじゃすまないんだよっ! ゆっくり反省してあまあま持って来てねっ!
プンプンと怒りながら近づいていく。
向こうも怒っているようだ。でも自分の方がもっと怒っているのだ。
負ける訳にはいかない。

その後、何度か言葉を返したのだが相手の声が聞こえてこない。
姿は見えるのに。おかしいな? そう考えた時。向こうも疑問の顔をする。
…何かがおかしい。それも根本的な何かが。
ふと辺りを見ると、

「まりちゃはきゃたいねっ! ゆっきゅりできにゃいよっ! ぷゅんぷゅん! 」

横から見ると解った。
妹は平面に顔を押し付けている。
近寄って目の前のありすに触ると…。硬い。
自分と同じ動きをしている。
そこで赤ゆは理解した。もう1体は全く気付いていないが。

鏡越しに迫って来る物体が見える。
とってもゆっくり出来ない恐ろしい物。
隣の妹も驚愕の顔で硬直した。

「ゆ〜ん! おちびちゃんたち ゆっくりまってねっ! 」

ズリズリ擦り寄ってくる。
近くて改めて見ると。怖い。
目の前に写る自分とは、遥かに掛け離れている。
妹はチビっていた。無理も無い。
自分も限界ギリギリだ。

「お…おきゃぁちゃんはどきょっ!? 」
「ゆっ?おかあさんはあそこにいるよっ! ゆっくりいっしょにいこうねっ! 」

視線の先には帽子を被った物。
妹と姿は似ているが、これも全てが違っている。
そこで赤ゆは間違った答えに行き着く。
それを口にしなければ、未来は変わっていたかも知れない。
でも、不幸の連鎖は止まらない。

「ゆっきゅり おきゃぁちゃんにあわちぇてねっ! 」
「ゆっ? おかあさんはあそこ…。」

「ちぎゃうよ! あんにゃのおきゃぁちゃんじゃにゃいっ! 」
「ゆっ!? 」

「おちょうちゃんにも あわちぇてねっ! 」
「ゆゆっ? おとうさんはありす…。」

「ちぎゃうよ! おちょうちゃんじゃにゃいっ! 」
「ゆぅうぅぅぅっ!?」

「しょんにゃみにきゅいしゅがたのおみゃえが おとうちゃんにょわけぎゃにゃいっ!
 ちょかいはにゃありちゅには ふしゃわしくにゃいよっ!」

『『……! ……!!? 』』

親達は驚愕の顔で同様に固まる。
間違いなど微塵も感じていない赤ゆの表情。
口をへの字にして、威勢良く踏ん反り返る。

「おにゃきゃすいちゃよっ!
 しりゃないおばしゃん! あみゃあみゃをちょうじゃいねっ! 」

そして要求。知らないおばさん。と言い放つ。

「おきゃあしゃんも はやきゅちゅれてきちぇねっ!
 あんにゃきちゃにゃいもにょが
 おきゃあしゃんのわけ にゃいでしょっ!
 ゆっきゅり りきゃいしちぇにぇっ!
 ばきゃにゃの!? ちにゅのっ!? 」

ゲラゲラと笑う。妹も笑う。
涙を滲ませ、嫌らしい口元で、笑い続ける。
親達はそれらを見つめてある言葉を口にした。





都会派なコーディネートを、ゆっくりするよ。





タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2011年07月29日 02:51
ツールボックス

下から選んでください:

新しいページを作成する
ヘルプ / FAQ もご覧ください。