ある日ある時ある場所で。
1組のゆっくりれいむとゆっくりまりさの夫婦の間に赤ちゃんが生まれた。
合計で10匹近い、皆元気な赤ちゃんだった。
1つ……2つおかしかったのは、赤ちゃんの中に1匹ずつゆっくりぱちゅりーとゆっくりありすがいたことだ。
遺伝子と確率の悪戯か、普通は生まれないはずの2匹が生まれてしまった。
だが、家族はその2匹を排斥するようなことはせず、両親は子供達に分け隔て無く愛情を注いだ。
一家や餌場を共にするゆっくり家族は、異端であるはずのぱちゅりーとありすさえ大事に育てた。
幸運にも成長過程で死亡する子供もなく、皆成体になれるかと思われた。
そんな日常の崩壊は、赤ちゃんの誕生から半年ほど経った頃に訪れた。
ちょうど、子供達が生殖可能になる直前。朝、子供達が巣穴で目を覚ますと、両親が何やら荷造りをしている。
「ゆー、ゆー? おかーさんたちなにしてるの?」
「ぴくにっく? それともおひっこし?」
ヒョッコヒョッコ跳ねながら寄ってくる子供達を、両親は鎮痛な面持ちで迎える。
子供達もその気配を感じ取り、不安げな表情に変わる。
「どうしたの? おなかいたいの? ぱちぇがいいやくそうをしってるよ」
「……ぱちぇ、ありす。こっちのつつみがながもちするきのみ。こっちがすぐたべるむしさんだよ」
親まりさは子ぱちゅりーの質問に答えず、蕗の葉で作った包みをぱちゅりーとありすに押しつけてくる。
状況が分からず、2匹は目を白黒させるしかない。他の子供達も、訳が分からないという顔をしている。
「ぱちゅりーとありすは、きょうでおわかれだよ」
ふぇ? ぱちゅりーとありすの行動が一致する。1頭身の身体を傾けて、首をかしげるポーズ。
「ぱちぇとありすのこどもがうまれるまえにおわかれだよ!」
――つまりはこうだ。何らかの異変により生まれた、
このゆっくりぱちゅりーとありすには何らかの遺伝子異常がある可能性がある。
今日までは親の愛が勝ったのか、排斥することなく育ててきた。が、ここで種としての本能が逆転したようだ。
異常があるかもしれない遺伝子を、近場に置くわけにはいかない。
本当なら生まれてすぐに殺さなければならなかった子供。
殺さずに一家から、近場から、つまりは餌場を中心とする、複数の家族で構成されるコロニーから追い出すにとどめる。
それはぱちゅりーとありすの両親の、最後の甘さだった。
「ごめんね、ごめんねぱちゅりーとありす」
「もっといっしょにゆっくりしたかったよ」
まだ状況を理解しきれていない2匹を、両親が巣穴から押し出しに掛かる。
「おかーさん? ねえ、りろせいぜんとせつめいしてよ。すまーとじゃないよ!」
「むきゅ……。あなたたちは、あんこがつながったじつのこをみすてるの?」
問いかけの返事はない。体格に優る親ゆっくりは、易々と巣穴からの排除に成功した。
排除、排斥。2匹の存在を拒否したにも関わらず、餞別は丁寧に渡された。
食料が入った包みが2匹の頭の上に乗せられる。まるで頭を撫でるかのように、優しく。
「ゆ。これで7かいおつきさまがのぼるまでゆっくりできるはずだよ」
「ごはんがなくなるまえにゆっくりプレイスをみつけてね!」
巣穴から出された2匹が目にしたのは、ボロボロと涙を流す、拒絶の顔。
2匹とも、自分が拒絶される理屈はわからないままだ。だが理解した。
もう、ここは自分の家じゃない。
2匹は家族に背を向けた。諦めた。2匹は巣穴から立ち去る。
背後から、「ごめんね」「ゆるして」と声が聞こえた気がしたが、2匹には最早関係のないことだった。
餌場を共にする他の家族達も、巣穴から顔を出していた。
「さよなら」
「ゆっくりいきてね」
「しなないでね」
どのゆっくりも気遣う声ばかりかける。だが、ぱちゅりーにはどれもこれも、仲間を見捨てる行為の正当化にしか感じなかった。
誰も本気で心配していない。自分は心を痛めているという振りをして、安心したいだけだ。
「めんざいふがほしいだけなのよ」
小難しいことを言い始めたぱちゅりーを、隣でビービー泣いていたありすが訝しむ。
「なにかいった? ぱちぇ」
傍らのありすの問いかけに答えず、ぱちゅりーは足下だけを見ながら歩いた。
――立ち木に頭をぶつけた。ぱちゅりーは最後に少しだけ泣いた。
3回お月様が昇って沈んだ。幸いにも、2匹はまだ生きていた。
だが、どの餌場にも受け入れてもらえることはなかった。
餌場のキャパシティが逼迫しているわけではない。
ただ、1度コロニーから追い出されたゆっくりを、いたずらに受け入れるわけにはいかなかった。
何があるのか分からないのだ。
お日様がオレンジ色になり始めた頃、2匹は湖の近くに穴を見つけた。
自然の洞穴ではない。
「ぼーくーごーね。しかもようせいがいたずらしたけーせきもある」
「ぼーくーごー? おしゃれじゃないわね」
2匹はまあ、風雨が凌げればそれでいいや、とその古い防空壕のなかに入っていく。
見て回った結果、その防空壕はトの字のような構造をしていた。
2匹が入ったのがトの字の尻の部分。そこから奥に進むと、途中から緩やかな下り坂になってる。
そのあたりから、妖精が植え付けたと思しきヒカリゴケが自生していた。昼間ほどではないが、生活に支障はない。
数十メートル進んだトの字の頭の部分から外に出られる。2匹が外を伺うと、
「うっうーうあうあ♪」
「しっしーしねしね♪」
捕食種であるところの体付きゆっくりれみりゃやゆっくりふらんが踊っていた。目の前数メートルのところで。
2匹は慌てて頭を引っ込める。あまりに驚いたので、ぱちゅりーが呼吸困難に陥る。
「ふー! ふー!」
「おおおおお、おちついてぱちぇ。そうよ、そすうをかぞえるのよ。ひっひっふー!」
ありすは混乱している。2匹とも少し音を立てすぎた。
「うあ? すこーし、うるさいよ?」
「うー、れみりゃもきこえたよー」
「さわがしいのはこんてぬーできなくしてやる」
踊っていたれみりゃ達が穴に近づいてくる。まだ防空壕の存在に気づいたわけではない。
しかし、見つかるのも時間の問題に違いない。
カランコロン。だが2匹は生き延びた。幸運の女神がついているとしか思えぬ僥倖。
防空壕から離れた、屋敷の勝手口で妖精メイドがハンドベルを鳴らしている。
「御夕飯ですよー! メニューは鯖の活け作りと生豚レバのサラダですよー!」
「うー!」
「おなかへったどー!」
「こんなことしてるばあいじゃねー!」
ワラワラとメイドに駆け寄るゆっくり達。屋敷で飼われているゆっくりのようだった。
メイドの前で綺麗に整列。
「お手、お座り、ちんちん! はい良くできました。次はスカートの裾を持ち上げてください、そう、そっと」
妖精メイドの顔が紅潮しだす。
ゆっくり達は別にパンツ丸出しだろうが、へそまで見えてようがお構いなしなのだが、
メイドがハンドベルを逆に持って、柄をメイド自身のスカートの中に潜り込ませてるのが気になった。
何に使ってるんだろう、一体? いい加減夕飯を持ってきてくれ。
というか顔が怖いです、おねーさん。頭からナイフ生えてるし。
有頂天で緋想天な表情のまま気絶している妖精メイドを腋もとい脇に寄せ、メイド長がゆっくり達に夕飯を与え始めた。
――ちなみに。
数時間後トイレに駆け込んだゆっくりれみりゃやゆっくりふらんの様子を壁越しに聴姦してたのはメイド長以下数名の有志だった。
お屋敷は今日も変わらぬ日常を満喫していた。
一方その頃、落ち着きを取り戻した2匹は、防空壕を戻り、トの字の鼻の部分にあたる脇道に入っていた。
どこからか、水の流れる音がする。さらに奥に進むと、周囲に石を積んだ縦穴から音がしているのが分かった。
どうやら、下を流れてる水脈、湖から流れ出しているそれに繋がる井戸を掘ったようだ。
しかも、積んだ石はほとんど崩れており、ゆっくりでも乗り越えることは容易だ。
だが、肝心の水をくみ出すことが出来ない。道具もなけりゃ、あっても使えない。ゆっくりの宿命。
「つかえないわね」
「ざんねん。むきゅー」
脇道に用はないので、2匹は屋敷側の出入り口を石で塞ぎ、もう寝ることにした。
2匹は久しぶりに熟睡できた。
熟睡できるようになったまでは良かった。だが、全ての問題が解決したわけではなかった。
食料問題。近くのめぼしい餌場には既に別のゆっくり家族が住み着いている。
そして、2匹はそこに受け入れてもらえなかった。
さて、どうするか。
「むきゅ。いいかんがえがあるわ。ついてきてありす」
本気で悩んでいたありすを旧防空壕、今巣穴から連れ出すぱちゅりー。
むきゅむきゅと森の中に入っていくぱちゅりーを、慌てて追いかけるありす。
まったく、こむにけーしょんがなってないわ。
巣穴からさほど離れず、ぱちゅりーは餌場にほど近い茂みの中に身を隠した。
ぱちゅりーが隠れた茂みは獣道に面した茂みで、その獣道はゆっくり達もよく利用していそうなものだった。
「なにやってんの。かくれんぼしてるばあいじゃないでしょ」
「ばかね。じまえでえさがとれないなら、たにんからもらうしかないじゃない」
強盗をしろと。山賊の真似をしろと。この紫饅頭はそう言ってるのか。
この都会派ALICE様に、空腹と尊厳を天秤に掛けろとぬかすか、この虚弱和菓子め。
「さすがぱちぇね、せにはらはかえられないとはよくいったものだわ」
そんな天秤は最初っから無かった。ゆっくりありす、割と性欲と食欲の権化な種。
2匹とも、新しい餌場を開拓するだとか、2匹分の食料を何とか都合しようだとか、
そういう努力をする考えはないようだ。
当然といえば当然である。
今までずっと、親の庇護の元に安定した食生活を送ってきた2匹。
餌場にあるのは、ゆっくりであっても苦労のしようがない捕食対象ばかり。
苦労した挙げ句、貧しい食糧事情はごめんだった。
2匹に違いがあるとしたら、どの程度まで他のゆっくりから奪うのか、という心構えだった。
待つこと数十分、そろそろありすは隠れ疲れてきた。隠れる場所が悪いんじゃないかと思い始めた頃、
自分に密着して隠れているぱちゅりーがモゾモゾと動き始める。
「なによ、ぱちぇ。おといれ?」
モゾモゾと動くぱちゅりー。というかむしろ、ありすにすり寄ってきている?
「ちょ……、やめてよ。きもちわる……くはないけど、なんかへんなかんじよ」
なんというナチュラルボーンテクニシャン。未だ性行経験のないぱちゅりーが、
ありすを絶妙なタッチで興奮へと誘う。
「だめよぱちぇ。だれもみてないじゃない!」
今明かされるありすの性癖。ついでに彼女のミニマムな理性がそろそろ限界だった。
「ぱ、ぱ、ぱちぇー! わたしあなたのことがさっきからずっとすきよー……?」
いざ、という所でぱちゅりーが身体を離す。何か聞こえたようだ。
――1匹のゆっくりれいむが2匹の近くを通りかかる。
身体の大きさは2匹とほぼ同等。頭には野イチゴを満載していた。
餌場から自分の巣穴に戻る途中なのだろう。
野イチゴがこぼれないように、そっと跳ねている。
「ゆっくりー、ゆっくりー、ゆっくりーしていってねー♪」
そのれいむが、2匹が隠れた茂みの前を通りかかる。近くに他のゆっくりの気配はない。
これを絶好と言わず何と言おう。ぱちゅりーが、れいむの前に立ちふさがる。
れいむは突然の出現に目を白黒させて立ち止まる。
「うゆゆゆゆ!? ぱちぇ、びっくりしたよ! ゆっくりでてきてね!」
「むきゅー……」
「? ゆっ、く、り、し、て、いっ、て、ね! ことばわかる!?」
反応を返してこないぱちゅりーを訝しむれいむ。彼女は気づかない。
ぱちゅりーは反応しないのではなく、タイミングを伺っていることに。
「むきゅ!!」
「むぐ!?」
れいむが何か言おうと口を開けた瞬間、ぱちゅりーがれいむの唇を奪う。
キッスと言うほどロマンチックな行為ではない。ただ口を塞ぐことを目的とした……いや、それですらない。
「~~~~~!! ぃぁぃ! はちぇ、ぃぁぃぉ!!」
ぱちゅりーがれいむの舌に齧り付き、そのまま引き出そうとする。
れいむは、痛いし声は出ないので、後先かまわず暴れ出したくなる。
すぐに暴れて、ぱちゅりーを振りほどいていれば彼女にもまだ光明が見えたかもしれない。
頭に乗せた野イチゴの心配をしてしまったのがれいむの運の尽きだった。
「れいむ! ごめんね!」
ありすがれいむの頭の上の野イチゴをたたき落とす。
獲物を頂いてさっさとトンズラ、というところでとあるモノがありすの視界に入る。
――健康そうな、れいむの尻。まるでありすを誘うかのように魅惑的に揺れている。
単に引っ張られる舌が痛くて震えているだけなのだが、ありすにはれいむが求めているようにしか見えなかった。
先ほど、ぱちゅりーにお預けを喰らった(と思っている)ありすが我慢できるはずがなかった。
ゆっくりありす、割と性欲と食欲の権化な種。
「れいむぅぅぅぅぅぅううう! かわいいよおおお!! わたしあなたのことをついさっきからずっとあいしてるー!」
「~~~~!?」
舌を引っ張られてるだけで結構ピンチなのに、なんか盛ったありすまで出てきた。
れいむの餡子ブレインは極度の混乱状態に陥った。
おかげで彼女の命運はここで尽きることになる。
一人で行動した結果がこれだよ!!!
動けないれいむを、後ろからあろすが犯す。全くその気がないれいむにとって、
性行は不快なだけでなく、痛みまで伴う行為だった。
まだ生殖に足るだけの成長をしていないゆっくりれいむが犯されると言うことは、
単に身体を抉られることとイコール。
しかも犯す側までもが未熟。対象に快楽を与える方法など知らず、単に自らの絶頂への近道を探るだけ。
パチュン、パチュンという、ありすから分泌される愛液が立てる音こそ艶めかしいものの、
行為自体は暴力的でしかない。
「――ぁっ! ぁぃぉ!」
「かわいいよかわいいよかわいいよれひむぅぅうっっ!!!」
れいむの後頭部が抉られ、こぼれた餡子が粘液と混じり合って地面にぬかるみを作る。
餡子の甘い匂いと、愛液のわずかにツンとした臭いが混じり合う。
ピストン運動を繰り返すありすの身体は粘液の作る糸でまみれ、納豆を頭からかぶったような有様だ。
れいむの舌を保持しつづけるぱちゅりーはしかめっつらをしてるが、
匂いも粘液も、今のありすには最高の媚薬にしかならない。
「ぁゎぁぁぁぁぁがあぁぁぁっぁああぁぁゎ!!!」
内臓に等しい餡子をほじくり返されるれいむは必死に激痛を訴える。
だが、ぱちゅりーが舌を引き抜かんばかりの力で保持し続けるので、全くままならない。
目は白目を剥き、涙は止まらず、閉じられない口からは涎が際限なく溢れる。
口一杯の涎がのどに逆流するが、咳き込むことさえ許されない。
「っごっ! っっっっ!!! ~~~~~っ!」
「らめええっん!! れいむすてきすぎるぅぅうう!! ぜんぶしぼりとられそうっ!!」
絶頂が近づいてきたありすのストロークが大きく強くなる。
悦楽の欠片もない掘削作業による激痛と、今や難しくなった呼吸の状況にれいむの意識がホワイトアウトを起こす。
「らすとっっ!! すぱーと!!」
だが、たたき付けられるありすの身体の感触がれいむの意識を強引に連れ戻す。
饅頭と饅頭がバチンバチンと炸裂音を上げてぶつかり合う。
「うけとめて! ありすのずべて!! ――ぁ~~~!!!」
ついにありすが果てる。若いゆっくりの初物をぶちまけられ、生殖には成長がわずかに足りていなかったれいむの身体が抵抗を諦めた。
れいむの命の灯が消える。生命の種は、次世代の誕生のために強引に親の命を吸い上げる。
急速に干からびていくれいむと、れいむの頭から伸びるミニトマトのような蔓。
「……ふぅ。あれ、なにこのさんじょう」
「ようやくしょうきにもどったわねめすぶた。さくせんがいようをせつめいするわ」
概要はこうなる。単独で行動している、餌を持ったゆっくりを2匹で襲う。
ぱちゅりーが舌を引っ張り、悲鳴を上げられないようにする。
その隙にありすが襲いかかり、性的に獲物を仕留める。
「なんでそんなほうほうをとらなきゃならないのよ。ふつーにたべものをもらうだけでいいじゃない」
「いかしてかえったら、わたしたちのじょうほうがもれるわ。おおにんずうでしかえしされたらたいへんよ、ばかいぬ」
少数が生き延びるには、獲物の生還は許せない。
また、死体を残すのも良くない。あくまで、不幸なゆっくりが1体行方不明になっただけにしなくては。
家族が殺されたゆっくりは下手人に復讐を誓うが、行方不明なら帰りを待ってるうちに諦めるか忘れる。
それがぱちゅりーの打算だった。
「だから、こんどはもっときれいにころしなさい、このぽーくぴっつ」
知るか。都会派のALICEは自分の欲求に素直なのがマイブームなのよ。
――一生言ってなさい。それよりその死体をお家まで運んでね。
えー、面倒くさい。汚い。なんでALICEがこんなことを。
あなたの赤ちゃんが生まれるのよ?
赤ちゃん!? かわいい赤ちゃん! 3週間後が楽しみ!
……3週間後にどうするつもりよ、エロ猿。
巣穴まで曳航されたれいむの死体をワクワクしながら眺めるありす。
蔓は伸びきり、数匹の子ゆっくりれいむが成っている。
もうすぐ。もうすぐ生まれる♪
しかし、期待に反して生まれ落ちたれいむは1匹きりだった。
母体が若すぎたのだ。残りは生まれ落ちる前に死んだ。
思わず涙するありすだが、生まれたばかりのれいむは、目の前の干物が自分の母親とは分からない様子だ。
近くにいるありすとぱちゅりーを親と認めた。
「ゅー! ゅっくりちていこうね!」
「グスン。……ゆっくりしようね! ありすはちっちゃいこがだいすきだよ!」
「うまれたのが1ぴきでたすかったわ。ごはんがたらない」
その夜、お腹いっぱい食べた3匹は、一塊になって眠りについた。
‐丑の刻‐
ありすがふいに目を覚ました。
「ゆ……。おといれ」
よっこいしょ、と身体を起こした目の前にあったのは、ヒカリゴケの光に浮かび上がる親れいむの死体。
死体のことはすっかり忘れていたありすは、思わず内容物のクリームが口から出そうなくらい吃驚した。
そして、その死体が途端に恐ろしくなった。
いつまでこのオブジェを放置するのかしら。
その辺の決定はぱちゅりーがするものと思いこんでるありすは、仕方ないわね、と死体を引きずり始める。
今度だけ、お姉ちゃんが一肌脱いであげましょう。
同時に生まれたはずの姉妹に変な恩を売りつつ、巣穴の奥にある井戸まで死体を持って行く。
暗い水底に放り込まれた死体は、そのまま水脈の流れに乗ってどこかへ行った。
「くっさいものにはふた~♪ ありすちゃんてんさい~♪」
ありすは得意げな面持ちで再度眠りにつく。なお、翌朝寝床に世界地図を描いて大顰蹙を喰らった。
その後、ぱちゅりーとありすはそれなりに手際よく狩りを行った。
単独で行動する若いゆっくりを襲い、食料を強奪する。
出来上がった死体は井戸に捨てる。子供も生まれる前に捨てることにした。
だが、最大限効率的に狩りを行っても、食料事情は常に苦しかった。
元々若いゆっくりが1回の探索で採ってくる餌などたかが知れている。
それだけでも苦しいのに、獲物が毎日現れるわけでもない。
3匹は常に空腹を抱えていた。
「ゅー。おかえりなさい。きょうのごはんは?」
「ありさんがひとくちぶんだよ……。おなかすいたね」
消沈するありすと子れいむに、ぱちゅりーが声を掛ける。
「ありす、あなたはなんでいつもしたいをすてるの?」
「ぱちぇ? とうぜんでしょ。したいなんていつまでもほうちしたらきみわるいわ」
「このひものってしたい? なんのしたい?」
「……たべられるじゃない、これ」
言うが早いか、ぱちゅりーがあわれなゆっくりの死体に齧り付く。
弾力を失った皮は容易く破れ、甘い内容物が露出する。
「ゅ! おいしそうだよ!」
子ゆっくりもすぐさまガブリつく。それが同族の死体だとは思いもよらないようだ。
ただ1匹、ありすだけが尻込みしている。
目を見開き、家族の凶行を信じられないという顔で凝視する。
「ぱちぇ、れいむ! やめて! やめようよ!」
同族喰いはさすがに気が引けるのか、ありすは必死で制止する。
死体を貪る2匹のまわりで跳ねながら、叫び続ける。
――2匹が咀嚼を止め、ありすに向き直る。ようやく聞いてくれたと安堵するありすだが。
「なんでありすはたべないの? おいしいわよ」
「おかーさん、なんで?」
「なんでかしら?」「なんでなの?」「なんでなんでなんで?」
「「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで」」
「……もしかして、おかーさんもおいしいの?」
顔を同族の臓物で汚した2匹の眼孔は、ひどく暗く、ひどく深く見えた。
口の中では内容物がクチャクチャ音を立てて唾液と混ざり合う。
――ゴクン。
2匹が音を立てて同時に餡子を飲み込む。
「どうなの、おかーさん」
「きっとおいしいのよ、きっと」
ありすににじり寄る2匹。喰われる。咄嗟に悟ったありすは喰いかけの死体に殺到した。
「はぐ! まぐまぐ! むーしゃむーしゃ、おおお、おい゛しい゛よ゛!! し、し゛あわ゛せ゛ー!!」
涙が止まらない。意識に反して涎がこぼれる。
自分が何度となく犯し殺したゆっくりのような表情をしながら、ありすは必死に死体を喰った。
出来れば食べたものは全部吐きたかった。内容物の甘い匂いが嗅覚を刺激する度に無いはずの胃がひっくり返りそうになった。
それでも食事を止めることは出来なかった。
背中には2つの視線。ありすが敵か味方なのかを、いや、餌と道具のどちらなのかを見極める2つの視線が離れなかった。
食事と言う名の命乞いを続けながら、ありすは考えるのを止めた。
それからのありすの日常は、腰を振り、食べ、寝ること以外の意味を失った。
確かに食糧事情は一変した。
家族は20匹近くまで増え、それでも備蓄には余裕があり、今すぐ冬になっても餓死者の1匹も発生しないだろう。
そんな中でありすは、自分が喰われないためにただ腰を振り続けた。
他の家族に自分の価値を見失わせてはいけない。
一瞬でも「ありすのかわりがいるかもしれない」などと思わせてはいけない。
なぜなら。狩りの回数が100を数えた今になっても。
ゆっくりありすが獲物となったことはないのだから。
集団で少数のゆっくりの群れを襲うのが狩りの基本になっていたが、そんな状態でもゆっくりありすが狩りの対象にはならなかった。
性的に捕食者の立場にあるゆっくりありすを襲うということは、家族に性的な意味で犠牲が出る可能性を示唆する。
数が減るのが問題なのではない。余所者の遺伝子が優位に立つゆっくりが家族に混じることが問題だった。
それは鉄の団結を崩す原因となる。
全てぱちゅりーの提言だった。理屈の正当性は問題ではない、ぱちゅりーが言ったということが重大だった。
家族は皆、ありすと犠牲者の子供なのにも関わらず、それらの親は紛れもなくぱちゅりーだった。
ありすは家族にとって道具か武器の類でしかなく、自分の子供に味方はなかった。
既に他のゆっくりを喰うと言う行為に抵抗を感じない家族にとって、
未だ味わったことのないありすの味は、興味以上の何かの対象だった。
それはある意味、愛情と呼べるものだったのかもしれない。
巣穴となった防空壕は素晴らしい隠蔽性を発揮したが、20匹のゆっくりが暮らす巣穴が誰の目にも留まらないということはなかった。
あるとき、散歩中のゆっくりれみりゃがたまたま巣穴を発見した。
「うー♪ うー♪ たましーのゆフラーン♪ ……う? これなんだろ?」
お気に入りの日傘を不器用に閉じて、れみりゃが巣穴の中に入ってくる。
「なんかひかってるけどー。よくみえないーっひぎゃあああああああああ!!!!!」
突然組み伏せられるれみりゃ。四肢が瞬く間に動かせなくなり、口には石が詰め込まれ、悲鳴も出ない。
ガリ。指先がかじり取られる感触に、れみりゃは反射的に限界以上の力で腕を振り回す。
腕に食いついていた何者かが放り出され、指に齧り付いていたソレは壁にたたき付けられて動かなくなる。
潰れた瞬間に、「ゆ゛ぶ!」と声を上げ、壁にへばりついたまま「ゆぐっゆぐっ! た゛すけでみん゛なあぁぁあ」
と呻いている所を見ると、どうやられみりゃが普段捕食対象にしているゆっくりのようだ。
そうと知ったれみりゃは少し落ち着きを取り戻す。力ずくで排除してしまえばいい。
だが、落ち着いた頃にはまたもや四肢の動きは封じられており、しかも自分の下半身に取り付いてくる者までいる。
(うー! きもちわるいのー! ――ゆゅ! なにするき!?)
れみりゃの下半身に取り付いたのはありすだった。れみりゃの飼い主である紅い悪魔が直々に選び抜いたクマさんパンツを食い破り、
己の身体を打ち付けてくる。
「ふっ、ふっ、ああもうでるよ、れみりゃ」
犯されている、とれみりゃが気づく前に行為は終了した。
宿主が自覚せぬまま、体内の子種は栄養を求めてのたうち回る。れみりゃの干物、できあがり。
一方的に有利であるれみりゃであっても、1匹であれば既にそれらの敵にはなり得なかった。
その家族が失敗したことを挙げるのなら、巣穴を一切移動しなかったことだ。
頂点であるぱちゅりーが、巣の移動を極端に嫌ったためである。
昔、巣を追い出され苦労したためであろう。
そのため、巣の周辺でのみ行方不明のゆっくりが多発し、不審に思ったある賢い1匹のゆっくりによって巣穴は発見された。
その賢いゆっくり――仮にゆっくりけーねとする――によって見つけられた巣は、けーねが属するコロニーのゆっくり達、
実に100匹以上により囲まれた。
慌てた家族は、我先にと巣穴から脱出した。巣穴の屋敷側の出入り口から飛び出したゆっくり達は、
不運にもれみりゃなどに捕まった数体を除いて脱出に成功した。
けーねに率いられたゆっくり達が巣の奥に来た頃には、残っているのはありすだけだった。
ありすは虚ろな目をけーねに向けるのみ。逃げようとはしない。
「おまえがゆっくりできなくしたげんいんか?」
何を、とは言わなかった。言わなくても分かると思ったからだ。
ありすの周りの壁には、保存用にぶら下げられたゆっくりの死体が密集していた。
そうだよー、ありすがやったよー。
否定の言葉はなかった。
コロニーに連行されたありすは、ゆっくり達の仕返しを受けることになった。
まず、髪の毛を1本ずつ抜かれる。その髪の毛をゆっくりちるのが凍らせ、針のようになったモノを眼球に差し込んでいく。
眼球が一杯になった後は、舌に刺されていった。
髪の毛が無くなると、ありすを太い木の枝で貫き、磔にする。
その後は魔女狩りの処刑のように火あぶりにする。ただし、火力は最小限で。
数日にわたり火あぶりは続き、ゆっくり達はその周りで宴会を続ける。
やがてありすが息絶えそうになると、磔から降ろし、けがの手当を行う。
遅すぎる手当を。しみる薬草を爛れた皮に塗りたくり、腐乱した眼球を摘出する。
舌に刺さった髪の毛を一気に引っこ抜き、ありすの遺言に皆聞き入る。
「ありしゅを……たすけてくれてありがと」
そう言ってありすは絶命した。ゆっくり達は、火から外してやり手当をしたことに対する礼だと思ったが、
けーねだけは数日前の出来事を思い出していた。
巣穴でありすを捕まえた時のことだ。
「そうだよー、ありすがやったよー。たすけにきてくれたのー?」
けーねは訝しんでいた。助ける? 誰が誰を?
オワレ
元ネタは「ソニー・ビーン」。
でも単なるキモいお話になったよ!!!
最終更新:2008年09月14日 06:15