「ユ゙ッユ゙ッユ゙ッ!」
「…………」
「ユ゙ッユヅッ!?」
「…………」
「ユ゙ッ!?ユ゙ア゙ア゙アゲ!?」
俺の目の前には、うめき声をあげる奇怪な針の山があった。
この針の山の正体はゆっくりありす。目以外の場所には裁縫針が隙間無く埋まっていて一種の剣山になっている。
針刺し――使い古された虐待法だが、一刺し毎に苦痛の叫びを挙げるゆっくりを見るのは飽きる物ではない。
寝食を忘れてのめり込める遊戯……ゆっくり虐待はどんな物でも時間を忘れられるが。
次に刺す場所は何処が良いかな?と考えながら手の中の針を弄くっていると。
「ふあー……おはよー」
気だるげな友人の声が聞こえた。
「おー、おはようさん」
そして気づいて見ればもう朝の八時。
どうやら10時間以上も休み無く、針を刺したり抜いたりしていたようだ。
ここで小休止とするのも良いかもしれない。
ソファから起き上が――ろうとして転げ落ちた友人を尻目に、冷蔵庫からオレンジジュースを取り出した。
トクトクトクトクと音立てながらありすに注いで数秒。
棺桶に全身を突っ込んだようなありすの目が、死んだ魚のような目に回復した。
さすがオレンジジュース。ゆっくりの応急処置としてはピカイチの飲料だ。
「よお、ありす。元気になったか?」
「……はやぐありずをごろじでぐだざい」
うん、元気になったようだ。これなら反応も楽しめるだろう。
針刺しの続きを始めよう。
「そういやまだ口の中が残ってたな。よし、ありす。口の中をチクチクしてやるぞ」
「ごろじでよぉぉぉぉ゛゛゛゛」
「飽きたら殺してやる、って何回も言ってるだろ?」
絶望の表情で口をわななかせるありす。
ぷるぷる震えるのどちんこにまずは一刺し、とやろうとした所で。
「何やってんのさ?出掛ける時間だよ?」
顔を洗ってきたのか、タオルで顔を拭っていた友人が声を掛けてきた。
出掛ける?今日にそんな予定あったっけ?
そう考える俺に、呆れた表情でため息をつく友人。
「ああもう…昨日言った事忘れたの?」
「ああ!悪い悪い忘れてたごめん!すまんありす!もっと楽しみたいけどここでお別れだ!」
自画自賛してしまう程に見事なフォームで、ゆっくりコンポストにありすを放り投げる。
「ユワァイ!ゴハンサンガヤッテキタヨ!」「ハリサンハマズイケドガマンシテタベヨウネ!」
などと聞こえてくる、時間が迫っているので手早く準備しないと……
「まだぁ?」
「待って!後2分!」
……………………
がたんごとん、と電車で揺られながら目的地に到着した俺達。
寂れてはいないが活気づいてもいない、全国何処にでもあるような地方都市の一つ。
駅を出て道をつらつら歩きながら一つの事に気付いた。
「ふむん、野良ゆっくりが居ないな」
野良ゆっくりが居そうな路地の隙間を見ても何も居ない。
野良ゆっくりの根絶を政策にでも進めてる街なのか?
「何かおかしいの?すっきりして良いじゃない?」
「……ま、それは置いといて。何処に行くんだ?俺何も聞いてないんだけど」
「第一被害者の所だよ」
「いやそういう事じゃなくてな……何の理由でこの街に来たんだ?と聞きたいんだが……」
「それは後で話すよ」
ポケットから取り出した手帳をパラパラ広げる友人
その様だけを見ると、とても探偵らしく見える。
俺と同じ毎日が日曜日な奴とは思えない。
「何か言った?」
「別に何もォ?」
……………………
「……気付…時に………既に……」
「…誰か…恨……無いと……」
閑静な住宅。
ガラス一枚に遮られて微かに聞こえてくるだけのBGMを背に、ゆっくり小屋がある庭を調べていた。
俺もソファに座っていたかったが、庭を調べていろと所長命令があってはしょうがない。
しかし、素人の調べ方では何も分からない。
辛うじて分かるのは、小屋の中で何か大量の餡子が飛び散ったぐらい。とにかく暇だ。
「どうもありがとうございました。」
空の雲を数えていると、友人がこの家のドアから出て来た。
声を掛けようとしたら渋い顔が目に入る。
「どうした?」
「いや、何でもないよ……ちょっと公園で話そう」
どうせ、家の中で飼っていたゆっくりの話に不満が溜まったのだろう。
過剰な可愛がりはしてない家主だとは思うが……相変わらずゆっくり嫌いが徹底している奴だ。
そんなに幸せなゆっくりが憎いのか。
ある意味可愛いと言えるし、絶望に突き落としてやった時の反応は格別な面白さだと思うが……いかん私情が入った。
……………………
公園にも野良ゆっくりは居なかった。
どんなに少なくても確実に1,2匹は居るはずだが……
「この街に来た理由を知りたいんだよね?一昨日のニュース憶えてる?」
「何だっけ?」
テレビは見ない方なので良く分からん。と答えようとしたら、友人が溜息を一つして新聞を放り投げてきた。
どうやら来る途中で買った物のようだ。
「マジックで線を塗った所見てみて」
「どれどれ」
飼いゆっくりが野良ゆっくりに食い殺される事件が多発、食い殺してるゆっくりは見付かっていない。
小学生が野良ゆっくりに噛まれて数針縫う怪我、噛み付いた野良ゆっくりは逃亡。
野良ゆっくりの行進。大勢で押し寄せられ、道を歩いていたお年寄りが転倒して怪我。
掻い摘んで言えば以上の事が新聞に書いてあった。
「この事件で誰かが依頼を?……っても、事務所は年中休業だったはずだよな?」
「僕の個人的な好奇心からだよ」
唐突な行動をする奴だ。
事務所に一人残って針刺し続けてりゃ良かったなぁ。
「あっ、そう……で、あの家の人の話を聞いて何か分かったか?」
「特に何も」
「おいコラ」
「まだまだ聞き回るんだから、そう簡単には答えは出せないよ」
警察か保健所にでも任せようと言う意見は所長命令で封殺され。
俺と友人は街の中を駆けずり回ったのだった。
……………………
ここはホテルの一室。
足が痛い。寝ていたベッドから起き上がりながらそう思った。
ゆっくりを追い掛け回す時なら苦にもならない事だが。
無駄足としか思えない聞き込みを続けていると精神的にも肉体的にも非常に疲れた。
「なるほど」
一足先に起きた友人は、手帳をペラペラ捲っては一人でうんうん頷いている。
「何か分かったんか?」
「うん、件の野良ゆっくりは並みのゆっくりじゃないって事だね」
はぁ?
「それぐらい新聞見れば分かるだろ?これだけ色々やってて未だに捕まってないんだから、普通のゆっくりじゃないって事ぐらいアホでも分かるわ」
「そうだね、件の怪我させられた少年の話も聞いたけど、身体能力がゆっくりにしては異常なんだ…………知能はかなりお粗末だけどね」
「そりゃあなぁ。これだけ無法を働いたら、本気で駆除される事になるぐらいは少し考えりゃ分かるからな」
五月蝿いだけのゴミ虫だと思ってた蚊。
その耳元を飛び回る蚊がマラリアを媒介してると知ったら?
他の蚊もマラリアを媒介しているかもしれないと思ったら?
件の野良ゆっくりもそれと同じ。
……道理で街を歩いていても、野良ゆっくりが見付からない訳だ。
「まさか本当に全部駆除されていたとはな」
「件の野良ゆっくり一匹だけの行動ならまだしも、それを模倣したその他大勢の野良ゆっくりがやってしまったらね……綺麗な街になったから結果オーライかな」
動く饅頭だと思ってたら、実は鋭い牙を隠してましたー、子供や飼いゆっくりやお年寄りが襲われましたー、と。そりゃ人間も本気出す。
「それで発端の野良ゆっくりはどうなったんだ?とっくの昔に駆除されてんじゃねーのか?ゆっくりの見分けなんて普通つかんし」
「いや、それは無いよ。少年の話だとかなり特徴的な形しているようだから、一目見ればすぐに別ゆっくりだって気付くってさ」
「つまり、今現在この街のどっかに隠れてると?」
「そうだね。駆除が激化し始めてから、件の野良ゆっくりの被害が消えたように無くなったんだ」
それでもうこの事件は終わったようなもんだ。
後はその隠れてる野良ゆっくりが寿命で死ねば、全てが終わるだろう。
「じゃあ、とっとと事務所に帰ろうぜ。この街に野良ゆっくり居ないし俺もう疲れたよ」
「へ?何言ってんの?発端の野良ゆっくり捕まえてないじゃん?」
「えー、隠れてるんだから見付かるわけないじゃんか」
「所長命令です。市や被害者の家族から賞金も出てるんだし、働いてる気分も味わえて良い事尽くめじゃないか」
「最後のそれを、お前に言われるとそこはかとなくムカつくな……」
……………………
金と暇だけは大量にある男二人の探し物。
結論から言うと、件の野良ゆっくりは見付かった。
「あれがそうかね?」
「そうみたいだね」
最後に被害にあった家の周辺を二人で捜し回ったその矢先。
誰も使ってないと思われる廃屋の排水溝に、そのゆっくりは居た。
元は何のゆっくりなのか?
その頭に元々生えていた毛は全部刈り取られ、代わりに人形の毛だろうか?それが疎らに植付けられている。
目がいっぱいある――何かの比喩では無い。本当にいっぱいあるのだ。前面に数えられるだけで8個以上。しかもその幾つかが焼印で潰されている。
帽子は……まりさ?ぱちゅりー?みょん?ちぇん?全部混ぜた後に子供が適当に造形したかのような形状。
赤青緑と多種多様な色のペンキをぶちまけたかのような肌の色。
塵も残さないような徹底的な破壊と雀の涙程度の再生。
これを作った人間は相当な好き者である事が分かった。
「ひゃー、これは凄いな」
俯いた顔を挙げてこちらを見る魔改造ゆっくり。
どうやら声に気付かれたらしい。まあ隠す気は一切無かったが。
「どうやらこっちに気付いたようだよ」
「アレに逃げる気は無いと思うがね。逃げたとしても――」
何処の世界にアレの居場所があると言うのだ?
「やぁ!お前が街で話題のゆっくりか?」
「………………」
話し掛けても何も言わない。
何を思っている?何を考えている?全く分からない。
「もしもーし?聞こえてますかぁ?」
「……何しにきたの?」
やっと答えたと思ったら、その声も酷い物だった。
ガラガラにしわがれたその声、肺を冒された老人でもこれと比べれば元気がある声を出せると言える。
喉が薬で焼かれたんだろうか?と考えていると友人がその魔改造ゆっくりに声を掛けた。
「餡子脳が腐ってるの君?じゃあ逆に聞くけど、何でゴミみたいにこんな所に隠れてるのさ?」
「私達を捕まえにきたんだね?」
「それぐらい分かれよド低能。って私達って何?君一匹しか居ないのに数も数えられないの?本当に餡子脳腐ってるんだね?」
「………………」
「こいつは放っとくとして、お前は何てゆっくりだ?」
「……分からないよ」
「いや分からないって事は無いでしょ?何?自分探し?ポエマー気取りな「お前が喋ると話しが途切れるから邪魔すんな!」
不満そうな友人を脇に押し退ける。
でも、分からないとは何ぞや?どういう事だ?
「何で分からないんだ?」
「……私達をお兄さんがまぜたから」
「あー、なるほど。そう言う事か……」
れいむ、まりさ、ぱちゅりー、ありす、ちぇん、など等。
中身を掻き出し混ぜ合わせ圧縮して皮に詰め込む。
ゆん格が混じり合って、殆どが発狂し果てるが、ごく稀に新たなゆっくりとして完成する時がある。
昔――今もだが何回もやっているから俺にはよく分かる。
それにしても作った芸術品を道端に捨てるのはよくない事だと思う。責任もって秘密裏に処分すべきだな。
「で、お前は何で飼いゆっくりを殺したんだ?」
「…………私達より幸せそうだったから」
「ああ、逆恨みか。小学生のガキに怪我させたのは?」
「……公園に住んでたれいむを虐めてたから」
「守ってやったのね。ゆっくり大行進は?」
「それを見てた公園のれいむ達が……」
「人間にも勝てると、勘違いしたお気楽な餡子脳が暴走したんか。何でここに居るんだ?」
「……虚しい……もう疲れたよ」
聞きたい事は全て聞いてスッキリした。
後にやる事は―――
「散々やらかしたツケは払うべきだが……こいつを鞄に詰め込むぞ」
「えぇ!?何で!?」
……………………
鞄に詰め込む時にに一瞬だけ体が硬直したが
その魔改造ゆっくりは最後まで大人しかった。そう――「最後」まで。
……………………
「ユ゙ッユ゙ッユ゙ッユ゙ッ」
「コンポストの中で生きていて嬉しいぞありす、お礼に俺が飽きるまで針刺しをやってやるよ」
嘘も付いていないのにハリセンボンを飲まされたありす。
次は、体中の針を抜き取った後に塩水と小麦粉を塗りこんでもう一回針刺しだ。
と意気込んでいると。
「何で引き渡さなかったのさ?」
テレビを見ていた友人が声を掛けてきた。
あの事の話か、こいつも聞きたがりだね。
「俺が困るからだ」
「答えになってないよ。ねぇ何で引き渡さなかったのさ?君はゆっくりに甘い人じゃないでしょ?」
「馬鹿言え、俺みたいにゆっくりにだだ甘な奴は、そんじょそこらに居ないぞ?」
「悪い冗談だね。ねぇ何であのゆっくりを殺してやったんだい?唐突に情が湧いた訳じゃあるまいし」
「あのゆっくりが普通の容姿なら市や被害者家族に引渡したさ」
「?どういう事?」
「あのゆっくりが世間様の目に触れたらどうなると思う?」
「…………出来るだけ苦しめてから、殺処分じゃないの?」
「お前に聞いた俺が間違っていたが………同情される可能性があるんだよ」
幼少期に心的外傷を残すような虐待を受けた犯罪者に同情するような人間が居る。
あのゆっくりはその姿と、悲惨な過去から世間の同情を買う確率が高いのだ。
何でこのゆっくりがあんな事をしなければならなかった?本当に悪いのは誰?
そんな詮索がされる前に死人にクチナシ、表舞台に立つ前にこの世からご退場を願ったわけだ。
「……分からないな、ゆっくりに同情する奴って居るの?」
「分からない事では無いと思うがなぁ……さーて、ありす?放っといて悪かったな、続きをしようか?」
「ユ゙ッャ゙ァァ゙ッ」
今日も事務所では鬼意山二人とゆっくり一匹が仲良く過ごしましたとさ。
めでたしめでたし。
最終更新:2023年03月30日 20:23