「じゃあ、また明日ねー」
分かれ道に着いた。
3つに分かれており、少年達はそれぞれ別の道で家路につく。
「ゆっぐふぅ・・・!までえええ!!!ゆっぐりまっでね・・・!」
「ゆゆっふふぅっ!ごども゙をがえじでねっ!」
後ろから、ボロカスになった皮を引きずって現れたのは親れいむと親まりさ。
道端の石を蹴飛ばしながら帰る、そんな遊びを親ゆっくりで楽しんだ結果だ。
手に握られた大事な子ゆっくりを返してもらうため、蹴飛ばされても蹴飛ばされても親ゆっくりは少年達に体当たりをし、蹴飛ばされた。
遥か頭上から最愛の我が子の声がする。
顔の皮が破れても、額から餡子が漏れても、底部の皮が磨り減って痛くても、親ゆっくりは跳ねることができた。
「まだついて来てるよ」
「しつこいね」
全身泥まみれ、皮は破れて餡子が見え、髪の毛もところどころ引きちぎれている。
綺麗好きのゆっくりにあるまじき姿だ。
「お!いいこと思いついた!」
ポン、と手を叩くタケ。
分かれ道になる手前で2人を止めた。
「おい、ゆっくりども。子供を返して欲しいか?」
タケは目線を親ゆっくりにまで下げ、右手に持った子まりさを突き出した。
それを見た親ゆっくりがスピードを上げ、タケに近づく。
「ゆっぐぅ!!がえじで!!れいぶのごどぼがえじでええええ!!!」
「おねがいじまず!!がえじでぐだざい!!」
顔を地面に近づけたり、遠ざけたりする2匹。
人間で言う、頭を下げる、ジェスチャーなのだろうかとシンは思った。
「ゆ!まりさもおかーさんのところにかえりたいよ!!!」
「ゆっくりかえりたい!!おねがいだからはなしてね!!」
「れいむはおかーさんとゆっくりしたいよっ!!」
3人が手に持つ子ゆっくりも騒ぎ始める。
唯一、コウの持った土れいむだけは苦痛に耐えるのに精一杯で、そちらにまで頭が回らないようだった。
「よし、じゃあ最後まで僕達ついてきたら返してあげるよ」
その一言で、これからタケが何をしたいのかコウとシンは即座に把握した。
「ゆ・・・っ!がんばってついていくよ・・!ごどもだぢ、ゆっぐりしてでね!!」
「まりざ、ぜっだいにこどもだぢをだずげるよ!!」
「ゆ!がんばっておかあさん!!」
「ゆっくりしないでついてきてね!!」
「みんないっしょにゆっくりしようね!!!」
意気込むゆっくり達。
そしてタケは家族の絆をブチ破る一言を放つ。
「じゃあどの子がいらないのか、よく考えてね」
タケが子まりさを野球のボールのように握り、親ゆっくりに見せた。
それと同じようにコウとシンも子れいむを親ゆっくりに見せる。
「・・・ゆ?何を言ってるの・・っ!?いらない子なんていないよっ・・・!!」
「ゆ、ゆ、ゆっくりしたごどもだよ・・みんなだいせづだよ!」
「コウちゃん、シンちゃん。また明日ね」
「ん、タケちゃん、シンちゃん。ばいばーい」
「2人とも、明日また」
3人は子ゆっくりを親ゆっくりに見せたまま、後ろ歩きで進む。
その道は3人とも別々だ。
「ゆっ・・!?どぼじで・・・どぼじでいっしょぢゃないど・・・?!」
「ゆぐぅ・・・びんないっじょにがえっでね!!!」
「僕達は家が違うからね。ここでお別れなんだよ」
「返して欲しい子供を持った人のところについておいで」
「ちゃんと返してあげるよ」
ゆっくりと遠ざかっていく3人。
「ゆ・・・!ありざ!!れいぶど分がれで、ちがう方へ行ごうね!!」
「ゆ!そ・・・ぞうだね!!」
考える知恵も餡子も少なかったが、とっさに親れいむは別々に子供を返してもらうことに気が付いた。
親まりさは、すでに親2匹で付いていくことしか考えていなかったのだ。
「ゆ・・でも、どのこどもを捨てるの・・・!?」
捨てる、という言葉が子ゆっくりに聞こえたのか、少年たちの手の中の子ゆっくりが一斉に騒ぎ始めた。
「ゆううう!!おかあざん!!!がわいいれいむをたすけでええええ!!!」
「ま!まりざのほうががわいいよおお!!!それにまりざがいちばんおっきいよ!!!ゆ゙っくりしてるよおぉお゙!!!」
「おかあざん!!れいむをだすけでええ!!!こっちにはもうひとりれいむがいるよ!!おとくだよ!!!」
子供たちの悲痛な叫びに、親ゆっくりは悩みはじめる。
しかし悠長に考えてるヒマなどない。
こうしているうちに、少年達はどんどん遠ざかっている。
「ゆ・・・!れいむ゙は、れいむ゙は一番大きいまりさをたすけるよっ!ばりざもゆっくりしないで判断じでね゙・・・っ!」
一番最初に誕生した我が子。
自分の始めての子供。
それが子まりさだった。
親れいむはその日の感動を忘れたことはなかい。
大好きなまりさと同じ、まりさ。
絶対に、なくしたくなかった。
親れいむは破けた底部をものともせず、タケのいる道へと跳ねていった。
「ゆ!おかあさんありがとう!!まりさはおかあさんとゆっくりできるんだね!!」
跳ね寄ってきた親れいむに歓喜の声を上げる子まりさであったが、残されたほうはたまらない。
「どぼじでえぇっ!?おがあざん!!れいむ゙がわいいよっ!?!」
「おがあざん!!おがあざんなんがゆっぐりできないよっ!!!」
それを見ていた親まりさは、一瞬、選ぶのを放棄したくなった。
しかしそれでは3匹の子れいむが全て死んでしまう。
ならば、心を鬼にしなければ。
親まりさは決断した。
「れいぶぅっ!ごっぢはまがせでねっ・・!そっぢはまがせたよ・・!」
跳ね寄ったのは、シンのほう。子れいむ1匹だ。
「どぼじでえ!?どぼじでそっぢなのおおおお!!?」
選ばれなかった、コウの手に握られた子れいむ。
それは子れいむが悪いわけではなかった。
親まりさは冷静に判断したのだ。
あの土が詰められた子れいむは、長くない。
むしろ、障害が残って家族のお荷物になる可能性のほうが高い。
だから、元気な子れいむがいるシンの道を選んだのだ。
これが親れいむであったら、迷わず2匹返してもらえるコウの道を選んだだろう。
実際に産んだ親なのだ、多いほうを選ぶ。
たとえ障害を持っていたとしても、可愛い我が子なのだ。
「よーし、ちゃんとついてこいよ。じゃーねーシンちゃん、コウちゃん」
「おーう、ばいばーい」
「じゃねー」
最後の挨拶をし、3人はそれぞれの道を歩いた。
タケが家に帰ると、ゆっくり煎餅が用意してあった。
今日のオヤツ、と台所から声が聞こえた。
手を洗い、戻ってくるとなにやら機嫌の悪そうな母親が立っていた。
「な、なに?」
「タケシ!あんたまた死んだゆっくりを庭に捨てたね!アリが沸くからちゃんと処分しろって言ってるでしょ!!」
反論の余地もなく、思い切りゲンコツを叩き込まれた。
「痛え!!」
「痛え、じゃない!早く処理してきな!!それまで煎餅は禁止!!」
ゆっくり煎餅の入ったお盆を取り上げられ、しぶしぶタケは庭に向かった。
「ゆっくりしないで!おかーさん!!ゆっくりしないでえぇぇっ!!!」
庭では、死んだ親れいむに子まりさがまとわりついていた。
コウ、シンと分かれてから、親れいむは石蹴りの石の代わりをずっと勤めていた。
付いてくれば返してやるというのに、あのバカは体当たりを繰り返すのだ。
せっかくだからとタケが蹴りで応戦していたためだろうか、家に付く頃にはいつ死んでもおかしくないほど衰弱していた。
死体となった親れいむは、餡子が目に見えて減っていた。
決定的な傷はないものの、漏れた餡子が多くて死んだのだろう。
庭に入った時点で、子まりさを返してあげたので、その直後に死んだに違いない。
きっと、高まっていた緊張感が解けたため、そのままゆっくりしてしまったのだ。
「しゃーない、埋めるか」
物置からスコップを取り出し、木の横に穴を掘る。
深さは1メートルほど。
あまり浅いとアリが湧いて、またゲンコツが落ちてくる。
「おい、どけ」
泣き喚く子まりさを投げ飛ばし、死体となった親れいむを穴に投げ入れる。
「やめて!!!おかあさんをうめらいれええ!!!」
無視して土をかける。
すると、子まりさが穴に飛び込んだ。
「おねがいじばす!!おがあざんをごろざないでぐだざい!!」
「もう死んでる」
穴の横に積んであった土の山を一気に崩し、子まりさごと穴に埋めた。
「さーて、煎餅食ーべよっと」
「ゆ・・・!もうずぐだよっ・・・もうずぐゆっぐりできる゙おうぢだよ・・!」
親まりさは子れいむと共に農道を跳ねていた。
「ゆ!これでゆっくりできるね!かわいいれいむをえらんでくれてありがとう!」
満面の笑みで微笑む子れいむとは対照的に、親まりさは顔面蒼白だ。
分かれ道で親れいむと分かれてから、親まりさはただシンについていった。
体当たりや罵声に意味がないことに気が付いたのだ。
それよりも、体力を温存することを得策とした。
結果、それは正しい選択であった。
親まりさは知らないが、親れいむは無謀にも体当たりを繰り返して死んだ。
「おうぢで、れいぶのがえりを待とうね!」
何とか笑みを作って、子れいむを安心させる。
そう、もう巣穴のすぐ近くまで来ていたのだ。
まずは体力を回復させるために、巣穴に残ったご飯を食べよう。
確か昨日大量に確保したエサが保存してあるはずだ。
れいむの分も取っておかなきゃならないけど、半分なら食べても大丈夫だろう。
そんなことを親まりさは考えていた。
「お前はいらない子だったんだね」
コウは手の中で泣く子れいむに話しかけた。
「ゆうっ・・!ゆうぅぅう・・・どうじで・・・どうじでええ・・・・」
親ゆっくりが自分を選んでくれなかったことがショックだったようだ。
まるでコウの話など聞いていない。
「僕もいらないよ。殺さないから勝手に生きて行ってね。こっちのれいむで十分だよ」
こっち、といって見せ付けるのは体に土を入れられ、声が枯れても苦しみ続ける子れいむ。
珍しいゆっくりは面白い。
親に捨てられただけの平凡な、どこにでもいるゆっくり霊夢の子供などコウの関心の範囲外にいた。
「お、コウジ君じゃないか!今帰りかい?道草食いすぎだぞー」
家も近くなった頃、コウの前にリヤカーを引いた近所のお兄さんが現れた。
「あ、お兄さん!見てみて!すごいゆっくりだよ!!」
お兄さんはゆっくりのエキスパートだ。
コウはお兄さんとゆっくりの話をするのが好きだった。
「お、なんだこのれいむは?ぴくぴくしてるぞ。後ろにいるのは普通のっぽいが」
後ろの、と言われてコウが振り返ると、さっき捨てたはずの子れいむがいた。
親に捨てられ、行くアテがないのだろうがコウにはどうでもいいことだ。
「これね!餡子を減らして変わりに土を入れたんだよ!頭の部分が外れるから見てよ!」
土れいむを受取ったお兄さんは頭頂部をめくり、詰め込まれた土を見た。
「すごいね!コウジ君。これはかなりの上級テクニックだよ!」
「え!これって凄いの?」
笑顔いっぱいで、お兄さんは質問に答えてくれる。
「これはね、餡子の再生を土で妨害できるんだ。餡子を補充しようにも、そこには土があるからね。決して回復しないんだよ」
「へぇー!」
「だから、この子れいむからはずっと土の痛みが消えないんだよ。まあ、成長したら餡子が増えるけどね」
「でも、土はずっとこのままなんでしょ?」
「そう、よく分かってるねコウジ君!いくら餡子が増えても、この土は外に排出できない。つまりずっと苦しむことになるんだ」
「ふーん」
「これは加工所でも使われてるテクニックなんだよ。あっちは衛生に問題のないプラスチックなんかを入れるみたいだけど」
嬉々として語るお兄さんの目は、まるで少年のようだ。
「何かいいことがあるの?」
「あるある。苦しめば苦しんだだけ、ゆっくりの餡子が美味しくなるのは知ってるね?」
「うん」
「つまり美味しい餡子を作るために、加工所の研究室で生み出された飼育方法だよ。これを発見しちゃうなんて、コウジ君、やるじゃん」
ゆっくりのエキスパートにほめられ、なんだか嬉しくなるコウ。
ふと、お兄さんが引いているリヤカーに目が行く。
風呂敷がかけてあり何を積んでいるのかわからない。
「お兄さん、それなに?」
「ああ、これか。これは川の向こうにゆっくりアリスの群れがいるって教えてもらってね。捕獲して帰ってきたんだ」
お兄さんが風呂敷をめくると、透明な箱にところせましとゆっくりアリスが詰まっていた。
箱にぎゅうぎゅうに入っているため、声も出せないようだ。
「わあ!ゆっくりアリスだ」
「欲しければ1匹あげるけど?」
「ん、いらないや。僕、このれいむを育ててみる」
土れいむをお兄さんから返してもらい、コウは両手で抱えるように持った。
「それじゃあ頭をきっちり塞いだほうがいいね。暴れたら餡子が出ちゃうし、アリも寄ってきちゃうから」
「どうすればいいの?」
「小麦粉を水に溶いて、傷口に塗るといいよ。一晩もあれば再生するはずだから」
やっぱりお兄さんは凄い。ゆっくりのプロなんだ。
コウはお礼に、足元のいらない子をプレゼントした。
「じゃあ、お兄さんがたっぷり可愛がってあげるからね」
なんだか黒い笑顔だったけど、コウは気にしなかった。
「お兄さんありがとー!頑張って育てるから、あとで見せるね!楽しみにしててねー!!」
コウはお兄さんと別れると、次々に沸く好奇心を押さえながらスキップで家へと向かった。
♪ 後書き
私のイメージでは、ゆっくりって幻想郷のそこらへんにウヨウヨ沸いてるんです。
虫みたいな感じ。
子供の頃、トンボを引きちぎったり、コンクリートにたたきつけたり、カエルを爆破したり。
やったこと無い人のほうが少ないんじゃないかなーと思います。(特に田舎育ちの男子)
少なくとも私の周りではみんなやってました。
トンボの羽を左右に切り開く「シーチキン」という殺し方、羽を全部毟って飛べなくして橋の上から投げること。
捕まえたトンボ同士を無理矢理交尾させたり、無理矢理シッポの部分を噛み付かせて卵出させたり。
逃げるカエルに土の塊(畑から拾った)を投げつけて、当てた人が優勝とか、今思うとかなり酷いことをやっていたと思います。
でも、そのとき私や友人は「トンボって見ててムカつく。ぶっ殺してやる!」とは思ってませんでした。
面白いから、それだけの理由で悪意はなかったんですね。
羽千切ったらどうやって飛ぶのか、切り開いたらどうなるのか、たたきつけたらどうなるのか。
言ってみれば、好奇心の先走りのような、そんな感じです。
ただ純粋に、殺すの楽しかった面も無くはないですけど。
今回、ゆっくりにやっている虐待(虐殺)は私と友人が子供の頃にやった「遊び」を元にしています。
それと、実際にゆっくりがいたらこんなことしただろうなーってのも。
本当は、ゆっくり釣りもやりたかったんです。
ザリガニ釣りのように、千切ったゆっくりをエサにして巣穴からゆっくりをおびき出す釣り。
それで釣れたゆっくりをまた引きちぎって、エサにする。
楽しそうだね!ゆっくりできそうだよ!!
ちなみに爆竹壺は私が小学校1年くらいのときに開発した遊びです。
使ったのはゆっくりではなく、ナメクジでした。
ナメクジを一箇所に集めて、隣に爆竹を置き、逆さにしたツボをかぶせるんです。
そんで爆破の後に壺をあけると、ナメクジがいなかったのですよ。
「あれ?」って思って壺をよく見ると、バラバラになったナメクジが壺内部にみっちり張り付いてるの。
爆破の勢いで地面にいたナメクジが吹き飛んで、ツボの内部にこびりついたワケです。
SS中の描写だとちょっと分かりにくかったかな?
その後、爆竹すげー!!って話題になって、それからはカエル入れたりミミズ入れたりして友人一同で楽しみました。
子供の好奇心ってのは残虐な遊びに繋がることが多いですよね。
さすがに大人になった今では、そんなことしたくないですけどね。
それに最近では虫に触るのが苦手になってきました。
イトコの子供に「おじさん、カブトムシ持ってて!」といわれて掌に乗せられたときは鳥肌モノでした。
アブラゼミを友人一同で集め、100匹近くで収拾してたあの日はどこへやら、セミに触るのも嫌です。
子供の頃は平気だったのになあ・・・。
ゆっくりがいる世界の子供達の「遊び」が書いてみたい、そう思ってこのSSを書きました。
おわり。
最終更新:2011年07月28日 00:20