良く晴れた夏の一日、今日も水やりをしに自分の畑へとやってきた。
毎日汗水たらして育てたキュウリはもう直ぐ収穫の時期を迎える。
ようやく畑が見えてきた頃、私はある異変に気がついた。
キュウリのつるが巻きついた木の棒が地面に倒れているではないか。
まさか河童の仕業かと一瞬体が強張るが、注意深く様子を伺ってもそのような姿は無い。
若干の安堵を感じながら、ではなぜ倒れているのだろうか?
畑は柵に囲まれており、野生の動物は近づけないようにしているし、昨日は風が強かったわけでもない。
原因を探る為、さらにちかづいていくと、かすかな物音が聞こえた。
カリカリカリ…、キュウリをかじる音だ。
音の原因を発見したところで足が止まる。
倒れたつるの葉のなかで不気味な表情をした生首がキュウリを齧っていたのだ。
チラリ、生首がこちらのほうを向く、本来動くはずの無い物体と目が合い、背筋が凍りついた。
生首は私の存在を確認するとキュウリを加えた口の端ににたりとした笑みを浮かべた。
そして、私のことをまるで気にせず次々とキュウリを齧っていった。
このままでは、すべてのキュウリが食べつくされてしまう。
そう感じた私は、近くにあった鍬を手に取り、ゆっくりと生首へと近づこうとした。
私が、畑へと一歩踏み出した瞬間、突如生首が跳ね上がった。
「やるきだってさ!」「おお、こわいこわい!」
その言葉と共に一直線に森のほうに逃げていく生首。
途中の柵も一つ大きい跳躍で飛び越えられてしまった。
慌てて後を追おうとするが、柔らかい畑の土に足をとられ、前のめりに倒れそうになる。
地面に手をつきなんとか倒れるのは回避したが、その間にも生首との差は広がったしまう。
「どげざしてるよ!」「おお、ぶざまぶざま!」
逃げながらもこちらを向き嘲笑するかのように煽ってくる。
畑の為にも、なんとしても仕留めなくては。
体を起こし急いで生首の後を追った私だったが、森の中に逃げ込まれたことでその姿を見失ってしまった。
初期の逃走方向から、そのまま進んだものとして後を追うが、生首を見つけることは出来なかった。
足を止めあたりを見回していた私の足元でガサゴソといった木の葉を揺らす音がした。
「そこか!」
「ゆ?ゆぐぅぅうう!!!」
振り下ろした鍬が何かを捕らえた。そのまま鍬を引きこちらに手繰り寄せる。
逃げた生首のうちの赤いリボンをした方を捕らえたようだ。
しかし、その先にもう一つの黒い帽子をかぶった方の姿わなく、
代わりに捕らえたのと同じ姿をした小さい生首が付いて来た。
「「「「お…お゛か゛あ゛あ゛あ゛し゛ゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ん゛」」」」
引き寄せた先に後頭部が崩れ落ち、既に動かなくなった生首を見て、小さいほうの生首が一斉に声を上げた。
大きいほうの生首を良く見ると、追っていのものと目の辺りが少し違って見えた。
小さい生首をつれていた事も考えると、どうやら違う生首のようだ。
直ぐにもう一度耳をすまし、あの生首の後を追おうとするが…
「どうちてこんなことするのー!!」
「おがーしゃーん!!」
「ゆっぐりー!!」
という泣き声で追うことが出来なった。
一刻を争う状況で、余計なものの相手をしたくはなかったが、
このままにはしていけないので小さいほうの生首を踏みつけていった。
「ゆぎゅ!…」
「ゆ?ぐ!!…」
「や…やべぇ!…」
ようやく静かになった。
「みなごろしだってさ!」「おお、こわいこわい!」
声のほうを振り向くと、離れた場所に追っていた生首の姿を発見した。
「待て!」
「「おお、こわいこわい!」
全力で後を追う私であったが、生首との距離はなかなか縮まらない。
不慣れな森の中ということを考えても、この生首はかなりの速さで逃げている。
しばらく後を追い続け、深い森を抜けると、そこは湖のほとりだった。
ここまで追ってきたかなり息が上がっている。
しかし、ここで赤いリボンをした方の生首が顔面から地面に突っ込んだ。
「おお、いたいいたい!」
その声に反応して、もう一つの黒い帽子の方が、赤い方のところまで引き返して来た。
良く見ると、生首の方も顔から汁をながし、息が上がっているのが判る。
しばしの膠着状態、動けばまた全力で走り出さなければいけないと思うと体が重かった。
ここで先ほど、一瞬の隙に拾っておいた石を投げつける。
石は赤いリボンをした方にまっすぐ飛んでいく、先ほど潰した感触からすれば十分貫通するはずだ。
が、一直線に飛んでいった石は、寸前の所で避けられてしまった。
「おお、こわいこわい!」
「て゛!て゛い゛ふ゛ー!!!!」
ボチャン
石を避けようと横っ飛びした生首はそのまま湖へと落ちていった。
「おお、しずむしずむ!」
「い゛ま゛た゛す゛け゛る゛っ゛て゛さ゛!!!!」
「おお、はやくはやく!!」
「こ゛れ゛に゛つ゛か゛ま゛る゛と゛い゛い゛っ゛て゛さ゛!!!!」
「おお、とどかないとどかない!!」
「ま゛り゛さ゛が゛た゛す゛け゛に゛い゛く゛っ゛て゛さ゛!!!」
「おお、ぐさくぐさく…」
ボチャン、もう一つの生首は自ら湖へと飛び込んでいった。
二つの生首は共に空を仰ぎ、風の吹くまま水面にゆれた後、深く深く沈んでいった。
オワタ
あとがき
少しあっさりしすぎ?
最終更新:2008年09月14日 07:17