「ゆっくり~~♪ していってね~~~♪」
「「「ゆっくり~~♪ していってね~~~~♪」」」
「きょうもにこにこひゃっくてんだよ!!!」
ここに一つのゆっくり霊夢一家がいる。
親である霊夢と子供が十数匹の標準的な家族である。
その親霊夢を先頭に、向かっているのは人間の里。
「ゆっゆ♪ ゆゆゆ♪」
ご機嫌な様子で歩いていくお母さん霊夢。
何がそんなにうれしいのか、その答えは今しばらくすればわかるのであろう。
「ゆっゆ♪ ちゅいたよ♪」
「それじゃあ!! ゆっきゅりしようにぇ!!」
「「「「ゆっきゅりしゅるよぉ~~~~~!!!!」」」」
あるモノは廊下を走り回り、またあるモノは畳の上でごろごろと転がる。
ゆっくりにしてみれば、ゆっくり遊んでいるのであろうが、ここは人間の家である。
人間の家はゆっくり出来るものが沢山ある。
それは『この一家ならずも知っていること。
そして、この一家はゆっくりするためにここに入り込んだのだ。
そして、珍しいことに一家は、何一つ家の備品に触れてはいない。
ただ転がって遊んでいるだけなのである。
「お前ら!! ここで何をしてるんだ!!!」
仕事から帰ってきた男は、無人のはずの我が家から聞こえてきた声に驚いた。
しかし、すぐにその声の正体が分かると、怒りに身を任せて家の中に入り込んでいった。
「ゆゆ!! おにーーさんおかえりなさい!!」
「「「おっかえりなっしゃ~~~~~い♪」」」
男の緊迫した声とは対照的に、一家はのほほんとした口調で男を出迎えた。
「おい!! ここが誰の家だか分かってるのか!!」
「ここはおにーさんのいえだよ!!」
「……分かってるのか?」
自分の予想が外れた男は、呆気にとられ一度怒りを忘れたようだ。
「ゆっゆ!! れいむはあたまのいいゆっくりだから、きちんとわかってるよ!!」
「れーみゅたち、おにーさんのおうちのものさわってないよ!!」
「たべものもたべてにゃいよ!!」
「ちかきゅのきゃわで、かりゃだをありゃってきたから、きれいだよ!!」
「ゆっゆ♪ れいむたちはなにもわるいことしてないよ!!! だから、おこらないでね♪ おにーーさん!!」
「ほー……。そうか、それは偉いなぁ~~」
感心したように、うんうんと首を振りながら一家に語りかける。
「ゆっゆ♪ えらいでしょ♪ ごほーーびにすこしたべものちょ~~だい♪」
「んなわけあるかーーーーーー!!!!!」
ごぶ。
と鈍い音と共にお母さん霊夢に鉄拳が振り下ろされる。
「と゛う゛し゛て゛ーーー!!! れいむたちなにもわるいごとしてないよぉーー!!!」
「「「おがーーしゃーーん!!!」」」
口から餡子を吐き出しながらも、男に向かって非難ともとれるような言葉を投げかける。
「おかーしゃんだいじょーぶ?」
「あたみゃいたいいたいにょ?」
「れーみゅが、いちゃいのいちゃいのとんできぇーー!! してあげりゅりょ!!」
重症を負った母親のもとへ集まった子供達が、文字通り男の事を忘れ必死に手当てをしようとする。
「こらこら。無視はよくないぞ♪」
「ゆゆ!! ゆっくりはなしちぇね!!」
「ゆ!! いもーとをはなしてね!!」
一転、母親もろとも男のほうへ振り向き、声を上げて男とその手にもたれた赤ちゃんに呼びかける。
「はい!! ここで問題です!!」
小さい子を黙らせるように、大きな声で言い放った男は、手にしたゆっくりを握りながら、さらに説明を続けた。
「今から、お兄さんが君達に質問をします。その質問の中で、『悪いこと・うそ』があったらこの赤ちゃんは朝食に嬉しい、おいしいおいしい餡ペーストになってしまいます!!!」
「ゆ!! ゆ~~~~♪」
何だ、そんなことか、とでも言いたげな一家。
何しろ、自分達は頭の良い、良いゆっくりなのだ。
きっと、馬鹿なゆっくり達はここで間違ったことを言って殺されてしまったのだろう。
これをきちんと答えれば、この人間もきちんと分かってくれる。
もしかしたら、お家で飼ってくれるかもしれない。
一度みた、あの金ぴかに輝くバッジを自分達も付けて歩けるかもしれない。
「ゆっゆ♪」
「ゆきゅ~~~♪」
周りを見ると、子供達も母親と同じ事を考えているようで、なんとも緊張感のない表情をしている。
「ゆっくりきっちりりかいしたよ!! おにーさんはやくもんだいをだしてね!!」
「「「「だちちぇねーーー!!!」」」」
すでに勝った気でいる一家、その一家に男はゆっくりと問題を発表した。
「第一問!! 勝手に人のおうちに入るのは良いことかな?」
「「「こたえは、のーだよ!!」」」
「正解!! では第二問!! 君達は何で人のおうちに勝手に入ってきたのかな?」
「「「ゆっゆ♪ れいむたちはわるいことしてないよ♪」」」
「ダウト!!」
「んじゃらっぺいぽんち!!!」
ニコニコしている一家に、握った右手を近づけて一気に握り潰す。
くぐもった悲鳴が聞こえた後、どろっとした餡子が流れ落ちていく。
「ゆ!! れいむのあ゛か゛ぢゃ゛ん゛がーー!! どーーじでこんなごとするのーー!!」
「あかちゃんが、いたいいたいになっちゃったー!!」
「ゆぐぅーーー!!!!!!」
騒然となる一家。
そんなことはお構いなしに、男は二匹目の赤ちゃんを掴み、問題を再開する。
「第三問!! 君達は勝手に人間の家に入った?」
「ゆー……。あがじゃんがーー!! いだいいだいになっじゃったー!!」
「ゆっぐり、かわいいあかちゃんが……」
「……西村因みに、答えなくてもおいしー朝食餡ペーストになります」
「「「ゆっぐりかってにはいったよ!!!!」」」
「正解!! では第四問!! 勝手に家に入るのは悪いゆっくり、間違いないね!!」
「「「ゆっくりまちがいないよ!!」」」
「正解!! ではでは、最終問題!!!」
「ゆ……」
緊張していた一家からため息が漏れる。
後一問、それだけで自分達は解放される。
もう人間の里に近づくのはよそう。
良い事をしたのに、こんな目に合わせる人間とはゆっくりできない。
森に帰ったら、ゆっくりと暮らそう。
「じゃじゃん!!」
その前に、この問題をさっさと片付けよう。
「悪いゆっくりは一匹残らず駆除する!!!」
「ゆ?」
「「「ゆゆゆ!!!」」」
一家の表情が曇る。
確かに、悪いゆっくりはそうしても良い。
でも、確かさっき自分達は、かってに家に入るゆっくりは悪いゆっくりだ、と言った気がする。
つまり、自分達は悪いゆっくりになる。
だったら、自分達も駆除させる。
「どうしたの? この子、朝食に出してもいいの? 食物繊維たっぷりのおいしー餡ペーストになるよ」
「ゆぐぐ……」
「「「ゆーーーー……」」」
残された一家は答えられなかった。
答えたら、自分達は多分死ぬ。
おそらく、ちょーしょくにあんぺーすととして出されるのだろう。
しかし、黙っているか、うそを言えば、死ぬのは今男に握られている赤ちゃんゆっくりだけだ。
そうだ!! うそを言えば良いんだ。
悪いのは、人間に捕まったあの赤ちゃんだけだ。
よし、うそを言おう。
「……」
「「「ゆ!!」」」
無言の母親の視線でも、こういう場合の考えは一緒なのだろう。
全員が全員、こくりと頷き男のほうに向き直る。
「だ「しょうだよ!! わりゅいゆっきゅりはいっぴきのこりゃずくじょすりゅんだよ!!」 ゆゆ!!」
だめだよ!!
と言おうとした一家より、一瞬誰かが答えた。
答えた主を探そうとする一家だが、全員首を横に振り、関係ないという意思を表示する。
となると、残された選択肢は一つ。
「おかーーしゃんがいちゅもいっちぇたもにょ!! わるいゆっきゅりはみんなしんでいいって!!!」
「「「「と゛う゛し゛て゛ぞんなごというのーーー!!!!!」」」」
全員が、男の、その手のひらに乗せられている赤ちゃんに向かって声を荒げる。
「ゆ? じゃって、おかーしゃんたちなかなきゃこたえないかりゃ、れいむいたいいたいしたくなきゃったもん!!」
プクーと頬を膨らませて、一家を見下ろしながら答える赤ちゃん霊夢。
「そうそう。えらいな~~♪ ちゃんと分かってるじゃないか」
「ゆっゆ♪」
そうして、その霊夢の頭をなでながら優しく語りかえる男。
この位置からでは赤ちゃんには見えないが、一家には男の顔が見えた。
まさに、一家にどのような処罰を与えようか考えている顔であった。
~~~~~
ここは加工場の一室。
毎日限定生産される家族饅頭セットの備蓄室である。
「ゆっくり……」
この一室の新たな主は一つの霊夢一家。
普通なら、暴れまわるこの一家だが、一匹を除きその様な気は起きないらしい。
「ゆっきゅりだちてにぇ!!」
必死に騒いでいるのは赤ちゃん霊夢だった。
あっちの壁に体当たりしたかと思えば、こちらの扉に体当たり。
「……」
大きな個体が生気を失ったように佇むなか、赤ちゃんが行うその行為は、まさに奇妙なものだ。
「ゆ!! れーみゅたちはわりゅいことしちぇないよ!!」
「…………」
「おかーーしゃん!! れーみゅたちわりゅいことしちぇないんだかりゃ、はやくここきゃらでて、おうちかえりょーね!!!」
「……ゆっくり……そうだね……」
「ゆっきゅりだちてにぇ!! れーみゅたいはいいゆっきゅりだよ!! おかーーしゃん、いちゃいいちゃいだかりゃ、はやくかえらしぇちぇね!!!」
「「「…………」」」
いよいよ出荷されるその日、その赤ちゃん霊夢は最後の最後で自身の罪を知り、どの家族よりも絶望して逝ったという。
まるでアクセントのように、一部に強力な甘さの餡子を残して。
~おまけ~
「うーー!! れ☆み☆りゃ☆はこうまかんのおぜーーさまなんだぞーーー!!!」
そう叫ぶゆっくりれみりゃがいるのは間違いなく紅魔館の玄関であった。
庭に住んでいるものがまた勝手に入ってきたのだろう。
「う~~!!!! う~~~!!!」
調度品を見て、奇声をあげるその姿は、お嬢様らしからぬモノであるが。
「う~~~!! れみりゃはおなかがすいたーーー!! さくやーー!! さくやぁ~~~?」
一転、笑顔になったれみりゃが声を張り上げ食事を要求するが、ゆっくりに食べ物を与える輩はここにはいない。
「うーーー。うーー!! うう!!」
スカートの裾をぎゅ♪ っと掴んで涙を浮かべていたれみりゃだったが、何を思ったかスッと近くの部屋から怪獣の気ぐるみを持って戻ってきた。
「うっう~~♪」
お気に入りの気ぐるみを貸してあげるから、早く出て来い!!
と言うことらしいが、あいにく酔っ払いでもしない限りそんな趣味の悪いものなんて着たくない。
痺れを切らしたれみりゃは、テコテコと自分の足で食べ物を探し始める。
「うぎゃ!! うーー!! うーーー!!」
途中何も無い所で転び、目に涙を浮かべ口を結び、まさに今にも泣き出しそうな事もあった。
「うーーー……、おなかへっだーーー……」
が、泣くのを堪えて再びよろよろと館内の捜索に戻った。
それから、幾分の時間が過ぎ、ある大きな入り口の前を通りかかった時、れみりゃはそこから大勢の声と、食べ物の匂いを感じる事が出来た。
「うーー!! ごはんたべりゅーーー!! おかしもってきてぇーーー!!」
既に疲れきったれみりゃは、近くにいた女性に声をかけると、うんちょ♪ と台の上に飛び、木製のベッドに横になり目を瞑った。
「う~~~……う~~~~……」
直ぐにうとうとし始める、幸せそうに口元から涎を垂らして。
「……あら、今日の夕ご飯はれみりゃだったかしら?」
「う~~……!! うあーー!! うあーーーー!!!」
疑問系で、しかもいまいち確証が無いにも拘らずテキパキとれみりゃを捌いていく。
「やめでーーー!! れみりゃなのーー!! れみりゃーーー!! はやくやめるのーーー!!!」
「……そーらのかなたに♪ みーちるひーぃかり♪」
れみりゃの言葉は一切聞かずに、鼻歌を歌いながら調理を進めていく。
「うぎゃーー!! れみりゃのあしがーー!! さぐやーー!! だすげでーー!!」
「まじかる♪・さく「んじゃーーー!! ああーーーーー!!! うあーーーー!!!」」
……。
「今日は少しおかずが多いんじゃないかしら?」
「そうですか? でも食べ切れますよね?」
「それは、そうだけれども……」
「なら問題ないですね」
「はぁ……」
最終更新:2011年11月23日 21:25