【赤ゆっくり物語】

ゆっくり好きとして、また映画監督しても有名な陸奥五郎さん。
彼の撮る最新の映画、赤ゆっくり物語の製作に参加できたのは、僕にとって非常に光栄かつ嬉しい出来事だった。

現場は終始和やかなムードで、出演するゆっくり達もゆっくりしたゆっくりばかり。
きっと素晴らしい映画が完成する事だろう。

今日は親ゆっくりが落石事故で死に、赤ゆっくり達が旅立つシーンを撮るらしい。
物語のスタート地点とも言えるこのシーンは、見る客の心を掴むためにも外すわけにはいかない。
出演ゆっくり達も現場の空気を読んだのか、いつもよりゆっくりしている。

さぁ、撮影開始だ!
監督がシーンナンバーを読み、カメラが回る。

親ゆっくり達の頭上に容赦なく降り注ぐ落石。
もちろん、この石はただの発砲スチロールだ。
だが、親ゆっくり達の表情は絶望に溢れている。
赤ちゃん達の叫びも真に迫ってて最高だ。
さすが陸奥五郎さん。良いゆっくりを使ってるなぁ。

と、ここで陸奥五郎さんがカメラをストップ。
なんと、まだまだ緊迫感が足りないらしい。
この映画にかける情熱が、素晴らしい作品の数々を生み出したのだろう。
僕は感動で打ち震えた。

急いでセットが作り直され、撮影が再開だ!
陸奥五郎さんがシーンナンバーを読み、カメラが回る。

親ゆっくり達の頭上に容赦なく降り注ぐ落石。
もちろん、今度は本物の石だ。
親ゆっくり達の表情は絶望に溢れている。

「「ゆべべべべべべっ!!」」
「おがぁしゃんのきれいなおべべがぁぁあああ!!」
「だれきゃ、たちゅけてぇええええ!!」
「いしさん、もうふりゃないでね! ゆっきゅりとまっちぇね!」

赤ちゃん達の叫びも真に迫ってて最高だ。
さすが陸奥五郎さん。良いゆっくりを使ってるなぁ。

数分後、落石が止まり、残された赤ゆっくり達が、親ゆっくり達を埋めた石を呆然と見つめている。
もう親ゆっくり達は動かない。赤ゆっくり達は涙を堪えながら旅立っていった。

ああ、何て感動的なシーンなんだ。
陸奥五郎さんもこれには満足したらしく、うんうんと頷いている。


次の日。
今日の見せ場は、ダンボール箱に入って川を流される赤ゆっくり達の姿だ。
ゆっくりにとって川に流されるイコール死であるため、ゆっくりらしからぬ緊張した表情を浮かべている。
こいつは良い絵が撮れそうだ。

早速、撮影スタンバイ。
川上でダンボール箱に詰められる赤ゆっくり達。
ここからゆっくりと川下へ長さていく。

準備が終わった。さぁ、撮影開始だ!
陸奥五郎さんがシーンナンバーを読み、カメラが回る。

赤ゆっくり達の入ったダンボールが、川の中へと放たれる。
最初はゆっくりとした川の流れで、赤ゆっくり達もゆっゆっと大はしゃぎ。
なんとも心温まる光景である。

しかし、川下に近づくにつれ、徐々に川の流れが激しさを増していく。

「ゆゆっ! きょわいよぉお!」
「かわしゃん、ゆっきゅりながれちぇね!」
「いしょがにゃいで、ゆっきゅりしちぇね!」

ああ、何という運命のいたずら。
赤ゆっくり達の叫びを呑み込むかのように、川下には滝が待ち受けていた。

「ゆぎゃあぁああ!」
「ゆっぎゅりぃいい! ゆっぎゅりぃいいいい!!」
「みじゅしゃん、はいっちぇきょにゃいでぇえええええええ!!」

だが加速するダンボールは止まらない。
倍プッシュだ、限界ギリギリまで加速させてもらう。
真下の滝壺へ向かい発射される、赤ゆっくり達とダンボール。

「おしょらをちょんでりゅみちゃ~い♪」

そんな楽しげな声を残し、赤ゆっくり達はゴウゴウと音をたてる水飛沫の中へ沈んでいく。
ああ、赤ゆっくり達はどうなってしまうのだろう?
こいつは、片時もスクリーンから目を離せないに違いない。
陸奥五郎さんも満足そうに頷いている。

「お疲れ様でしたー」
「おつかれっしたー」

おっと、どうやら今日の撮影はこれで終了らしい。
みんな機材を片付け始めた。
僕もサボるわけにはいかない。さぁ、お仕事お仕事。


次の日。
今日の撮影は難航した。
足を怪我した赤ゆっくりが、他の赤ゆっくりに励まされながら進むというシーンなのだが、これがなかなか上手く撮れないのだ。
前日の撮影で、出演する赤ゆっくりが一新されたせいもあるかも知れない。
業務用の餡子と特殊メイクでリアルに怪我を再現するのだが、赤ゆっくり達が餡子を食べてしまう。

「「む~ちゃ、む~ちゃ、ちあわちぇ~♪」」

このままでは時間内に撮影が終わらない。
現場にギスギスした空気が漂い始める。
昼食抜きで撮影してるせいかも知れない。

「陸奥五郎さん、そろそろ昼食にしましょうか?」
「う~ん、ちょっと待ってもらえるかな?」

陸奥五郎さんが赤ゆっくり達を連れ、車の裏へ行ったかと思うと、すぐに戻ってきた。
一匹の赤ゆっくりが、やけにリアルな特殊メイクを施され、餡子をポタポタ漏らしている。

「もうこれで大丈夫、カメラ準備してください」

撮影が再開された。
陸奥五郎さんがシーンナンバーを読み、カメラが回る。

誰もが、またダメだろうと考えていた。
しかし現実は違ったのだ。

この時の様子を何と言い表したら良いのだろう?
まさに魔法だった。

「ゆべぇ! も、もう…ありゅけにゃいよぉ…」
「がんばっちぇね! しっきゃりしちぇね!」
「ゆっきゅりしにゃいでね!」
「ゆっきゅりしちゃら、ゆっきゅりできなくにゃるよ!」

あの赤ゆっくり達が、餡子を食べてばかりだった赤ゆっくり達が、これまでにない名演を見せ付けたのだ。
これが陸奥五郎さんの演技指導!
陸奥五郎さんが神になった瞬間だった。

その後、撮影は順調に進み、スケジュール通りに終了した。


次の日。
今日の見せ場は、野犬に襲われ一匹の赤ゆっくりが死んでしまうという哀しいシーンだ。
他の赤ゆっくりを逃がすため、自分が犠牲になる事を選ぶ一匹の赤ゆっくり。
その赤ゆっくりに役者犬が襲い掛かる所で、別のシーンに切り替わる。
もちろん実際に殺すわけではない。ああ、殺すつもりは無かったんだ…

「わんっ! わんっ!」
「いぬしゃん、むこうにいっちぇね!」
「きょわいから、ほえにゃいでね!」
「ゆゆっ! まりちゃがたべりゃれちぇるうちに、みんにゃにぎぇてね!」
「「と゛ほ゛し゛て゛そ゛んなこ゛と゛い゛う゛の゛おおぉおお゛!?」」
「ゆっきゅりしにゃいで、しゃっしゃといっちぇね!」
「まりしゃ…わかっちゃよ…みんないきゅよ!」
「ゆっ! まりしゃ、ありがちょね!」
「さぁ、いぬしゃん! まりしゃがあいちぇだよ!」

跳ね去る赤ゆっくり達。一匹だけ残された赤ゆっくり。
そこで役者犬の紐が解き放たれ、襲い掛かる瞬間でストップ──しなかった。

「ゆぎゃあああああぁああああ!!」

目の前の赤ゆっくりを丸ッと飲み込む役者犬。
一匹じゃ腹の足しにもなりゃしねぇとばかりに、次の赤ゆっくりへ向かい走る走る。

「ま゛り゛しゃがぁあぁああああ!!」
「い゛ぬ゛しゃん、ゆ゛っき゛ゅり゛し゛ちぇえええええええ!!」

何という事だろう。
涙に濡れる感動的な映画が、餡子の滴るスプラッタホラーになってしまった。
これじゃ子供が泣いてしまう。違う意味で。

「ちょ、誰か犬とめろ」
「食いすぎだろ、常識的に考えて」
「どんだけ、おあずけされてたんだよ」

現場は大混乱だ。
役者犬は殺戮の風を巻き起こし、赤ゆっくり達を食らい尽くすまで止まらなかった。

「ちょっと! なんでこうなるの!」
「すみません、役者犬が予算オーバーだったので、うちのポチを連れてきました。すみません」
「ポチにちゃんと餌やれよ! 可哀想だろ!」

あーあ、怒られてる。
スタッフは陸奥五郎さんに頭を下げ、ポチもすまなさそうに耳を垂れた。


とまぁ、こんな感じで撮影は進み、赤ゆっくり物語は完成した。
クランクアップの打ち上げは大いに盛り上がった。
何代目になるのか解らない赤ゆっくり達も、楽しそうにゆっきゅりちていっちぇね!と言っていたし、陸奥五郎さんも赤ゆっくりに得意の頬ずりをして大ハッスル。
思わず発情した赤ゆっくりが、人目もはばからず他の赤ゆっくりをにんっしんさせる無礼講だった。
ポチもわんわん吠えていた。
蔦をはやし黒ずんだ赤ゆっくりを見ながら、僕はこの映画のヒットを確信した。


おわり



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最終更新:2022年03月15日 00:48