ゆっくりのほっぺたを突っつきたい。
 仕事場では品行方正、真面目で優秀と、何だか意味が重複している様な評判高いオレだが、年に一度、必ず今の時期だけはずっとゆっくりのほっぺたを突っつきたくなる。
 まぁ、ちょっとした病気みたいなものだ。
「すいませーん」
「あぁ、君か……ん、もうこんな時期なんだな。分かった、休みを取っておこう」
「ありがとうございます」
 毎年この時期だけという事で、特に問題もなく休みが取れる。
 キチンと仕事している者の特権とでも言っておくべきかな。……ごめん、ちょっと調子に乗った。

「ゆっくりしていってね!」
「ゆっくりしていってね!」
 呼び声に答えて現れたのは、成体とは言えないがそこそこに育ったゆっくりまりさ。
――うん、これ位が突っつきがいあるんだよな。

「ちょっといいかな、頼みがあるんだけど……」
「ゆっ? たのみってなに?」
 変な事でもされるのかと疑っているのか、警戒しだすゆっくり。
 突っつくのは変な事と言えるかもしれないが、別に危害を加えるワケじゃない。オレは安心させるために、ちょっと距離を開けた。
「別に変な事を頼みたいワケじゃないんだ、ただ、ちょっとほっぺを突っつかせてもらえないかなぁ……と」
 オレの言葉がよっぽど不思議だったのか、小首を傾げる様な仕草をして、不思議そうに聞いてくるゆっくり。
「ゆ? まりさのほっぺを突っつきたいの? なんで?」
 理由を聞かれるのは毎回の事なので、スラスラと言葉が出てくる。
「君たちはとても柔らかいだろう? だから、突っつくととてもゆっくり出来るんだ。食事もゆっくり出来るスペースも全部お兄さんが用意するから、お兄さんの家でゆっくりしていかないかな?」
「ごはんもゆっくりポイントもつくってくれるの!? まりさいく! すきなだけまりさのほっぺをつっついてゆっくりしてね!!!」
 飯と場所を用意するという条件に惹かれたらしく、はやくはやくと、ゆっくりらしからぬ速さで行く事を了解するゆっくりまりさ。

――妙な事をするつもりはないけど、これだけゆっくりを安心させられるなら苛める事も出来るだろうな。
 まぁ、思うだけで現実にはやらない。ほっぺを突っついている方がよほど楽しいからだ。
 オレは苦笑いを浮かべつつ、ゆっくりと後を追いかけていった。

















 オレは今、つんつんとゆっくりのほっぺたを突っつき続けている。
 あまりに楽しいので、食事もロクに摂らず、もう一週間近く突っつき続けている。
 もちろん、食事を摂っていないのはオレだけだ。ゆっくりにはたっぷりと飯を与えている。
 ただし、ほっぺたを突っつきながらの食事なので、食べ難い事この上ないだろうが、最初にそれは約束したのだから我慢してもらう。
「……ゆ……やめ……」
 ゆっくりが何か頼む様な声を上げたが、これは正当な報酬なのだから無視して突っつき続ける。
「……たべもの……ゆっくり……させて……」
 更に突っつき続ける。
「おねがい……たすけて……ゆっくり……」
 突っつき続ける。
「もう……ころして……いや……」
 突っつき続ける。
「ゆっくり……ゆ、ふふふふふ……」
 くすぐったいのか、それとも何か楽しい事でもあったのかは分からないが、笑い始めた。
 だがそんな事は無視して突っつき続ける。
「ふふふふふふふふふふ……」
「柔らかいなぁ、良い感触だなぁ……」
 壊れた記憶装置の様に平坦な笑い声をあげるゆっくりを気にせず、オレはずっと突っつき続けていた。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2022年03月24日 23:49