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[[冬馬731~740]] 「悪い。少し遅れちまった」 玄関扉を開けた冬馬先輩の横を通って、周防さんが部屋に入ってくる。 「周防さん。こんにちは」 顔を合わせて、開口一番あいさつをする。 こんにちはとこんばんはの間くらいの時間になっている。 一瞬迷って、こんにちはを選んだ。 「愛菜ちゃん待たせちゃってごめんな。時間も無いしさっそく始めるかな」 (始める?) 「あの……周防さんが私に用があったんですよね」 「違うって。愛菜ちゃんから頼まれたって冬馬が言ってたぞ」 頭の中に?が飛び交う。 私、周防さんに何か頼み事なんてしていただろうか。 「冬馬。まさか愛菜ちゃんに説明せずに連れてきたんじゃないだろうな」 冬馬先輩の横に座った周防さんがジロッと睨む。 「あの、私に説明って何でしょうか」 意味が分からず、睨んだままの周防さんに尋ねる。 「愛菜ちゃんは勾玉との記憶を知りたいんだろう? 退行催眠をして欲しいんだよな」 周防さんの言葉でようやく合点がいく。 昨日、冬馬先輩にお願いした退行催眠。 きっと周防さんに依頼したんだろう。 「ようやく理解が追いつきました。そうです、私が先輩にお願いしたんです」 「ちょっと冬馬くん。報告連絡相談、ホウレンソウは大切だって教えたはずだけど」 周防さんはなぞの口調で冬馬先輩を責める。 「愛菜、すみません」 「反対していたのに私のお願いを聞いてくれたんだね。ありがとう」 「あれ、冬馬。……俺には謝罪無し?」 「……………」 冬馬先輩は何も言わず、少し乱暴に新しいペットボトルを置いた。 (なんだか兄弟みたい) 微笑ましく二人の様子を眺める。 周防さんは冬馬先輩の態度が気に入らなかったのか口を尖らせて拗ねていた。 「ふふっ……二人は本当に仲良しですね」 二人のやり取りが面白くて、つい笑ってしまう。 笑いをこらえるために体を揺らすと、胸元のロケットも一緒に揺れた。 「あれ? 愛菜ちゃんのそのペンダント、もしかして冬馬のロケット?」 周防さんは私がつけているロケットを指差して尋ねてくる。 半信半疑の口調からも、すごく驚いているように見える。 「さっき冬馬先輩からもらいました。このヘアピンもそうです」 私は前髪をとめている月のヘアピンを指先で触る。 「おや。おやおやおやおやおや?」 おもちゃを見つけた子供のように、生き生きしながら冬馬先輩を覗き込む。 「お前、女の子にプレゼントなんてあげるキャラじゃないだろ」 「…………」 「どうした? 急に色気づいたのか?」 「…………」 「あのロケット。俺には触らせてもくれなかったのに、どんな心境の変化なんだ?」 「…………」 「わかった、プレゼント作戦だ。恋愛のスペシャリストのお兄さんがどんな相談にも乗るぞ?」 冬馬先輩は真横に顔をそむける。 無表情だけどかなり嫌がっているみたいだ。 「違うんです。これは冬馬先輩が親切だからくれただけです」 弁解しない冬馬先輩の変わりに答える。 振られてしまった身としては辛い。 だけど周防さんが冬馬先輩を誤解しているように感じる。 その誤解だけはきっちり解かなくてはいけない。 「親切……?」 「ヘアピンはただの買い物のお礼ですし、ロケットは娘の私に返してくれただけなんです。深い理由は全く無いです」 説明していると段々悲しくなってくる。 すべて私のためにしてくれた事だったならどんなに嬉しかっただろう。 「愛菜ちゃん。ちょっと辛そうだぞ」 周防さんは私の顔を見て言う。 もしかしたら泣きそうな顔をしてしまったのかもしれない。 「全然、大丈夫ですよ」 私は無理に笑顔を作る。 悲しそうな顔をすれば、冬馬先輩はきっと困ってしまう。 迷惑なんてかけたくない。 「ちょっと冬馬。手ぇ、出せ」 「……いやだ」 「いいから」 「………見られたくない」 「少しだけだ」 「…………」 「ほら、早く貸せって」 周防さんは冬馬先輩の手を強引に掴む。 そして何かを探るように目を瞑った。 「……お前」 「…………」 「それがお前の答えなのか」 少し怒った口調で周防さんが尋ねる。 「………これが最善だから」 「本当にそう思うのか?」 しばらく冬馬先輩は動かなかった。 そしてゆっくり首を縦に振る。 「そうか。じゃあ俺はもう何も言わんさ」 そう言って周防さんは諦めたようにパッと手を離した。 (周防さん、冬馬先輩の心を読んだんだよね) 冬馬先輩の心の中。 覗いてみたいような覗くのが恐いような、複雑な気持ちだ。 結局、私を断った理由きけなかった。 別の誰かを想っているためだったら、すごく辛い。 主従関係のために仕方なく一緒にいるだけ……それも悲しい。 約束を果たす為に近づいたら勝手に好かれてしまって困っている……これが一番正解に近い気もする。 どちらにしろ私には覗く事も、理由をたずねる勇気も無い。 (だけど……) 今でも冬馬先輩に触れられただけでドキドキする。 少しでも長く一緒に居たいと思ってしまう。 先輩の事をもっと知りたいし、理解できたときはすごく嬉しい。 まだこんなに冬馬先輩を好きなままだ。 (もう少しだけ) (せめて諦めがつくまでは好きでいさせてください) 気持ちを読み取る事に長けた周防さんに悟られてはいけない。 ロケットを胸に抱き、小さなわがままだけを心の中にそっと仕舞いこんだ。 次へ[[冬馬751~760]]
[[冬馬731~740]] 「悪い。少し遅れちまった」 玄関扉を開けた冬馬先輩の横を通って、周防さんが部屋に入ってくる。 「周防さん。こんにちは」 顔を合わせて、開口一番あいさつをする。 こんにちはとこんばんはの間くらいの時間になっている。 一瞬迷って、こんにちはを選んだ。 「愛菜ちゃん待たせちゃってごめんな。時間も無いしさっそく始めるかな」 (始める?) 「あの……周防さんが私に用があったんですよね」 「違うって。愛菜ちゃんから頼まれたって冬馬が言ってたぞ」 頭の中に?が飛び交う。 私、周防さんに何か頼み事なんてしていただろうか。 「冬馬。まさか愛菜ちゃんに説明せずに連れてきたんじゃないだろうな」 冬馬先輩の横に座った周防さんがジロッと睨む。 「あの、私に説明って何でしょうか」 意味が分からず、睨んだままの周防さんに尋ねる。 「愛菜ちゃんは勾玉との記憶を知りたいんだろう? 退行催眠をして欲しいんだよな」 周防さんの言葉でようやく合点がいく。 昨日、冬馬先輩にお願いした退行催眠。 きっと周防さんに依頼したんだろう。 「ようやく理解が追いつきました。そうです、私が先輩にお願いしたんです」 「ちょっと冬馬くん。報告連絡相談、ホウレンソウは大切だって教えたはずだけど」 周防さんはなぞの口調で冬馬先輩を責める。 「愛菜、すみません」 「反対していたのに私のお願いを聞いてくれたんだね。ありがとう」 「あれ、冬馬。……俺には謝罪無し?」 「……………」 冬馬先輩は何も言わず、少し乱暴に新しいペットボトルを置いた。 (なんだか兄弟みたい) 微笑ましく二人の様子を眺める。 周防さんは冬馬先輩の態度が気に入らなかったのか口を尖らせて拗ねていた。 「ふふっ……二人は本当に仲良しですね」 二人のやり取りが面白くて、つい笑ってしまう。 笑いをこらえるために体を揺らすと、胸元のロケットも一緒に揺れた。 「あれ? 愛菜ちゃんのそのペンダント、もしかして冬馬のロケット?」 周防さんは私がつけているロケットを指差して尋ねてくる。 半信半疑の口調からも、すごく驚いているように見える。 「さっき冬馬先輩からもらいました。このヘアピンもそうです」 私は前髪をとめている月のヘアピンを指先で触る。 「おや。おやおやおやおやおや?」 おもちゃを見つけた子供のように、生き生きしながら冬馬先輩を覗き込む。 「お前、女の子にプレゼントなんてあげるキャラじゃないだろ」 「…………」 「どうした? 急に色気づいたのか?」 「…………」 「あのロケット。俺には触らせてもくれなかったのに、どんな心境の変化なんだ?」 「…………」 「わかった、プレゼント作戦だ。恋愛のスペシャリストのお兄さんがどんな相談にも乗るぞ?」 冬馬先輩は真横に顔をそむける。 無表情だけどかなり嫌がっているみたいだ。 「違うんです。これは冬馬先輩が親切だからくれただけです」 弁解しない冬馬先輩の変わりに答える。 振られてしまった身としては辛い。 だけど周防さんが冬馬先輩を誤解しているように感じる。 その誤解だけはきっちり解かなくてはいけない。 「親切……?」 「ヘアピンはただの買い物のお礼ですし、ロケットは娘の私に返してくれただけなんです。深い理由は全く無いです」 説明していると段々悲しくなってくる。 すべて私のためにしてくれた事だったならどんなに嬉しかっただろう。 「愛菜ちゃん。ちょっと辛そうだぞ」 周防さんは私の顔を見て言う。 もしかしたら泣きそうな顔をしてしまったのかもしれない。 「全然、大丈夫ですよ」 私は無理に笑顔を作る。 悲しそうな顔をすれば、冬馬先輩はきっと困ってしまう。 迷惑なんてかけたくない。 「ちょっと冬馬。手ぇ、出せ」 「……いやだ」 「いいから」 「………見られたくない」 「少しだけだ」 「…………」 「ほら、早く貸せって」 周防さんは冬馬先輩の手を強引に掴む。 そして何かを探るように目を瞑った。 「……お前」 「…………」 「それがお前の答えなのか」 少し怒った口調で周防さんが尋ねる。 「………これが最善だから」 「本当にそう思うのか?」 しばらく冬馬先輩は動かなかった。 そしてゆっくり首を縦に振る。 「そうか。じゃあ俺はもう何も言わんさ」 そう言って周防さんは諦めたようにパッと手を離した。 (周防さん、冬馬先輩の心を読んだんだよね) 冬馬先輩の心の中。 覗いてみたいような覗くのが恐いような、複雑な気持ちだ。 結局、私を断った理由はきけなかった。 別の誰かを想っているためだったら、すごく辛い。 主従関係のために仕方なく一緒にいるだけ……それも悲しい。 約束を果たす為に近づいたら勝手に好かれてしまって困っている……これが一番正解に近い気もする。 どちらにしろ私には覗く事も、理由をたずねる勇気も無い。 (だけど……) 今でも冬馬先輩に触れられただけでドキドキする。 少しでも長く一緒に居たいと思ってしまう。 先輩の事をもっと知りたいし、理解できたときはすごく嬉しい。 まだこんなに冬馬先輩を好きなままだ。 (もう少しだけ) (せめて諦めがつくまでは好きでいさせてください) 気持ちを読み取る事に長けた周防さんに悟られてはいけない。 ロケットを胸に抱き、小さなわがままだけを心の中にそっと仕舞いこんだ。 次へ[[冬馬751~760]]

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