原案=ズワイガニ
編著=Дальний Восток(杏珠)
作=Ageha

電脳鯖民所記


側での話である。時を同じくして横の部屋、011号室。そこでもまた2人の男が何やら話をしているようである。しかし、横の011号室と比べ幾分スムーズに話が進んだようだ。
「だからこの建物の中に人狼みたいなのがいるってことでしょ」
「つまりそいつに和紙らがティッシュを投げつければ勝ちってことやな(?)」
彼らは知る由もないが、どうやら011号室から014号室までは掲示板民が収容されているらしい。
「とりあえず横の部屋行ってみない」
「和紙も賛成」
彼らが目指すは前回彼女らが邂逅した010号室である。時計は3時10分を指していた。
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「なんか変な形してるよなぁここ」
「この左上の部分なんなんやろねw」
そう話すのは彼女ら、時計は3時8分を指していた。彼女らが見ているその紙は建物の形状やどこに誰がいるのかと言った簡略的なものを著すマップのようなものである。もちろん、それは約30分か40分前に行われたあの紙とペンによって著された。
彼女らが疑問の目を向けるは建物の左上、円形を帯びたホールのような場所である。中は思ったよりも広い。また、それは少しプラネタリウムを想起させるような場所でもある。
「そのうちここでなんか-」
その刹那。インターホンの音が部屋に鳴り響く。
「ちょっ見てくるわ」
1時間前と同じような光景。時計は3時12分。
「誰すか」
「和紙だよ和紙和紙、鷲田清一(?)」
「あーズワイガニか、あと1人は?」
「ぬーん」
「承知した。中に入るが良い。」
そうして2人の古参は010号室に招き入れられた。
「お2人はなんでこうなったか分かってるんですかーん?和紙はちなみにマグロがなんで泳げるのかぐらい分からん()」
「こっちも皆目見当がつかない」
「うちもわからへん」
刻一刻と時間が過ぎる中、1人があることを切り出す。
「あ、そういえばそっちは白やったん?」
他の3人が思い出したかのようにそれを意識する。
「あぁ、こっちは-」
ぬーんが言い出そうとしたその時である。
「あぁ、和紙らはどっちも黒やったで(?)」
と言いながら白いカードを差し出す。全くこのカニはつまらない冗談が好きなものである。しかし、確かにそこには2枚の白いカードが存在した。これにてこの4人の潔白は証明されたわけである。
「まじお前ビビるからやめろてそれ」
「ズワイガニよくないよ」
他愛もない会話ではあるが、この事は4人に絶大な安心感を与えた。来る次の事件までの数時間、彼女らはこれを糧にして現実を徐々に受け止め始めるのである。
「そういえばこれうちと杏珠がさっきこの建物回った時に書いたんやけど…」
蕣がそうして例のマップをさしだす。例の如く011号室の2人は興味津々である。しかしどうやら彼らもその最も興味を持つ対象は左上の円形部のようだ。
「杏珠これ何」
「吾輩らもよく分かってへん」
「とりまもう一回行ってみる?」
やることもない。3人はその意見に賛同することにした。目指すは左上の円形部。廊下は先ほどに増して騒々しい。おまけに気のせいかは知らないが少し蒸し暑くも感じる。本当に気のせいなのだろうか?
曲がり角を一つ曲がればすぐにそのホールは見えてくる。そこだけ妙に暗い。まるで4人の心の中にあるどこか暗い影のように、そして糸筋の不安のようであった。
ホールから見える窓の外には暗雲が立ち込めていた。しかし何故か窓からは光がさしているようである。照明はついていない。そして、そこのみが廊下よりも幾分天井が高くなっている。
「なんかに使うんかな…」
つぶやきは異常なほどに響く。もはや現実の物理法則に反しているようだ。
この場所は回の字型の左上に食い込むように位置しており、側面には長方形の小さな窓が無数に点在している。回の字型の左上に食い込むように位置しているとの通り、下方向、右方向から廊下が続いている。そして、ホールの入り口には意味深に消火器が置かれているのである。
「…!」
騒々とした建物から聞こえてくる2つの足音。いち早くその音に気付いたぬーんは脊髄反射的に音がする方向を向く。
「…男か」
身なり中学生ぐらいの子供がそこには2人立っている。名をば、21とジョイマンである。
「あれここ他にも人おるんやな」
その声で他の3人もその正体に気付く。
「ごめん誰」
結局のところ始めた声をかけるのは杏珠である。
「あすまん言い忘れてたわ俺ジョイマン、ほんでこいつが21」
「なんかジョイマンに言われるの嫌だな」
蕣以外の3人は瞬時に警戒が解ける。
「ごめんやけどうちわからん」
「あれよ掲示板の人」
「あーね」
「和紙らはここが気になって見にきたけどそっちも同じ感じか」
「いや、1回21と周り見てみようってなってたまたま来ただけや」
「あーなるほどね」
中庭側の窓からは光がさしてくる。そして、その光は傍に置かれる消火器にdreamcoreで見たような摩天楼を映し出している。一行は中庭からさす光に反射する消火器に映る摩天楼に夢のような遠さを感じた。
  • 時刻は3時半を回る…。-
最終更新:2025年07月26日 00:26