原案=ズワイガニ
編著=Дальний Восток(杏珠)
作=Ageha

電脳鯖民所記


「もしかしてズワイガニ!」
咄嗟に玄関へと向かう。そこで、ベッドに座る少女が一言。
「出ちゃダメ」
一瞬部屋の時が止まる。心なしか少し部屋の中が暗くなる。010号室特有の森の景色はざわめいている。蕣がドアに近付きゆっくりドアスコープを覗く。そこには誰も居なかった。
「…杏珠、どういうこと?」
「気迫」
「え?」
「気迫だよ。扉の前から気迫を感じた。」
「き、気迫?」
「そう、私たちを殺そうとする強い気迫をね。」
「あと、ズワイガニはまだ帰ってこない。」
「え?」
訳も分からぬまま、会話は進んでゆく。まるで杏珠は何者かに乗っ取られているかのようであった。
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「なんか隣の隣で人死んだらしいな」
「ね」
「わたくし達も安全とは言えなさそう」
005号室。部屋番の下には「佐藤・聖」とだけ名前が彫ってある。繋げて読めばフルネームのようにも見える組み合わせである。
「とりあえず、他の部屋の人にコンタクトとってみるのはアリだと思う」
「そうですね」
「とりま私はメスガキさんとふからゆさんのところに行ってきます」
「じゃあ俺ちるのの所いく」
「また後で会おう」
こうして2人はさっさと準備をして真逆の道を征く。
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「えまたインターホン鳴ったけど出ていいん」
「今回は良い」
「じゃあ開けるで?」
扉の前に居るのはX JAPAN、メスガキ、佐藤の3人。彼らが部屋に入った瞬間、不自然に伸びていた杏珠の横髪が短くなる。
「はっ…」
「杏珠!?」
「えっ?あぁ、うん」
「てかjapきてんじゃん、あと2人誰かわからんけど」
「你好」
「あ、佐藤さんか」
「生活保護受給したい」
「めすがきさんね」
実に手慣れた証明作業である。
「なんでそんないろんな部屋の人たちがここに、あとなんか杏珠は髪短くなったし」
ぬーんが問いかける。
「佐藤さんは普通に他の部屋見にきただけな」
「x japanさんとめすがきさんはなんかついてきただけやからな」
「へー」
自分で聞いた割には妙に無関心である。部屋には現状6人が集まっているが、6人が集まっている割に部屋に響く声は少ない。
「3人はカードとかないの」
「ぼくは白」
まずはじめに取り出すはメスガキである。そこには言葉通り白いカードが差し出されていた。
「ってことで俺も白な」
当然ながらX JAPANも白である。
「じゃあ佐藤さんは?」
昆布が続けて聞く。
「この流れで黒はないでしょ」
やはり、佐藤も白いカードである。これにて6人全員の"白"が確定されたと見られる。
彼らは依然日産とズワイガニの行方を知らない。
「人狼ゲームが終わるまで、この部屋にいる全員が生きてれば良いけどな」
一同は無言でそう呟く彼女の方を見る。
「ごめ、ちょっとトイレ行く」
浴室やトイレなど、生活に必要なものはすべて部屋に備え付けられている。空間こそ異常ではあるが、部屋は一般的なホテルの一室のように安定している。
残された5人。その時
「おはようございます。いくらか自分たちが置かれている状況を理解できましたか?まもなく、"集会"を開始します。参加者の皆様は、逐一███北西に位置する██████に向かってください。」
相変わらず音質の悪いスピーカー、困惑し吃驚する一同。今から約3時間か4時間前と同じ体感。一同は無言で、困惑しつつも例のホールへと向かう。部屋からは人が消える。ただ1人を残して。
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浴室には1人髪の伸びた少女がいる。
「やぁズワイガニ、そっちはどうかな。」
「和紙の方は特に何も、強いていうなら今日産がツタを登って脱出したことぐらいやな」
「"前回"私たちが死ぬ気で用意した脱出口が、役に立ったんだね。」
「そっちはどうなん」
「今放送あったよ、またホールに集まれってさ。私は行かないけど。」
「大丈夫なんかい、人狼来るんちゃうか」
「それが狙い。人狼が分かっとけば後々楽そうだしね。」
「でも今回そっちは"アレ"で脱出するつもりって前言ってなかったか」
「まぁね。」
「天井のベントは塞いでるはずだけど、どうやって入ってくるつもりなんだろ。」
「和紙にはさっぽろ(?)」
「笑。じゃあ、また後でね。」
「はいはいそっちも頑張ってー」
顔から無線機を離したズワイガニは日産を見送った地でふと後ろを見る。そこには-003号室「オストガロア・ほのぼの」とだけ彫られた部屋番がただ無機質に存在しているのみである。かつてそこは現在106鯖民、掲示板民らが集まっている場所のように、2階であった。しかし、現在は1階。それは暗に37鯖が過去のものになったということを示しているようにも見える。
「さ、和紙はもう少し様子を見るとしますか」
いつしか上へ続く階段は綺麗さっぱり無くなっていた。かつて2階であったその場所に立つはズワイガニ1人。いや、オストガロア1人と言った方が良いだろうか。上では足音が多くなる一方で、ホール以外の場所から音が消えてゆく。2人の"狂人"は、目的こそ違えど来るその時を慎重に待っていた。

  • 時刻は9時を回る…。-
最終更新:2025年07月29日 17:21