騒々しいホール。かつて見た景色。上にはやはり橋のような通路がある。
パッとホールが明るくなる。またしても暗雲の立ち込めた長方形の窓は消えている。今回はそれに加えてかつて日産とズワイガニが下へ降りて行った階段もである。
上の通路には静かに黒い影が現れる。同様にしっかりとした姿を見ることができない。
「ゲームマスター君やっぱり見えないのね」
「今回は何があるんだろう」
皆が上を見上げる。前回は同じく上を見上げていたはずの幾人かの姿はなかった。
「今日君たちを呼んだのは他でもない」
「そういえば、この人狼ゲームのルールを詳しく説明するのを忘れていたと思ってね。」
「このゲームは村人、つまり白陣営が最終的に勝てば何事もなく終わり、君たちは皆元の世界へ帰される」
「でももし、人狼が勝ったら、君たちはどうなるか…」
ホールに居る皆が息を呑む。何気もない仕草にその緊張度は高まる。
「まぁ、これは君たちの想像に任せようか」
「このゲームにおいて白陣営の勝利条件は"人狼を見つけ出し討伐すること"だ」
「一方で人狼は"白陣営を半数にまで減らす"それだけで良い」
「白陣営の君たちはこう思ったはずだ。"どうやって人狼を討伐すれば良いのか"とね」
「それは君たちが持っているカードに秘密が隠されている」
「君たち白陣営のカードを合計6枚集める。すると、その6枚のカードはたちまち合成されて1枚の黒いカードになる。それを人狼へと投げつけるだけ。」
「簡単だろ?」
ホールの人々がざわめく。1階にいるズワイガニにもそのざわめきは聞こえていた。
「でも1つ注意だ。もしその黒いカードを人狼でない誤った人物に投げると…」
「黒いカードは粉々に砕け散ってしまう」
「人狼は合計で2人。そしてそれを除いた参加者の人数は死者含めて24人」
「つまり、黒いカードを作るチャンスは4回しかない訳さ」
やはりざわめきは大きくなる。
「これ、うちら割ときつくない?」
「結構しんどい」
「協力プレイが大切になってきますわね」
「人狼とか言うチー牛さっさと殺して帰るわ」
ゲームマスターは続ける。
「あ、そうそう」
「カードが合成されて白が証明できなくなる!って思ってる人、いるよね」
「その心配はないよ」
「合成されたカードの代わりに証明カードというものが生成されるからね」
「僕の完全なる説明不足だったよ。それじゃあ、あとは頑張って!」
途端にホールが先ほどまでと同じ暗さに戻る。未だ群衆のざわめきは大きい。
「早速部屋戻って試してみるか」
「そやな」
「あなう」
いつしか6人へと拡大した010号室のコミュニティは部屋へ戻る。
「とりあえず、カードをここに集めて…」
小さな円形の机にカードが揃い始める。
「さよなら僕のカード…」
「これが佐藤さんのカードな」
「はいこれぼく」
「俺」
「これこんな感じに置けば良いんだよね」
「じゃあうちが最後において…はい!」
途端に円形の机に置かれた6枚のカードが発光する。いつしかその光は中央に集まり黄金比の長方形を形取った。少し待ってみるとその光は具現化し、中央にはゲームマスターの言う通り黒いカードが形成された。
「おーすごい」
「やるな笑笑」
それと同時に6人の手元には白いカードに代わる証明カードが現れた。
「どう言う原理やろ」
とにかく、これで人狼へ対抗する手段は一度確保された。しかしここで1つの疑問が浮かぶ。
「誰が持ちますかこれ」
「一旦ふからんさんでよくね」
「fkrn」
「じゃあ杏珠でいいか」
黒いカードを持った蕣がドアを叩く。
「杏珠ー?」
中からの返答はない。
「杏珠ー?大丈夫?」
変わらず中からの返答はない。
「杏珠…?開けんで…?」
部屋を出た時は閉まっていたドアが開いている。ドアはゆっくりと軋みながら開く。
「あれ…」
そこに杏珠の姿はなかった。そこにあるのはユニットバスのみである。
「杏珠が…おらん…」
困惑する蕣。側にいる4人も大まか同じである。しかし、1人は非常に冷静であった。
「じゃあわたくしが持つわ、カードはふからゆさんが帰ってきた時に渡せば良いし」
「え…まぁ分かった…」
蕣は黒く光るカードを佐藤に手渡す。その行動に1ミリの懐疑もなかった。
こうしてかつて杏珠、蕣2人のみであった010号室には今やぬーん、昆布、佐藤、X JAPAN、
メスガキ、そして不在ではあるが杏珠とズワイガニが集結する程の一大拠点となった。
「これで1枚カード出来て、あと作れるの3枚だよね」
「多分そうやと思う」
「蕣たしか建物のマップ持ってたでしょ?一回見て良い?」
「分かった」
「009号室はどっちのカードも使った、それで010号室、011号室、007号室、005号室は1枚ずつ…」
「あれ…」
ぬーんが何かに気付く。
「さっきゲームマスターは人狼を除いて26人参加者がいるって言ってたよね?」
一同は頷く。
「でもこれ計算したら人狼の2人を除いても26人になるんだよね」
「どうやっても黒いカード4枚を作るのに2枚分カードが余るんだよ」
「人狼が4人ってわけでもないと思うし…」
震撼。たしかに人数の合計は合わない。読者の皆様からすると狂人がいると思われるが、彼らも(人狼のような扱いではなければ)恐らく人間である。つまり、どうやっても人数は合わない。
単にゲームマスターのミスなのか、神であり作者の私のミスなのか、それとも別の何かなのかは分からないが、この合わない計算に一同は頭を捻らせる。