原案=ズワイガニ
編著=Дальний Восток(杏珠)
作=Ageha

電脳鯖民所記


「うゆちゃん、」
「なに?」
「私たち帰れるんかな」
「さぁ、わかんない」
002号室。ある時を境に隣室からの音がピタリと止んだ。今から約2時間ほど前の話である。
この時、002号室の2人は部屋でただただ困惑していた。朝ごはんは全く手がつかず、味噌汁は完全に冷め切ってしまっていた。唯一、卵焼きだけは少しかじられていた。
自らが置かれた状況に理解の追いつかない2人。テレビも付かず、ラジオもよくわからない音を発するばかりでまるで使い物にはならない。外の景色はなんの変哲もない市街地が映っている。
この時、隣の部屋からは激しく音が聞こえていた。小学生男児2人が騒ぐ音はそれはそれは大きい。しかし、それが002号室のこの2人に少しの安心感のようなものを与えていた。
2人はただ呆然とするしかない。それもそのはず、なにせ小学生女児2人が唐突に謎の空間へと連れてこられ、動揺しないはずがない。
「…あれ?」
何か異変に気付く。明らか隣の部屋からである。
「うゆちゃん、さっきより横の部屋の音激しくなってない?」
「んー…そう…?」
桜音の違和感は気のせいではなかった。この時隣室では確かに人狼が暴れ回っていたからである。
「ちょっと見てくるね」
こうして少女は1人部屋を出る。その時である。
003号室から008号室の方向へ走る1人の影を見た。そして、不意にその影は桜音と目が合ったのである。
「!」
桜音はすぐに部屋に逃げ帰った。そしてルームメイトである雨遊を連れて咄嗟に隣室、001号室へ助けを求める。
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「だから桜音と雨遊も居るのね」
5人になった001号室で聖が話す。
「5人になったから安全ではありそう」
「私やっぱり殺されるんかな…」
「桜音ちゃん大丈夫、安心して」
この直後、7話のような放送が部屋に鳴り響く。001号室の5人はホールへと出向かう。しかし、桜音は依然周りを警戒し恐れている。
ホールにつく。彼女らが到着した時点では、まだホールは暗いままであった。パッと明かりがつく。しかし、それでも彼女の心が明るくなることはなかった。
ゲームマスターの長い話、くどい話し方。恐怖心。このホールに集まる誰かの中にさっき目があった人間がいる。そう考えただけで彼女は重圧に押しつぶされそうであった。怖い、恐ろしい、先ほど蕣、ぬーん、昆布、もから4人が味わった恐怖とはまた別の感情。ゲームマスターの話はまるで耳に入らない。しかし、なぜか側に置かれている消火器だけは妙に目を奪われた。消火器に映る摩天楼に気を取られたのか、それともその他の何かなのか、それは一切分からない。雨遊もまたそんな彼女の様子を気にかけていた。
とぼとぼ部屋へ帰る。それでも、周りの会話は進んでゆく。
「カードを6枚合成したら黒いカードになって人狼を倒せるんだ」
「でもここ5人しかいないから1枚足りないよ」
「うーん…」
その時、誰かが鍵を閉め忘れたのか勢いよくドアが開く。桜音は怯えた表情をする。
「だ、だれ…?」
「突然驚かせて申し訳ない、杏珠です」
「「杏珠さん!?」」
その場にいた5人ほどの声が重なる。そして、彼女の横髪は短かった。
「杏珠さんがなんでここに…」
「ごめん、訳は後回しで」
「ひじりん」
「ア、ハイ」
他の人に声が聞こえないよう、部屋の隅に聖を寄せる。
「突然申し訳ない」
「先に言っておく、自分狂人」
「えぇ」
「自分はこれから特別な方法でここを出ようとしてる。本来狂人は村人側の人間を1人殺さないと勝ち判定にはならないけど、これなら誰も殺さずに抜けられるから」
「は、はい」
「だから、聖には自分が消えた時、これをみんなに渡してほしい」
とあるメモ切れを渡す。その紙ははじめ杏珠と蕣が使った紙と同じものである。
「でもなんで俺に」
「それは…実はもう1人伝えたいことがある人がいて、都合が良かったんだよ」
「でもその人と俺って本来違う部屋のはずでは」
「偶然だよ、もし同じ部屋にいなかったとしても2部屋回ってたから、関係ない」
こうして杏珠はドアの方へ歩いて行く。しかし、少しチルノへと寄り道をすると耳元でこう呟いた。
「人狼は██」
チルノは想像が沸いてなさげな顔をする。こうして彼女は部屋から出ていき、見なしホールの方へ歩いていった。
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「驚いたわ、まさかそんなことができるなんて」
「自分でも驚いた笑。まさかね…」
1階で談笑する2人。
「和紙の特殊能力はなんなんやろ」
「ま、そのうち分かるでしょ笑」
中庭は晴天。その一方で、どう言う原理か建物内は暗さを保っている。
「ズワイガニはどうするの?」
「和紙も人を殺すつもりはないよ」
「そっちも私の方法試すの?」
「いや、和紙はまた別の方法で」
「楽しみにしとくね笑」
横髪の伸びた可憐な少女は笑みを浮かべながらカードを取り出す。ズワイガニもまたその白いカードを取り出す。しかし、そのカードには「村人」と書かれた文字の横に星型の印が印字されていた。そして合わさった2枚のカードは光り輝きながら合わさってゆく。そしてたちまちその光は黄金比の長方形へ変わり、その姿を表した。
そのカードは、赤であった。
「さぁ、スーパーダンシングゴリラバトルの始まりだ」
「馬鹿なこと言わないでよ笑笑」

  • 時刻は同じく10時を回る…。-
最終更新:2025年07月31日 05:45