遡ること約1週間ほど前。誰もいない106鯖にジョイマンの参加ログだけが流れる。当然ながらジョイマン1人の鯖に流れるチャットは皆無である。そんな鯖に価値はない。
抜けようとしたその直後、"名無し"というユーザーがチャンネルに参加してきた。
その"名無し"というユーザーは早速ジョイマンに話しかける。
「ジョイマン」
「誰や」
「106鯖と掲示板を巻き込んだゲームマスターに興味はないか？」
「え？」
唐突な勧誘。飲み込めない状況。
「なんですかそれ」
「そのまんまの通りだ。106鯖民と掲示板民みんなを巻き込んだゲームのゲームマスターに興味はないかと聞いてるんだ」
ジョイマンは徐々にその話に呑み込まれてゆく。
「やりたいです」
「分かった。今から大体1週間以内、目覚めてよく分からない場所にいたらゲームが始まったと思え。」
「え？目覚めたら？」
名無しはそれだけ言い残すとチャンネルから退室した。
またもジョイマン1人の106鯖。そこに残るのは困惑と好奇心、そして微かな恐怖心のみであった。
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「うちらはとりあえず集まってたら安全なんかな」
「安全だとは思うけど多分人狼も行動してこないからゲームが終わらない気がする」
「ローリスクローリターンって奴やからな」
「ならやっぱりちょっと分かれて行動した方がいいんかな」
「一回各自部屋戻るか」
そうして各自は部屋へ回帰。しかし、両方ルームメイトが行方不明な蕣と昆布のみ010号室に残留することとなった。
これは回帰した1組の会話内容である。
「さっき教えてもらったけどカードを6枚合成したら黒いカードになって人狼倒せるんよね」
「そうだよ」
「じゃあ和紙ついでに003号室のカード2枚取ってくるわ」
「そういえばあのカードそのままか」
こうしてぬーんとズワイガニもまた真逆の道を征く。
ズワイガニは003号室の前に立つ。そして、ゆっくりとドアを開く。やはりドアは軋みながらゆっくりと、着実に開いてゆく。部屋にはズワイガニの足音だけが響く。
部屋は散乱している。ベッドは傾き、ソファは滅茶苦茶な位置に移動させられている。地面に散乱した白い2枚のカードは当時の痕跡を生々しく残している。
「これかー」
ズワイガニは2枚のカードを拾い上げる。すると、その2枚のカードはたちまち光に包まれ「村人」の文字の横に星型の印を映し出した。
ズワイガニはさっき杏珠とそれをしたようにその2枚のカードを重ねると、合わさった2枚のカードは光り輝きながら合わさってゆく。そしてたちまちその光は黄金比の長方形へ変わり、その姿を表した。
同じく赤いカードである。そして、それにプラスして白いカードが2枚地面に落ちた。ズワイガニが所持する赤いカードは現在2枚、白いカードは落ちた2枚のカードとズワイガニ自身のカード合わせて3枚である。
ズワイガニは2枚の白いカードをポケットに忍ばせる。部屋を出た彼は赤いカードを両手に携帯する。そして、部屋の中に向かってその赤いカードを2枚投げつけた。
最光、すざまるのカードから、星印はなくなっていた。
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「ちるの、あんじゅはなんて言ってたの」
「人狼が誰かって…」
「誰なの？」
「言っていいのか分からない」
「いいよ」
「あのなんか掲示板の人」
「21だっけ？」
010号室の反対側。001号室の会話。
「でも21の部屋の人死んでなかったっけ」
「ジョイマンか」
「そう、だからなんかよくわからない」
「杏珠さんが嘘ついた可能性もあるのかな」
謎は深まるばかりである。その中で紫猫が呟く。
「…ジョイマンはもしかして死んでない？」
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場面は変わりホール。アカツキは中庭をただ眺めていた。数年前に見た光景。それをこの中庭を見ながらただ思い出す。
「あれ？」
後ろから声がする。
「akatukiさんじゃん、何してんの」
「あ、杏珠。って言うか当時は
ほのぼのか」
「感傷に浸ってる感じか」
「まぁそんな感じ」
一瞬中庭から目を離した隙、眩い光が走った。
「え」
見れば中庭に何者かが立っている。
「うっそだろがちか」
1人がホールの奥へと走る。
「ちょ、akatukiさんも来て」
手を引っ張るように2人はホールの壁へ向かう。そこに杏珠の持つ白いカードをかざすと、壁が透け下へ続く階段が現れた。
「えぇ」
困惑のうち"MIND YOUR HEAD"の看板を通り過ぎ1階に着く。
「あれ、なんか見覚えあるな」
「俺もなんか見覚えある」
その男は中庭の扉を内側から開けて階段へと近付いてくる。
「え嘘だろ」
「まじ」
「「ガオーさんじゃん」」
2人の声が重なる。そこに立っていたのは確かに、すとさんことガオーさんであった。4年前と変わらぬ姿。ズワイガニもまた2階からその様子を伺っていた。
4年前にも参加した面々は、未だその記憶を引き継いでいるのであった。
「ゲームを終わらせにきたわ」
