原案=ズワイガニ
編著=Дальний Восток(杏珠)
作=Ageha

電脳鯖民所記


「どこ行ったんや」
かつてそこにいたであろう人の気配は陽炎のように曖昧になり、そして消えていった。彼らにとってそれは人為的な事象ではなく、どこか幾何学的な超常現象の連続に見えた。上を向いたレバーを見ながら21はつぶやく。
「レバー倒してなかったら良いんだけど」
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「1回他の部屋回ってみるのもありだと思う」
「人は居たら居るだけ良いし」
恐らく、現在この空間に存在するであろう5勢力の中で最も大きな集団である。彼らの唯一の欠点は黒カードの不所持。ただそれのみである。
彼らは廊下の暗いカーペットの上に立つ。そこに立つのは5人。001号室での待機はなし。
彼らがはじめに目指すのは001号室から最も近く、彼らのコミュニティにもある程度関連性のある004号室である。
角部屋。
ホールから最も遠い角。この空間は誰しもが心のどこかで見覚えがあり、懐かしいと思う。しかし何故かそれは不気味に映るのである。それは角部屋のドアを見た時も同様であった。
1人がインターホンを鳴らす。そこに現れたのはやけに動揺したもかの姿である。
「なんか動揺してる?」
「なんか急にれいが消えて…」
「消えたとは」
「いや、ほんと喋ってる途中に急に」
「神隠しかな」
「それでなんか…」
彼女もつくづく不憫である。かつては隣人の死に直面し、この度はルームメイトの消滅。ただでさえ孤独感を感じやすいこの空間においてルームメイトの消失はかなりのダメージがあると言えよう。そして更に彼女は蕣や昆布らと違ってルームメイトの代わりとなる"仲間"なる存在が現状不在なわけである。考えれば考えるほど存外不憫である。
「えぇ…」
「ほんまにどうしよこれから」
「じゃああたいたちの部屋来る?」
「え」
「いいの?」
「いいよ」
「歓迎」
「…」
瞬刻の間。彼女の心の中に浮かぶは一抹の不安と葛藤のようなものである。
決心がつくかは彼女次第。われわれが関知するところではない。
「行く」
「くる?」
「うん、行く」
晴れて彼女は"彼ら"の1部となった。ここで彼らは例の黒いカードの作成が可能となったのである。
「1回部屋戻るか」
「わかった」
この収穫ははっきり言ってかなり大きい。こういった物語調のものに作者である私自身が論評するのはいわゆる"蛇足"と呼ばれるものなのだが、少しだけ私に話す機会を与えて欲しい。
彼らは現状黒カード、騎士、人数有利など非常に優位な位置にあるように思える。確かにこの情報だけ見れば彼らは間違いなく難攻不落の要塞だ。
しかし私が今話したのは仮にも内側からの脅威がない場合の話である。視点を変えて見てみよう。
彼らは全体的に低い年齢層で構成されている。大抵が小中学生。失礼な言い方をするが、当然ながら精神が未熟な者も居るだろう。そう言った人間が仮にも内側からの襲撃を受けた時、本当に柔軟に対応することができるだろうか?
何が起きるかわからない。それがこの空間の最も大きな脅威なのである。私がいちいちこんな事を"蛇足"と称してまで書くには一定の意味があるのだろうと読者の皆様に伝われば良いのだが。
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他の部屋を覗いてみると、さらに面白いことが起きていた。010号室。そこには3人の人間が居る。蕣、ぬーん、それと1人。
珠妃である。
さっき私が余計な"蛇足"を加えた代わりに、何故珠妃が010号室にいて、昆布がいないのかという説明は省かせてもらおう。ヒントは、レバーである。

1階。仄暗い廊下。そしてそれを象徴する013号室と彫られたドア。例の3人である。
「ガオーさん今何したの」
「無限爆弾してから全員のマップ外してここに湧かせた」
「つよ」
「実際レバーがなんなのかいまいちわからんかったし、ふなっしー(?)」
他の部屋と比べ幾分アナーキーな雰囲気のある集団である。彼らの利点は1人圧倒的な力を持つチーターがいること、狂人のみ操作できる鉄壁の壁があること、そして裏切り者が存在しないことである(これは伏線的な意味ではなく、本当に裏切り者が居ないという意)。
彼らの圧倒的で最も大きな利点は今すぐにでも脱出できるという担保であろう。彼らの目的はこのゲームから生きて生還すること、と言うよりかは"ゲームを終わらせること"である。
「ガオーさんってそう言えば何できるの」
「無限爆弾、増殖、秘密化、巨大化、マップ外、瞬間移動etc...」
「何でもできるじゃんガチで」
「基本なんでも」
「人狼倒せたりしないの」
「出来るとは思うけど試してないから不明」
「黄色カード無効化は」
「あれは隠れん坊関係ないから無理」
「カードって隠れん坊関係ないん?」
直後、簡易的な基地と化したその場所に突如として昼食が湧いた。
「!?」
「あ、そっか昼ごはんか」
「ふーん」
相変わらず質素である。しかし、味は決して悪くない。
「これジョイマンが作ってんのかな」
「ジョイマンがこんな料理20人分ぐらい作れるわけないでしょ!良い加減にしないと家にトリックオアトリート史上最悪の男ジェイくるよ!!!」
「誰なんだ…」
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「まだ…」





  • 時刻は14時を回る…。-
最終更新:2025年08月07日 23:16