原案=ズワイガニ
編著=Дальний Восток(杏珠)
作=Ageha

電脳鯖民所記



「これを6枚合わせれば…」
001号室。私が前回蛇足として加えたように、彼らは現状内側からの脅威を除けば難攻不落の要塞である。
6枚のカードは例によって1つの光となって中央に集まる。そして、その中央部に形成された黄金比の光は実体化しそのうち黒さを帯びる。こうして001号室は黒のカードを手に入れた。この空間においては2番目の取得である。
「誰が持つ?」
「騎士のチルノとか…」
「え」
「一回チルノに預けよ」
黒カードは人狼に対抗しうる唯一と言って良い策である。というか、作者である私自身17話執筆中の現在、これ以外の対抗策を全く用意していない。
………………………………………………………………
そういえば、彼らはどうやら他の部屋を回りたいらしい。確かに彼らのネットワークはかなり狭い。外の世界を知ることにこしたことはないだろう。
はじめに彼らが回るのは002号室の方向である。002号室からホールを通って一周する算段らしい。
しかし、あまりこの道中というのは大切ではない。問題は010号室に差し掛かったところである。
「あれ、ここも表札に1人しか名前が書いてない」
「そういう部屋なのかな」
010号室の前で少したむろする001号室の面々。1人が好奇心の余りにインターホンを鳴らす。
そこから出てきたのは、蕣、ぬーん、そして珠妃の3人であった。
「あれ?なんか思ったより多い」
「この集団はどこの部屋の方々」
「あたいがチルノでこれがたたくみさん」
「桜音と雨遊」
「聖です」
「あーね?」
「001号室とかあっちの方の人たちか」
「うちが蕣でこの横の人がたまき、でその横がぬーん」
「なるほど」
最早誰が喋っているのか私にも全く分からないが、なんとなく打ち解けたようである。
「今からホールの方行くんですけど来ます?」
「ついでについていこかな、あんまここの建物のことわかってないし」
「じゃあうちも」
「俺も」
そこに昆布の姿はなかった。
ホールに軽い人だかりができる。途端にホールに白い煙のようなものが立ち込める。
「あ、これやばい」
1人が霧の中で呟く。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
下の階にいるズワイガニらにも上の階の異常は感じ取れたらしい。
「なんか上騒がしくね」
「和紙がちょっと見るわ」
ズワイガニが階段を登る。ホールに出て真っ先に目に飛び込んだのは白い霧の中で何者かが激しく動き回る影であった。
「これは非常にもうひじょ〜〜に、まずい」
すぐに下の階へ避難する。
「なんか霧がかかっててその中で誰かが暴れてた、タキシード紳士ゴリラがスーパーダンシングゴリラバトルしてるのかもしれない(?)」
「いまいち何言ってるのか分からん」
「有象無象が暴れとんのか」
上から聞こえる音はまさに地獄である。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
遠くから走る音がする。その音がした直後、ホールの霧がぱっと晴れる。その何者かは014号室の側に刺さる誰かが投げたであろう黒カードを拾い、咄嗟に霧の中から現れたであろう21に向かってそれを投げつけた。
的中である。
「え、まじか…」
そこに本来居るであろうジョイマンの姿は消えていた。
黒いカードが的中した21の体からは光の粒子が漏れながら徐々に透明になっていく。そして彼は消えていった。音もなく、ただ静かにである。
「え」
「日産…?」
014号室の側に立つのは日産であった。かつて1階のツタを登ったはずの、日産である。
ズワイガニはマジックミラーになっている壁の内側からその様子を見ていた。
「俺実は脱出してなかったんだ」
「このまま脱出したら106の人たちに申し訳なかったし」
その場にいた蕣、ぬーん、珠妃、雨遊、聖、紫猫、チルノ、もか、そしてそれを少し離れて傍観するズワイガニ。その場にいる8人の動きが止まった。
未だ動揺する一同。21がいた痕跡は完全に消えていた。
ホールは暗い。いつのまにか外には豪雨が吹き荒れていた。そしていつもホールの端に置いてあった摩天楼を反射する消火器は、なくなっていた。
その場にいた人間にとってその1秒1秒はとても長く感じられた。目の前で起きたショッキングな出来事の数々にただただ動揺する。
その時である。
日産の背後に例の消火器が見えた。その瞬間、蕣は咄嗟に目を伏せた。次に彼女が目を開けた時、すでに事は終わっていた。
倒れ込む日産。
そしてその背後に消火器を持って立つのは桜音である。
一同の1人が甲高い声で叫ぶ。眼前で起きた事態にやはり処理が追いつかないのである。
「あぁ、あ…」
誰かの言葉にならない声がホールに儚く散る。中庭から見える豪雨はさらに激しさを増す。
「ズワイガニー?」
下の階からの声も聞こえない。ズワイガニは一部始終を深刻そうな顔をして見るばかりであった。なおガオーさんはそんな様子に目も暮れず昼食を食べ続けていた。
日産の体は先ほどのように白い粒子を放ちながら消えていった。音もなく、ただ静かに。そして、ただただ、儚く。
最終更新:2025年08月08日 23:40