原案=
ズワイガニ
編著=Дальний Восток(杏珠)
作=Ageha
電脳鯖民所記
外にひろがる緑の景色に思わず手が伸びる。しかし、縁から外にその手が届くことは決してなかった。透明なバリアのような何かがその手を阻むのである。
叩いたり、殴ったり、部屋にあるあらゆるものを使ってそのバリアを破壊しようと試みるが、うまくいくことはなかった。
「やっぱり無理なのかこれ」
独り言が溢れる。私が前回奈良県広陵町や山形県鮎川村などと形容したその景色は全く変わらず未だそこに在った。
諦めて013号室を探そう。そう考えて後ろを振り返ったその時である。ベッド横の机に置かれた白いカードに目が映った。003号室に1人佇む少年はそれを手に取り、無理も承知でそれを窓枠のバリアに切りつけた。
少しだけバリアに裂け目のような亀裂が走る。
少年は何度も何度も切りつけ続けた。そして、ついにバリアはガラスのように破壊された。かけらのようなものは歪みながら捻れ消えていった。
めろんは外に手を伸ばす。外に手が出る。そして慎重に足をかけ、建物から出る。めろんが出た建物は灰色のコンクリートの塊である。その姿は、廃墟にしか見えなかった。
「え?」
最寄りの道には看板が立っていた。
「ようこそ日本酒発祥の地 宍粟市へ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
音が止まった。
「また時止まったくない」
「さすがにもう止まったりせんやろ」
少しの間。
「もうダルすぎてだるま落とし(?)」
「また止まってるんやっぱり」
「完全に止まってた」
「またレバー下げないとダメなの」
「そうなりますわね」
「だるい」
「和紙蕣とかにバレたら面倒だからアシュリーさん行ってきて」
「最悪やん」
そしてアカツキは1人階段を登ってゆく。013号室。やはりドアはない。
「うっわジョイマンおるやん」
目の前にはジョイマンともう1人の男の影がある。
「ズワイガニー!」
013号室の外からズワイガニを大声で呼ぶ。前がホールだからか少し大きめにその声は響く。
「なんかあったか」
「いやジョイマンともう1人誰か居るからどうすればいいかなって」
「赤レッドクリムゾン赤赤スカーレットゴリラと白スーツ陽気ゴリラと黒スーツサングラスゴリラを…」
「今はふざける時じゃないでしょ」
「和紙もどうすればいいかわからん」
「じゃあずっと止まったままなんか」
「…ちょっと待ってて」
ズワイガニは無線機を取り出すと、少しの間013号室を離れる。1人013号室の前に残されるアカツキ。ジョイマンともう1人が動かないとは分かっていてもなにか恐ろしく感じられた。彼らは廊下から見ると死角になっており見えない。しかし、確かにそこに存在するのである。
ズワイガニが帰ってくるとアカツキの前を通り過ぎたところで話す。
「一回下の階帰ってきて」
「このままだと動かないままでは」
「いいから一回下の階に来なさい!!!!!!!!」
そして彼らは1階に戻る。"MIND YOUR HEAD"の看板はいつしか消えていた。
「ズワイガニどうするつもりなのこれ」
「どうにでもなるよこれぐらい」
ズワイガニはいつかのめろんのように中庭ばかり見ている。中庭からはツタが降りている。
「ほら来た」
どこかでガオーさんが墜落した時のように、中庭に眩い光がひろがる。光の中から1人の少女が現れる。
「久しぶり」
「さっき会ったばっかやろ」
「杏珠じゃんなんで」
「いや俺はトリックオアトリート史上最悪の男ジェイな」
「そうだよこの人はジェイだから」
「杏珠とかいう無名と一緒にしないで、誰やねんマジで」
「え?」
そして"トリックオアトリート史上最悪の男ジェイ"を名乗る少女は髪を結び、マスクとサングラスをつけて上へ登る。横髪は短い。
「あれ杏珠だよね?」
「ジェイ」
「いや杏珠やん」
「ジェイ」
要領を得ない答えである。
少しすると上からの声が戻る。それとほぼ同時に中庭へ飛び降りツタを登る先ほどの少女の姿が見える。
「えほんとにどういうこと」
「あの人は1回ここを出て現実世界の状態でまたここに入ったから人狼からの攻撃を受けないんだよ」
「???」
「というかもう1回ここに来たってやっぱりあんじゅ…」
「ジェイな」
「は、はぁ…」
「というか何も説明せずとも時が動いたってことはレバーのこと知ってたのあの人」
「多分そう」
「あーもうわけがわからん」
少しずつ2階からの足音のようなものが少なくなっていく。
「ガチで言うと多分37鯖の時からレバーのことは気付いてたと思う」
「えまじで」
「37鯖の時は部屋同じだったから分かるけど、やっぱり"変わってる人"だから」
「それは俺も思うけど」
「まぁ、和紙はまだレバーの仕組み全く分かってないけどな」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「誰やねん今のやつ攻撃しても死ねへんし」
「ほんま腹立つわ」
013号室。2人の男。
「俺はどうすればいいの」
「お前は俺に協力してくれれば良い」
「そうか」
「やっぱり人狼のこと殺せる黒カード持ちは早いめに殺しときたいわ」
「じゃあ次はこの部屋か」
「そう」
「次は"この部屋"を攻める」
最終更新:2025年08月10日 23:27