原案=
ズワイガニ
編著=Дальний Восток(杏珠)
作=Ageha
電脳鯖民所記
001号室のインターホンが鳴る。
「えだれ」
「たぶん佐藤さん」
ドアスコープには佐藤が映る。ドアが開く。
「決まりましたか」
「決まった」
「合流しよう」
「やっぱりそれが無難か」
佐藤陣営はこうして聖陣営へと合流した。生き残った人々の離反と決裂、そして協力。かつて幾つもの集団に別れていたこの空間の諸君はついに共通の敵へと向けて手を組み始めたのである。
「俺らも他の部屋行こう」
「人が少なくなってきてる以上大人数での行動が安牌」
「確かに」
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「うちらほんまにここおって良いんかな」
「それは俺も思った」
「1回他の部屋と合流した方が良いかやっぱり」
「杏珠とズワイガニも帰って来へんし行こ」
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一方でズワイガニらは壁越しにホールを覗いていた。
「蕣とぬーんおる」
「まじで」
「1回こっちに来させるか」
壁が透けて階段が現れる。
「蕣とぬーん、ありますか〜?」
「あれズワイガニじゃね?」
「まじか行こ早く」
010号室はホールから真っ直ぐいったところの少し奥にある。ズワイガニの声が聞こえた瞬間に2人は駆け出し始める
それと同時に001号室に集まっている聖、
チルノ、佐藤らも部屋から出てきたところである。佐藤には駆け出す2人の後ろに不穏な影が見えた。ちょうど013号室の前辺り、"人狼"の部屋である。
その瞬間、後ろから現れた謎の拳に、3回殴られた。
「え」
走る2人のうち1人が突然倒れる。佐藤は前に踏み出し、自身が持つラスト1枚の黒いカードを、その影に向かって投げつけた。
的中。ホールの直前に倒れる2人分の体。
駆ける1人と佐藤は壁に開いた地下への道に飛び込んだ。それに感化されたように聖はチルノの体を引っ張って無理やりそこに入り込んだ。
置き去りになった2人の体は粒子を放って空気中に消えていった。隅に転がった消化器はただただ無機質にそこに存在していた。
「ガチか…」
「これわたしたちジョイマン倒したから勝ちなのでは」
「あれはジョイマンじゃない」
「あれジョイマンじゃないの」
「ぬーん…」
様々な声が飛び交う。依然状況の整理はできていない。
「これもしかして今黒のカード使ったの間違いだったか」
「あれは多分ジョイマンじゃなかったけど消えたってことは人狼側の人間ではあったってことでしょ」
「それもそうか」
1階ときざはしの半ばに立つ7人。今やこの空間で生きているのはそれとジョイマンの総勢8人のみである。
「てかこの人侵入者?」
「すとさんな」
「すとさんか」
「すとさんなら許します」
ズワイガニは離れたところで無線機を使用している。そして無線機を顔から離すと聖を呼び、何か話す。対して、蕣なんかはいまだ動揺している。
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「…」
ジョイマンは上の通路から静かにことの顛末を見ていた。突然開いた壁。今後の展開。全てに頭を悩ませていた。1階をどうやって攻略すれば良いか。いくら黒いカードを持っていないのだとしても、1階に入る手段がなければ土俵にすら立てない。それでも中庭の豪雨は勢いを増すばかりで、大きな雷の光が建物内を明るく照らしていた。
これ以上レバーを使用するのもかなりハイリスクである。
天井裏のダクトは役に立たない。レバーも使えない。透明化ももう出来ない。そして唯一の味方であった狂人は目の前で消えた。
ジョイマンの意識下にあった"勝利"の2文字が一瞬霞む。
その時、ジョイマンの目に一冊のノートが映る。
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「これジョイマンもここ入ってくる可能性あるんよな」
「えなんで」
「あの階段の横の扉だけ014号室と全く同じマークが彫られてる」
「ワンチャン繋がってるかもしれない」
「えやばくね普通に」
「和紙が先手を打っといたから安心しといてくれ」
「突然ブルー青サファイヤブルー青青ターコイズブルーオーバードライブゴリラさんが壁ぶち破って皆殺しにする可能性もあるからな」
「お前が(スーパーダンシングゴリラバトル)No.1だ」
「だからふざけてる場合じゃないでしょ普通に」
「人狼に対抗できる黒いカードも失ったんだから」
「それが結構問題」
2階はまるで静かである。物音の1つさえもしない。
「正直俺もうこうするしかないと思うんだけど」
佐藤が話し始める…。
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ジョイマンが1人廊下を歩く。
階段に立っていたアカツキが佐藤の話を聞きながらその様子を見ていた。
ジョイマンは013号室の横の部屋に入る。表札にはΦのようなマークのみが彫られている。
「!」
1階で音が響く。014号室の真下の部屋である。
アカツキが階段を降りて叫ぶ。
「やばいジョイマン出てくるかも」
しかしドアは開かない。
「やっぱり和紙の予想が当たってたか」
「ただこれもあんまり時間がない」
そして、佐藤が一言呟く。
「5時が決戦の時な」
最終更新:2025年08月13日 23:07