原案=
ズワイガニ
編著=Дальний Восток(杏珠)
作=Ageha
電脳鯖民所記
時刻は17時を回る。
ズワイガニは蕣に何かを託し、階段を登ってゆく。
それと同時に佐藤が駆け出す。中庭の天気はいつしか吹雪に変わっていた。
「…?」
ジョイマンはその様子を不思議そうに上の通路から見ていた。多少の疑念は抱きつつも、これほどのチャンスはない。ダクトを用いて佐藤の行方を追う。
その間、アカツキは中庭に避難していた。当然ながら吹雪の中で体温が奪われる。ドアを屋根代わりにして、ただただ耐えるのである。
蕣は001号室に姿を隠していた。ホールにはかつて自身が持ち出した椅子と、かつて日産の命を奪った消火器で武装しているズワイガニが居る。
ガオーさんはジョイマンがいなくなったのを見計らって上の通路へ登る。
聖、
チルノらは1階へと続く階段でその時が来るのを待つ。
総員は全員配置についた。時刻は17時3分ごろ。
佐藤は003号室の前で立ち止まる。
「ゲームマスター(笑)くんこないの」
「自分から来てくれるなんてありがたいわ」
003号室からジョイマンが現れる。その途端、佐藤が再びホールの方向へと走り出す。
「このゲームはゲームマスターに有利なように出来てるって分からんか?」
ジョイマンの速度があがる。
014号室の前ほどでついに佐藤はジョイマンに追い付かれる。かつて2人が倒れた場所に同じく倒れ込む佐藤。体から粒子が漏れるその時、叫んだ。
「カニくんとすとさん今!」
その瞬間隅に隠れていたズワイガニが椅子を持ってジョイマンに殴りかかる。
「和紙のスーパーダンシングチェアアタックを食らえ!!!!」
上からはガオーさんの銃による援護。しかし、ジョイマンには全く効いていない。
「ズワイガニもなかなか愚かだな」
ジョイマンの手がズワイガニに延びる。その瞬間、ガオーさんの爆弾によって例の煙が発生する。
「なかなかやるやんけお前ら」
「和紙はネタキャラ補正で生き残るからな」
ジョイマンの背後にガオーさんが舞い降りる。そして音もなくジョイマンの頭を28.BANKで殴った。
「えぐそれ」
「隠れん坊オンラインから取り寄せたオーダーメイドやからな」
「てか、お前が侵入者か」
ジョイマンの口元が少し笑う。ジョイマンはポケットからカードを取り出しガオーさんに投げつける。
「wtf」
「は?なんで死なないん」
そこにズワイガニからの追撃。
「鬱陶しいな」
ジョイマンの手がズワイガニに触れる。
「1回触れたか」
「あと2回」
ジョイマンはズワイガニを優先的に攻撃する。しかし、全て避けられるか椅子、消火器に当たるばかりである。
ガオーさんもすかさず追撃。キャンプのライフルなんかを使ってもジョイマンの体に傷はつかない。
「侵入者しつこいな」
ジョイマンはもう1枚カードを投げつける。
命中した。
ガオーさんの体から光の粒子が漏れる。
「花王さん!?」
ズワイガニがふと隙を見せた瞬間、ジョイマンの2発目が的中する。
「次はズワイガニお前やぞ」
ガオーさんは静かに消えていった。しかし、消滅の感傷に浸る暇はない。ジョイマンの攻撃は激しさを増すばかりである。
「矢部」
そして、とうとうジョイマンの一撃がズワイガニに的中した。
力を失ったように椅子と消火器を落とした。力無く階段の方へ向かうズワイガニ。そして最後の力を振り絞り階段の壁を開ける。ズワイガニはその姿勢のまま光の粒子を放ち消えた。
「味方の場所をバラすなんて最後までバカなカニだったな」
「ひじり来たよ」
「分かってる」
階段に立つチルノと聖はジョイマンを視認した途端、1階へと逃げる。
そして-001号室、-014号室側へと二手で逃げ始めた。
「手間かけさせんなや」
しかし、ジョイマンの速さに-014号室側へと逃げた聖はすぐに追い付かれる。
「はやすぎ」
「まぁ人狼だからね」
さっさと聖を消したジョイマンはもう片方、-001号室側のチルノへと向かう。
「抵抗しても無駄だって分かってるだろ」
その声が聞こえた瞬間、チルノは光の粒子を発していた。
「えぇ」
チルノが最後に見た光景は、ジョイマンが真ん中の扉へと迫っていく光景のみであった。
「何も見えない吹雪の中に隠れるとはまた面倒な」
ジョイマンは猛吹雪の中真ん中へ向かっていく。
アカツキはジョイマンが見えた瞬間、ドアを上から横に倒し盾のように構えた。
「お前かうちの部屋のドア盗んだの!」
「俺じゃねえよ!」
ジョイマンの攻撃は全てドアに防がれていく。
「お前が盗んだんじゃないならこのドアなんやねん」
「ズワイガニが椅子でぶっ壊したやつ押し付けられただけ!」
蕣は001号室から出て2階から中庭を眺めていた。そして目を閉じて少し祈る。
「このドアだるすぎやろ」
ジョイマンは力を貯めてドアを攻撃する。
ドアは、壊れていた。
「え?」
「これで殺しやすい」
「えやばい」
アカツキが動揺する間にジョイマンの攻撃が3発当たる。
「まじか…」
「黒カードのないお前らなんか怖くないんだよな」
蕣は後ろから肩を叩かれる。
「申し訳ない遅くなった」
「え」
「蕣!それ空に投げて!」
「え、はい!」
カードが白い空に消え、さっきまでの猛吹雪が嘘のように空が雲ひとつなく消える。
ジョイマンがその様子に困惑している時、既に"それ"は終わっていた。
「は?」
ジョイマンの体はかつて21がそうなったように光りはじめ、透けていた。
「極東…お前…」
言い終わる間も無くジョイマンは消えた。
中庭に立つ1人の少女の横髪は、短かった。
蕣はその様子を見届けたまま意識を失った。
聞き覚えのある効果音と共に。
最終更新:2025年08月14日 17:56