京子→ちなつ←結衣

「先輩~」「…おいで」
ちなつちゃんが寄ってきて、膝の上に頭を乗せる。暑い夏の日課だ。部室でやっているうちに、エアコンの利く私の部屋でも膝枕をするようになった。甘えてくるちなつちゃんは可愛いし、悪い気はしない。
額にキスしたこともあるし、私達のスキンシップは普通の友達同士よりも親密かもしれない(だからといって、京子にはたかれる理由はない)。これが男女間なら、問答無用でカップル成立だろう。あくまでも男女間ならだけど--とはいえないのがちなつちゃんだ。
「ちなつちゃん!たまにはあたしの膝枕を」
「結衣先輩がいいです」
どうも、私はちなつちゃんに心底惚れられているようなのだから。
私が働きかければ、ちなつちゃんは即答して「女子校で彼女できた」になるだろう。可愛いし、それも楽しいかもしれない。それができると考えると、以前はなんとも思わなかった膝枕という行為が、恥ずかしくなってくる…ちなつちゃんに感づかれないといいけど。
「あ、もうこんな時間だ」
「あかり。『こんな』じゃわからないぞ。もっと具体的に」
「え?5時半とか?」
「形容詞なんだから『伸びやかに美しく舞い踊る』時間とか」
「わけわかんないですよ。あれ?結衣先輩?」
「ん、ああ…ごめん、ちょっと考え事してた」
何をかは、絶対に言えない。




「で…また宿題写しか」
「おう」
宿題を写すのはともかくとして、私と京子は気のおけない仲だ。一番長い付き合いだし、お互いを理解している。だが、私がちなつちゃんに求める(のか?)のは、もっと新しい、もっと即興的な、それでいて親密で甘ったるい--というのは極めて難しいけれど。
「ねえ、結衣」「ん」「ちなつちゃんちょうだい」
「…は?」「いいじゃん。結衣はちなつちゃんが好きなわけじゃないでしょ」
「…本人にいいなよ」「結衣がいたら無理だって。あたしのためだと思って、ちなつちゃんに言ってよ」
「だめだよ」「なんでさ。結衣もちなつちゃんが好きなの?」
「…違う」「じゃあいいじゃん」
「ダメだったらダメ。ちゃんと本人と一対一で説得しないと」
私がそうであるように、親友である京子には私の考えは筒抜けなのかもしれないが、誤魔化しておく。

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最終更新:2010年03月31日 23:05