21話ネタ

「えらいもの見ちゃった…ね」
「うん…」
あかりとちなつちゃんのキスシーン。

「びっくりしたねぇー、あの二人がそんな…あ、ちなつちゃんが、なのかな?」
あははは、と笑いながら言う京子。
まくし立てるようなその喋りは、動揺を隠そうとしてだろう。
その上、急にぴたりと口が止まるものだから困ったものだ。
もちろん、そう言う私も平静を装おうとして、結果極端に口数が少なくなっているようだけど。


逃げるようにちなつちゃんの制止を振り切って駆け、家についた頃には二人して汗を浮かべていた。
息を切らすほどに走ったのなんていつ以来だろうか。
だが、呼吸が落ち着いたあともあの光景は頭の中で渦巻いていた。
手足を絡めてあかりを押し倒し、唇を重ねていたちなつちゃんの姿がまぶたの裏に焼き付いている。
私がちなつちゃんのおでこにしたようなキスとは違う、もっと…そう、恋人同士がするみたいな。
相手を求めるキス、そんな風に見えた。




「いやーまさか、あの二人が…」
これで何度目か、同じフレーズを口にする京子。
その後に、さっきまでと違うものが混じった。
「……っでもさ、私と結衣にゃんだってしてるもんねー」
適当に相槌を打とうとしていたところ、驚いて咳き込んでしまう。
「……小さいときだろ」
まだ小学校にも入る前くらいの。
でも、今でも鮮明に思い出せる、それもいろいろなシーンで。

泣いてる京子に。
おままごとで。
結婚式ごっこもしたし。
京子がせがんできたこともあった。
でも、やっぱり小さな子供のすることで…いつしかその行為が恥ずかしくなってやめたんだった。




「あははは、照れてる照れてる?」
「…うるさいな」
ぷい、と顔を背けた。
あんただってちょっと顔赤いよ。

「…もうしてくれないの?」
首を傾けながら妙にかわいこぶって言ってきた。
きゃるんなんて擬音でも飛ばしてるつもりなんじゃないだろうか。
「嫌だよ、子供じゃなんだから」
「ちなつちゃんにはしたくせにー、私と結衣の友情はその程度だったのー?」
京子がおどけた様子で言う。
「それは……京子が……」




京子だと……恥ずかしい。
でも、それを口にするのも、なんというか……ええい!
振り向いて、私はそのまま勢いに任せて京子の頭を掴んでぐいと引き寄せ、その頬にキスをした。
ちゅ、と軽い音が妙にクリアに聞こえた。

どうだ、と半ばヤケになって京子の方を見た。
京子は急にしおらしくなった様子で、ぽりぽりと頭を掻いている。
少しばかりの静寂、そこにチャイムの音が響いた。
ビクっと二人同時に反応する。

「先輩ー!誤解です!誤解なんですよぉー!」
ちなつちゃんの声がする。
玄関の方へ向かおうと、すくと立ち上がった私の後ろで京子は小さく呟いた。
「…昔は口だったのに」
振り向くと、京子はちょっぴり赤い顔をしていて…私の顔を見上げると、くすっと小さく笑った。
京子から逃げるみたいに、私は玄関の方へと歩いていく。
かわいいと思ったとか、胸がきゅんとしただとか、言ってしまいたいけれど、まだまだ私には無理そうだ。

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最終更新:2010年03月31日 22:22