III.魔族
1)魔王
古き時代に何らかの理由で地に堕としめられた神々。あらゆる魔と堕天使たちを統率する。魔神に劣らない力を持つが、奸智に長けており、常に魔神の座に取って代わろうと策謀している。その点が破壊のみを好む邪神との大きな違いでもある。
ルシファー 《Lucifer》 出身地:メソポタミア
ユダヤ・キリスト教の最初の堕天使であり、地獄の大王とされる。本来の起源はメソポタミアの悪魔の名であったが、サタンと同一視されるようになり、すべての堕天使、悪魔、魔神たちの上に君臨する闇の貴公子となった。
もとは天使階級上級第1位の熾天使(セラフ)で、神に次ぐ地位にあった。それゆえ驕り高ぶり、神の座まで求めるようになったという。ルシファーは天使の3分の1を率いて反乱を起こし、神を倒して新たなる神になろうとした。しかしミカエルとの戦いに敗れ、天から堕とされて地獄の王となった。そこで永遠の地獄の業火に焼かれ続けているとも、溶けることのない氷の中に閉ざされているのだともいう。あるいは「サタン=古き蛇」として眠りについているが、この世の終わりには目覚め、悪魔たちを率いて大天使ミカエル率いる天使の軍勢と戦うという。
ルシファーという名前には「金星」や「炎を運ぶ者」等という光の存在を表す意味があり、ルシファーは光を地上にもたらすために堕天したという説もある。
アーリマン 《Ahriman》 出身地:ペルシア
ゾロアスター教における暗黒と悪の神で、光明と善の神アフラ・マズダに対立する存在。古名アングラ・マイニュ。無限の暗黒に住み、無知が特性のひとつ。ペルシャを楽園にするアフラ・マズダの計画を転覆させ、最悪のことを選んで行うことをなによりも楽しみにしていた。
最後の戦いでアフラ・マズダに敗れ、悪とともに自らも滅亡する。
ベルゼブブ 《Beelzebub》 出身地:シリア
デーモン全てを支配する地獄の君主。堕天した熾天使の王にしてルシファーに次ぐ者とされる。名は「蝿の王」または「糞山の王」の意。7つの大罪のうち「暴食」を司り、人の自尊心をくすぐって罪に誘う。羽に髑髏と交差した骨の模様のある巨大な蝿の姿が一般的。
蝿は再生を願うかりそめの姿とも考えられていた。蝿の王は死の王であり、禿鷲と同様、死者の魂の運び手とも考えられた。つまり魂の支配者なのである。また、蝿は腐敗の象徴でもあり、彼らは死骸を母なる大地に帰す、聖なる使命を持つ者とされるのだ。よって必然的にベルゼブブは死霊の主ということになる。
ベルゼブブは、元来カナアンの主神であり豊穣の神でもあるバールがユダヤ教徒たちに堕としめられた姿だという。キリスト教では、悪霊の王ということからこの名がサタンの別名とも考えられるようになった。
聖フランチェスコが直接的なライバルである。
マーラ 《Mara》 出身地:インド
仏教における代表的な悪魔。意味は「死の恐怖」。漢音写して「魔羅」と書かれる。「魔」という漢字が造られるもとになったのがこのマーラである。
マーラは後に愛欲の神カーマと結び付けられ、カーマ・マーラとして複合体の悪魔となる。カーマ・マーラは性的な両性具有の精霊で、愛欲と死の恐怖というふたつの側面から人々を支配し、肉体を破滅させようとしているのだ。カーマは男神であるのに対し、マーラは死の女神であり、その属性は今日ではカーリーに引き継がれた。スラブでは死の老婆モーラとなり、ヨーロッパではナイト・メア《night mare》として、金縛りを起こし、魂を抜き去る悪魔として考えられた。
マーラはもともと修行中の仏僧のもとに現れ、言葉や幻影を使って誘惑する悪魔である。人々を欲望や生死の「苦」から救い出そうとするブッダは、彼らにとって最大の敵。マーラは菩提樹の下で瞑想をしているブッダを襲い、悟りを妨げようとした。しかし、誘惑や幻視に屈せず、悟りを得たブッダの強い意志によって打ち負かされる。
日本では陽物の隠語として「マラ」という言葉があるが、これはこの悪魔を起源とするのだという。
蚩尤 《Shu》 出身地:中国
中国神話上の邪神。斉国(現在の山東省)の神とされ、銅頭鉄額、人身牛蹄、4眼6臂の怪物。砂や石を食べたという。
黄帝と啄ろく(たくろく)の野で戦い、大風雨を起こす。黄帝は魃(ばつ、旱(ひでり)の神)の助けで、蚩尤を誅殺した。
兵主(へぬし)の神は蚩尤の異名とされる。
ミトラス 《Mitras》 出身地:ローマ
ミスラとも呼ばれ、さまざまな時代の異なった国々で信仰されていた神で、主にイランやインド、ペルシアなどで信仰を受けていた。後にローマでミトラス教が成立し、キリスト教と対峙する主要な宗教にまでなった。
ミトラスは「征服されざる太陽の誕生日」と呼ばれる12月25日に、太陽神とその母の近親相姦から生まれたとされる。この逸話は、キリスト誕生の内容に引き継がれていると言われる。
サタナエル 《Satanael》 出身地:イスラエル
『エノク書』の記述によれば、サタナエルはグリゴリたちが人間の娘に欲情して堕天するまえから、罪を犯して罰せられていたという。そもそもグリゴリたちが堕天したのも、この悪魔にそそのかされたとする説もある。
スルト 《Surtr》 出身地:北欧
ゲルマン神話の神々が生まれる前から存在していた炎の巨人。炎の剣レーヴァテインを持ち、世界の果てにあるムスペルヘイムという灼熱世界の境界を守っている。
ラグナロク到来時に、全てを焼き尽くすためムスペルヘイムから炎の軍団を引き連れて進軍してくるとされている。
バエル 《Bael》 出身地:シリア
ベルゼブブと同様、古代セム語族の主神バールに起源を持つデーモン王の異称のひとつである。地獄の最初の君主であり、デーモン王の中で最も強大な力を持つ王のひとりでもあり、また「東の軍勢を率いる王」とされる。ここでいう東とは、ヨーロッパにとっての東、つまり中東を指している。
ソロモン王に封印された72柱の魔神のひとりで、あらゆる知識を司り、すべての性的な欲求を満たすことができるとされる。
最も醜いバエルの姿は、蜘蛛の体と8本の足を持ち、人間、猫、ヒキガエルの3つの頭を持つとされる。
アスタロトの夫、またはアスタロトと同一という説もある。
アスタロト 《Astaroth》 出身地:バビロニア
地獄の公爵であり「恐怖公」などと呼ばれる。もとは天使階上級級第3位・座天使(ソロネ)であり、ソロモン王に封印された72柱の魔神のひとりであるが、例外的に美しい天使の姿で現れる。地獄の蛇にまたがり、鎖蛇を右手に持ち、全身黒ずくめで唇は血に濡れている。過去と未来を見通す力を持ち、安逸を貪るのを好み、人を怠惰に誘う。出現に伴って強烈な悪臭を放つとされる。
本来はセム人の豊穣の女神で、ユダヤに敵対視されたフェニキアの女神アスタルテが起源である。彼女はバール神の后であり、古代オリエントの地母神として、創造、維持、破壊を司る豊饒の女神であった。全ての神々の母であり、バビロニアではイシュタル、ギリシアではアフロディーテと呼ばれている女神と同一である。しかし、これがエジプトに渡ると戦の女神アストレトに変化し、姿も獅子の頭を持つ人間の女性の体を持ち、4頭の馬がひく戦車を操る姿で表されたため、これがもとで男のデーモンとしてのイメージが固まっていったのだろう。
ネルガル 《Nergal》 出身地:バビロニア
古代バビロニアの死者、疫病、破壊の神。冥府の女王エレシュキガル《Ereshkigal》を破って彼女を妃とし、冥府の王となる。ライオンをシンボルとする。
信仰の中心はエジプトのアビュトスと並ぶ「死者の街・クタ」。
ペストの神ナムタル《Namtar》以下、14の悪魔の護衛を従えているという。元来は天界に住む神であったとされる。
マルムス 《Malmus》 出身地:北アメリカ
ネイティブアメリカンのひとつアルゴンキン族の伝承に見られる悪神。善神グルースカップと双子の関係にある神だが、その性質は極めて悪く、グルースカップが太陽や月、獣、魚、人間など良いものを作ったのに対し、谷や山、蛇などの人間が困るものばかりを作っていた。
策を用いて何度となくグルースカップの命を狙うが、最後には逆に殺されてしまう。
デミウルゴス 《Demiurges》 出身地:ギリシア
グノーシス主義における弱くてひねくれ者の天使。唯一神ヤーウェを気取るヤルダバオトであり、意のままに世界を支配しているとされた。
グノーシス《gnosis》とは、もとは「知識」の意だが、ここではギリシア末期の宗教における神の認識のこと。または、超感覚的な神との融合の体験を可能にする神秘的直感。霊知ともいう。
アバドン 《Abaddon》 出身地:イスラエル
ユダヤの言葉で「破壊者」「深淵」といった意味を持つ。「底無しの奈落」を支配する悪魔の王、あるいは彼の体内が地獄そのものと思われている。
主に「邪悪な」戦争を司るが、農作物を食い尽くす蝗(いなご)と疫病も支配している。全身を鱗に覆われており、羽ばたくと戦車が通るような辺りを揺るがす地響きと轟音を起こす翼を持ち、蠍のように先端に針を持つ尾を生やし、熊のような足をして、腹から炎と煙を噴き出している。その姿を見た者は、召喚術者といえど、あまりの恐ろしさにショック死することもあるほどだという。この姿は『黙示録』の蝗の姿の描写に似ており、アバドンそのものではなく、その遣いであるとも考えられている。
彼の支配するデーモンたちは、最後の審判で天の最後の御使いがラッパを吹き鳴らすと同時に姿を現し、人間を襲うとされている。
ギリシアではアポリオンと呼ばれ、敵に疫病をもたらすアポロンの暗い面と言われる。
アリオク 《Arioch》 出身地:イスラエル
復讐のデーモン。名は「獰猛なライオン」を意味する。『エノク書』が書かれた時にはまだ天使であったので、天使の反逆以降に堕天した、比較的新しい大物悪魔である。
マイクル・ムアコックの小説に登場し、「剣の騎士」と呼ばれ、その姿を千変万化させる魔神として描かれている。
ダゴン 《Dagon》 出身地:バビロニア
古代の秘められた知識を授けるという、半魚人のデーモン。起源は古く、メソポタミアのアッシリアでも崇拝されていた。
近年になって、H.P.ラヴクラフトが体系づけたクトゥルフ神話に組み込まれるようになった。小説の中では、「深き者ども《Deep One》」と呼ばれる半魚人を従える深海の王として描かれている。
ラーフ 《Rahu》 出身地:インド
インドの悪魔(夜叉)。神酒アムリタを飲もうとしたが、シヴァにチャクラムを投げ付けられ、切り落とされた首だけが不死になった。
太陽や月を飲み込んで蝕を起こすとされている。仏教では九曜のラゴウ星。
ベリアル 《Bereal》 出身地:イスラエル
炎の戦車に乗った天使の姿で現れるデーモン。サタンと同一視さることもあり、ソロモンに封印された72柱の魔神の中で最も強大で、最も扱いにくいデーモンである。ベリアルを呼び出すには人間の生け贄が必要な上、自らを呼び出した者を含め、全ての者を欺こうとする。ルシファーの次に創造された堕天使である。
かつてはアークエンジェルのひとりで、神の使いサタネルと呼ばれていた。知識を授けるために幾人かの天使を率いて地上へ降りたが、女の色香に迷って道を踏み外し、その女たちに巨人族ネピリムを産ませてしまう。ネピリムたちは巨大に成長し、食欲の権化となって手当たり次第に食い尽くしたので、その罪をもって地獄に落とされた。
ロキ 《Loki》 出身地:北欧
ゲルマン神話の闘争の神。元来は巨人族とアース神族とのハーフであったが、主神オーディンと義兄弟となってアスガルドに加わったとされる。善悪2重の性格で、さらには両性具有でもある。容姿は美しいが、性悪で移り気であり、大変ずる賢い。
極めて悪質な悪戯をしてしばしば神々を困らせ「神々と人間の恥辱」などと呼ばれる一方、牝馬に変身して8本足の駿馬スレイプニルを産んだり、グングニルやミヨリニルを作成する原因を作るなど、機転を働かせて神々を窮地から救ったり、貴重な宝物を与えたりした。しかし、オーディンの息子を投げ槍で死なせたり、盲目の神ヘズを騙して兄弟のバルドゥルを殺害させた等のひどい悪行のため、ついには神々から苛酷な罰を受けた。息子たちを殺されたあげく、岩に縛り付けられ、毒蛇の毒で永遠に苦しめられるのだ。世界の終末ラグナロクを迎えた時、ようやく戒めから逃れ、恨みを晴らすために巨人の軍勢に加わって神々と戦い、相打ちとなって果てることになっている。
ロキとアングルボザという女巨人の間に産まれた、怪狼フェンリル、大蛇ヨルムンガンド、女怪ヘルはいずれも神々を苦しめる強大な敵となる。したがって神々と魔物の戦いの原因をつくり、神々と世界を破滅に導いた張本人であるといえる。
名の意味が「炎」であることから、火の神とも考えられ、火の巨人スルトはロキの変身した姿とする説もある。
ヘカーテ 《Hekate》 出身地:ギリシア
ギリシアの冥府と魔術の女神である。キリスト教では魔女たちの女王とされる。元来はオリンポス以前のギリシア最古の大地母神のひとりで、天界、地上、冥界を司る三相一体の女神であった。特にボイオチア地方で信仰され、裁判、集会、戦争、競技、馬術等を加護し、成功を与える。さらに月を象徴した農業神でもあった。月齢の影響は人の心だけでなく、農作物の成長や動物の行動、特に魚介類の給餌活動にまで影響を与えるのである。
ヘカーテは天界ではセレネ、地上ではアルテミス、冥界ではペルセポネーの三位一体となる。特に冥界の神として老婆の姿で表され、女神の三位一体の一部として、処女ヘベ、母(=妻)ヘラ、老婆ヘカーテというように考えられた。つまり、満ちる月、満月の月、欠ける月としてこれら3相を全て持っていたのだ。
産婦の守護神であり、産婆を庇護する者とされた。魔術や予言、死者への問いかけなどの儀式を行う時、3本の道が出会う場所でヘカーテを崇める風習があったため、魔術や予言の女神ともなった。後の時代のヨーロッパでも、召喚魔術や呪術が道の交差点で行われたのは、このヘカーテに由来する。産婆はしばしば魔女と考えられたこともあり、魔術がらみでもキリスト教徒によって「魔女たちの女王」とされ、特別な悪魔に仕立て上げられてしまう。
デーモンや幽霊や地獄の猟犬と結び付けられて、「ヘカーテの晩餐」と称して毎月黒い牝の仔羊や黒い仔犬の生け贄が捧げられたが、彼女本来の姿を考慮すると、地獄の牝犬といった言葉は彼女を侮辱する言葉になるだろう。魔女の女王としての彼女の3相は、犬、獅子、馬の3つの頭を持つデーモンとして表される。タロットカードの月は、確実にこうした彼女の暗い面を表している。
ヘカーテの名は「遠くから働く者」を意味する。これは月の潮汐力と地球への電磁場の影響を古代人が知っていたのかもしれない。あるいは彼女に捧げられた「ヘカトンベ(百体の生け贄)」からきているともいう。また、エジプトのヘケットが起源であるともいうが、これも可能性は高い。
ツィツィミトル 《Zizimytl》 出身地:アステカ
アステカ神話。世界を滅ぼすと言っては人間を脅かし続けて来た女性の魔神。夜を象徴するこの存在は、朝、夕、そして太陽と戦い続けるのだ。
人間に酒を与え、歌や踊りの文化を与えようとしたケツアルコアトルが、ツィツィミトルの孫娘マヤウェルとともに酒を作り出そうとするが、そこへツィツィミトルがやってきて、マヤウェルを引き裂き、その体を食べてしまったという。
シェムハザ 《Shemhaza》 出身地:イスラエル
『エノク書』の記述によれば、シェムハザという名はグリゴリと称される天使の一団の統率者の名前の一つとされる。この集団は人間を見張り、教育する目的で地上に遣わされたが、人間の娘たちに欲情して堕天使となった。アザゼルもこの堕天使の一員である。
シェムハザはまたすべての魔法使いの育ての親であるとも言われ、魔術を究めんとする者たちの信奉を集めていた。
バロール 《Baroll》 出身地:アイルランド
ケルト神話の巨人。ひと睨みで相手を倒すことのできる魔眼を持っている。
デ・ダナーン軍と対立するフォーモリアたちの首領。
ルキフゲ・ロフォカレ 《Lucifuge Rofocale》 出身地:ローマ
略してルキフグスともいう。「光を避ける者」の意。バエル、アガレス等を部下に持ち、首相として地獄を統率している悪魔。毛のない頭に3本のねじれた角を生やし、ギョロリとした大きな目で、山羊の下半身と長い尾を持っている。契約に関する権限があり、魂を20年後から50年後までに差し出すのを条件に願いをかなえてくれる。もちろん短い方がかなう願いも大きい。また蔵相も兼任し、この世である物質界を始めとする全世界の財宝と富の管理をルシファーから任されている。
ベルフェゴール 《Belphegor》 出身地:シリア
元は発明や発見の神であった。天使階級下級第1位の権天使(プリンシパリティウス)をたばねる存在であり、さらに溯るとフェニキア、カナアンの豊饒神バール・ペオールだった。これは「ペオール山の主」または「割れ目の主」といった意味である。男根の神であり、割礼の神でもあった。悪魔学による7つの大罪では、人間の「怠惰」の罪を司っている。
現在はフランスに在って、パリの守護悪魔となっているという。便座の玉座に座る姿は『地獄の辞典』の著者コラン・ド・プランシーのアイデアである。
ウィンペ 《Winpe》 出身地:北アメリカ
ネイティブアメリカンのひとつアルゴンキン族の伝承に登場する悪魔。世界が創られて間もないころにいた怪物で、人々にさまざまな害を与えていたという。
この悪魔を倒したのは善神グルースカップで、体を木々より大きくしたウィンペを見るや、自らを天の星に届くほどに大きくなり、手にした弓で叩き潰したという。
ブレス 《Bress》 出身地:アイルランド
ケルト神話。ダナン神族の王の一人だが、敵対関係にあるフォーモリア族の血も引いており、悪の存在として描かれる。
2)幻魔
魔力に優れた、神に近い者たち。多様な能力を備えている。神と交信できた英雄、あるいは神の血をひいた英雄などがこれにあたる。
イルダーナ 《Irdarna》 出身地:アイルランド
ケルト神話。ドルドナと並んで、光明神ルーの別名。「全知全能」という意味。クー・フーリンの父神でもある。
ヘイムダル 《Heimdall》 出身地:北欧
主神オーディンとその9姉妹の間に生まれた、ゲルマン神話で最も美しい男神。別名「白き神」。アスガルドの見張り役で、虹の橋ビフロストのそばに立ち、魔軍が押し寄せるときは角笛(ギャッラルホルン)を吹いて、神々に警告する。また人間の守護者であり、リグ《Rig》の名で人間界を回った。農奴、百姓、貴族の3階級を定め、それぞれに子孫と知恵を授けた。
神々の黄昏ラグナロクでは、宿敵ロキと相打ちになるとされる。
フレイ 《Frey》 出身地:北欧
海神ニヨルドと巨人の娘スカディの息子。名は「主」の意。神々の中で最も美しく、豊作と平和の恵み手として非常に崇拝された。金色の毛をしたイノシシのひく車に乗り、伸縮自在の魔法の船を持つ。妻は妹でもあるフレイア。
別名イングビ《Yngvi》。スウェーデン、ノルウェーの最初の王家は、彼の子孫として《Yngling》を名乗った。
ハヌマーン 《Hanuman》 出身地:インド
ヒンドゥ教の猿神。風の神ヴァーユと猿王妃アンジャナ(アプサラス)の子。猿を統率し、風に乗って自由に空を飛び、変幻自在に姿や大きさを変えられる。そのうえ大変な力持ちで、とある薬草を取りに山へ行ったがどの薬草を持って帰ればよいのか分からなくなり、思案の末に山ごと持って帰った、という逸話まである。
大叙事詩『ラーマーヤナ』では最も活躍する。ヴィシュヌの化身ラーマ王子への忠誠に燃え、ラクシャーサの魔王ラーヴァナとの戦いではラーマを助けて奮戦した。数多くの活躍によってラーマから永遠の命を授けられた。
インドやタイでは特に人気の高い神である。また、『西遊記』の孫悟空の原型と言われている。
ヘルモーズ 《Hermod》 出身地:北欧
北欧神話の主神オーディンの息子で、若さあふれる勇猛な神。死んでしまった兄バルドルを連れ戻すため、冥界の女王ヘルの元へ向かったが、ロキの奸計によって失敗した。
トラロック 《Tralock》 出身地:メキシコ
古代アステカ文明の雲、雨、稲妻の神。トラロックの王国は、落雷や水害などで死んだ人間の魂を受け入れるとされ、地上の楽園「トラロカン」と言われた。
神々の覇権争いを伝える神話である『太陽の物語』では、この神は第3の太陽の時代を支配した神であるとされており、トラロックの太陽は312年の間、地上を支配したとされる。
クルースニク 《Kresnik》 出身地:スロヴェニア
イストリア地方の吸血鬼始末人。名の語源は「十字架」。光の勢力に助けられる、善の象徴的存在である。
闇を司る邪悪な吸血鬼クドラクは永遠の仇敵であり、両者は豚、雄牛、馬などの動物に変身して戦うとされる。クルースニクが変身した動物は白い色をしているという。
ヴァルナ 《Varuna》 出身地:インド
ヴェーダ神話の神。天空の神とされるが、自然現象との結びつきはうすく、司法神として人格化される。
天則の擁護者であり、人倫と宇宙の秩序の維持者である。
クー・フーリン 《Cu chulainn》 出身地:アイルランド
ケルト神話に登場する、偉大でそして比類なき大英雄。ク・ホリンとも呼ばれ、名前には「クランの猛犬」という意味がある。素手で戦車をばらばらにしたり、影の国の女王スカアハから授かった魔槍ゲイボルグを使い、ひとりで全軍を迎え撃ったりするなど、鬼神のような活躍をする。
普段は大変に美しい姿をしているが、一度戦闘の狂気に取り付かれると、見るも恐ろしい姿に変貌する。毛を逆立てて1本1本の毛先から血をしたたらせ、踵とふくらはぎが裏返り、口は人間が飲み込めるほど大きくなったという。
多くの女性に想いを寄せられたが、妻のアヴェール以外の女性には触れようとしなかった。戦の魔女モリーアンにも求愛されたが、かたくなに断り続けたため、以後彼女の呪いを受けることになる。
彼の敵は妖精の女王マッブであった。その配下の魔術師カラティン3兄弟に呪いをかけられ、彼は生き別れになっていた自分の息子を殺してしまい、自分自身も敵に奪われた自らの槍に刺し貫かれて戦場に散る。悲劇的な最期を遂げたが、その後は妖精の騎士になったとされている。
マウイ 《Maui》 出身地:ポリネシア
人間にさまざまな恩恵をもたらした、いたずら好きな英雄。ポリネシア広域で人々に愛されている。海の底から大地のように巨大な大魚を釣り上げ、それが島になった。また天空を持ち上げ、太陽を捕まえて運行を遅くしたり、人間に火を与えたりした。しまいには不死を与えようとして、寝ている死の女神ヒネ・ヌイ・テ・ポの体に入ろうとするが、途中で目を覚まされてしまい、その命を落とした。
ナタタイシ 《Natataisi》 出身地:中国
永遠に少年の姿をしていると言われる英雄神。乾坤圏という武器と、混天綾という真紅の布を身にまとった姿で生まれてきて、竜王や魔王と戦ってこれを退治していくのだという。『西遊記』に登場し、孫悟空を相手に激しい戦いを繰り広げた。
中国の古典大衆喜劇「封神演義」にも登場し、こちらではナタクと呼ばれる。煉気術(れんきじゅつ)の粋をこらし、1500年かけて作られた霊珠が女性の体内で育てられ、生まれながらの仙人となった。幼くして龍神の皮をも剥ぐという怪力を持つ。ホムンクルスの一種である。
ジャンバヴァン 《Jambavan》 出身地:インド
大叙事詩『ラーマーヤナ』で、ラーマ王のラーヴァナ討伐を助けた熊王。
クリシュナと21日間にわたる激しい戦いを繰り広げ、最後に降伏した。
イクティニケ 《Ictinike》 出身地:北米
ネイティブアメリカンのダコタ・スー族に伝わる、獣の皮を身につける英雄。動物の中には精霊が宿るとする、アニミズムに通ずる存在。太陽神の息子であり、ネイティブアメリカンの諸部族は彼から戦う方法を学んだ。
八大王 《Hati daioh》 出身地:中国
清朝時代の話に登場するスッポンの王。
スッポンの漁をしていた憑生という男に助けられた八大王は、呪宝を用いて憑生を富豪にしたという。
八大王は酒豪であるとも言われている。日本でも古くに青海亀に酒を与える風習があったことからも、亀が酒を好むという考えは広い範囲で伝わっていたことがわかる。
ベス 《Bes》 出身地:エジプト
頑丈で単身、大きな舌を出すグロテスクな姿を持ち「陽気なベス」と呼ばれる。戦争と舞踊の神だが、女性の結婚、化粧、装飾を支配するとともに、出産において助力したり、また病気から守る神でもある。生まれた新生児を守護することもあるとされており、出産を控えた母親の周囲で踊っている姿で表されたりもした。
エジプトの神々の中では弱小の部類に入るが、家庭内に幸福をもたらす存在として広く民衆の信仰を集めた。一時は王家の守護者として信仰されたこともある。
コンス 《Khons》 出身地:エジプト
古代エジプトの月神。「真理の王」、運命の作者と言われ、新宅の交付者であった。悪霊に対しても権威があり、呪文破壊者として崇拝された。アモン・ラーとムトの息子として、百門の都テーベの3体一座をなす。トート神と同一視され、大気の神としてシュウとも同一視された。
ミイラ化した若者の姿をとっていることが多い。剃髪された頭部に、精力のシンボル(メナトと呼ばれる)と月の円盤と三日月をいただいた姿でも描かれる。
フーリー 《Fury》 出身地:アラビア
イスラムの天女。天国にやってきた男を歓待する役目を持つ踊り子。インドのアプサラスと通じる部分がある。
3)妖魔
高い魔力を持つが、どちかかといえば妖精に近い存在。外見よりも実体が薄く、その姿はバラエティに富んでいる。人々から崇拝されてきたものから、忌み嫌われてきたものまでいることから、それだけ範囲の広い種族であることがうかがえる。
マスター・テリオン 《Master Telion》 出身地:イギリス
『新約聖書』の『黙示録』には、「人類は滅亡した後、神に選ばれた者、仔羊の印を持つ者だけが復活し、千年王国に住んで永遠の命を永らえる」という過激な預言が書かれている。この時、人類の敵として大きく取り上げられているのがバビロンの大淫婦イシュタルと、古き蛇サタン、そしてサタンの力と権威を得た一対の獣テリオンである。英語では「ビースト《Beast》」と言われる。
『聖書』にはだいたい以下のように書かれている。「その獣は海からあがってくる。10の角と7つの頭を持ち、体は豹のようで、足は熊のようにがっしりしている」また、もう1頭は小羊の角を持ち、先の獣を崇拝するように人々に強要し、獣の刻印、またはその名か数字なしでは何も売買できないようにするという。獣の名の数とは「666」の数字であり、これは全てのバーコードの中に必ず振られている謎の数字である。
20世紀前半を生き、現代魔術の基礎を築いた、希代の山師にして熟練の魔術師アレイスター=クロウリーはマスターテリオンを名乗った。「我こそ『聖書』の魔獣である」とうそぶいたのである。
ヤヌス 《Janus》 出身地:ローマ
ローマ神話の中でも最も古い神のひとり。門の守護神であり、天上界の門衛と新年を開く儀式を司るという役目を持っている。
門は必ずふたつの道を隔てていることから、ヤヌスにはふたつの顔、未来を見据える若者の顔と、過去を見つめる老人の顔を持つ双面神となっている。また、新年を開くという役割から[january(名)1月]という単語は、彼の名にちなんでつけられた。
ローマには無数のヤヌス神殿があったと言われ、戦争の時には門が開け放たれ、平和の時には門は閉ざされたという。
ガネーシャ 《Ganesa》 出身地:インド
インド神話の知恵と繁栄の神。シヴァとパールヴァティの子。性格は温和で、象の頭に1本の牙、腕は4本、背は低く、布袋腹の男の姿で表される。象の頭になったのには諸説があるが、代表的なものを挙げると次のようなものである。
シヴァの妻パールヴァティには従者がいなかった。そこで彼女は自分の垢から自分に尽くしてくれる息子を作り上げる。それがガネーシャである。パールヴァティはガネーシャを自分の入浴中の見張り役にするが、その時夫のシヴァが神殿に帰ってきた。事情を知らないシヴァは誤解してガネーシャの首を切り落としてしまう。パールヴァティがあまりに嘆き悲しむので、シヴァは神殿の前を通りかかった象の頭をガネーシャの体にくっつけ復活させるのである。
また、牙が1本なのにも理由がある。ある時ガネーシャは月に馬鹿にされたことに腹を立て、右の牙を折って月に投げつけ、呪いをかけた。これが月の満ち欠けの理由であり、ガネーシャの牙が欠ける原因となった。
別名であるガナパティはもともと災厄や疫病の神であったが、逆にこの神を奉ることによって、あらゆる障害を取り除き、福徳を授かろうと考えられるようになった。インドでは重要な事業の開始にあたっては必ず供養される。信者には商人が多い。
仏教に入ると大聖歓喜自在天(たいせいかんぎじざいてん)、聖天(しょうでん)と呼ばれ、仏教を守護する天部の善神となり、富貴、子孫、消危の得の神とされ、双身で男女抱合像として祀られることもある。
ヴァルキリー 《Velkyrien》 出身地:北欧
北欧神話に表れる戦いの乙女たち。名の語源は「戦死者を運ぶものたち」。
主神オーディンの侍女で、戦いあある時は白鳥の姿などをとって駆けつけ、倒れた勇士をバルハラの館に招くとされる。また、フレイアの侍女であるとも考えられ、戦死者の半数はフレイアのもとへ運ばれるともいう。
ルーンや魔術について深い知識を持っており、人間を祝福したり呪ったりするともいわれる。
ジン 《Jinn》 出身地:アラビア
アラビアの魔神。人間より2000年も前に、創造主によって火から創られたという。自由に空を飛べ、人間より知恵も力も勝っている。本来は実体を持たないため目には見えないが、姿を現す時は煙や雲のように渦巻く気体となって現れる。変幻自在で、人間や蛇、ジャッカルなどの姿をとるが、巨人の姿をとって現れることも多い。種類はさまざまで、善悪や性別を問わず存在する。
ジンの統率者はイブリースといい、最高位のマリッドに次いでイフリート、シャイターン、ジン、ジャーンの5つの階層に分かれるとされる。西洋の悪魔とは違い、ジニーと呼ばれる女性のジンも大勢いる。
『アラビアン・ナイト』にもしばしば登場する。
最終更新:2011年02月22日 23:40