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紬「りあるとげんじつ」 2 - (2014/03/30 (日) 15:05:01) の最新版との変更点
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―7―
思い通りにいかないのが現実です。
どれだけ努力しても、最善手を選択しても、報われるとは限らない。
そもそも何が最善かも曖昧。
それでも、生きている限りは、何かを選ばないといけない。
現実と向きあわなければ、ちっぽけな幸せだって守れない。
だから、私は一つの選択をしました。
最善手とは言い難い、安っぽくて曖昧な選択。
唯「ティータイムを復活させる?」
紬「ええ、唯ちゃんはどう思う?」
唯「うん。私だって復活させたいと思うよ。でも……」
紬「そうよね。練習に使える時間も減るし、お金もかかる」
唯「うん……」
紬「でもね、私達には必要だと思うの」
―――
――
―
澪「どうして必要だと言えるんだ? そんなことより曲のためにもっと時間を」
紬「そう。一つはそれが理由。曲作り、みんなでやりましょう」
澪「みんなでやればいい曲ができるわけじゃないぞ?」
澪「少なくとも、ある程度形が出来るまでは私が詩、紬が曲をやるべきだと思う」
澪「最終的な調整はみんなでやればいいと思うけどさ……」
紬「澪ちゃん、人を惹きつける歌詞ってどんなだと思う?」
澪「私を試してるのか?」
紬「私はこう思うの」
紬「人を惹きつける歌詞は生きている人間が作ったものだって」
紬「演っている人の人間性が滲みだす曲こそ、人を惹きつける力があるって」
澪「……言ってることはわかる」
澪「私もそう考えてた時期があったよ」
澪「でも現実を見れば分かるはずだ」
澪「今圧倒的に売れてる女性グループの作詞は男がやってるんだ」
澪「つまり、歌詞を理論で作ってるってことだ」
澪「それにさ、演ってる奴の人間性が滲み出していればいい曲ってなら」
澪「どんなバンドにだって良い作詞ができることになる」
澪「でも、違うだろ。本当に力のある歌詞は、曲は、ごく一部の人間にしか作れない」
澪「選ばれた人間にしか作れない、そういうものなんだ」
紬「澪ちゃんに、それが作れるの?」
澪「……っ」
紬「……」
澪「……」
紬「……」
澪「私は……作らなきゃならない」
紬「それなら作詞は今のままでいいわ。だけど、お茶会には参加してね」
澪「……なんで」
紬「リラックスしてると、いい詩が思いつくものよ」
―――
――
―
律「なるほどなぁ……」
紬「りっちゃんはどう思う?」
律「いいんじゃないかティータイム」
律「あの頃みたいでさ」
紬「そうじゃなくて……」
律「澪のことか……」
紬「うん」
律「澪の詩は間違いなくレベルアップしてる」
紬「ええ」
律「でもさ、そのかわり失われてるものもあると思う」
紬「……」
律「やっぱりさ、理屈で作った詩じゃ私達が全力を発揮できないと思うんだ」
律「昔は澪だけじゃなく唯とか、私が作詞したこともあっただろ」
律「ああいう曲はさ、出来は悪くても、なんていうか全力で演れたんだ」
紬「……」
律「でも……うん。そうだな。例えばの話だけど」
律「ムギの企みが上手くいったら面白いことになるかもしれない」
紬「私の企み?」
律「私達が尖ったものを出して、それを澪が詩にする」
律「そこにムギの曲がつく」
律「それなら……」
紬「でもね、りっちゃん。私の曲だって足りないところばかりだと思うの」
―――
――
―
梓「作曲について、お二人では答えは出ませんでしたか」
紬「ええ……」
梓「そうですね、ならいっそのこと作曲もみんなでやりましょうか」
紬「えっと……」
梓「勘違いしないでください。最終的に曲にするのはムギ先輩です」
梓「常々思ってたんです。私たちはムギ先輩のイメージを完全に演れてるのかなって」
梓「ムギ先輩はどう感じてました?」
紬「みんなはとても頑張ってくれてるわ」
梓「そういうことが聞きたいんじゃありません」
紬「……完全にイメージ通りなんて無理よ」
梓「そうですよね。それが普通だと思います」
梓「作曲者がどんなイメージをしても、それに詩を重ね、人間が演奏する以上、イメージ通りに行くわけがない」
紬「……」
梓「だから、最初からみんなでイメージを作るんです」
紬「それで何が変わるの?」
梓「私たちは私達が演れることを知ってます。澪先輩も自分の作れる詩を知ってます」
梓「だから、イメージ段階で私達が参加すれば、最初のイメージに近い形を体現できる」
梓「そう考えているんです」
紬「……ねぇ、いっそのこと、イメージを私以外の人が」
梓「それは駄目です」
紬「どうして?」
梓「駄目なものは駄目なんです」
―――
――
―
唯「なるほど。ムギちゃんはなんでそう言われたか分からいんだ」
紬「ええ……」
唯「それはね。梓ちゃんがムギちゃんの作るイメージが好きだからだよ」
紬「……」
唯「私たちはみんなムギちゃんが作るイメージが好きだし、澪ちゃんの詩が好き」
唯「だから、それを変えることなんて出来ない」
紬「そう……だよね」
唯「でも協力することなら出来るんだよ」
唯「実はギー太に演らせてみたい音があるんだ」
唯「あとりっちゃんに叩いて欲しい音もある」
唯「そういうのをムギちゃんがムギちゃんのイメージに加えてくれたら」
唯「いいものになるかも」
紬「……唯ちゃん」
唯「なぁに?」
紬「大好き」
唯「知ってる」
―――
――
―
―8―
澪「私は怖いんだ」
紬「そう。奇遇ね」
澪「ムギも?」
紬「ええ、私も怖いの」
澪「梓だけじゃなかったんだ」
紬「私達だけじゃない。唯ちゃんだってりっちゃんだって、怖がってる」
澪「当然だよな」
紬「ええ、当然ね」
澪「あの頃とはすっかり変わってしまったとしても、それでも……」
澪「ここは居心地が好すぎるから」
紬「守りたいって思ってしまう」
紬「ちょっとぐらい無理してでも、ね」
澪「あぁ」
紬「それで、決まった?」
澪「うん。梓に説得された」
紬「なんて?」
澪「澪先輩が一人で作詞したんじゃいつまで経ってもデビューできませんって」
紬「……私も似たようなこと言われちゃった」
澪「生意気な後輩だ」
紬「ええ、本当に」
澪「やっと、私も心が決まったよ」
澪「どうせ散るなら楽しく散ったほうがいいし」
紬「あら、散るつもりなんだ」
澪「例えの話だよ」
紬「そう。それなら良かった」
澪「……実はさ、ずっと泣いてたんだ」
澪「あのオーディションに落ちた後、梓のあの言葉を聞いた後」
澪「もう私たちは終わっちゃうのかな」
澪「みんなと一緒の時間ももう終わっちゃうのかな」
澪「そう思ったら、涙が止まらなくて」
澪「もう大人なのに、おかしいだろ?」
紬「ううん。おかしくなんてないよ」
紬「だって……」
澪「ムギ? 泣いてるの?」
紬「ごめんなさい……」
澪「どうしてムギが泣くんだ?」
紬「どうしてだろう」
澪「分からないの?」
紬「うーん。ああ、わかっちゃった」
澪「うん?」
紬「私ね、ちょっと嬉しかったんだ」
紬「高校生の頃はさ、何も言わなくてもみんな部室に集まってきたじゃない」
紬「部活動がある日はもちろん」
紬「ない日だって、なんとなくみんなで集まって」
紬「だからね、みんなの心が重なってるような感じがして」
紬「それだけで幸せだった」
紬「ふふふ、本当に楽しかったなぁ」
澪「あぁ、そうだな……」
紬「大学に入ったら、みんなで集まることは減っちゃって……」
紬「それでもたまに学食とかりっちゃんの部屋とかで集まってた」
紬「でもね、あの頃からかな……」
紬「みんなの気持ちが見えにくくなってきたのは」
澪「それまでは見えたんだ?」
紬「ええ、楽しいとか、悲しいとか、それくらいはね」
紬「今は、それも見えにくくなっちゃった」
澪「……」
紬「場所がなくなっちゃったからかな」
紬「時間がなくなっちゃったからかな」
紬「理由なんてどうでもいいけど」
紬「私は、みんなのことがわからなくなるのが怖かった」
紬「でも、どうしようもなかったの」
澪「ムギ……」
紬「でもね、今回のことでみんなのことが少しだけわかった」
紬「あの頃に戻れたみたい」
紬「ねぇ、澪ちゃん」
澪「なんだ?」
紬「一つだけお願いがあるの」
澪「お願い?」
紬「ええ、お願い」
―――
――
―
―9―
唯「ねぇ、ムギちゃん」
お菓子作りをしている途中、唯ちゃんに話しかけられた。
口の周りにはクリームがついてる。
きっとこっそりつまみ食いしたのだろう。
紬「なぁに?」
唯「きっとさ、すっごく良い曲なんて出来ないよね」
紬「……そうかも」
唯「でもね、ちょっとだけいい曲ならできると思うんだ」
紬「そうねぇ」
唯「そしたら少しぐらいチャンスはあるかも」
紬「ええ」
唯「でもね、駄目かもしれない」
紬「うん」
梓「でも、それでもいいです」
メレンゲ作りに悪戦苦闘していた梓ちゃんが話に加わる。
紬「そうなの?」
梓「はい。だって――」
私はみんなにお願いをした。
次の曲が駄目だったら、プロへの道はきっぱり諦める。
それでみんなばらばらの道を歩いて行く。
としても、それでも、週一回は必ずティータイムをやりたいというお願い。
どんなに時間がなくても、お金がかかっても、ティータイムだけは続ける。
唯ちゃんは二つ返事で了承してくれた。
りっちゃんはちょっと考えてから、是非やりたいと言ってくれた。
梓ちゃんは抱きついてくれた。
澪ちゃんだけ、ちょっと渋っていた。
紬「でもね、まだ終わったわけじゃないから」
梓「はい」
唯「うん。そうだね。演りたいね。武道館で」
梓「まだ諦めてなかったんですか、武道館」
唯「そうだよーあずにゃん」
紬「うふふ、そうね」
お菓子作りをしながら、私は曲を考え続ける。
ついでに歌詞も考え続ける。
次が最後のチャンス。
どうなるかはわからないけど、全力は尽くさないといけない。
それで駄目だったら、駄目だったでいい。
誰もがスターになれるわけじゃないのだから。
紬「あら、そろそろりっちゃんと澪ちゃんがくる時間よ」
梓「ま、待ってくださいまだメレンゲが」
しばらくして、私達5人の、2年ぶりのお茶会がはじまった。
―――
――
―
それから先のことを語るのは野暮というものだと思う。
だから秘密にしておきます。
ただ一つだけ教えてあげられることがあります。
5人は今でもとっても仲良し。
それから――――
おしまいっ!
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思い通りにいかないのが現実です。
どれだけ努力しても、最善手を選択しても、報われるとは限らない。
そもそも何が最善かも曖昧。
それでも、生きている限りは、何かを選ばないといけない。
現実と向きあわなければ、ちっぽけな幸せだって守れない。
だから、私は一つの選択をしました。
最善手とは言い難い、安っぽくて曖昧な選択。
唯「ティータイムを復活させる?」
紬「ええ、唯ちゃんはどう思う?」
唯「うん。私だって復活させたいと思うよ。でも……」
紬「そうよね。練習に使える時間も減るし、お金もかかる」
唯「うん……」
紬「でもね、私達には必要だと思うの」
―――
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―
澪「どうして必要だと言えるんだ? そんなことより曲のためにもっと時間を」
紬「そう。一つはそれが理由。曲作り、みんなでやりましょう」
澪「みんなでやればいい曲ができるわけじゃないぞ?」
澪「少なくとも、ある程度形が出来るまでは私が詩、紬が曲をやるべきだと思う」
澪「最終的な調整はみんなでやればいいと思うけどさ……」
紬「澪ちゃん、人を惹きつける歌詞ってどんなだと思う?」
澪「私を試してるのか?」
紬「私はこう思うの」
紬「人を惹きつける歌詞は生きている人間が作ったものだって」
紬「演っている人の人間性が滲みだす曲こそ、人を惹きつける力があるって」
澪「……言ってることはわかる」
澪「私もそう考えてた時期があったよ」
澪「でも現実を見れば分かるはずだ」
澪「今圧倒的に売れてる女性グループの作詞は男がやってるんだ」
澪「つまり、歌詞を理論で作ってるってことだ」
澪「それにさ、演ってる奴の人間性が滲み出していればいい曲ってなら」
澪「どんなバンドにだって良い作詞ができることになる」
澪「でも、違うだろ。本当に力のある歌詞は、曲は、ごく一部の人間にしか作れない」
澪「選ばれた人間にしか作れない、そういうものなんだ」
紬「澪ちゃんに、それが作れるの?」
澪「……っ」
紬「……」
澪「……」
紬「……」
澪「私は……作らなきゃならない」
紬「それなら作詞は今のままでいいわ。だけど、お茶会には参加してね」
澪「……なんで」
紬「リラックスしてると、いい詩が思いつくものよ」
―――
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―
律「なるほどなぁ……」
紬「りっちゃんはどう思う?」
律「いいんじゃないかティータイム」
律「あの頃みたいでさ」
紬「そうじゃなくて……」
律「澪のことか……」
紬「うん」
律「澪の詩は間違いなくレベルアップしてる」
紬「ええ」
律「でもさ、そのかわり失われてるものもあると思う」
紬「……」
律「やっぱりさ、理屈で作った詩じゃ私達が全力を発揮できないと思うんだ」
律「昔は澪だけじゃなく唯とか、私が作詞したこともあっただろ」
律「ああいう曲はさ、出来は悪くても、なんていうか全力で演れたんだ」
紬「……」
律「でも……うん。そうだな。例えばの話だけど」
律「ムギの企みが上手くいったら面白いことになるかもしれない」
紬「私の企み?」
律「私達が尖ったものを出して、それを澪が詩にする」
律「そこにムギの曲がつく」
律「それなら……」
紬「でもね、りっちゃん。私の曲だって足りないところばかりだと思うの」
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梓「作曲について、お二人では答えは出ませんでしたか」
紬「ええ……」
梓「そうですね、ならいっそのこと作曲もみんなでやりましょうか」
紬「えっと……」
梓「勘違いしないでください。最終的に曲にするのはムギ先輩です」
梓「常々思ってたんです。私たちはムギ先輩のイメージを完全に演れてるのかなって」
梓「ムギ先輩はどう感じてました?」
紬「みんなはとても頑張ってくれてるわ」
梓「そういうことが聞きたいんじゃありません」
紬「……完全にイメージ通りなんて無理よ」
梓「そうですよね。それが普通だと思います」
梓「作曲者がどんなイメージをしても、それに詩を重ね、人間が演奏する以上、イメージ通りに行くわけがない」
紬「……」
梓「だから、最初からみんなでイメージを作るんです」
紬「それで何が変わるの?」
梓「私たちは私達が演れることを知ってます。澪先輩も自分の作れる詩を知ってます」
梓「だから、イメージ段階で私達が参加すれば、最初のイメージに近い形を体現できる」
梓「そう考えているんです」
紬「……ねぇ、いっそのこと、イメージを私以外の人が」
梓「それは駄目です」
紬「どうして?」
梓「駄目なものは駄目なんです」
―――
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唯「なるほど。ムギちゃんはなんでそう言われたか分からいんだ」
紬「ええ……」
唯「それはね。梓ちゃんがムギちゃんの作るイメージが好きだからだよ」
紬「……」
唯「私たちはみんなムギちゃんが作るイメージが好きだし、澪ちゃんの詩が好き」
唯「だから、それを変えることなんて出来ない」
紬「そう……だよね」
唯「でも協力することなら出来るんだよ」
唯「実はギー太に演らせてみたい音があるんだ」
唯「あとりっちゃんに叩いて欲しい音もある」
唯「そういうのをムギちゃんがムギちゃんのイメージに加えてくれたら」
唯「いいものになるかも」
紬「……唯ちゃん」
唯「なぁに?」
紬「大好き」
唯「知ってる」
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澪「私は怖いんだ」
紬「そう。奇遇ね」
澪「ムギも?」
紬「ええ、私も怖いの」
澪「梓だけじゃなかったんだ」
紬「私達だけじゃない。唯ちゃんだってりっちゃんだって、怖がってる」
澪「当然だよな」
紬「ええ、当然ね」
澪「あの頃とはすっかり変わってしまったとしても、それでも……」
澪「ここは居心地が好すぎるから」
紬「守りたいって思ってしまう」
紬「ちょっとぐらい無理してでも、ね」
澪「あぁ」
紬「それで、決まった?」
澪「うん。梓に説得された」
紬「なんて?」
澪「澪先輩が一人で作詞したんじゃいつまで経ってもデビューできませんって」
紬「……私も似たようなこと言われちゃった」
澪「生意気な後輩だ」
紬「ええ、本当に」
澪「やっと、私も心が決まったよ」
澪「どうせ散るなら楽しく散ったほうがいいし」
紬「あら、散るつもりなんだ」
澪「例えの話だよ」
紬「そう。それなら良かった」
澪「……実はさ、ずっと泣いてたんだ」
澪「あのオーディションに落ちた後、梓のあの言葉を聞いた後」
澪「もう私たちは終わっちゃうのかな」
澪「みんなと一緒の時間ももう終わっちゃうのかな」
澪「そう思ったら、涙が止まらなくて」
澪「もう大人なのに、おかしいだろ?」
紬「ううん。おかしくなんてないよ」
紬「だって……」
澪「ムギ? 泣いてるの?」
紬「ごめんなさい……」
澪「どうしてムギが泣くんだ?」
紬「どうしてだろう」
澪「分からないの?」
紬「うーん。ああ、わかっちゃった」
澪「うん?」
紬「私ね、ちょっと嬉しかったんだ」
紬「高校生の頃はさ、何も言わなくてもみんな部室に集まってきたじゃない」
紬「部活動がある日はもちろん」
紬「ない日だって、なんとなくみんなで集まって」
紬「だからね、みんなの心が重なってるような感じがして」
紬「それだけで幸せだった」
紬「ふふふ、本当に楽しかったなぁ」
澪「あぁ、そうだな……」
紬「大学に入ったら、みんなで集まることは減っちゃって……」
紬「それでもたまに学食とかりっちゃんの部屋とかで集まってた」
紬「でもね、あの頃からかな……」
紬「みんなの気持ちが見えにくくなってきたのは」
澪「それまでは見えたんだ?」
紬「ええ、楽しいとか、悲しいとか、それくらいはね」
紬「今は、それも見えにくくなっちゃった」
澪「……」
紬「場所がなくなっちゃったからかな」
紬「時間がなくなっちゃったからかな」
紬「理由なんてどうでもいいけど」
紬「私は、みんなのことがわからなくなるのが怖かった」
紬「でも、どうしようもなかったの」
澪「ムギ……」
紬「でもね、今回のことでみんなのことが少しだけわかった」
紬「あの頃に戻れたみたい」
紬「ねぇ、澪ちゃん」
澪「なんだ?」
紬「一つだけお願いがあるの」
澪「お願い?」
紬「ええ、お願い」
―――
――
―
―9―
唯「ねぇ、ムギちゃん」
お菓子作りをしている途中、唯ちゃんに話しかけられた。
口の周りにはクリームがついてる。
きっとこっそりつまみ食いしたのだろう。
紬「なぁに?」
唯「きっとさ、すっごく良い曲なんて出来ないよね」
紬「……そうかも」
唯「でもね、ちょっとだけいい曲ならできると思うんだ」
紬「そうねぇ」
唯「そしたら少しぐらいチャンスはあるかも」
紬「ええ」
唯「でもね、駄目かもしれない」
紬「うん」
梓「でも、それでもいいです」
メレンゲ作りに悪戦苦闘していた梓ちゃんが話に加わる。
紬「そうなの?」
梓「はい。だって――」
私はみんなにお願いをした。
次の曲が駄目だったら、プロへの道はきっぱり諦める。
それでみんなばらばらの道を歩いて行く。
としても、それでも、週一回は必ずティータイムをやりたいというお願い。
どんなに時間がなくても、お金がかかっても、ティータイムだけは続ける。
唯ちゃんは二つ返事で了承してくれた。
りっちゃんはちょっと考えてから、是非やりたいと言ってくれた。
梓ちゃんは抱きついてくれた。
澪ちゃんだけ、ちょっと渋っていた。
紬「でもね、まだ終わったわけじゃないから」
梓「はい」
唯「うん。そうだね。演りたいね。武道館で」
梓「まだ諦めてなかったんですか、武道館」
唯「そうだよーあずにゃん」
紬「うふふ、そうね」
お菓子作りをしながら、私は曲を考え続ける。
ついでに歌詞も考え続ける。
次が最後のチャンス。
どうなるかはわからないけど、全力は尽くさないといけない。
それで駄目だったら、駄目だったでいい。
誰もがスターになれるわけじゃないのだから。
紬「あら、そろそろりっちゃんと澪ちゃんがくる時間よ」
梓「ま、待ってくださいまだメレンゲが」
しばらくして、私達5人の、2年ぶりのお茶会がはじまった。
―――
――
―
それから先のことを語るのは野暮というものだと思う。
だから秘密にしておきます。
ただ一つだけ教えてあげられることがあります。
5人は今でもとっても仲良し。
それから――――
おしまいっ!
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