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―7― 思い通りにいかないのが現実です。 どれだけ努力しても、最善手を選択しても、報われるとは限らない。 そもそも何が最善かも曖昧。 それでも、生きている限りは、何かを選ばないといけない。 現実と向きあわなければ、ちっぽけな幸せだって守れない。 だから、私は一つの選択をしました。 最善手とは言い難い、安っぽくて曖昧な選択。 唯「ティータイムを復活させる?」 紬「ええ、唯ちゃんはどう思う?」 唯「うん。私だって復活させたいと思うよ。でも……」 紬「そうよね。練習に使える時間も減るし、お金もかかる」 唯「うん……」 紬「でもね、私達には必要だと思うの」 ――― ―― ― 澪「どうして必要だと言えるんだ? そんなことより曲のためにもっと時間を」 紬「そう。一つはそれが理由。曲作り、みんなでやりましょう」 澪「みんなでやればいい曲ができるわけじゃないぞ?」 澪「少なくとも、ある程度形が出来るまでは私が詩、紬が曲をやるべきだと思う」 澪「最終的な調整はみんなでやればいいと思うけどさ……」 紬「澪ちゃん、人を惹きつける歌詞ってどんなだと思う?」 澪「私を試してるのか?」 紬「私はこう思うの」 紬「人を惹きつける歌詞は生きている人間が作ったものだって」 紬「演っている人の人間性が滲みだす曲こそ、人を惹きつける力があるって」 澪「……言ってることはわかる」 澪「私もそう考えてた時期があったよ」 澪「でも現実を見れば分かるはずだ」 澪「今圧倒的に売れてる女性グループの作詞は男がやってるんだ」 澪「つまり、歌詞を理論で作ってるってことだ」 澪「それにさ、演ってる奴の人間性が滲み出していればいい曲ってなら」 澪「どんなバンドにだって良い作詞ができることになる」 澪「でも、違うだろ。本当に力のある歌詞は、曲は、ごく一部の人間にしか作れない」 澪「選ばれた人間にしか作れない、そういうものなんだ」 紬「澪ちゃんに、それが作れるの?」 澪「……っ」 紬「……」 澪「……」 紬「……」 澪「私は……作らなきゃならない」 紬「それなら作詞は今のままでいいわ。だけど、お茶会には参加してね」 澪「……なんで」 紬「リラックスしてると、いい詩が思いつくものよ」 ――― ―― ― 律「なるほどなぁ……」 紬「りっちゃんはどう思う?」 律「いいんじゃないかティータイム」 律「あの頃みたいでさ」 紬「そうじゃなくて……」 律「澪のことか……」 紬「うん」 律「澪の詩は間違いなくレベルアップしてる」 紬「ええ」 律「でもさ、そのかわり失われてるものもあると思う」 紬「……」 律「やっぱりさ、理屈で作った詩じゃ私達が全力を発揮できないと思うんだ」 律「昔は澪だけじゃなく唯とか、私が作詞したこともあっただろ」 律「ああいう曲はさ、出来は悪くても、なんていうか全力で演れたんだ」 紬「……」 律「でも……うん。そうだな。例えばの話だけど」 律「ムギの企みが上手くいったら面白いことになるかもしれない」 紬「私の企み?」 律「私達が尖ったものを出して、それを澪が詩にする」 律「そこにムギの曲がつく」 律「それなら……」 紬「でもね、りっちゃん。私の曲だって足りないところばかりだと思うの」 ――― ―― ― 梓「作曲について、お二人では答えは出ませんでしたか」 紬「ええ……」 梓「そうですね、ならいっそのこと作曲もみんなでやりましょうか」 紬「えっと……」 梓「勘違いしないでください。最終的に曲にするのはムギ先輩です」 梓「常々思ってたんです。私たちはムギ先輩のイメージを完全に演れてるのかなって」 梓「ムギ先輩はどう感じてました?」 紬「みんなはとても頑張ってくれてるわ」 梓「そういうことが聞きたいんじゃありません」 紬「……完全にイメージ通りなんて無理よ」 梓「そうですよね。それが普通だと思います」 梓「作曲者がどんなイメージをしても、それに詩を重ね、人間が演奏する以上、イメージ通りに行くわけがない」 紬「……」 梓「だから、最初からみんなでイメージを作るんです」 紬「それで何が変わるの?」 梓「私たちは私達が演れることを知ってます。澪先輩も自分の作れる詩を知ってます」 梓「だから、イメージ段階で私達が参加すれば、最初のイメージに近い形を体現できる」 梓「そう考えているんです」 紬「……ねぇ、いっそのこと、イメージを私以外の人が」 梓「それは駄目です」 紬「どうして?」 梓「駄目なものは駄目なんです」 ――― ―― ― 唯「なるほど。ムギちゃんはなんでそう言われたか分からいんだ」 紬「ええ……」 唯「それはね。梓ちゃんがムギちゃんの作るイメージが好きだからだよ」 紬「……」 唯「私たちはみんなムギちゃんが作るイメージが好きだし、澪ちゃんの詩が好き」 唯「だから、それを変えることなんて出来ない」 紬「そう……だよね」 唯「でも協力することなら出来るんだよ」 唯「実はギー太に演らせてみたい音があるんだ」 唯「あとりっちゃんに叩いて欲しい音もある」 唯「そういうのをムギちゃんがムギちゃんのイメージに加えてくれたら」 唯「いいものになるかも」 紬「……唯ちゃん」 唯「なぁに?」 紬「大好き」 唯「知ってる」 ――― ―― ― ―8― 澪「私は怖いんだ」 紬「そう。奇遇ね」 澪「ムギも?」 紬「ええ、私も怖いの」 澪「梓だけじゃなかったんだ」 紬「私達だけじゃない。唯ちゃんだってりっちゃんだって、怖がってる」 澪「当然だよな」 紬「ええ、当然ね」 澪「あの頃とはすっかり変わってしまったとしても、それでも……」 澪「ここは居心地が好すぎるから」 紬「守りたいって思ってしまう」 紬「ちょっとぐらい無理してでも、ね」 澪「あぁ」 紬「それで、決まった?」 澪「うん。梓に説得された」 紬「なんて?」 澪「澪先輩が一人で作詞したんじゃいつまで経ってもデビューできませんって」 紬「……私も似たようなこと言われちゃった」 澪「生意気な後輩だ」 紬「ええ、本当に」 澪「やっと、私も心が決まったよ」 澪「どうせ散るなら楽しく散ったほうがいいし」 紬「あら、散るつもりなんだ」 澪「例えの話だよ」 紬「そう。それなら良かった」 澪「……実はさ、ずっと泣いてたんだ」 澪「あのオーディションに落ちた後、梓のあの言葉を聞いた後」 澪「もう私たちは終わっちゃうのかな」 澪「みんなと一緒の時間ももう終わっちゃうのかな」 澪「そう思ったら、涙が止まらなくて」 澪「もう大人なのに、おかしいだろ?」 紬「ううん。おかしくなんてないよ」 紬「だって……」 澪「ムギ? 泣いてるの?」 紬「ごめんなさい……」 澪「どうしてムギが泣くんだ?」 紬「どうしてだろう」 澪「分からないの?」 紬「うーん。ああ、わかっちゃった」 澪「うん?」 紬「私ね、ちょっと嬉しかったんだ」 紬「高校生の頃はさ、何も言わなくてもみんな部室に集まってきたじゃない」 紬「部活動がある日はもちろん」 紬「ない日だって、なんとなくみんなで集まって」 紬「だからね、みんなの心が重なってるような感じがして」 紬「それだけで幸せだった」 紬「ふふふ、本当に楽しかったなぁ」 澪「あぁ、そうだな……」 紬「大学に入ったら、みんなで集まることは減っちゃって……」 紬「それでもたまに学食とかりっちゃんの部屋とかで集まってた」 紬「でもね、あの頃からかな……」 紬「みんなの気持ちが見えにくくなってきたのは」 澪「それまでは見えたんだ?」 紬「ええ、楽しいとか、悲しいとか、それくらいはね」 紬「今は、それも見えにくくなっちゃった」 澪「……」 紬「場所がなくなっちゃったからかな」 紬「時間がなくなっちゃったからかな」 紬「理由なんてどうでもいいけど」 紬「私は、みんなのことがわからなくなるのが怖かった」 紬「でも、どうしようもなかったの」 澪「ムギ……」 紬「でもね、今回のことでみんなのことが少しだけわかった」 紬「あの頃に戻れたみたい」 紬「ねぇ、澪ちゃん」 澪「なんだ?」 紬「一つだけお願いがあるの」 澪「お願い?」 紬「ええ、お願い」 ――― ―― ― ―9― 唯「ねぇ、ムギちゃん」 お菓子作りをしている途中、唯ちゃんに話しかけられた。 口の周りにはクリームがついてる。 きっとこっそりつまみ食いしたのだろう。 紬「なぁに?」 唯「きっとさ、すっごく良い曲なんて出来ないよね」 紬「……そうかも」 唯「でもね、ちょっとだけいい曲ならできると思うんだ」 紬「そうねぇ」 唯「そしたら少しぐらいチャンスはあるかも」 紬「ええ」 唯「でもね、駄目かもしれない」 紬「うん」 梓「でも、それでもいいです」 メレンゲ作りに悪戦苦闘していた梓ちゃんが話に加わる。 紬「そうなの?」 梓「はい。だって――」 私はみんなにお願いをした。 次の曲が駄目だったら、プロへの道はきっぱり諦める。 それでみんなばらばらの道を歩いて行く。 としても、それでも、週一回は必ずティータイムをやりたいというお願い。 どんなに時間がなくても、お金がかかっても、ティータイムだけは続ける。 唯ちゃんは二つ返事で了承してくれた。 りっちゃんはちょっと考えてから、是非やりたいと言ってくれた。 梓ちゃんは抱きついてくれた。 澪ちゃんだけ、ちょっと渋っていた。 紬「でもね、まだ終わったわけじゃないから」 梓「はい」 唯「うん。そうだね。演りたいね。武道館で」 梓「まだ諦めてなかったんですか、武道館」 唯「そうだよーあずにゃん」 紬「うふふ、そうね」 お菓子作りをしながら、私は曲を考え続ける。 ついでに歌詞も考え続ける。 次が最後のチャンス。 どうなるかはわからないけど、全力は尽くさないといけない。 それで駄目だったら、駄目だったでいい。 誰もがスターになれるわけじゃないのだから。 紬「あら、そろそろりっちゃんと澪ちゃんがくる時間よ」 梓「ま、待ってくださいまだメレンゲが」 しばらくして、私達5人の、2年ぶりのお茶会がはじまった。 ――― ―― ― それから先のことを語るのは野暮というものだと思う。 だから秘密にしておきます。 ただ一つだけ教えてあげられることがあります。 5人は今でもとっても仲良し。 それから―――― おしまいっ! ---- [[戻る>紬「私、リクエストに応えて色んなSS書くのが夢だったの~」 ]]
―7― 思い通りにいかないのが現実です。 どれだけ努力しても、最善手を選択しても、報われるとは限らない。 そもそも何が最善かも曖昧。 それでも、生きている限りは、何かを選ばないといけない。 現実と向きあわなければ、ちっぽけな幸せだって守れない。 だから、私は一つの選択をしました。 最善手とは言い難い、安っぽくて曖昧な選択。 唯「ティータイムを復活させる?」 紬「ええ、唯ちゃんはどう思う?」 唯「うん。私だって復活させたいと思うよ。でも……」 紬「そうよね。練習に使える時間も減るし、お金もかかる」 唯「うん……」 紬「でもね、私達には必要だと思うの」 ――― ―― ― 澪「どうして必要だと言えるんだ? そんなことより曲のためにもっと時間を」 紬「そう。一つはそれが理由。曲作り、みんなでやりましょう」 澪「みんなでやればいい曲ができるわけじゃないぞ?」 澪「少なくとも、ある程度形が出来るまでは私が詩、紬が曲をやるべきだと思う」 澪「最終的な調整はみんなでやればいいと思うけどさ……」 紬「澪ちゃん、人を惹きつける歌詞ってどんなだと思う?」 澪「私を試してるのか?」 紬「私はこう思うの」 紬「人を惹きつける歌詞は生きている人間が作ったものだって」 紬「演っている人の人間性が滲みだす曲こそ、人を惹きつける力があるって」 澪「……言ってることはわかる」 澪「私もそう考えてた時期があったよ」 澪「でも現実を見れば分かるはずだ」 澪「今圧倒的に売れてる女性グループの作詞は男がやってるんだ」 澪「つまり、歌詞を理論で作ってるってことだ」 澪「それにさ、演ってる奴の人間性が滲み出していればいい曲ってなら」 澪「どんなバンドにだって良い作詞ができることになる」 澪「でも、違うだろ。本当に力のある歌詞は、曲は、ごく一部の人間にしか作れない」 澪「選ばれた人間にしか作れない、そういうものなんだ」 紬「澪ちゃんに、それが作れるの?」 澪「……っ」 紬「……」 澪「……」 紬「……」 澪「私は……作らなきゃならない」 紬「それなら作詞は今のままでいいわ。だけど、お茶会には参加してね」 澪「……なんで」 紬「リラックスしてると、いい詩が思いつくものよ」 ――― ―― ― 律「なるほどなぁ……」 紬「りっちゃんはどう思う?」 律「いいんじゃないかティータイム」 律「あの頃みたいでさ」 紬「そうじゃなくて……」 律「澪のことか……」 紬「うん」 律「澪の詩は間違いなくレベルアップしてる」 紬「ええ」 律「でもさ、そのかわり失われてるものもあると思う」 紬「……」 律「やっぱりさ、理屈で作った詩じゃ私達が全力を発揮できないと思うんだ」 律「昔は澪だけじゃなく唯とか、私が作詞したこともあっただろ」 律「ああいう曲はさ、出来は悪くても、なんていうか全力で演れたんだ」 紬「……」 律「でも……うん。そうだな。例えばの話だけど」 律「ムギの企みが上手くいったら面白いことになるかもしれない」 紬「私の企み?」 律「私達が尖ったものを出して、それを澪が詩にする」 律「そこにムギの曲がつく」 律「それなら……」 紬「でもね、りっちゃん。私の曲だって足りないところばかりだと思うの」 ――― ―― ― 梓「作曲について、お二人では答えは出ませんでしたか」 紬「ええ……」 梓「そうですね、ならいっそのこと作曲もみんなでやりましょうか」 紬「えっと……」 梓「勘違いしないでください。最終的に曲にするのはムギ先輩です」 梓「常々思ってたんです。私たちはムギ先輩のイメージを完全に演れてるのかなって」 梓「ムギ先輩はどう感じてました?」 紬「みんなはとても頑張ってくれてるわ」 梓「そういうことが聞きたいんじゃありません」 紬「……完全にイメージ通りなんて無理よ」 梓「そうですよね。それが普通だと思います」 梓「作曲者がどんなイメージをしても、それに詩を重ね、人間が演奏する以上、イメージ通りに行くわけがない」 紬「……」 梓「だから、最初からみんなでイメージを作るんです」 紬「それで何が変わるの?」 梓「私たちは私達が演れることを知ってます。澪先輩も自分の作れる詩を知ってます」 梓「だから、イメージ段階で私達が参加すれば、最初のイメージに近い形を体現できる」 梓「そう考えているんです」 紬「……ねぇ、いっそのこと、イメージを私以外の人が」 梓「それは駄目です」 紬「どうして?」 梓「駄目なものは駄目なんです」 ――― ―― ― 唯「なるほど。ムギちゃんはなんでそう言われたか分からいんだ」 紬「ええ……」 唯「それはね。梓ちゃんがムギちゃんの作るイメージが好きだからだよ」 紬「……」 唯「私たちはみんなムギちゃんが作るイメージが好きだし、澪ちゃんの詩が好き」 唯「だから、それを変えることなんて出来ない」 紬「そう……だよね」 唯「でも協力することなら出来るんだよ」 唯「実はギー太に演らせてみたい音があるんだ」 唯「あとりっちゃんに叩いて欲しい音もある」 唯「そういうのをムギちゃんがムギちゃんのイメージに加えてくれたら」 唯「いいものになるかも」 紬「……唯ちゃん」 唯「なぁに?」 紬「大好き」 唯「知ってる」 ――― ―― ― ―8― 澪「私は怖いんだ」 紬「そう。奇遇ね」 澪「ムギも?」 紬「ええ、私も怖いの」 澪「梓だけじゃなかったんだ」 紬「私達だけじゃない。唯ちゃんだってりっちゃんだって、怖がってる」 澪「当然だよな」 紬「ええ、当然ね」 澪「あの頃とはすっかり変わってしまったとしても、それでも……」 澪「ここは居心地が好すぎるから」 紬「守りたいって思ってしまう」 紬「ちょっとぐらい無理してでも、ね」 澪「あぁ」 紬「それで、決まった?」 澪「うん。梓に説得された」 紬「なんて?」 澪「澪先輩が一人で作詞したんじゃいつまで経ってもデビューできませんって」 紬「……私も似たようなこと言われちゃった」 澪「生意気な後輩だ」 紬「ええ、本当に」 澪「やっと、私も心が決まったよ」 澪「どうせ散るなら楽しく散ったほうがいいし」 紬「あら、散るつもりなんだ」 澪「例えの話だよ」 紬「そう。それなら良かった」 澪「……実はさ、ずっと泣いてたんだ」 澪「あのオーディションに落ちた後、梓のあの言葉を聞いた後」 澪「もう私たちは終わっちゃうのかな」 澪「みんなと一緒の時間ももう終わっちゃうのかな」 澪「そう思ったら、涙が止まらなくて」 澪「もう大人なのに、おかしいだろ?」 紬「ううん。おかしくなんてないよ」 紬「だって……」 澪「ムギ? 泣いてるの?」 紬「ごめんなさい……」 澪「どうしてムギが泣くんだ?」 紬「どうしてだろう」 澪「分からないの?」 紬「うーん。ああ、わかっちゃった」 澪「うん?」 紬「私ね、ちょっと嬉しかったんだ」 紬「高校生の頃はさ、何も言わなくてもみんな部室に集まってきたじゃない」 紬「部活動がある日はもちろん」 紬「ない日だって、なんとなくみんなで集まって」 紬「だからね、みんなの心が重なってるような感じがして」 紬「それだけで幸せだった」 紬「ふふふ、本当に楽しかったなぁ」 澪「あぁ、そうだな……」 紬「大学に入ったら、みんなで集まることは減っちゃって……」 紬「それでもたまに学食とかりっちゃんの部屋とかで集まってた」 紬「でもね、あの頃からかな……」 紬「みんなの気持ちが見えにくくなってきたのは」 澪「それまでは見えたんだ?」 紬「ええ、楽しいとか、悲しいとか、それくらいはね」 紬「今は、それも見えにくくなっちゃった」 澪「……」 紬「場所がなくなっちゃったからかな」 紬「時間がなくなっちゃったからかな」 紬「理由なんてどうでもいいけど」 紬「私は、みんなのことがわからなくなるのが怖かった」 紬「でも、どうしようもなかったの」 澪「ムギ……」 紬「でもね、今回のことでみんなのことが少しだけわかった」 紬「あの頃に戻れたみたい」 紬「ねぇ、澪ちゃん」 澪「なんだ?」 紬「一つだけお願いがあるの」 澪「お願い?」 紬「ええ、お願い」 ――― ―― ― ―9― 唯「ねぇ、ムギちゃん」 お菓子作りをしている途中、唯ちゃんに話しかけられた。 口の周りにはクリームがついてる。 きっとこっそりつまみ食いしたのだろう。 紬「なぁに?」 唯「きっとさ、すっごく良い曲なんて出来ないよね」 紬「……そうかも」 唯「でもね、ちょっとだけいい曲ならできると思うんだ」 紬「そうねぇ」 唯「そしたら少しぐらいチャンスはあるかも」 紬「ええ」 唯「でもね、駄目かもしれない」 紬「うん」 梓「でも、それでもいいです」 メレンゲ作りに悪戦苦闘していた梓ちゃんが話に加わる。 紬「そうなの?」 梓「はい。だって――」 私はみんなにお願いをした。 次の曲が駄目だったら、プロへの道はきっぱり諦める。 それでみんなばらばらの道を歩いて行く。 としても、それでも、週一回は必ずティータイムをやりたいというお願い。 どんなに時間がなくても、お金がかかっても、ティータイムだけは続ける。 唯ちゃんは二つ返事で了承してくれた。 りっちゃんはちょっと考えてから、是非やりたいと言ってくれた。 梓ちゃんは抱きついてくれた。 澪ちゃんだけ、ちょっと渋っていた。 紬「でもね、まだ終わったわけじゃないから」 梓「はい」 唯「うん。そうだね。演りたいね。武道館で」 梓「まだ諦めてなかったんですか、武道館」 唯「そうだよーあずにゃん」 紬「うふふ、そうね」 お菓子作りをしながら、私は曲を考え続ける。 ついでに歌詞も考え続ける。 次が最後のチャンス。 どうなるかはわからないけど、全力は尽くさないといけない。 それで駄目だったら、駄目だったでいい。 誰もがスターになれるわけじゃないのだから。 紬「あら、そろそろりっちゃんと澪ちゃんがくる時間よ」 梓「ま、待ってくださいまだメレンゲが」 しばらくして、私達5人の、2年ぶりのお茶会がはじまった。 ――― ―― ― それから先のことを語るのは野暮というものだと思う。 だから秘密にしておきます。 ただ一つだけ教えてあげられることがあります。 5人は今でもとっても仲良し。 それから―――― おしまいっ! ---- [[戻る>紬「りあるとげんじつ」 ]]

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