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律「うぉっちめん!」 1 - (2014/04/26 (土) 20:18:07) の編集履歴(バックアップ)


I hear always the admonishment of my friends.
私は我が友の忠告を常に聞く

"Bolt her in, and constrain her!"
「彼女に閂を掛け、拘束せよ!」

But who will watch the watchmen?
しかし、誰が見張りを見張るのか?

The wife arranges accordingly, and begins with them.
妻は手筈を整えて、彼らと事を始める



2022年10月11日、深夜。
唯は酔っていた。
自身の酒の強さを過信していた訳ではないのだが、それでも二十代の頃のような飲み方は、
今の身体には荷が重すぎた。
マンションのエントランスでは都合四回転びかけ、エレベーターに入っても“15”のボタンを
押すのに難儀し、そして今、鍵がなかなか鍵穴に入らない。
耳障りな金属音が続いた後、ようやく玄関のドアが開いた。

唯「ただいまぁ」

低く呟いても返事は返って来ない。
十二畳のワンルームで借主を待つ者は真っ暗闇だけだった。

唯「あぁあぁ、かぁみさぁまおねぇがいぃ、いちどだぁけぇのみらくぅるぅたいむ、くぅだぁさいぃ」

音程も抑揚も無い低い歌声を口から漏らしながら、唯は靴を乱暴に脱ぎ捨て、壁にもたれ掛かり
ながら灯りのスイッチを探る。
たっぷり時間を掛けて壁がまさぐられた後、蛍光灯の光が映し出した光景は――

唯「な、何これ……?」

――足の踏み場も無い程に荒らされた室内。
タンスや物入れの引き出しはすべて引き出されて中身と共に床に転がり、ベッドからは掛け布団も
敷きマットも引っぺがされている。クローゼットは開け放たれ、然程洒落てもいない服が
やはり床に散乱していた。

唯「ひどい…… まさか……」

室内の惨状が唯の脳内に蹴りを入れるも、鈍った頭は容易に行動を指示してくれない。
それでも何とか携帯電話を取り出し、震える指でボタンを押し始める。
その時、唯の背後で、黒い影がガタリと音を立てた。

唯「誰!?」

ドアの陰から表れたのは全身黒ずくめの人間。顔も帽子と布のようなもので覆われており、
正体がわからない。
侵入者は素早く唯に近づくと、彼女の頬をしたたかに殴りつけた。

唯「ぎゃっ!」

凄まじい力だった。
部屋の中央にいた筈の唯が、大きく吹き飛ばされ、窓ガラスを破ってバルコニーに転がり
出てしまった程だ。

唯「う…… うぅ……」

顔面の痛みと脳の揺れが、酒の酔いと相まって、唯の意識を遮断させようとしていた。
だが、侵入者はそんな事は我関せずと、彼女の胸倉を掴んで、横たわる身体を強引に立ち上がらせる。
そして、立ち上がるだけでは終わらず、そのまま唯の身体は高々と持ち上げられた。
侵入者は唯を担ぎながら、ゆっくりとバルコニーの手すりの方へ近づいていく。
意図は明白だ。

唯「やめて…… お願い……」

綺麗な街の灯りが見える。
瞬間、世界は反転し、今度は星の明かりが唯の眼に映った。
後はただ急速に星空が遠くなっていく。

鈍い音。一瞬遅れて響き渡る、有象無象の悲鳴。






Come gather 'round people
Wherever you roam
And admit that the waters
Around you have grown
And accept it that soon
You'll be drenched to the bone
If your time to you
Is worth savin'
Then you better start swimmin'
Or you'll sink like a stone
For the times they are a-changin'

いいか、みんな集まれ
周りの水が、水かさを増しているのが見えるだろう
もうすぐ身体の芯までずぶ濡れになる
もし時間を無駄にしたくないなら
今すぐ泳ぎ出す事だ
さもないと石みたいに水底に沈んでしまうぞ
時代は変わりつつあるんだ


プレゼンター『2012年度日本レコード大賞は……―― 放課後ティータイム“GO! GO! MANIAC”!』

唯『やったぁ!』

律『いよっしゃぁあああ!!』

司会『放課後ティータイムは昨年度の“Don't say lazy”に続き、二年連続の大賞受賞、
V2となりました! ボーカルを務められた平沢さん、おめでとうございます!』

唯『ありがとうございます! すごく嬉しいです! 高音とか息継ぎとかとっても難しい
曲でしたけど、皆さんに楽しんでもらえる曲になって本当に良かったです!』

観客『おめでと~~~!!』

唯『みんな、ありがと~! 大好き~!』

澪『ううっ、ぐすっ…… 良かった、本当に良かった……』ポロポロ

紬『もう、泣いちゃダメよ。澪ちゃん』

梓『ありがとうございまーす!』

観客『かわ唯~~~!!』

観客『あずにゃんペロペロ~~~!!』


Come writers and critics
Who prophesize with your pen
And keep your eyes wide
The chance won't come again
And don't speak too soon
For the wheel's still in spin
And there's no tellin' who
That it's namin'.
For the loser now
Will be later to win
For the times they are a-changin'

いいか、記者や評論家のみなさんよ
あんた達はペンで未来を予言しているけど
よく目を開けておくんだ
こんな機会はもう二度と来ない
即断してはいけない
ルーレットはまだ回り続けていて
勝負はまだついていない
今、負けている奴が
いずれ勝つ事になる
時代は変わりつつあるんだ





唯『結婚おめでとう。ムギちゃん』

澪『ムギ、本当におめでとう』

梓『おめでとうございます。ムギ先輩』

紬『みんな、ありがとう』

律『そして、引退おめでとう…… って言っていいのかな。ホント、寂しくなるよ。梓が軽音部に
  入った時から六年間、ずっと五人でやってきたからな』

澪『そうだな。それに作曲担当がいなくなっちゃうと思うと……』

唯『澪ちゃんの書いた詞とムギちゃんの作った曲が、放課後ティータイムの歌なのに……』

紬『大丈夫よ。澪ちゃんの作った曲が素敵なのは前のアルバムで証明済みなんだし、唯ちゃんだって
  最近作曲を頑張ってるじゃない。これからは唯ちゃんと澪ちゃんが放課後ティータイムの
  カラーを出していくのよ』

唯『うん……』

紬『陰ながら応援しているわ。頑張ってね』


Come senators, congressmen
Please heed the call
Don't stand in the doorway
Don't block up the hall
For he that gets hurt
Will be he who has stalled
There's a battle outside
And it is ragin'
It'll soon shake your windows
And rattle your walls
For the times they are a-changin'

いいか、国会議員の皆さんよ
よく注意しておけ
ドアの前に立つな
廊下をふさぐな
怪我をするのはグズグズしている奴からだ
今、外では闘いが激しくなっていて
いずれ議事堂の窓を震わせ、壁を揺さぶるだろう
時代は変わりつつあるんだ


唯『どうして!? どうして今度のアルバムに私の曲が一曲も入らないの!?』

澪『しょうがないだろ。それがプロデューサーの考えなんだから』

唯『でも……! 曲もボーカルも全部澪ちゃんだなんてズルいよ! 前のアルバムだって
  ほとんど澪ちゃんだったし! 放課後ティータイムは澪ちゃんだけのものじゃないんだよ!』

梓『ゆ、唯先輩、落ち着いて下さい』

律『ズルいとか、そういう問題じゃないよ。な? 少し落ち着けって』

唯『……』グスッ

澪『私達はプロのバンドなんだ。あんまりワガママばかり言うなよな』

唯『私だって、私だって放課後ティータイムなのに……』

律『わかってる。わかってるって、唯。大丈夫だよ』ギュッ

梓『そうですよ。唯先輩の歌もギターも、放課後ティータイムになくてはならない存在ですから』

澪『……私、もう帰るよ』スッ

唯『……』





Come mothers and fathers
Throughout the land
And don't criticize
What you can't understand
Your sons and your daughters
Are beyond your command
Your old road is
Rapidly agin'
Please get out of the new one
If you can't lend your hand
For the times they are a-changin'

いいか、国中のお父さんお母さんよ
自分が理解出来ない事を批判するな
あんたらの息子や娘はもう
あんたらの言う通りにはならないんだ
あんたらの来た道はどんどん古びている
もし、若い奴らに手を貸せないのなら
せめて邪魔だけはするな
時代は変わりつつあるんだ


カメラマン1『総理! 今度は秋山さんと握手でお願いします!』

カメラマン2『目線、こちらにもお願いします!』

総理大臣『いやはや、大変な人気だねえ。……ん? 何だか具合が悪そうですが、大丈夫ですか?』

澪『す、すみません。緊張で手が震えちゃって……』オドオド

リポーター『秋山さん、“クールジャパン2019”のオフィシャルアーティストに選ばれましたが、
      意気込みをひとつお願いします』

澪『ええと、日本の顔として、は、恥ずかしくないように、その、が、頑張ります……!』

リポーター『先月発売の1stソロアルバムが四週連続一位となりましたね。おめでとうございます』

澪『あ、ありがとうございます。上手く言えないんですが、ええっと、放課後ティータイムは
  日本のトップバンドだったので、今度はソロミュージシャンとしてもトップに立ち続けたい
  と思います』

総理大臣『じゃあ、私からも秋山さんに質問を…… トップに立つとはどんな気持ちですか?』

澪『えっ!?』ビクッ

リポーター『総理も日本のトップなんですから、そのお気持ちはご存知でしょう』

澪『た、確かにそうですよね…… はは……』

総理大臣『まいったな。これは一本取られました』


The line it is drawn
The curse it is cast
The slow one now
Will later be fast
As the present now
Will later be past
The order is
Rapidly fadin'
And the first one now
Will later be last
For the times they are a-changin'

スタートの合図が鳴って
誰かさんにとっての災いが飛び出した
今、遅れている奴が
いずれリードする事になる
今の順序は意味が無くなってきている
今、一番の奴が
いずれビリになるだろう
時代は変わりつつあるんだ





唯『あの、マネージャーさん…… お願いです。もうバラエティの出演は入れないでください』

マネージャー『どうして? 唯ちゃんのおバカキャラは大人気なんだよ? 数字も取れるし。
       ああ、もちろん単なるキャラ付けだからね。俺は唯ちゃんが馬鹿だとは思ってないよ』

唯『でも、テレビの前の人達はそう思ってくれません。私は、歌を歌って、ギー太を弾いて、
  私の音楽をやりたいんです!』

マネージャー『う~ん、唯ちゃんみたいな一般ウケしない音楽でマニアックな売れ方するよりもさ、
       クイズやトーク番組でおバカキャラやってた方が人気も出るし、仕事もいっぱい
       来るんだよ。ね?』

唯『……わかりました。どうしても音楽をやらせてくれないなら、私、事務所辞めます』

マネージャー『ちょ、ちょっと唯ちゃん。何もそんな……』

唯『私はコメディアンじゃない! ミュージシャンなんです!』


Come writers and critics
Who prophesize with your pen
And keep your eyes wide
The chance won't come again
And don't speak too soon
For the wheel's still in spin
And there's no tellin' who
That it's namin'.
For the loser now
Will be later to win
For the times they are a-changin'.

いいか、記者や評論家のみなさんよ
あんた達はペンで未来を予言しているけど
よく目を開けておくんだ
こんな機会はもう二度と来ない
即断してはいけない
ルーレットはまだ回り続けていて
勝負はまだついていない
今、負けている奴が
いずれ勝つ事になる
時代は変わりつつあるんだ


インタビュアー『――さて、いよいよここからは実業家としての琴吹社長にお話を伺いたいのですが』

紬『はい。お手柔らかに』

インタビュアー『ご結婚を機に放課後ティータイムを脱退。そして、芸能界そのものも引退され、
        直後に琴吹グループ代表就任と大転換を果たされました。これに関しては何か
        思うところがあったのですか?』

紬『そうですね、やはり琴吹家の一人娘として、いつかは父の事業を継がなければならない
  という意識はありました。また、ミュージシャンとして活動していく中で、エンター
  テインメントという商業分野に強く興味を惹かれ始めた面もあります』

インタビュアー『なるほど。後者に関しては、生来身体に流れる実業家の血が騒いだ、とも言えますね』

紬『ウフフッ、そうかもしれませんね。放課後ティータイムで得た自分の知名度を活かして、
  琴吹グループを成長させたいとも思いましたし』

インタビュアー『そういったお話を聞きますと、グループ企業であるコトブキ・エンターテインメントの
        社長を兼任されているのも納得がいきますね』

紬『自分がお世話になった芸能、マスメディアの世界へのご恩返し。それと、そこで生きる
  昔の私のような方々を応援したい。そんな気持ちです』

インタビュアー『2021年も残り僅かとなりましたが、来年以降の展望をお聞かせ下さい』

紬『メディア部門のより一層の充実は勿論ですが、産業部門にもこれまで通り、いえ、これまで
  以上の力を注いでまいります。既にヴェイト社やスターク・インダストリーズ等の米企業との
  業務提携を――』





Come mothers and fathers
Throughout the land
And don't criticize
What you can't understand
Your sons and your daughters
Are beyond your command
Your old road is
Rapidly agin'
Please get out of the new one
If you can't lend your hand
For the times they are a-changin'

いいか、国中のお父さんお母さんよ
自分が理解出来ない事を批判するな
あんたらの息子や娘はもう
あんたらの言う通りにはならないんだ
あんたらの来た道はどんどん古びている
もし、若い奴らに手を貸せないのなら
せめて邪魔だけはするな
時代は変わりつつあるんだ


律『よっ、おひさ』

梓『お久しぶりです。律先輩』

律『いやいやいや、梓さんや。もうお互い三十路だってのに“先輩”はよそうぜ』

梓『私にとってはいつまでも先輩は先輩ですから。それと! 私はまだ二十代です!』

律『あと三ヶ月くらいで三十だろ…… んで? その後、調子はどう?』

梓『まあまあ、です。音楽はやめられないですけど。律先輩は?』

律『私? いろんな歌手のバックバンドでドラム叩いてるよ。ま、売れっ子ってワケでもないけどねー』

梓『ドラムを叩ければ幸せ、とか?』クスクス

律『そのとーり!』

梓『それはそうと…… あ、あの、唯先輩の事なんですけど……』

律『ああ…… やっぱ梓は心配だよな。一番、唯に可愛がられてたし』

梓『憂はあまり教えてくれないんです。少し調子が悪いくらいとしか……』

律『私も直接会わなくなって、随分経つよ。でも、メールや電話では結構話してるかな。
  相談に乗る、って言っても話を聞くくらいしか出来ないけどさ』

梓『そうなんですか……』

律『こっちが泣きたくなるくらい痛々しいんだ。代われるもんなら代わってやりたいよ……』


Come gather 'round people
Wherever you roam
And admit that the waters
Around you have grown
And accept it that soon
You'll be drenched to the bone
If your time to you
Is worth savin'
Then you better start swimmin'
Or you'll sink like a stone
For the times they are a-changin'

いいか、みんな集まれ
周りの水が、水かさを増しているのが見えるだろう
もうすぐ身体の芯までずぶ濡れになる
もし時間を無駄にしたくないなら
今すぐ泳ぎ出す事だ
さもないと石みたいに水底に沈んでしまうぞ
時代は変わりつつあるんだ





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