* * * エリ(……なんという……) まき(接戦!) とし美(でも、あと一点とれば、私たちの勝ち……。 このチャンスを逃すわけにはいかない……!) とし美(……でも) 後輩C「はあ……はあ……」 とし美(みんな、スタミナを想像以上に消費している。 やっぱりアカネがいない穴は大きかった) とし美(どうする……どう、攻撃する……?) 三花「……」 とし美「……三花?」 三花「とし美。さっきはアカネの我が侭を聞かなかった私だけど……。 一度だけ、私の我が侭に付き合ってくれないかな?」 とし美「えっ……」 * * * とし美(あの後、タイムアウトを取った私たちは、 先生に直接訴えてみた) とし美(たった三十秒で、この案が採用されるとは考えられない。 そう思っていたのに、今私たちはそれを実現してしまった) アカネ「……」 とし美(アカネが、私たちと同じコートに立っている!) 三花(……これは賭け。もちろん、私個人が成功の確信を持っている賭け。 アカネをコートに呼びもどし、攻撃の選択肢として加える!) 三花(こちらからのサーブで決まれば上等、だけどそう上手くはいかない。 なら、返球されたものを、相手コートにぶちこむ以外の道は無い) 三花(前衛には私、とし美、アカネ。全員三年生。 さらに後衛には、エリとまきもいる。 三年生が全員集結しているこの瞬間、生かさず殺す道理がどこにある!) とし美(先生が提示した条件は一つ。 この一回で決めなければ、アカネを再び下げる) とし美(……十分すぎるよね、三花) とし美(だって三花は、この瞬間しか見てないんだから!) 「ピーッ!」 エリ「……いくよっ! はい!」 まき(良いサーブ! ……だけど、相手も上手い。 見事セッターに二球目を返してる) まき(ボールは相手のレフト、つまりエースへ。それなら、私の役目は!) とし美「まき!」 まき「任せて! それっ!」 後輩B(凄い! あんな剛速球を、三花先輩の元へ返すなんて!) 三花「良いよ! それじゃ、あとは頼んだ!」 後輩C(三花先輩のトスが上がる。そして、とし美先輩の頭上にボールが……! でも、相手が警戒しているのはアカネ先輩!) とし美(……後は任せたよ) 後輩A(やっぱりとし美先輩はおとり……。 本命はアカネ先輩の強烈なスパイク!) 後輩A(でも相手も、それに気付いている! 駄目! もうマークされちゃってる!) とし美(……そうだろうね) 後輩C(あれ? このボール、やけに伸びていく……) とし美(全く、うちの部長は本当怖いよ) アカネ「……ふう」 アカネ「……さあ決めちゃって、エリ!」 エリ「でやあああっ!」 とし美(アカネを“おとり”として使うんだからね!) ・ ・ ・ 「ピーッ!」 ・ ・ ・ ‐外‐ エリ「……」 アカネ「……」 三花「……」 とし美「……」 まき「……終わっちゃったね」 三花「終わっちゃったね〜……」 とし美「あの学校に勝てても、次の学校がもっと強いなんて。 そうなんだろうって、知ってても、ね」 三花「あそこ強すぎるよ〜」 とし美「全く、同感。インハイ出場を何度も果たしてる学校なんだってさ」 三花「そりゃ強いわけだねっ」 アカネ「……」 まき「でもでも、三花ちゃんのあのトス凄かった! 角度と飛距離が絶妙で、三人のうち誰が攻撃していてもおかしくなかったよ!」 三花「ん、ありがとさん!」 エリ「……」 三花「……ほらほら、エリもアカネも、だんまりは駄目だよ〜。 なにか喋ってくれないと〜」 エリ「……だ、だってざあ……!」 三花「な、泣くなよ〜……。そんなの、反則だよ……」 アカネ「……うっ、うううっ……!」 三花「先に泣かれちゃあ、駄目なんだってば……」 まき「……うわあああん……!」 三花「もう、まき! なんで泣ぐんだよ゛お〜……!」 まき「三花ちゃんこそおおお……!」 三花「ち、違うし……別に゛……」 とし美「……三花……」 三花「と、とし美……?」 とし美「良いんだよ、もう……終わっちゃたんだから゛ざ……」 三花「……ばかあ……とし美の、ばかあ……!」 「うわああああん……!」 * * * 後輩A「……」 後輩B「おっ、泣いてるのかな?」 後輩A「うるさい」 後輩C「……涙は人に隠したいもの」 後輩C「だけど、私は知ってる。 今この目から出ている涙は、とっても綺麗なものなんだって」 後輩A「……慰めのつもり?」 後輩C「とことん泣いて良いよっていう、許し」 後輩A「……全然可愛くない」 * * * 三花「……集合!」 「……」 三花「本日をもちまして、私たち三年生は引退します。 ですが、それでも私たちはあなたたちの先輩です」 三花「……困ったことがあったら、なんでも相談しにきてね?」 「はい!」 三花「では、三年生全員から一言ずつ頂こうと思います。 というわけで、まずはとし美!」 とし美「えっ、私?」 エリ「緊張するんじゃないよー!」 とし美「してないしてない」 とし美「えっと……、今まで三年生はお疲れ様でした。 二年生は部活の最高学年として、部を引っ張って上げてください。 一年生はそんな先輩の姿を見て、得るモノは得てください」 とし美「私は副部長という立場でみんなを見ていましたが、 きっと大丈夫だと思います。みんな、充分実力があります」 とし美「もちろんそれは、バレーの技術という面だけでない。 ……ということも私の方から加えて言っておきます」 とし美「ありがとうございました!」 「ありがとうございました!」 とし美「次、まき」 まき「私はこの部活に入って、精一杯頑張って、 みんなと笑いあって……本当に楽しかったです」 まき「先輩らしくない扱いとかも沢山受けてきましたが、 それでもここまで走りきることが出来て、 本当に良かったと思います。ありがとうございました!」 後輩B「まぎぜんばい〜……!」 まき「はい次、エリちゃん!」 後輩B「うう……」 まき「……よしよし」 エリ「では、まきの唯一といってもいい 先輩らしさを見せてもらったところで、私の出番です」 エリ「みんな、こんな私たちについてきてくれて、ありがと!」 エリ「思えば苦労だらけの二年半だったけど、 それ以上に楽しいことも沢山ありました」 エリ「そんな時間を過ごせた仲間に、ありがとうございました! そして、あとは任せました!」 「はいっ!」 エリ「ラストはアカネ!」 アカネ「こういうのって、普通部長が最後じゃないかと思うけど」 三花「だって私、最初に言っちゃったんだもん〜」 アカネ「いちいちこういう役回りなのは、私の人生なのかもね……」 アカネ「……さて、みんなお疲れ様。 大体言いたいことは外の先輩たちが言っちゃって、 私に言葉なんか残されてないんだけど」 アカネ「私の個人的なことを一つ」 アカネ「みんなに残された時間は、思った以上に短いです。 人生という物差しで測れば、高校生活なんてあっという間」 アカネ「だけど高校三年間の密度の高さは、 二年生はわかっていると思うけど、他の三年間を凌駕しています」 アカネ「そんな三年間があっという間、ということは、 もうみなさんに立ち止まってる暇はないということです」 アカネ「……後悔しないよう、全力を尽くしていってください!」 「はいっ!!」 三花「……それじゃ、解散! ありがとうございました!」 「ありがとうございましたーっ!」 * * * 三花「じゃあね、二人とも〜」 エリ「じゃあねー!」 アカネ「……」 エリ「……いやあ、終わったねえ」 アカネ「部活が終わっても、受験があるでしょ」 エリ「うっ、痛いところを。き、今日ぐらい多めに見てくれないかな?」 アカネ「まあ……それでいいなら、いいんじゃない?」 エリ「そうやってアカネは意地悪言うー……」 アカネ「……」 エリ「……ねえ、アカネ」 エリ「私ね、楽しかったよ。みんなとバレーが出来て」 エリ「みんなのこと、大好きになった。当然、アカネのことも大好きだよ」 アカネ「……ありがと」 エリ「……だから」 「ぎゅっ」 エリ「私の胸を、貸してあげようではないか!」 アカネ「……なんか頼りない胸だね……」 エリ「おいこら」 アカネ「でも……」 アカネ「私も大好きだからね、エリのこと……」 エリ「……ん、そうかい……」 第十話「桜高バレー部の終幕」‐完‐ [[14>エリ「我ら桜高バレー部!」 14]]