律「そのステージピアノ25万円するぞ」
唯「あ、ほんとだ!流石にこれは手が出ないよ……」
紬「このステージピアノが欲しいの?」
唯「……うん」
律「あっちに安いのあるぜ」
紬「・・・」ジー
店員「」ビクッ
紬「このステージピアノ5万円で売ってくれるって」
律「ま、まじで?」
唯「何、なにやったの?」
紬「うふふ」
唯「えへへー私の楽器~」ナデナデ
澪「何はともあれ買えてよかったね」
唯「う~んしょ・・・っと」トトッ
律「お、おい。大丈夫か?」
唯「へーきへーき。でもどうしよう・・・」
澪「とと・・・私も無理みたい。持ち上げることならできるけど持ってあるくとなると・・・」
紬「私が持ちましょうか?」ヒョイ
律「えっ」
紬「さ、帰りましょう」
唯「ムギちゃん凄い!」
▲帰り道
唯「今日はありがとう」
紬「ううん。これくらい大したことないから」
唯「それだけじゃないよ」
紬「?」
唯「ギター値切ってくれたのムギちゃんでしょ。わかってるんだから」
紬「バレちゃいましたか・・・」
唯「お見通しなんだから」フンス
紬「うふふ」
唯「これでようやく私も練習に参加できるよー」
紬「唯ちゃんと一緒に演奏するの楽しみだわ~」
唯「えーっと、ね」
紬「?」
唯「ムギちゃん、お願いがあります?」
紬「は、はい」(改まってお願いなんてなにかしら)ドキドキ
唯「明日の朝私の家に来てくれますか?」
紬「はい! 喜んで」(朝ごはんのお誘い来たッ!)
唯「えへへ。良かったー。断られたらどうやって学校に持って行こうか悩んでたところだよ」
紬「えっ」
唯「?」
紬「な、なんでもないわ。大丈夫! これくらいなら軽いから」ブンブン
唯「ふ、振り回しちゃ駄目だよー」
紬「ご、ごめんなさい」
唯「ふふ、でもムギちゃんのお陰で助かっちゃった」
紬「これくらい別に・・・」
唯「ムギちゃんって優しいから大好き」ダキッ
紬「ゆ、唯ちゃん」(キ、キマシター)
唯「あっ、重いもの持ってるときに抱きついちゃ駄目だよね。ごめんごめん」
紬「あ・・・」シュン
▲唯の家
紬「ここに置いておけばいいかしら」
唯「うんっ、今日はありがとう」
紬「どういたしまして」
唯「ばいばい、ムギちゃん」
紬「さようなら、唯ちゃん」
▲深夜
唯「えへへ、かわいいな・・・」
唯「こうやって後ろに回ったら、なんだかそれっぽい!」
唯「サインの練習しなくちゃ!」
バタン
憂「お姉ちゃんうるさい・・・」
唯「あっ、憂」
憂「念願のステージピアノを手に入れて嬉しいのは分かるけど、夜は静かにね」
唯「はーい」
憂「それじゃあおやすみなさい」
唯「おやすみー」
憂「あっ、そういえば聞きたいことがあったんだ」
唯「なーに?」
憂「どうしてお姉ちゃんはステージピアノにしたの?」
唯「えーっとね、それはねー」
憂「うん」
▲翌日の朝
憂「お姉ちゃーん!? 紬さんが来てるよー」
紬「・・・ごめんね」
憂「紬さんがあやまらないでください、お姉ちゃんが悪いんです」
紬「・・・唯ちゃん」
憂「一緒に部屋まで来てくれますか?」
紬「う、うん」
憂「・・・お姉ちゃん?」
紬「・・・」
憂「・・・」
紬・憂「添い寝!?」
唯「いやーごめんごめん」
憂「ごめんなさい紬さん」
紬「いいのよ。おかげでこんなの美味しい朝御飯を頂けるんですもの」
憂「えへへ」
唯「憂の料理は美味しいでしょ!」エッヘン
紬「ええ、とっても!」
唯「でもムギちゃんのお菓子もとっても美味しいんだよ!」エッヘン
憂「そうなんですか」
紬「ふふ、唯ちゃんったら・・・あ、憂ちゃん」
憂「?」
紬「憂ちゃんは来年桜ヶ丘にくるの?」
憂「はい・・・そうですけど?」
紬「なら軽音部に遊びに来てね。美味しいお菓子をご馳走するから」
憂「それなら気合入れて勉強頑張らなくっちゃ」
紬「うふふ」
唯「うんうん。仲良きことは美しきかな」
憂「お姉ちゃん、そろそろ食べないと時間が」
唯「あれ、憂もムギちゃんもいつの間にか食べ終わってる!?」
紬「大丈夫。走っていけば間に合うから」
憂「えっ、でも、楽器が・・・」
紬「大丈夫だから」
憂「はぁ」(紬さんって何者なんだろう)
ド♪~レ♪~~ミ♪―ド♪~ レ♪~~~ ミ♪~
唯「ムギちゃん!」
紬「ええ、音が出たわ!!」
律「・・・楽しそうだな」
澪「あぁ、そうだな」
律「でも良かったのか? キーボード二枚にドラムとベース」
澪「ギターなしの前例がないわけじゃない」
律「そうなのか?」
澪「ELPとか」
律「知らないなー」
澪「まあ、メンバーの新規加入に期待してもいいわけだし」
律「もう来年のことか?」
澪「・・・」(さわ子先生が歯ギターで参加したいと言ってたことは・・・黙っておこう)
律「澪?」
澪「いや、なんでもない」
レ♪シ♪ソ♪ ファ♪レ♪シ♪ソ♪ シ♪ソ♪シ♪~
律「・・・ファイファンのチョコボか」
澪「・・・エフエフのチョコボだな」
律「・・・」ギリッ
澪「・・・」ギリッ
唯「ムギちゃん。ピアノって楽しいね」
紬「簡単に色んな音を出せるでしょ」
唯「うんっ!」
紬「次は何を弾いてみたい?」
唯「えーっとね。じゃああのCMの・・・たーんたたっ、って奴」
紬「ごめんなさい、私CMってあまり知らないの」
唯「そっかー。ムギちゃんは庶民力が足りないねー」
紬「庶民力?」
唯「そうだよ。じゃあ明日までに弾けるようにしてムギちゃんにどんな曲か教えてあげるから」
紬「・・・うん」
律「そろそろいい時間だな」
澪「あぁ、やっと軽音部らしくなってきて私は嬉しいよ」シミジミ
唯「あっ、ムギちゃん?」
紬「どうしたの?」ヒョイ
唯「・・・今日はムギちゃんのピアノも持って帰るんだ?」
紬「ええ、そうだけど、唯ちゃんは?」
唯「明日は休日だから持って帰りたいけど・・・」
紬「なら、持ってあげるね」ヒョイ
唯「む、むぎちゃん? 重くない?」
紬「へいきへいき」
唯「ムギちゃんって何者?」
紬「さぁ、何者かしら」
▲帰り道
唯「ねぇ、ムギちゃん。本当に重くない?」
紬「うん。へっちゃら」
唯「・・・」ヒョイ
紬「唯ちゃん?」
唯「せめてムギちゃんの鞄は持ってあげるよ」
紬「いいのに・・・」
唯「してあげたいんだからいーの」
紬「そうなんだ」
唯「そうなんです」
唯「ねぇ、ムギちゃん。月曜日も来てくれるんでしょ?」
紬「ええ、いいわよ」
唯「それで、私がお願いしたら、月曜日も持って帰ってくれるんでしょ?」
紬「うん・・・どうしてそんなこと聞くの?」
唯「私、ムギちゃんに甘え過ぎかなーって」
紬「でも、仕方ないじゃない。お家で練習したいんだから」
唯「うん。うん。それはそうなんだけどね・・・」
紬「う~ん・・・」
唯「うん・・・」
紬「そうだ! なら、唯ちゃんにお願いしちゃいましょう」
唯「お願い?」
紬「うん。唯ちゃんの作ったお味噌汁を毎朝飲ませて」
唯「お味噌汁?」
紬「ええ・・・駄目かしら」
唯「ムギちゃん、私、料理なんて全然できないんだよ」
紬「唯ちゃんのお味噌汁を飲みたいの」
唯「う~ん・・・」
紬「やっぱり朝は辛い?」
唯「うん。でもやるよ。甘えてばかりもいられないし」
紬「やった」(ちょっと卑怯だけどプロポーズ成功!)
唯「でも毎日味噌汁を食べたいだなんてムギちゃん・・・」
紬「え」ドキッ
唯「庶民力を高めたいんだねー。えらいえらい」
紬「はぁ・・・」ガクッ
▲月曜の朝
憂「紬さん、やめてください!」
唯「そうだよ! 無理しちゃ駄目だよ!!」
憂「そうだ、お姉ちゃん。いっそ流しに捨てちゃって!!」
唯「えっ、でもそんなことしたら掃除が」
憂「いいから早く!! 取り返しの付かないことになっちゃう・・・きゃっ」
唯「う、憂」
憂「つ、紬さん・・・」
紬「・・・」ゴクゴク
唯・憂「あっ・・・」
紬「これが念願の唯ちゃんの味噌汁・・・・・・・・・・」
唯「む、むぎちゃん、しっかりしてよ、むぎちゃん!!」
▲憂ちゃんによる回想
憂「こんな感じの大惨事を招きつつも、時間は流れていきました」
憂「お姉ちゃんは毎日毎日ピアノの練習を続けました」
憂「おかげで、部内で足を引っ張ることもないみたいです」
憂「あの味噌汁も、最近では飲めるものになってきました」
憂「流石に美味しいとまではいきませんが」
憂「他に変わったことといえば・・・紬さんのいる朝の食卓が日常になりました」
憂「私も高校に入ったら、誰か誘おうかな」
憂「夏が過ぎ、秋」
憂「お姉ちゃんは文化祭に向けて猛特訓中」
憂「すべてが順風満帆に見える中、ちょっとだけ気になることが」
憂「お姉ちゃんがちょっとだけ元気なさげに見えるんです・・・」
▲秋の通学路
紬「ゆーいーちゃん!」ダキッ
唯「ピー太とキー坊持ったまま抱きついたら危ないよー」
紬「うふふ。なんだか抱きつきた気分だったから」
唯「それなら仕方ないね」
紬「ええ、仕方ないの」
唯「ムギちゃんの庶民力も随分高くなりましたなー」
紬「抱きつくことが庶民力?」
唯「そうじゃないよ。私のお味噌汁を美味しいって言ってくれる日が多くなったし」
紬「唯ちゃんの腕が上がっただけよ」
唯「そうかな? えへへ」
紬「そう言えば・・・」
唯「?」
紬「なんでもないわ」(憂ちゃん、唯ちゃんがちょっと元気ないって言ってたけど、直接聞くのはなしよね)
唯「気になるよー」
紬「う~ん。じゃあ唯ちゃん」
唯「はい」
紬「唯ちゃんは何か悩みがありますか?」
唯「・・・」
紬「唯ちゃん?」
唯「・・・」
紬「唯・・・ちゃん?」
唯「・・・実はあるんだ」
紬「えっと・・・深刻なことよね」
唯「うん」
紬「話せないこと?」
唯「話してもいいけど、どうにもならないと思う・・・」
紬「それでも聞かせてほしいな。もしかしたら力になれるかもしれないから」
唯「・・・」
紬「ね、唯ちゃん」
唯「そうだね。ムギちゃんには話してもいっか」
紬「・・・」
唯「ピアノがね、上手く弾けないんだ」
紬「唯ちゃんはすごく上達してると思うわ」
唯「でもね、ムギちゃんには届かないでしょ」
紬「それは・・・」
唯「そうだよね。やってる年数が違うしムギちゃんは才能もあるし」
紬「・・・」
唯「私がムギちゃんに追いつこうなんておこがましいのかもしれないけど」
紬「・・・」
唯「それでも、追いつきたいって思ったんだよ」
紬「そうなんだ」
唯「うん・・・」
紬「ねぇ、唯ちゃん」
唯「なぁに?」
紬「今日、学校サボらない?」
唯「えっ」
紬「決まり! そうしましょう、こっちよ」ギュッ
唯「む、むぎちゃん?」
▲練習スタジオ
唯「ここって・・・」
紬「練習用のスタジオよ」
唯「ここで練習するの?」
紬「ええ、そう」
唯「でも、一日練習したぐらいじゃ何も変わらないよ」
紬「そんなことはないわ」
唯「どういうこと?」
紬「今日一日で私に追いつけるってこと」
唯「そんなの無理だよ」
紬「できるわ」
唯「どうしてそう言えるの?」
紬「だって、唯ちゃんは天才だもの」
▲スタジオの個室
唯「・・・ピアノを広げないの?」
紬「最初は必要ないの」
唯「なにをするの?」
紬「ピアノを弾くとき重要なことはなんだと思う?」
唯「それは・・・練習?」
紬「他には?」
唯「うーん。音感」
紬「他には?」
唯「指の長さ、とか」
紬「他には?」
唯「・・・それくらいしか思い浮かばないよ」
紬「一番大切なのは、理想の演奏をすることよ」
唯「ムギちゃん、それおかしいよ。理想の演奏は理想の演奏だから理想の演奏なわけで・・・ってアレ」
紬「正確には、理想の演奏をいかに頭の中で創りあげて、それに近づけるか」
唯「・・・」
紬「唯ちゃんには、たどり着くべきものが見えている?」
唯「・・・」
紬「唯ちゃんは、もう普通に弾くだけなら十分過ぎる能力を持ってる。後は思い描くだけ」
唯「頭のなかに・・・」
紬「そう・・・理想を思い描くの」
唯「・・・」
紬「・・・」
唯「・・・」
紬「・・・」
唯「・・・」
紬「・・・」
唯「うん」
紬「さ、できたなら弾いてみて」
▲演奏後
唯「駄目だ・・・」
紬「ならもう一回」
唯「きゅーけいは?」
紬「ありません」
唯「けちー」
紬「さ、続けましょう」
▲演奏後
唯「演奏するまでは完璧なイメージが残ってるんだ」
紬「うん」
唯「でも弾き始めてすぐイメージは頭の中から消えちゃって、後は鍵盤とひたすら戦っちゃう」
紬「唯ちゃん。なにか・・・そうね何か想起させるものを作りましょう」
唯「想起?」
紬「ええ、イメージを思い出すためのきっかけ」
唯「きっかけ・・・」
紬「例えばペンを握っている状態でイメージを作っておいて、イメージが消えた頃にペンを握る」
唯「うん?」
紬「それで、イメージが頭の中に戻るの。書道の先生に教えて貰った方法なの」
唯「でも、演奏中にペンを握るのは無理だよね」
紬「そうね、何かないかしら・・・」
唯「それなら、ムギちゃんに触って欲しい」
紬「えっ」
唯「こう、肩のあたりをね」
紬「私が触るだけでいいの?」
唯「うん。いいんだ」
紬「そう」
唯「じゃあ今からイメージを思い浮かべるね。ムギちゃんは肩に手をあてて」
紬「うん」ピタ
唯「集中するからしばらく黙ってて」
紬「うん」
唯「・・・」
唯「・・・」
唯「・・・あのね」
唯「私がピアノをやり始めたの、ムギちゃんがきっかけなんだよ」
唯「入学式の後、ムギちゃん学校に残ってたでしょ」
唯「あのとき偶然音楽室の前を通りかかったんだ。そしてムギちゃんを見たんだよ」
唯「ムギちゃんはピアノを弾いてた」
唯「とっても上手に。あれを見てね。私ははじめて音楽に触れた気がしたんだ」
唯「あのときの演奏がずっと心に残ったまま」
唯「あのムギちゃんに追いつきたい。隣で演奏してみたい」
唯「ずっと、ずっとそう思ってたんだ」
唯「だから、弾くね」
唯「私のもてるかぎりの力で」
紬「・・・」
▲演奏中
唯(・・・ムギちゃんが私の肩を触ってる)
唯(あのときのムギちゃん)
唯(綺麗で・・・そう完璧だった)
唯(あんなに完成したものを見たことはなかった)
唯(音楽とか、人間とか、そういう枠じゃはかれない)
唯(そういうところにいる人だと思った)
唯(けど、そうじゃないんだね)
唯(私だってお味噌汁の意味ぐらいしってるよ)
唯(ムギちゃんが私のこと大好きだって知ってるよ)
唯(でも、同じ目線でいられなきゃ、対等な関係でいられなきゃ)
唯(いつか疲れちゃうでしょ。だから・・・)
唯(この曲で・・・)
▲演奏後
紬「唯ちゃん」
唯「ムギちゃん」
紬「ありがとう」
唯「どういたしまして」
紬「これからもよろしくね」
唯「うん。こちらこそよろしくね」
紬「遅くなっちゃったけど、学校に行きましょうか」
唯「うん。そうだね。あっ、ムギちゃん」
紬「なぁに?」
唯「片方の手に、両方持つことできる?」
紬「ちょっと無理すればできるけど」
唯「じゃあ今日だけは無理して」
紬「ええ。わかったわ」
唯「じゃあいこっか」
紬「うん」
唯「・・・えへへ」
紬「・・・うふふ」
唯「あったかいね」
紬「うん」
▲憂ちゃんによる後日談
憂「軽音部の学園祭での演奏は素晴らしいものでした」
憂「なんと3曲も演奏したんです」
憂「1曲はお姉ちゃんがボーカル。とっても元気な恋の歌でした」
憂「1曲は紬さんがボーカル。ちょっとしっとりした綺麗なバラード」
憂「そして最後の1曲は澪さんがボーカル」
憂「これが一番すごかったんです」
憂「競いあうように、抱き合うように、果てなく響きあうピアノ」
憂「きっとあの曲はお姉ちゃん達の―――――――――――――――――」
これでおわりです。
最終更新:2013年03月20日 22:03