紬「もしもし」

梓『もしもし、ムギ先輩ですか』

紬「なにかようかな、梓ちゃん?」

梓『今どこですか』

紬「帰り道だよ」

梓『そうですか…。あの、純を見かけませんでしたか』

紬「純って…鈴木さん?」

梓『はい』

紬「ちょっと探してみるわ…でも、鈴木さんの顔をあんまり覚えてないの」

梓『あぁ、それなら大丈夫です』

紬「何か特徴でもあるの?」

梓『頭にでっかいホコリを2個つけてるので、すぐにわかります』

紬「あらあらまあまあ」

===

紬「鈴木さん鈴木さん…っと」

紬「……あら、あの子、どこかで見たような」

紬「うーん。あんなショートカットの娘知り合いにいたかしら」

紬「こっちに近づいてくるみたい…」

?「琴吹先輩ですか?」

紬「えっと、どちらさま?」

?「鈴木です、鈴木純」

紬「?」

?「こうやってゲンコツを握って頭の横に…これでわかりますか?」

紬「今日はホコリをつけてなかったんだ!」

純「そういう琴吹先輩も今日は眉毛がついてませんね」

紬「ええ、唯ちゃんに食べられちゃったから今日は眉毛なしなの」

紬(抗ゲル化剤を飲んでいなければゲル状になっているところだったわ…)

純「ほぅ…」

紬「ねぇ、鈴木さん。ちょっとここにいてくれる?」

純「あっ、はい」

===

紬「見つけたわ」

梓『本当ですか?』

紬「ええ、それでどうすればいいのかしら?」

梓『憂、そっちはどう』

憂『また中が生…。やっぱり巨大ドーナツ作るのは難しいみたい』

梓『…実は、かくかくしかじかなんです』

紬「なるほど…純ちゃんのサプライズ誕生日(仮)パーティーをやろうとしたけど、巨大ドーナツがうまく揚がらないのね」

梓『はい…ムギ先輩、ちょっと時間稼ぎしてもらっていいですか?』

紬「ミッションね!」

梓『はい、ミッションです!』

紬「任されたわ!!」

梓『任せました!!』

===

紬「待たせてごめんなさい、鈴木さん」

純「そんなに待ってませんから。それで何か用事ですか?」

紬「用事ってわけでもないけど、少し鈴木さんとお話したいなって」

純「お話ですか?」

紬「ええ」

純「いいですよ。どうせ暇でしたから…」

紬(あら、ちょっと元気がないみたい)

紬(梓ちゃん達が誕生日(仮)を忘れてると思ってるからかしら…)

純「琴吹先輩?」

紬「なんんでもないわ。そこにある公園のベンチでお話しましょう」

純「はい」

===

紬「…」

純「…」

紬(呼び止めたのはいいけど、共通の話題がないわ…)

紬(どうしましょう…)

紬(だめだめ。せっかく梓ちゃんが頼ってくれたんだから、しっかりしなきゃ!)

紬「鈴木さん!!」

純「は、はいっ!」

紬「鈴木さんは何のお菓子が好きですか!!」

純「わ、私の好きなお菓子ですか!?」

紬「ええ、鈴木さんの好きなお菓子!!!」

純(ど、どうしよう)

純(金髪のちょっと変わった先輩に話しかけたら、好きなお菓子を聞かれちゃった)

純(それもとんでもないテンションで…)

純(…なんで私の好きなお菓子がそんなに気になるの?)

純(…もしかして…琴吹先輩って私のこと好きなのかな?)

純「ど、どーなつです//」

紬「どーなつ! いいわよねどーなつ! 外はカリッと、なかはふんわりしてて」

純「わかりますか!?」

紬「ええ、ええ、しっとりしてるのもいいわよね! 最近のもちっとした食感を楽しむタイプもとっても好きよ!!」

純「チョコレートでコーティーングされてるのも、生クリームが入ってるのも大好きなんです!!」

紬「砂糖でコーティーングしてあるのもいいわ! 口いっぱいに幸せが広がって…!!」

純「…なんだかドーナツが食べてくなってきました」

紬「それはしばらく待って!」

純「しばらくまつ?」

紬「な、なんでもないわ…」

純「はぁ…?」

紬「とにかく純ちゃんはドーナツが好き…と」カキカキ

純(メモしだした…もしかしてムギ先輩自身が好きなんじゃなくて、私を好きな誰かがムギ先輩に依頼したとか?)

純(ジャズ研の先輩…はないかな? 後輩は…ムギ先輩には頼まないだろうし…)

純(まさか梓? 梓が私のことを好き…? 困るなぁ……どうしようかなぁ……)

紬「鈴木さん なにニヤけてるの?」

純「は、はいっ//」

紬「…へんな鈴木さん」

純「あっ、その、鈴木さんっていうのやめませんか」

紬「鈴木」

純「そ、そうじゃなくて…」

紬「佐々木さん?」

純「そういうのはいいです!」

紬「えっと…純ちゃんでいいかしら」

純「はいっ!」

紬「私のこともムギちゃんって呼んで!」

純「ムギ先輩じゃなくてムギちゃんですか?」

紬「だめかしら?」

純「先輩がどうしてもっていうなら…ムギちゃん……。やっぱり無理です」

紬「…」シュン

純「あー、えーっと。ムギちゃん先輩、でどうですか」

紬「ムギちゃん先輩?」

純「はい」

紬「それでよろしくお願いします」

純「はい。ムギちゃん先輩」

純「あの、ムギちゃん先輩。ちょっと聞いてもらえますか」

紬「なぁに」

純「実は今日、梓達に私の誕生日(仮)だって言っておいたんです」

紬「梓ちゃんに?」

純「はい。あと憂にも」

紬「憂ちゃんにも…」

純「でも、ふたりともそんなこと全然覚えてなかったんです」

紬「そうなんだ」

純「はい。二人の誕生パーティーはちゃんとやったのに、私だけ…」

紬「うーん。それは…」

紬(サプライズ誕生日(仮)パーティーのことバラすわけにもいかないし…)

紬(どうしましょう…)

紬(あっ、そうだ!)

紬「それなら私が純ちゃんの誕生日(仮)をお祝いしてあげるわ!」

純「えっ…ムギちゃん先輩が…ですか?」

紬「ちょっと待っててくれる?」

純「は、はい」

純(あっ、砂場に行った)

純(砂で山を作って……足で踏みつけた!?)

純(…土台を作ってたんだ……ケーキでも作ってくれるのかな)

純(……更に山を積んで……二段ケーキ?)

純(松の葉に砂を巻いてローソクを作った!? なんという本格派…)

純(次は……)

ブルブル

純(電話…梓から……出なきゃ)ポチッ

純(あれ、これムギちゃん先輩の携帯?)

梓『もしもし、ムギ先輩ですか。やっとドーナツをうまく揚がりました』

純「…」

梓『純を迎えにいくので、場所を教えてもらえますか?』

純「…」

梓『…ムギ先輩?』

純「ご、ごめん梓!」

梓「その声は純?」

純「間違えてムギ先輩のケータイとっちゃって…」

梓「そうだったんだ…」

純「うん」

梓「じゃあさ、純。今から私の家に来てくれる?」

純「誕生日(仮)パーティーやってくれるんだ?」

梓「本当はサプライズにする予定だったんだけど…」

純『そっか。ありがとね。梓』

梓「…それは来てから言ってほしいな。憂もいるし」

純『そうだね。じゃあ今から行くよ』

梓「うん」

純「ところで、ドーナツの数は十分?』

梓『それがさ、失敗作もたくさんあって、三人じゃ食べきれないかも』

純「じゃあ一人ぐらい増えても平気だよね」

梓『そうだね。手間もとらせちゃったし、連れてきてくれる』

純「それにしても、そっかぁ…」

梓『ん?』

純「……梓もムギちゃん先輩も私のこと好きってわけじゃないんだ」ボソッ

梓『ん? 私は純のこと好きだよ』

純「そ、そういう意味じゃないよ。じゃあ、行くから」

純(ムギちゃん先輩は…ってもうケーキが出来上がってる)

純「ムギちゃん先輩!」

紬「あっ、純ちゃん。やっと出来たわ」

純「はやすぎます。そしてすごっ!」

紬「ふふふ。ちょっと上から見てみて?」

純「あっ、中が空洞になってる」

紬「ええ、ドーナツケーキにしてみたの」

純「ドーナツに生クリームに苺にローソク…すごく精巧にできてて、とっても美味しそう」

紬「食べられないけどね。これは私からの誕生日のお祝い!」

純「写メとってもいいですか?」

紬「もちろん」

純「……」カシャ

紬「…」

ブルブルブル

紬(あっ、梓ちゃんからメールがきた)

紬(『足止めはもういいです』って。これでミッションコンプリートね!)


純「あの、ムギちゃん先輩」

紬「あっ、純ちゃん。私はそろそろ帰るわ」

純「ムギちゃん先輩。今日はありがとうございました」

紬「ううん。いいの」

紬(梓ちゃんに頼まれただけだし)

純「ムギちゃん先輩が作ってくれた砂のドーナツ、とっても美味しかったです」

紬「砂で作ったドーナツは食べられないわよ…」

純「それでも、おいしかったんです」

紬「うふふ。純ちゃんは先輩を立てるのが上手ねぇ」

純「上手ついでにもうひとつ、ムギちゃん先輩の紅茶を飲んでみたいです」

紬「あら、何度か軽音部に遊びに来たとき飲んだことなかったかしら?」

純「誕生日(仮)に飲んでみたいんです。だから一緒に梓の家に来てくれますか」

紬「嬉しいお誘い。そうねぇ、じゃあお邪魔させてもらいましょうか」

純「やった!」

紬「ふふふ。一緒にドーナツを食べましょう♪」

純「はいっ♪」

===

純「こんにちは」

紬「おじゃまします」

梓・憂「…だれ?」

純・紬「えっ」




おしまいっ!