【12:00】

紬「目の前の光景が最初、理解できなかった。
 あたり一面に飛び散る血。気持ち悪い匂い。どんよりと重い空気。
 そこに梓ちゃんはいた。梓ちゃんのまわりには血が放射状に広がっていた。
 ガラスに吹き付ける雨音がざあああああざあああああと虚しく響き続けていたのがなぜか耳についた」


唯「あ、……あ…ずにゃん……?」

澪「……ひっ」

紬「うそ……梓ちゃん…………?」

澪「うわああああああああああああああああああああああ」

唯「あずにゃああああん……うぅっ……ひぐっあずにゃんなんで……」

紬「ひぐっ……あっ……おえっ」

澪「いやだいやだいやだいやだゆめだゆめだゆめだゆめだみえないきこえないみえないきこえない」

梓「…………」


【13:00】

澪「うわああああああああああああああああああああああ」

唯「あずにゃああああん……うぅっ……ひぐっあずにゃんなんで……」

紬「ひぐっ……あっ……おえっ」

澪「いやだいやだいやだいやだゆめだゆめだゆめだゆめだみえないきこえないみえないきこえない」

梓「…………」


【14:00】


澪「うわああああああああああああああああああああああ」

唯「あずにゃああああん……うぅっ……ひぐっあずにゃんなんで……」

紬「ひぐっ……あっ……おえっ」

澪「いやだいやだいやだいやだゆめだゆめだゆめだゆめだみえないきこえないみえないきこえない」

梓「…………」

律「おはよー。ねぼうした……って……あずさ?……な、なんで……」


【15:00】

澪「うわああああああああああああああああああああああ」

唯「あずにゃああああん……うぅっ……ひぐっあずにゃんなんで……」

紬「ひぐっ……あっ……おえっ」

澪「いやだいやだいやだいやだゆめだゆめだゆめだゆめだみえないきこえないみえないきこえない」

律「うわああんうわああん……どうして……ぐすっ」

梓「…………」


【16:00】

澪「うわああああああああああああああああああああああ」

唯「あずにゃああああん……うぅっ……ひぐっあずにゃんなんで……」

紬「ひぐっ……あっ……おえっ」

澪「いやだいやだいやだいやだゆめだゆめだゆめだゆめだみえないきこえないみえないきこえない」

律「うわああんうわああん……どうして……ぐすっ」



梓「…………なんかしろやっ!!」



唯「……わっ……あずにゃん」

澪「あずさああああ」

律「よかった生きてたのかああっ」

紬「なんで関西弁?」

唯「あずにゃああああんしんぱいしたよおおおおお」

梓「触るなっ!」

唯「きゃっ」

梓「なんで何もしないんですかっ!人が一人死んでるんですよっ!しかも先輩たちの親しい後輩がっ。
 何がよかった生きてたのかーですかっ、死んでるんですよこっちは。しーんーでーるーんーでーす。ナイフで刺されて。
 ほら胸のあたりここが特に黒ずんでますよね。
 そういうの確認しました?してないですよね。
 『あれーなんで死んでるんだろー?』とか思いました?思ってないですよね。
 ただ泣いてるだけですよね。
 それにしたって泣きすぎですよ。ふつうそんなにぶっ続けで泣いてられませんよ。涙で川ができちゃいますよ。
 ムギ先輩なんてずっと吐いてましたよね。おえおえ言ってましたよね。ゲロで川ができちゃいますよっ」

紬「失礼しちゃうっ。あれは嗚咽よー」

梓「失礼しちゃうってなんですかっ。ちょっとそこ座ってください。説教してやるです」

唯「えーー説教はやだよー」

律「そうだそうだー梓生きてたんだからいいじゃないかーーっ」

梓「死ーんーでーるーんーですっ。今、わたし死んでるんですよーーわかりますー?。死んでるけど先輩たちがあまりにふがいないんでこうして戻ってきたんじゃないですか」

唯「じゃあゾンビだっ。あずにゃんゾンビなんだっ。ゾンビにゃんだっ」

律「わーー逃げろーー」

澪「うわああああこわいいいいいいい」

紬「きゃー」

梓「待てっ! そして座れ!」

唯律紬澪「……はいー」

梓「まあ、ちょっと振り返ってみましょう。まずムギ先輩のナレーション、緊迫感は全然でてなかったけどそれはまあしかたないでしょう。許してあげます」

紬「許してもらちゃったー」

梓「次、死んだわたしを見つけるところ、ここはよかったですね。ちょっと澪先輩がバカみたいでしたけど」

澪「ほんとに怖いんだから仕方ないだろっ」

梓「問題は次ですよ。その後。ざねくすとたいむっ。まずなんでずっと泣いたままなんですか進歩しましょうよ。やれることはいろいろあるじゃないですか」

唯「たとえばー?」

梓「最低限でもですね、警察を呼ぶとか。高校生なんだからそのくらいは思いつくでしょう」

紬「梓ちゃんは最近の高校生を馬鹿にしすぎよ」

梓「そうですか?」

紬「最近の高校生は頭空っぽだから死体なんかみつけても何もできないわっ!」

梓「ひどいですよっ。ていうかムギ先輩も高校生なんですよ?」

紬「ふぅ……肩書きに縛られるようなちっぽけな人間にはなりたくないわね」

梓「なんなんですか、そのキャラはっ」

唯「それに大好きなあずにゃんが死んでるのにそんなに冷静になれないよっ!」

律「そうだーそうだー。大好きな後輩の死にこっちはパニックなんだっ」

梓「ま、まあ、それは、そうかもしれないですけど……」

律「ちょろいな」

唯「あずにゃんなんてちょろちょろチョロQだよっ」

梓「いみわかんないです」

律「でも現実問題死体なんか見ても冷静なんかになれないって、漫画やゲームじゃないんだし……ムギーこれの10巻あるー?」

紬「ええと、そこにあるわー」

律「お、せんきゅー」

唯「見てみて澪ちゃんわたしのベタちゃんがね進化するんだー」

澪「ベタちゃんって……ベトベターか」

唯「かわいいかわいいベトちゃんはいったいにどんなかわいいモンスターに進化するのでしょうか……わっ、なんだこのきもちわるいのっ」

澪「ほとんど変わんないだろー」

梓「人の話を聞けっ」

唯律「わっ」

梓「これは没収です」

唯律「ひどいっ!」

梓「じゃあとにかくまず警察に電話します」

唯「はーい」

梓「でももちろんつながりません。ここは連絡の途絶えた弧島ですからね」

唯「えーーじゃあさっきの話なんの意味があったのさーーっ。げーむぼーい返せっ」

律「漫画返せー。ぶーぶー」

梓「それで先輩たちは死体をチェックします。どういうふうに殺されているのか。どんな状態になっているのか。はい、どーぞ」

唯「わーー、死体だーっ。わたし死体を見るのはじめてー」

律「見ろ見ろーちっちゃい胸のあたりになんか刺された跡があるぞーっ」

唯「ほんとだ。ちっちゃい胸のあたりになんか跡があるねーっ」

澪「このちっちゃい胸のあたりの傷からすると凶器はナイフだろうな」

紬「そうかしら。これは胸じゃなくて胴の一部よ、きっとっ」

梓「人が死んでるのに楽しそうにするなっ!」

唯律澪紬「わっ」

梓「あと胸があんまり大きくないとかどうとかはどうでもいいんですよ」

唯「あんまり大きくないんじゃなくてちっちゃいんだよっ」

梓「訂正ありがとうございます」

唯「いたいいたい」

梓「もっと神妙な顔で調べる」

唯「……はーあずにゃんが死んで悲しいね」

律「……そうだなー」

紬「……あ、胸のあたりに傷があるわ」

澪「……凶器はナイフだろうな」

唯「……つまんないねー」

律「……そうだなー」

梓「つまんなくていいんですよっ! あと律先輩はまだこの時いないのでいいです」

律「ばたんきゅー」

梓「……で、死体を見てどうでしたか、ムギ先輩」

紬「うーん……一言で言えば”退屈”ね。死体なんてもうぜんぜん怖くないわ……それともわたしの心が死んじゃっただけなのかしら?」

梓「なんなんですかさっきからちょくちょくその中学生2年生みたいなのはっ」

紬「まったく……うるさいのは苦手ね」

梓「テンポが狂うんでやめてくださいっ」


梓「それで次はどうするんでしょう、はい、唯先輩」

唯「いったんおやつ?」

梓「はい、正解です。そのとおり。次はそれぞれが頭の中で誰がわたしを殺したのか、どうしてわたしは殺されたのかを考える時間です」

唯「わたしは自殺だと思うなー。あずにゃんちょっと不安定だったし」

澪「そうだな。すぐ怒ったり泣いたり」

唯「澪ちゃん、生理周期の話だよ」

澪「ごめん、ていうかなんでお前が梓の生理周期を知ってるんだよ」

唯「えへへ」

紬「ということは、きっと、梓ちゃんは好きでもない男の人の子供を身ごもっちゃってそれを苦に自殺しちゃったのね」

唯「あずにゃん……ぐすっ」

澪「惜しい命をなくしたな」

唯「敬礼っ」

紬「びしっ」

梓「やめろっ。いみわかんないしおもしろくないし馬鹿なんですか。だいたいわたしが子供身ごもってたらもっと胸とか大きくなってなきゃおかしいでしょっ」

唯「あ、そうだね」

紬「唯ちゃん唯ちゃん、さっきのは自虐ネタよ、笑わなきゃ」

唯「……あははっ、あーっはっはっ、あずにゃんおかしーよっ。笑いの神様かっ!」

梓「も、もういいですからっ!」

梓「ちゃんと考えてください。ここは絶海の孤島。わたしたちが合宿に行ってるのを知っている人はほとんどいない。外は嵐でどう考えてもここにはわたしたち5人しかいません。
 そしてわたしが死んでいる。もちろん自殺ではありませんっ。犯人は……」

唯「あっ」

梓「もうわかりましたね。では一斉に言ってみましょう。せーのっ」

紬「わたしたちの中に犯人がいるのね」
澪「練習したい」
唯「おやつ食べたい」

梓「……そうですね。わたしたち5人の中に犯人がいるんです」

唯「おやつはっ?」
澪「れ、練習……」

梓「だまれっ」

唯澪「ひゃっ」


梓「はいっ。ここで疑念が生じるんですよっ。お互いのことを一瞬信じられなくなっちゃうんです」

唯「澪ちゃん……」

澪「……なんだ?」

唯「そのお腹の子、ほんとにわたしの子?」

澪「え?」

唯「ほんとはムギちゃんの子じゃないの? わたし知ってるんだよふたりがわたしのいない間に」

紬「みーおちゃん。お腹の子の調子はどう? あの女すっかり……あ、失礼」

唯「む、ムギちゃん、許さないよっ」

紬「あら、許さないってどうするつもりかしら?」

唯「澪ちゃんの子はわたしたちで育て……」

梓「そういう疑念じゃ……わっ」

澪「あずさあああ、うわああああん。ふたりがわたしのお腹が出てるっていじめる……」

唯「ごめんっごめんね、澪ちゃん。そういうつもりじゃなかったんだよ」

紬「そ、そうよ、澪ちゃんは太ってないわっ」

澪「……ほんと?」

唯「ほんと、ほんとだよっ」

澪「……うん」


梓「ていうか、こういうときだけ、演技力を発揮するんですね」

唯紬「えへへ、ぴーす」

梓「別にほめてはないですよ」

唯紬「……しゅん」

梓「それで、澪先輩が唯先輩に言うんです。『梓を殺したのはお前じゃないのか』って」

澪「梓を殺したのはお前じゃないのか、唯?」

唯「わ、わ、わたしかなあ?」

梓「自信をなくすんじゃないっ」

唯「わたしじゃないよ。なんでそんなこと言うの?」

澪「梓はとてもギターがうまかった。おまえは恐れてたんじゃないのか、自分の地位が奪われるのを」

唯「それはありえないよっ。だって、わたしのほうがギター全然うまいもんっ」

澪梓「それはない」

唯「ひどいっ」

澪「なあ、おまえなんだろっ」

唯「違うよっ」

澪「じゃあ誰なんだよっ! 言ってみろよっ」

唯「そういう澪ちゃんじゃないの? さっきから必死になって怪しいよ?」

澪「わ、わたしのわけないだろだいたいわたしは血が怖くて……」

唯「でも澪ちゃん、演技うまいからなあ……ロミジュリの時とか名演技だったよ?」

澪「え、演技だっていうのかっ」

唯「例えば、だよ。なんでそんなにムキになるかなあ?」

梓「ムギ先輩この辺で一言」

紬「はあ…………人間ってどうしてこんなに醜いのかしら?」

梓「そうじゃなくてっ」


紬「ふたりとも喧嘩はやめてっ!!」

唯「ムギちゃん……」

澪「ムギ……」

紬「なんで疑い合うのっ。わたしたち仲間じゃないっ。それにわたしたちだって危険な身なのよ、だから犯人がわかるまでは協力しなきゃ」

唯「うん」

澪「……そうだな」

梓「ここで二人でごめんなさいですよ」

唯「ぷっ……あははっ」

梓「なんで笑ったんですか」

唯「わたしの近所にねー、小さい頃けんかするとね、その二人を捕まえて、ほらここでごめんなさいですよって言うおばさんがいて、さっきのあずにゃんの言い方がそれにそっくりだったから」

梓「お、おばさん……」

唯「体はこどもっ、頭脳はおばさんっ、その名も……」

梓「やめてください!」

唯「……いたい」

梓「そろそろ律先輩を呼びましょう。おーーい、律先輩っ」

律「ひぃあああ。おはよー……ってあずさ……死んでる……どうして……」

梓「先輩たちは状況のあまりの衝撃にずっと律先輩の存在を忘れていました。そしてここで第2の疑念が生じます」

唯「りっちゃん……」

律「な、なんだよ。わたしの顔に何かついてるか?」

唯「クリームついてるよ!」

律「あ、やべっ」

紬「あー、さてはりっちゃんおやつのシュークリームつまみ食いしてたわねっ」

律「……ごめんなさいっ」

梓「違いますよっ。どう考えてもそうじゃないでしょう。ここは律先輩が犯人じゃないかっていう疑念でしょうがっ」

紬「まあまあ、ここはりっちゃんも謝ってることだし」

律「ほんとにごめんな……」

唯「あずにゃんはまったくいやしーよ!」

梓「シュークリームとかはどうでもいいんですよっ。わたしが死んでる話ですっ」

唯「あー……うん……そっちか……」

梓「いきなりテンションおとさないでくださいっ」

澪「今まで律はどこ行ってたんだ?」

律「ね、寝てたんだよ」

唯「あーやっぱ寝ちゃうよねー。わたし休日は午後まで寝てて朝ごはん食べられなくてなんか損した気分になる派ー!」

紬「なにそれっ。なんかすごいっ」

梓「もっと律先輩を追及してくださいよっ」

紬「ちなみ梓ちゃんは何派?」

梓「休日は午後まで寝てて朝ごはん食べられないけど別に損した気分にはならない派ですけど……ってそんなことはどうでもいいんですよっ」

梓「律先輩は犯人の可能性が高いです。一人だけ違う行動をとってますからね」

唯「りっちゃんがあずにゃんを殺したんじゃない?」

律「な、なんでそうなるんだよ?」

唯「遅れてきたのは怪しいよ」

律「そうなっちゃう?」

澪「いつも別に寝坊とかしない律が今日に限って寝坊とかするのには何か理由があるんじゃないか?」

律「あーやっぱりそうなっちゃうかー」

紬「ずばり、りっちゃんが犯人よっ」

律「……わたしが犯人ですっ、ごめんなさいっ」

唯「これで一見落着事件解決だよ!」

紬「ふぅ……これで世界がまた少し退屈になったわね……」

梓「「ふざけないでくださいっ!」」

唯「わ……」

律「きれた……」

澪「……こわい」

紬「きゃー」

梓「なんでさっきからそうやっていちいちふざけるんですかっ。ふざけなきゃ死んじゃう病ですかっ。
 もしかして先輩たちわたしのこと嫌いなんですかっ?わたしのこと嫌いだから死んでも別にどうだっていいんですよね。
 むしろ死んでくれて嬉しいんですよね。だから、そんなに楽しそうなんですよね。
 っていうか先輩たちみんなが共犯ですよね、あいつうぜいから殺しちゃおーよーって殺しちゃったんでうよね。
 もう、いいですよっ。好きにすればいいじゃないですかっ。そっちがそういうつもりならわたしだって殺してやりますよっ」ウガー

澪「ひゃっ……ナイフ」

律「あれ凶器のナイフぽくね? 血がついてるし」

唯「あずにゃん落ち着いてね、落ち着いて」

梓「落ち着いていられますかっ……ぐすんっ」

唯「昨日から生理に入ったからいらいらしてるんだよね」

梓「……うるさい、うるさいです」

紬「これからは真面目にやるから」

梓「……ほ、ほんとですか?」

唯「やるやるっ」

梓「…………や、やくそくですよ?」

律「わかったわかった」

澪「うんうん」

梓「じゃあやりましょうっ!さっそくっ!」

律澪紬唯「……はーい」


梓「おほんっ……気を取り直して、ムギ先輩澪先輩のバックをとってください」

紬「梓ちゃん、世の中には叶う願いと叶わない願いがあるけれど、梓ちゃんのはいったいどっちなのかしら?」

梓「叶う願いですよっ。いいからはやくとってくださいっ」

紬「はーいっ」

梓「さてこの澪先輩のバックに凶器のナイフをいれます」

澪「わっ……」

梓「さてここで唯先輩がみんなの持ち物を検査してみようと言い出します」

唯「いちおう、いちおうだよ。この中に犯人がいるんだったらみんなの持ち物を点検してみようよ」

律「そうだなあ、それがいいかもな」

紬「そうね、じゃあ調べてみましょう」

がさごそ

唯「あーーー、みんなこれ見てーーっ」

律「なんだ、どうしたんだっ」

澪「なんだ? その本は?」

紬「なになに……かわいい後輩として振る舞う10の方法だって」

唯「これねー、あずにゃんのバックからでてきたんだよー」

澪「へえー、梓もいろいろとかんがえてたんだなー」

律「あー、見ろ見ろー。これあれじゃね、あのエロい、うぃいいいんっていうやつ」

紬「ローターねっ。梓ちゃん、ローター持ち歩いてるのねっ」

唯「あー、これもこれもーっ」

澪「なんだそれ? ただのちっちゃい木の枝じゃないか?」

唯「ううん、これね前にわたしがあずにゃんに似てる木の枝だよーって学校の帰りにあげたやつなんだ。まだとっといてくれたんだねー」

梓「な、なんで点検するのがわたしのバックなんですかっ! 先輩たちは死人に鞭打つ気ですかっ!」

紬「それで、梓ちゃんローターなんで持ってきてるのっ? ね、なんでっ?」

梓「うるさいっ、見るなーっ」

梓「おほんっ……気を取り直して、ちゃんと先輩たちのバックを点検してくださいっ」

唯「あー澪ちゃんのバックから血がついたナイフがでてきたよー(棒」

律「えーーっなんで澪のバックから血がついたナイフが出てくるんだー(棒」

紬「もしかしてー(棒」

澪「わたしは何も知らないぞー(棒」

梓「もうクライマックスなんですからもっと気合を入れてくださいっ!」

唯「はー、やっぱり思ってたとおり澪ちゃんだったね」

澪「そんな……わ、わたしは何も」

紬「どうしてこんなことしたの澪ちゃんっ!!」

澪「ほんとにわたしじゃないんだっ……なあ、律? 律は信じてくれるよな?」

律「正直言って軽蔑するよ。大方、梓に嫉妬してたんだろ? 梓が来る前はお前ももっとみんなに構ってもらえたもんな。殺人の動機なんてそんなもんだよ」

澪「律、律お前だけは裏切らないって死んでたのにりつっ……ひぐっ……なあ、律、裏切らないでくれよおお」

律「人を殺す奴なんて友達でもなんでもない、死ね」

澪「はっ……あぐっ…あ……り………つ……」

律「やったか……はあはあ……でもこれで梓のかたきは…………ぐはっ」

律「……は……な、なんで……ゆい?」

唯「人を殺す奴なんて友達でもなんでもないんでしょ? りっちゃんが言ったんだよ?」

律「……」

唯「あーあ、死んじゃった」

紬「ゆ、唯ちゃんっ、でも澪ちゃんは梓ちゃんを殺したからりっちゃんはしかたなく……」

唯「あははははっ、ばかだ、ばかだよ、こんなにうまくいくなんて思わなかったよ、あははっ。なんで澪ちゃんが梓ちゃんを殺したってことになってるのかなあ?」

紬「も、もしかして……唯ちゃんが」

唯「うんー。わたしがあずにゃんを殺したんだよー」

紬「な、なんで?」

唯「あずにゃんが裏切ったんだよ、わたしを」

紬「どういうこと?」

唯「あずにゃん最近幸せそうだったでしょ?」

紬「うん、たしかに」

唯「どうしてか、わかる?」

紬「ど、どうしてなの?」

唯「妊娠してたんだよ。なんかねー彼氏がいて、妊娠したんだって。高校生で妊娠だよ信じられる?」

紬「でも、どうして裏切ったって……?」

唯「だってあずにゃんはわたしのじゃん。わたしのあずにゃんじゃん」

紬「付き合ってたの……?」

唯「別にそんなんじゃないけど。でも、そういうのって言わなくてもわかるもんじゃないの、ふつう?」

紬「……だ、だから、殺したの?」

唯「そだよー。あーあずにゃんすっごくびっくりしてたなあー。
 なんか彼氏の話とか自慢しちゃってわたしがナイフ見せたらなんですか唯先輩がそんなもの持ってると危ないですよーだってそんなときまでふざけてられるんだねー。ふざけないと死んじゃう病気かっての。
 しかもあんまりおもしろくないし。
 きっと危機感がないんだよねー、まあ最近の高校生なんてそんなもんだよねえ。頭空っぽで彼氏のこどもとかつくっちゃうんだ。
 だから、現実の怖さを教えてやったんだ。
 すごい痛そうだったなあ。
 ものすごい不幸そうで、それを見ればわたしは幸せになれると思ったのに……思ったのにっ」

紬「……唯ちゃん?」

唯「教えてよっムギちゃんっ。どうして……どうしてわたしは幸せになれないのっ。あずにゃんの分の幸せがわたしの方にこないのっ。
 不公平だよっ。なんで幸せの量ってみんな違うのっ。
 あずにゃんが不幸になったらその分誰かが幸せになれるんじゃないのっ?なんでわたしは……」

紬「ふぅ……幸せ…………ね。残念だけど、この世界にそんなものはないのよ唯ちゃん」

唯「……え?」

紬「みんなどこかに幸せなんてものがあると思ってる。
 今幸せな人もそうじゃない人も、けどこの世界に幸せなんてものはないのよ。みんないつでも不幸なの。みんな同じくらい不幸なの。だってこの世界は平等だもの。平等に不幸なの。
 時々勘違いした人が自分は幸せだって言ってのけるけど、それはうそよ。
 わたしはね、こんな世界とは今日っきりおさらばするつもりなの。
 今、唯ちゃんすごく悲しい顔してるね。でもすごくきれいよ。
 きっと、悲しい顔が人間の表情の中で一番美しいのはそれがこの不幸だらけの世界に神様がくれた唯一の贈り物だからね。
 わたし死後の世界は信じないけどピンチには神様とかにはお願いする派だから、こう言っとくね。向こうでまた会いましょう。 
 GoodbyeDirtyWorld」

唯「む、むぎちゃああああああん」

梓「???」

唯「こうしてムギちゃんは死んでしまった。
 そして、わたしはまだ生きている。
 わたしはムギちゃんの言ったことを今でもよく考える。ムギちゃんの答えは果たして正しかったんだろうか。
 あの事件は誰一人悪くなかった。
 そう、みんながみんな正しいと思うことをした結果あんなことになっちゃったんだ。
 それはただの不幸の重なりだった。だからあの事件は大きなひとつの不幸だって言えるのかもしれない。
 そしてムギちゃんはこんなふうに言った。この世界は不幸であふれている。それはたぶん正しいんだ。
 でも、わたしはまだ生きている。
 それにはなんの意味があるんだろう?
 たぶんわたしは証明したいんだ。ムギちゃんの答えは間違っていたって。
 死後の世界でムギちゃんと会った時にその答えは間違っていたんだってみんなで幸せになれるんだよってそう言いたいんだ。
 そしてそのときにはまたわたしたち放課後ティータイムが本当の笑顔で笑いあえるんじゃないかな。そんなふうに思うんだ………………違うかな、あずにゃん?」

梓「違いますよっ。ていうかどうしてムギ先輩が死んでるんですかっ!おかしいでしょ!」

唯「むー、あずにゃん文句ばっかだけどあずにゃんも悪いよっ」

梓「何が悪いんですかっ!」

唯「シナリオが悪いよっ」

梓「な、なにが悪いって言うんですかっ」

紬「凄惨さが足りないわ」

梓「いつまでそのキャラ続ける気ですか」

律「現実感が足りない」

澪「魔法が足りない」

梓「正反対のこと言わないでくださいっ」

唯「お菓子が足りないんだよっ!」

律「あーそうだなあ。お菓子が足りないな」

唯「でしょーでしょー」

紬「じゃ、ティータイムにしよっか」

澪「なんだか疲れちゃったしな」

唯律「ティータイムっ!ティータイムっ!」

紬「あれ、シュークリームが1個ない?」

律「……」

梓「それ律先輩で……」

唯「あずにゃんはいらないよっ!」

梓「な、なんでですかっ。いりますよっ」

唯「だってあずにゃん死んでるもんっ!死体だもんっ!自分で言ってたもん!」

律「たしかに」

紬「そうね」

澪「そうだな」

梓「ひ、ひどいですよおおお」

唯「ゾンビにゃんはわたしの腕でも食べててねっ」

梓「むーーー」はむはむ

唯「あははっ、ほんとに食べたーー」

梓「むーーーー」がぶがぶ

唯「い、いたいっいたいよっあずにゃんっ」

梓「むーーーー」がぶがぶ

唯「あーわかったわかったよーっ。半分、シュークリーム半分あげるから許してー」

梓「むーーーー」がぶがぶ

唯「ああああーー、ほんとごめんーーーっ」

梓「むーーーー」がぶがぶ

紬「もし、放課後ティータイム内で事件があったら、動機はきっとお菓子ねっ」

澪「そうだなー」

律「あー、シュークリーム、うまー」


おしまい



最終更新:2013年04月11日 21:55