澪先輩を待っている時間。

少しだけ長く感じました。

風はだんだん肌寒くなって。

私の頭を冷やしていきました。

目の前には拘束されて律先輩がいます。

私は、間違ったことはしていないはず。

そう自分の言い聞かせても、心音の高鳴りは止められません。

澪先輩が律先輩を見て警察に通報したら?

あるいは律先輩があとから警察に駆け込んだら?


私は逮捕されておしまいです。

どこで間違えてしまったのでしょうか?

……。

……。

……。

……世の中は結果が全てです。

まだ間違ったことをやったとは決まっていない。

私が上手く立ち回ればそれで……。

決意が定まった頃にドアが開きました。

ドアから出てきたのは、澪先輩ではなく―――

ムギ先輩でした。


「梓ちゃん……」

どうしてムギ先輩が?

「澪ちゃんから話を聞いたの」

……迂闊でした。

「ごめんなさい。梓ちゃん」

なんでムギ先輩が謝るんですか?

「私と澪ちゃんがしてるところを見ちゃったから」
「だからこんなことをしちゃったんでしょ?」

それは……確かにそうです。


「でもどうしてりっちゃんなの?」

復讐だからです。

「復讐?」

はい。
律先輩は澪先輩の大事な人だから。

「梓ちゃん。澪ちゃんに復讐するのは筋が違うわ」
「だって、梓ちゃんと付き合ってるのに浮気してたのは私なんだから」

……。

「ねぇ、こんなことやめましょう」
「りっちゃん待ってて。今拘束を解いてあげるから」

……。


私はムギ先輩が律先輩を解放するのを黙って見ていました。
頭のなかがごちゃごちゃして、何も考えたくありません。
苛立ちをぶつける場所も、安らげる場所も失った私は考えるのをやめました。

自由になった律先輩とムギ先輩が何かしゃべっているようでした。
でも、私の耳には何も入って来ません。

その後、扉が開き、澪先輩が入って来ました。

ムギ先輩と澪先輩が言葉をかわしてそれから……


澪先輩が思い切り、ムギ先輩の頬を叩きました。


えっ……なにがおきたの。


「みお……みお」

「りつぅ……私……私……。私のせいでごめんな」

「ううん。澪は悪くない。それより私のほうこそごめん」

「律が謝ることなんてない!」

「違うんだ。私はずっと勘違いしてたんだ」
「なぁ澪。私さ、澪が欲しい」

「えっ、律。今なんて」

「澪が欲しいって言ったんだ!」


これはなに。
澪先輩と律先輩が愛を囁いていて。
ムギ先輩は倒れていて。


なにがおきたのかわからない。
あぁ、でも、この事態を私が招いてしまったことだけは、はっきりと……。

「よかった」

……!
ムギ先輩?

「あの二人、やっと結ばれたんだ」

なんで……。

「梓ちゃんのおかげじゃない」

私のおかげ?

「ええ。ありがとう、梓ちゃん」

ムギ先輩……頬が腫れてます。
それに。

「なぁに?」

……なんでもないです


泣いてるように見えたけど、ムギ先輩の頬を伝う水滴は見当たりませんでした。
先輩は私の手を引っ張って歩き始めました。
特に抵抗することもなく、私は屋上を去りました。

連れてこられたのは保健室。
先輩はポケットから鍵を取り出して扉を開きました。
私が不思議そうな顔をすると、人差し指を口にあてて微笑みました。


「ごめんね。梓ちゃん」
「本当に色々ごめんね」

あやまらないでください。

「だって、私が悪いと思うから」

どうしてそう思うんですか?


「浮気は悪いことでしょ?」
「本当なら、あの時、梓ちゃんに告白されたとき、断っておけばよかったの」
「そうすればこんなことにはならなかったわ」

そんなの……。

「そうすれば私なんかにひっかからず、もっと素敵な女の子に出会えたのに」

私は……。

「うん」

私の話を聞いてもらえますか?

「うん」


私、文化祭の軽音部の演奏を見て、この学校に決めたんです。
ううん。本当は演奏じゃなくて、人を見て。
可愛い人が多いからここにしようって。

「そうだったんだ?」

軽蔑しますか?

「しないから、続けて」

……はい。
私、女の子と付き合ってみたいってずっと思ってたんです。
理由はわかりませんが、私は男の子に恋ができなかった。
そのかわり、女の子を見るといいなぁって感じてしまうんです。
だから軽音部に入って、私は……。

「私なら付き合いやすいと思った?」


ごめんなさい。

「あやまることはないわ」
「付き合ってみないとわからないこともあるもの」

でも、それからは違います。

「どういうこと?」

澪先輩に言われました。
梓は誰でもいいんだろうって。
確かに最初はそうでした。でも付き合っていくうちに……。

「私のこと、好きになってくれたんだ?」

はい。
だからこんなことを……。


「梓ちゃんがやったことは犯罪だけど」
「二人がくっついたのだから問題ないと思うわ」
「ちゃんとフォローもしておくから安心しておいて」

……私にそんなことしてもらう資格ないです。

「あの二人をくっつけるのは私の願いでもあったから」

……あの、聞いてもいいですか?

「なぁに?」

ムギ先輩は澪先輩のことが好きじゃなかったんですか……?

「どう思う?」

はぐらかさないでください!

「本当にわからないの。ごめんなさい」

どういうことですか?

「ねぇ、梓ちゃん。今度は私の話を聞いてくれる?」

はい。


「私もね、女の子なら誰でも良かったの」

「ううん。女の子でも男の子でも、本当に誰でも良かったんだ」

「私の家は厳しくて、友達を自由に作ることも許してもらえなかった」

「それどころか本も映画も自由に見せてもらえなかった」

「私はこっそり漫画を読んで恋を知ったんだよ」

「恋に落ちる女の子たちがとても楽しそうで」

「恋に落ちる瞬間ってどんな感じなんだろう?」

「大好きな人を抱きしめるってどんな感じなんだろう?」

「そんなことばかり考えていたの」

「だから高校に入って、恋人を作ろうとした」

「でも澪ちゃんがりっちゃんにフラれたことを知ったら放っておけなくて」

「澪ちゃんが酷い失恋をしたと知って、自分のことみたいに心が傷んだの」


「きっとあの頃の私は、澪ちゃんじゃなくて恋が好きだった」

「だから恋は終わらないんだよって言いたくて。恋を守りたくて、そのために澪ちゃんの傍にいた」

「傍にいるうちに、だんだん澪ちゃんのことを分かっていって」

「澪ちゃんも、私と一緒にいると安心するって言ってくれるようになって」

「私は澪ちゃんのことを好きになってたのかな」

「自分でもよくわからないけど…澪ちゃんを守りたい。なんとかして元気にしてあげたい、そう思った」

「そうしているうちに肉体関係になって……私がハマっちゃったの」

「だって澪ちゃんったらとっても上手なんだから」

「でも、澪ちゃんと一つだけしてないことがある」

「キス。梓ちゃんとのアレが、私のファースト・キスだから」

「本当は澪ちゃんにしたかったんだけど、澪ちゃんのファースト・キスはりっちゃんのためにとっておくべきだと思ってたから」


唇に指をあててみました。
ファースト・キス。
私はもう大切なものを貰っていたんだ。

色々なことを経て、失ってしまったものもあります。
元の仲のいい軽音部に戻れるかはわかりません。
特に律先輩とは合わせる顔がありません。

それでも、手を伸ばせば届く場所にムギ先輩がいる。
憧れていた、そして一度は手に入れたあの場所に、戻れるかもしれない。

先輩に触れた。
先輩の体温を感じたい。
先輩に愛されたい。

私は、私の気持ちをぶつけることにしたんです。



ファースト・キスだったんですね。

「よけいなものをあげちゃったかな」

そんなことありません。
ムギ先輩……。

「なぁに?」

まだ遅くないでしょうか?

「どうだろう。でも一度別れましょう」

えっ……。
どうして……ですか?

「このまま肉体だけの関係を続けていても、幸せになれないと思うの」
「気持ちが繋がっていないと、二人でいても辛いだけだから」

私はムギ先輩のこと……

「私が――」

あっ……。


それだけで、わかってしまいました。
私はムギ先輩にふられたんです。
私が好きでも、先輩は私のことを好きじゃない。
こんな単純な結末……。


「ごめんね。ごめんね」


先輩は自分に言い聞かせるように謝り続けました。
私はただ泣き続けました。


これが私の初恋のお話。
その全てです。


翌日。澪先輩に呼び出されました。


「梓……」

澪先輩、どうして私を呼んだんですか。

「謝る必要はないと思ってる」
「でも、何か言わずにはいられなかったんだ」

仲直り、ということですか。

「あぁ、梓は軽音部の仲間だから」
「律も同じ気持だ」

いいですよ。澪先輩の気持ちも分かるつもりですから
ただ、恋敵として素直に仲良くはできませんが

「恋敵って……」

はい。恋敵です。

「ムギが私のことを好きだっていうのか?」
「だってムギは律と付き合えたことを素直に祝福してくれたぞ」


好きでもない相手と体を重ねますか?

「そんな。ムギはただ私を慰めようとしてくれてただけだろ」

ずっとそう思っていてください。

「後輩のくせに生意気だ」

それくらいじゃないと、恋は戦えませんから。

「……そうかもしれないな」

はぁ。

「今回のことで思ったんだ」
「私がもう一歩踏み出す勇気があればムギにも梓にも迷惑かけなかったんじゃないかって」

過ぎたことです。


「なぁ、梓」

なんですか?

「厚かましいお願いかもしれないけど、ムギのことを頼む」

それは無理かもしれません。

「どうして?」

一昨日、フラれました。

「・・・ごめん」

澪先輩が謝ることじゃないです。

「私だって……ううん。私はどうだったんだろう」

まあ、澪先輩のことは責められません。
ムギ先輩の体は蠱惑的ですから。

「あぁ、あの白い肌とおっぱいのハリ……って何を言わせるんだ!」

ふふっ、澪先輩もすっかり元気になりましたね。

「あぁ、実はあのあと、ムギに謝りにいったんだ」


ムギ先輩のところへ?

「うん。五体投地の覚悟でいった、あっさり許してくれて拍子抜けだったよ」

澪先輩と律先輩がくっつくのは、ムギ先輩の悲願でしたから。

「そうだな」

もし、もしも、ムギ先輩が本気で澪先輩のことを好きになっていたら……。

「梓!」

な、なんですか。

「仮定の話をしても意味はないんだ」

……そうですね。

「色々言ったけど、梓がこれからどうするのは、それは梓自身が決めればいい」
「私はそう思うよ」

はい。


「あっ、それとさ、一つだけ腑に落ちないことがあるんだ」

腑に落ちないこと……ですか?

「あぁ、どうしてムギは梓の告白を受けたんだろうな」

それのどこが腑に落ちないんです?

「あの時さ、相談されたんだ」
「『梓ちゃんに告白されたんだけど、どうしよう』って」

そんなことが……。

「私は断ったほうがいいって言った」
「でもムギは、『付き合いたい』って言った」

ムギ先輩がそんなこと?

「あぁ、正直なんでムギがそんなに梓と付き合いたがってたか不思議なんだ」


それは……わかりません。

「私さ、今になって思うんだ」
「ムギは本気で梓のことを本気で好きなんじゃないかって」

……それならフラれませんよ。

「それは……ムギにも何か考えがあるんだと思う」

そうでしょうか?

「私の勝手な予想だけど」

……わかりました。
覚えておきます。


澪先輩もやっぱり先輩でした。
澪先輩とはすぐ元の関係に戻り、律先輩にも一言謝るだけで許してくれました。

澪先輩に対する負い目からか、律先輩は全く私を責めませんでした。
むしろ、付き合うきっかけを作った私に感謝してくれたほどです。





これで、とりあえずのところ、私の話は終わりです。



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保健室で梓ちゃんと別れたあと、澪ちゃんに呼び出された。
澪ちゃんと私は交互にひたすら謝った。
その後に、ちょっとだけ泣いて、意味のない雑談をはじめた。


「もしも、もしもだぞ」

澪ちゃん?

「もしも、私がムギのことを本気で」

澪ちゃん!

「な、なんだ」

仮定の話をしても意味はないから。

「……そうだな」

澪ちゃんはりっちゃんと幸せにならなきゃいけない。
そう、私が決めたんだから。

「まったく、ムギには敵わないよ」

ふふっ、じゃあ、またね。

「あぁ、またな」


一週間もすると私たちの関係は元通りになりました。
遺恨を残すことおなく、澪ちゃんとりっちゃんのカップル成立という結果だけが残った。

梓ちゃんのことが心配だったけど、それほど気落ちもしていないみたいです。
今まで通りにりっちゃんを嗜めている梓ちゃんを見ると、安心してしまう。
澪ちゃんと私だって、すっかり仲良しさんに戻ってしまった。

体を重ねることはもうないけど、澪ちゃんは今でも一番の親友です。


唯ちゃんに呼び出されたのは、そんなときのことでした。


唯ちゃんとふたりきりでおしゃべりするのは久しぶりでした。
最近はずっと梓ちゃんの傍にいたから。
私はこれまでのことを唯ちゃんに話しました。
唯ちゃんだけが何も知らないのは嫌だったから。


「それで全部?」

ええ、これが今回のことの全部。

「ふぅん。大変だったんだね」

梓ちゃんには酷いことしちゃったな。

「付き合ってあげれば良かったのに」

それは、梓ちゃんのためにもしたくなかったの。

「ふぅん。まぁムギちゃんなりの考えがあるんだろうね」

えぇ……。


「それでムギちゃん。これからどうするの?」

どうするって?

「ムギちゃんはさ、誰かと付き合うのが夢だったんでしょ」
「なら、あずにゃんを振ったムギちゃんは……」

私は誰とも付き合う資格なんてないと思う。
だって、あんな形で裏切って……。

「裏切ったら恋できなくなるの?」
「そんなことないよね。恋に資格なんていらないんだよ」

それでも、もう恋はいいかも。

「ふぅん。ムギちゃんは恋を裏切るんだ」

どういうこと?


「だってムギちゃんは恋を守りたかったから、澪ちゃんに手を差し伸べたんでしょ」

……。

「そんなムギちゃんがもう恋をしないなら、それは恋を裏切るってことだよ」

そんなこと……。

「ねぇ、ムギちゃん。私が和ちゃんと付き合ってるの知ってるよね?」

ええ、そして憂ちゃんとも。

「今は姫子ちゃんもいるよ」

ふふふっ。ハーレムは順調に増えてるんだ。

「うん」
「ねぇ、あの時私が誘ったの覚えてるよね」

ええ、忘れるはずがないわ。


「今からでも遅くないから私のものになりなよ、ムギちゃん」

そんなの……。

「そしてあずにゃんも私のものにするんだ」

梓ちゃんも?

「そしてみんなで仲良く愛しあおう!」
「うんうん。それがいいよ。きっと」

ふふふっ。楽しそうね

「ね! だからね!」

でもね、私はもう無理なんだ。

「どうして?」


約束しちゃったから。

「そっか」

うふふ。ごめんなさい。

「ねぇ、最後に一つだけ聞かせてもらえる?」

なぁに、唯ちゃん?

「ムギちゃんは、梓ちゃんのこと好きだったの?」

どう思う?

「あっ、秘密だった?」

秘密かぁ……。

「そういうわけじゃないんだ?」


梓ちゃんはね、頑張って私とのデートプランを考えてくれたの。

「うん」

それだけじゃないのよ。
梓ちゃんはね、精一杯の勇気を振り絞って私に告白してくれたんだ。

「うん」

それにね、私のために澪ちゃんを問い詰めたの。
更にはりっちゃんのことを傷つけてもしまったの。

「うん」

それからね。
梓ちゃんは私のせいで、たくさんたくさん傷ついたの。
きっとね、辛かったと思うんだ。
それにね、苦しかったと思うんだ。

それでも、ずっとずっと梓ちゃんは私のことを好きでいてくれた。
それなのに、私は……。


「ムギちゃん……」

ごめんね。
言いたいことばかり言って。

「いいんだよ。ムギちゃん」
「私は応援することしかできないけど」

唯ちゃん。私からも聞いていい?

「うん」

私は、許されてもいいと思う?

「ムギちゃん」

なぁに?

「許される必要なんてないんだよ」
「だって恋は落ちるものだから」


自分がやったことに言い訳なんてしても意味ないし、謝ったところで梓ちゃんの傷が癒えることもない。
それでも私は――





私の話はこれでおしまいです。



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惚れっぽい私が次の恋に目覚めたのは、失恋した一週間ほど後のことです。

ある日のこと。
学校に行く途中、通り雨に襲われたんです。

タバコ屋さんの屋根の下に避難しようとすると、先客がいました。
美しい金色の髪を濡らしたその人は、私を見つけると――

「好きになってくれてありがとう」

精一杯の作り笑いで、そう言ったんです。


それがきっかけで次の恋がはじまりました。

また同じ人を好きになって。

初恋の続きではなく、新しい恋として、私はムギ先輩を好きになったんです。

他の誰でもなく、もう一度ムギ先輩を好きになったんです。


それから一年。
私は日常を楽しみました。
唯先輩と澪先輩と律先輩のいる日常。
どの先輩も普通に付き合えばとても気のいい人です。

唯先輩は抱きついてくれるし。

澪先輩は優しいし。

律先輩は意外と頼り甲斐があって乙女チックです。


そして忘れていけないのがムギ先輩。
先輩は私のためにお茶をいれてくれます。

先輩は私が楽しそうにしていると、ニッコリと微笑んでくれます。

先輩は私が落ち込んでいると、寄り添って涙を拭いてくれます。

そんなムギ先輩のことが私は……!
あっ、メールが着ていたみたいです。

差出人は……ムギ先輩。




私はムギ先輩に呼び出されました。

用件はわかっています。
一年間ずっと見ていたおかげで、今では先輩の心が手に取るようにわかるんです。

悲しい時はちょっと肌にハリがないことも。
嬉しいときは眉毛がほんのちょっと上に動くことも。
全部全部知ってるんです。

だから私は知っています。
ムギ先輩が結局私のことを好きになったってことを。
私の好きって気持ちに耐えられなかったムギ先輩が、ギブアップしたってことを。


でも、素直に告白を受けるのは面白くありません。
私は失恋の味を知ったんです。

少し意地悪してあげようと思いました。
今更気づくなんて……遅すぎます。


あの時と同じ屋上。
ムギ先輩が待っていました。
でも、口から出てきたのは予想外の言葉でした。


「実はね、好きな人ができたの」
「ごめんね。ずっと待ってくれてたのに」

えっ?


私が俯いていると、ムギ先輩の手が頬に触れました。
顔を上げると、満身の笑みで笑ってるムギ先輩がいました。





「私ね、梓ちゃんのことが好きになっちゃった♪」





今更気づくなんて遅すぎます!

私は吐き捨てた後、ムギ先輩の唇を奪いました。
それから長い長いキスをしたんです。


聞いてもいいですか?

「なぁに?」

どうして私のことを好きになってくれたんですか?

「どうしてかな。理由なんてないかもしれないけど」
「強いて言うとするなら、梓ちゃんが私のことを好きでいてくれたから」

好きでいてくれた人を好きになるんですか?

「うん。だってずっと梓ちゃんが私のことを想ってくれてるなんて……」
「お茶をいれていても……」
「一緒に演奏してても……」
「梓ちゃんのことを考えちゃって、私……」

……ムギ先輩のことをもっと好きな人が出てきたら、そっちを好きになっちゃうんですか?

「私のことを一番好きでいてくれないの?」

一番好きでいます!! だけど……。

「安心して梓ちゃん」
「どうしてだかわからないけど、私、好きになった人をずっと好きでいる自信があるんだ」
「ちゃんと恋をするのは初めてだけど何故だか自信だけはあるの」

それは私も一緒です。だから――


ずっとずっと一緒にいてくれますか、ムギ先輩。

「梓ちゃんが私に飽きるまでは好きでいてあげる」

それならずっと一緒ですね、ムギ先輩。

「ええ、本当にずっと、何があっても、世界が滅んだって、一緒にいるんだから」



理由なんてないけれど。
それでも私の好きな人。

私とムギ先輩が別れたのはそれから73年後のこと。
その3ヶ月後に二人は再会して、もう一度永遠を誓うんです。


おしまいっ!


最終更新:2013年05月07日 22:26