誕生日プレゼントは何がいいか聞かれたとき、つい言っちゃいました。


大胆な告白ともとれるこの発言。
私が慌てて訂正しようとすると、唯ちゃんは照れたように笑って、こう言ってくれました。

唯「それじゃあムギちゃんの誕生日に私とデートだね」

そんなわけで、私の誕生日に唯ちゃんとデートすることになったんです。

デートでどこに行きたいか聞かれた私は、水族館と答えました。
唯ちゃんとのデートならどこでも良かったんです。
でも、せっかく行くならデートっぽいところがいいなって。
だから水族館。

そして、当日。

唯「はい、ムギちゃん。これムギちゃんの分のチケットだよ」

紬「ありがとう。今お金を渡すね」

唯「いいよ。今日はムギちゃんの誕生日だし」

紬「でも悪いわ」

唯「今日は私がエスコートするんだからいいんだよ」

ちょっと自慢げにそう言う唯ちゃん。
あまり意固地になるのも悪いかと思い、奢ってもらうことにしました。
水族館に入ると、唯ちゃんは目を輝かせて水槽に近づきました。

唯「わっ、おおきなお魚だねー」

紬「あれは、マンタね」

唯「マンタ? ギー太の親戚みたいな名前だね」

紬「うふふ。そうかしら」

唯「じゃあ、あれは」

紬「あれは……カツオじゃないかしら」

唯「え、カツオってタタキにする?」

紬「うん」

唯「カツオって、あんな魚だったんだ」

紬「食卓に出てくるときは切り身だもんね」

唯「ねぇムギちゃん、見て見て、あれ」

紬「鮫さんがガラスにくっついてる?」

唯「やっぱり鮫さんなんだ」

紬「うん。そうみたい」

唯「鮫って他の魚と一緒な水槽でいいのかな?」

紬「鮫さんにもよるんじゃないかしら」

唯「ふーん」

こんな感じで私達は水槽をまわっていきました。

トンネルみたいになった水槽。
蟹さんだけ入った水槽。
オウム貝が入った水槽。

どれも興味深くて、私たちは夢中になって水槽を覗きこみました。

足の長い蟹さんを見て美味しくなさそうだねと言った唯ちゃん。
クサフグさんを気に入って一匹一匹に名前をつけてる唯ちゃん。
ラッコを見て、寝ながらご飯を食べるなんて羨ましいとつぶやいた唯ちゃん。

本当に唯ちゃんが愛おしくて、私は……。
ううん。駄目。
今日は誕生日プレゼントとしてデートしてくれただけだから。
勘違いしちゃ駄目です。

気を引き締め直した後、私たちはイルカショーへ向かいました。
近くで見るイルカはダイナミックで、唯ちゃんも私も興奮しぱなっしでした。

唯「ムギちゃんムギちゃん」

紬「うん。いまのジャンプすごかったね」

唯「私でもあんなに飛ぶのは無理だよ」

紬「あら、でも唯ちゃんならお菓子がご褒美ならいけるんじゃないかしら」

唯「ムギちゃんのお菓子があったら……うん頑張れる気がするよ」

紬「うふふ。でもイルカさんってすごいわね」

唯「うん。立ったまま泳いだり、わっかをくぐったり」

紬「あら、大きなジャンプをする……! 危ない!!」

唯「え、ムギちゃん」

イルカさんの大きなジャンプで、こちらに大量の水が飛んできました。
私は咄嗟に唯ちゃんの前に出ました。
後ろを振り向くと、唯ちゃんはあまり濡れてないみたいでした。
良かった……。

唯「ムギちゃん……かばってくれたんだ」

紬「うん。唯ちゃんが濡れなくてよかったわ」

唯「でもムギちゃんがべちょべちょだよ」

紬「そうね。どこかで拭かないと……」

私と唯ちゃんは、スタッフの人に話をして、更衣室とジャージを貸してもらいました。
唯ちゃんはタオルで優しく私を拭いてくれました。

私は制服を脱いで、ジャージに着替えました。
渇くまでしばらく水族館をまわったあと、制服に戻す予定です。

私はジャージ。唯ちゃんは制服。
服装は変わってしまいましたが、引き続き水族館を楽しみました。

ペンギンを見たり、アシカを見たり。
哺乳類コーナーもちゃんと堪能したんです。

唯「ね、ムギちゃん。ちょっと休憩しない」

紬「うん。いいね」

唯「じゃあ私飲み物……」

紬「あっ、実は紅茶を持ってきたんだ?」

唯「紅茶?」

紬「うん。水筒に冷えたのをいれてきたの」

唯「えへへ~。ムギちゃんの紅茶!」

紬「うん。いま注いであげるね。はい」

唯「……うん。いつもの味~」

紬「私も貰うね」

唯「ねぇ、ムギちゃん」

紬「なぁに?」

唯「さっきのムギちゃんかっこよかったよ」

紬「イルカショーのこと?」

唯「うん。サッ! と私を庇ってくれて」

紬「うふふ。身体が勝手に動いちゃったの」

唯「ムギちゃん、映画の登場人物みたいだね」

紬「でも、唯ちゃん。今日は良かったの? チケット奢ってもらっちゃって」

唯「いいよ。だってムギちゃんの誕生日だもん」

紬「……デートなんて無理なお願いしてごめんね」

唯「え」

紬「だってデートって本当は好きな人とするものでしょ」

唯「えっと……私は好きな人とじゃなくてもデートしちゃうかも」

紬「うふふ。そうなんだ」

唯「でもね、好きじゃない人とデートはしても、キスはしないかな」

紬「えっ」

そう言い終えるやいなや、唯ちゃんは私の唇を奪いました。
とっさのことに、私は全く反応できなくて。
しばらく呆けた後、私は自分の顔が真っ赤になっていくのに気づきました。
唯ちゃんの顔を見ると、唯ちゃんの顔も真っ赤に染まってました。

紬「ねぇ、唯ちゃん。今のって」

唯「うん……そういうこと」

紬「唯ちゃん、私ね……私、嬉しい!」

唯「ねぇ、ムギちゃん。ムギちゃんの気持ちも聞かせて欲しいな」

紬「聞かないとわからない?」

唯「ムギちゃん、大好き!!」ダキッ

紬「私も大好き!!」ダキッ

唯「……」ギュ

紬「……」ギュ

唯「……ねぇ、ムギちゃん」

紬「……あ、うん」

唯「そのジャージクサイね」

紬「うん。お魚さんの匂いがこびりついてて生臭いね」

唯「あはは。今告白するのは失敗だったかも」

紬「そうだね。でも……」ギュ

唯「うん。ムギちゃん、私今、幸せかも」ギュ

それから私はジャージを脱いで、制服に着替えました。
お口直しに唯ちゃんともう一度抱きしめあいたいな、なんて思っていると、
唯ちゃんが携帯を見て慌てた顔をしていました。

唯「ムギちゃん。大変大変!」

紬「え、どうしたの」

唯「今日、ムギちゃんのサプライズ誕生パーティーがあるんだった」

紬「え、本当!?」

唯「うん。……それも1時間前に始まる予定だった」

紬「えっと……それは」

唯「あはは。澪ちゃん達に怒られちゃうよ」

紬「うん。急いで向かいましょう」

会場は唯ちゃんの家。
私たちは走りながら、ちょっとだけお話した。

紬「ねぇ、唯ちゃん」

唯「なぁに、ムギちゃん」

紬「私達付き合ったら何か変わるのかな」

唯「ムギちゃんは変わりたい?」

紬「うーん。そうでもないかも」

唯「そっかぁ、じゃあ今のままでいいんじゃないかな。でも……」

紬「うん?」

唯「こうやって、手を繋いでいこう」


唯ちゃんは私の手を取って走りだした。
唯ちゃんに引っ張られる私。
けど唯ちゃんはすぐにバテて、今度は私がひっぱることになった。
いつも握ってきた唯ちゃんの手。
これからもずっと、握り続けたいな。


おしまいっ!



最終更新:2013年07月02日 22:22