梓「ちょぉぉぉぉぉ!!!」


ぱくぱくムチュッごっくん!


梓「私の……おかずが……」

唯「ふー、美味しかった!
これで復讐は果たせましたですな、ムギちゃんっ!」

紬「そうねっ、これで枕を高くして眠れるわっ!
美味しかったし!」

梓「」

律「いやー、すげぇ連携だったな。
息ピッタリ」

梓「もーーーっ!! 律先輩なに感心してるんですか……
ってあれ、澪先輩?」

律「おやっ?」

私達はようやく気付きました。

澪ちゃんが目を開いたまま気を失っているのを。

どうやら、私の叫び声にやられたみたいです。

ごめんね、澪ちゃん。

……………………

…………

頑張ればいけそうという事で、ムギちゃんは午後から授業に復帰しました。

私達が手を貸してあげれば移動とかはもう全然問題無いのですが、
ずっと同じ体勢で座っていると痛みはぶり返してくるでしょうし、まさにド根性です。

痛くない・しんどくない訳はないはずですが、そんな様子をまったく見せない……

それどころか、楽しそうに授業を受けるムギちゃん。

いや、こんな状況でも本当に楽しんでいるのでしょう。

『私、酷い捻挫をしながら授業に出るの初めて~♪』と、笑っているムギちゃんのお顔と心が見えるようです。

いや、もしかしたらこれまでの人生ですでに経験済みかもしれませんが。

ともあれ、やっぱり彼女は凄いなあと思いました。

─────────────────────

放課後です。

ムギちゃんは演奏は出来そうにないので、
ソファーでくつろいで貰いつつ、私達の演奏のダメ出しをして貰いました。

といっても、演奏したのはその一回だけで、後はいつも通りのハニー・スイート・ティー・タイムでしたが。

……………………

…………

律「さって、そろそろ帰るかなー」

紅茶を飲み干してカップを置き、りっちゃんが言いました。

机の上にあったお菓子は、ついさっき私が食べたので最後でした。

紬「もうこんな時間になってたのね~」

外は、ちょっぴり暗くなってきていました。

梓「また大して練習が出来なかった……」

澪「まあ、今日の所は仕方ないよ。
ムギ抜きで演奏を続けるのも何か寂しいしな」

梓「あー、確かにそうですね」

紬「ごめんね、私のせいで……」

澪「あっ、ごめんムギ!
そんな意味じゃないんだ」

梓「はい、ムギ先輩は何も悪くないですっ!」

紬「でも、練習だけじゃなくて、お茶の準備とかまで皆に全部やって貰ったし……」

ムギちゃんはちょっとしょぼんとしてます。

確かに、今日はお茶はりっちゃんが淹れ、お菓子を並べたりとかは私・澪ちゃん・あずにゃんの三人でしました。

唯「そんな事気にしちゃダメだよ~」

律「そうだぞ。今日はムギのして欲しい事は何でもするって言っただろ?
……って、これは頼まれた事じゃなかったっけ……」

そう、ムギちゃんはお茶会の準備は自分でやりたがっていました。

だいぶ足の痛みが無くなってきたとはいえ、まだ無理はさせられないので、私達でストップをかけましたが。

澪「まあ、お茶もお菓子も例によってムギが持ってきてくれた物だしな。
それだけでありがたいよ」

梓「そうですね。ムギ先輩、いつも本当にありがとうございます」

律「サンキューな、ムギ」

唯「ありがとう、ムギちゃん」

紬「も、もう、いきなりなあに?///」

よかった、ムギちゃんに笑顔が戻りました。

律「かーっ! でもこうして改めて礼言うのってちょっと照れ臭いな!」

澪「ふふっ、そうだな」

梓「はい」

唯「だねぇ」

りっちゃんが頭をかきながら笑うと、皆もそれにつられました。

澪「──と、ムギはどうやって帰るんだ?
何だったら家まで送って行こうか?」

紬「ううん、さすがにそれは悪いもの。
家に連絡して、迎えに来て貰う事にしたわ」

律「それが良いな。
その足で電車乗ってー、は危ない」

紬「ホントはこういうの、嫌なんだけどね」

梓「ふふっ、こんな日くらい良いじゃないですか」

窓の端に、赤い光が見え始めました。

……ああ、一日が終わってしまいます。

紬「唯ちゃん? どうしたの?」

唯「……なんか、今日が終わっちゃう事が寂しくなっちゃった」

紬「……そうね~。楽しかったものね」

律「おいおい、ムギは大変な一日だったじゃん?」

紬「そうだけど……それ以上に楽しかったわ」

ムギちゃんは、ニッコリと笑いました。

律「……あー。
実は正直さ、私も楽しかった」

澪「……うん」

梓「……はいです」

唯「うん。ムギちゃんのおかげで、とっても楽しかったっ!」

……!


あっ、そっかぁ。

当たり前の事なのに、私はようやく気付きました。

紬「うふふっ、足は痛かったけど、最高の一日だったわ。
皆、今日は本当にありがとう。迷惑かけてごめんね?
クラスの皆にも心配かけちゃったから、明日謝らなきゃ」

こうして楽しかったのは、ムギちゃんのおかげなんだ。

ムギちゃんが居てくれるから。

澪「何言ってんだ。
今日の事を迷惑に思った奴も、謝って欲しい奴も居ないよ」

唯「ムギちゃんっ!」

紬「なあに?」

唯「産まれて来てくれてありがとうっ!」

紬「まあ……!」

真剣に言う私に、ムギちゃんは驚いたように目を開き、口元に手をやりました。

梓「ど、どうしたんですか? 急に」

唯「今日がこんなにこんなに楽しかったのは、ムギちゃんが居たからなんだよ!
ムギちゃんが産まれてこなかったら、ありえなかったんだよっ」

私は、その物凄い発見を皆に伝えようとしましたが、興奮の為か上手く言葉に出来ません。

唯「あっ、いつもも楽しいし、皆も居てくれるってのもあるんだけど、あのね……」

律「──あー、言いたい事は何となくわかったが……」

澪「それで、『産まれて来てくれてありがとう』になる訳か」

梓「いささか飛躍しすぎな気もしますが、相変わらず凄い発想力ですね……
でも、唯先輩らしいです」

けれど、皆はそんな私の言葉を理解してくれたみたいです!

紬「さ、さすがにそんな事を言われると照れちゃうわ///」

唯「照れる必要ないよっ!
堂々とするべきだよっ!」

律「はいはい、んじゃそろそろ帰るぞー。
これ以上残ってると怒られちまう」

澪「そうだな」

──私達は荷物をまとめると、立ち上がります。

ゆっくりとならば、ではありますが、ムギちゃんも一人で歩けるまで回復しました。

でも……


がしっ。


紬「唯ちゃん?」

唯「ふっふっふ。最後まで肩貸すぜ、お嬢さんっ!」

やっぱり、このままただ下校するだけなのがもったいない私は、こうしてしまうのでした。

紬「もう一人でも大丈夫よ?」

唯「まあまあ、気にしなさんな」

梓「あ……私もやらせて下さい」

と、あずにゃんが私とは逆側から、ムギちゃんを支えます。

──きっと、あずにゃんも私と同じ気持ちだったのでしょう。

ううん、澪ちゃんとりっちゃんだって。

澪「じゃあ、私はムギの荷物を持つよ」

律「んじゃ私は……
って、もう手伝える事ねーしお前らずりーし!」

梓「知らないです。帰るです」

と、ムギちゃんを支えて私とあずにゃんは歩き出しました。

律「中野ぉ!」

澪「はははっ」

それに、りっちゃんと澪ちゃんが続きます。

紬「皆……」

唯「……ムギちゃん」

紬「?」

唯「私ね、皆と……ムギちゃんとこうやって過ごすの、幸せっ!」

──そう、

紬「唯ちゃん……
うん、私もっ!」

毎日が幸せです。

皆が居るから。

ムギちゃんが居るから。



おしまい。






最終更新:2013年07月03日 01:21