◇◇◇
◇side-N
こんなに幸せでいいんでしょうか。
私たちは結ばれることはないと思ってました。
白い目で見られながら生きていく決意をしていました。
そんな私達が、こんなハレの日を迎えられるなんて……。
2人で決めたドレス。
2人で決めた会場。
身内だけを集めた小さな結婚式ですが、これでいいんです。
でも、実は少しだけひっかかっていることがあります。
結婚式の招待客を決めた時、誰かを忘れているような気がしたんです。
紬「梓ちゃん、どうしたの?」
梓「あっ、つむぎ」
紬「その呼び方も板についたかしら」
梓「はい。いよいよですね」
紬「あと数時間後には……ね」
梓「そういえば天気、大丈夫そうですね」
紬「天気予報では雨だったけど、いい天気ねぇ」
梓「はい。こんなに晴れてると、多少雨が降っても狐の嫁入りになりそうです」
紬「狐の嫁入り?」
梓「はい。天気雨の日にはですね、狐が嫁入りするんです」
紬「どうして天気雨の日に狐さんは嫁入りするのかな?」
梓「う〜ん。どうしてでしょうね」
紬「本当にどうしてなんだろうね」
梓「うん……」
紬「でもいいな、天気雨」
梓「つむぎは好きですよね。天気雨のときに外で遊ぶの」
紬「うん。だって気持ちいいもの」
梓「誰の影響でしょうか?」
紬「さぁ?」
梓「ふふっ、結婚式楽しみですね」
紬「ええ、とっても楽しみ。誓のキスにケーキ入刀。それからブーケトス」
梓「ケーキ入刀とキスはわかりますが、ブーケトスですか?」
紬「うん。ブーケを受け取った人は、次の花嫁になるって言うでしょ」
梓「言いますね」
紬「それってなんだか素敵じゃない」
梓「そうですね」
◇◇◇
何かがひっかかっていましたが、式がはじまるとそんなこと吹っ飛んでしまいました。
ウェディングドレスに身を包んだムギ先輩はとても綺麗で。
とっても楽しそうでした。
私たちは永遠を誓い、キスをしました。
今まで沢山キスを重ねてきましたが、その中でも特別なキス。
やっと結ばれたんだという確かな実感が、そこにはありました。
沢山の拍手に包まれ、私達は式を終えました。
式の後は、ブーケトスをしてから二次会場へ移動する予定です。
そこではドレスじゃなくて、着物を着るんです。
ブーケトスをするために外に出ようとしたとき、雨が降ってきました。
太陽はまるまると光っているのに。
ムギ先輩は雨など気にする様子もなく、外に出ました。
来客の人たちも、そんな新婦を見て、外に出てきてくれました。
みんなに囲まれて、ブーケトス。
ムギ先輩は、思い切り力を込めて投げました。
それは思いの外遠くに飛び、遠巻きに見ていた人の手に渡りました。
そのブーケを受け取った人は、それから……。
えっ、逃げた??
◇◇◇
紬「梓ちゃん、追うわよ」
梓「ムギせ……つむぎ!?」
紬「あの子を追わないといけない気がするの」
梓「ま、待って下さい。みんなあっけに取られて」
紬「そんなの構っていられないわ。だって……だって……」
梓「……」
紬「ごめん梓ちゃん。一生に一回のことなのに」
梓「……いいですつむぎ。つむぎがそこまで言うなら特別なんだと思います。それに……」
紬「?」
梓「私もなんだか追わなきゃいけないきがするんです」
紬「……! ええ」
梓「あっ、二手に別れた」
紬「え、2人いたの?」
梓「そうみたいですね。どうしましょう」
紬「私は左を追うから、梓ちゃんは右を追って」
梓「はいっ!」
逃げたあの子、あの子の名前。
私は覚えてないけれど。
きっとだいじょうぶ。
追いつけば思い出せるって、そう確信できるから。
雨で泥濘んだ土に、その子は足を取られた。
私達が追いつくと、その子は振り向いてこちらを見た。
それからバツが悪そうに笑った。
その笑顔が全てだった。
やがてムギ先輩が女の子を連れてきた。
その子は私が追いかけてた子と同じ顔で笑った。
そのうち律先輩達も追いついてきた。
泥だらけのドレスをまとった私達を見て、律先輩が笑った。
澪先輩はいつの間にか犬とじゃれ合っていた。
犬種はわからないけど、服従のポーズでずっと撫でられている。
突然、その犬が立ち上がって、大きく吠えた。
わおーーーーーーん!! って。
それで全てが蘇った。
始めるのに遅いはないって誰かが歌う。
私たちの放課後ティータイムはこれからだ。
おしまいっ!
最終更新:2013年07月13日 14:42