波がそぞろに砂浜をなで、穏やかな潮騒が砂浜に響く。
まるでコンサート会場みたいね、さわ子は呟いた。

「そう…でしょうか?」

「聞こえてたの」

ほんの少しばつが悪い、と言うような苦笑いを浮かべたが、取り繕うような事でなし。
こう続いけた。

「海の演奏と砂浜の観客。こう考えれば素敵じゃない?」

少し年甲斐がなかったかと思ったが、彼女は静かに笑いながら言う。

「そうですね。すごく素敵です。」

「そう言って貰えて嬉しいわ」

「……まるで、お姉ちゃん達の演奏みたい」

「そう、かもね…」

「先生は、寂しくないんですか?」

「唯ちゃん達の事?」

彼女の名の通り、憂いを帯びた顔がゆっくりと上下に動く。

「寂しいわよ。勿論」

「ただね、憂ちゃん。大人になるとそれを隠すのがうまくなるの。色々なお別れに出会うから」

「お別れに…出会う?」

「そう。出会うの」

「そっか…。私はまだまだ子供だな」

「あら、いいじゃない。子供でも。私なんて強がりすぎて、男が逃げてくのよ」

おどけて言ってみせると、彼女は少しだけ顔を伏せてクスクス笑う。

「でも、先生ならきっと素敵な人に出会えますよ。だって先生は素敵な人ですから」

「嬉しい事言ってくれるじゃない」

「本当の事ですから」

2人の視線が絡み、お互いに何が可笑しいのかも分からず笑いあう。
一頻り笑うと、彼女は僅かに息を漏らす。

「どうしたの?やっぱり寂しい?」

「それもあるんですけど、先生とこうやって過ごした時間も、いつかお別れになるんだなって…」

「それって凄く悲しい事ですよね」

「そうね…」

潮騒は止まない。

「でも…。いつか、また、きっと、こんな風に肩を並べる日がくるわ」

海を見つめるさわ子の横顔を、不思議そうな目で見つめた。

「こうやって、同じ時間を過ごしてるんだもの。どんなに先を歩いているように見えても、一緒に同じ時を過ごして肩を並べて歩いてる事に変わりはない。それなら、また一緒に同じ時間を過ごせると思わない?」

「一緒の時間かぁ…」

「そっ。一緒の時間。いつか唯ちゃんとも、また肩を並べて歩けると思ってる。憂ちゃんは?」

「…。そう、思います」

憂いを帯びてはいるが、先ほどとは違う笑みを浮かべる彼女を見て、もう大丈夫だと確信。

「さ、もう帰りましょ。あんまり遅くなると唯ちゃんがお腹を空かせて拗ねちゃうんじゃない?」

「はい。そろそろ夕食の時間ですからね」

立ち上がり砂を払い、車へ向かう。

「今日はさわ子先生に会えて良かったです」

「私こそ。随分長いドライブに付き合って貰っちゃって」

「でも驚きました。先生もあのスーパーに行くんですね」

「たまたまよ。ちょうど夕食の買い出しに行ったら、いつも行ってるお店が閉まってて、少し足をのばしてみたの」

「なら先生もうちで夕食いかがですか?」

「大丈夫よ、と言いたい所だけどお邪魔しちゃおうかしら」

「是非」

「あ、でもいつかのクリスマスみたいになっちゃうのは、駄目ですよ」

過去の失態を突かれ、今度こそさわ子はばつが悪くなった。




終わり。