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・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ ・ ・

チュンチュン

梓「………」

梓「………」

梓「…ん……ぁ…」

梓「ぅ~…」ゴソゴソ

梓「6時か」

梓「………」

澪「……zzz」

梓「まだ寝てるのかな」

澪「……すー、すー」

梓「澪先輩?」

澪「すー…すー」

梓「澪先輩?」

澪「………」

梓「………」

梓「みお?」

澪「………っ」

澪「ぷっ…ふふふふふ!」

梓「あぁー!起きてましたね!?」

澪「ふふふ、うん起きてた」

梓「もう!」

澪「ごめん、梓があまりにもかわいく言うもんだから…!くふふふふっ!」

梓「はぁ…もう、ふんです!ふん!」

澪「ご、ごめんってばw」

梓「澪先輩はもっと真面目で優しい人なのに!」

澪「うっ……」

澪「なぁ、本当にゴメンってば…」ギュゥ

梓「っ!///」

梓「…っ!」プィッ

澪「梓、怒らないで。こっちむいて…悪かったよ」

梓「別に怒ってません」

澪「ほんとに?」

梓「はい」

澪「じゃあこっちむいてよ」

梓「いやです」

澪「やっぱり怒ってるんじゃ…」

梓「ううん。だから、おこってないってば…」

澪「ほんとに?」

梓「うん」

澪「よかった」

梓「………」

澪「じゃあ、もう少し寝てようか」

梓「うん」

・ ・ ・

その後、8時くらいに澪と朝食を食べました。
昨夜の、外がよく見える囲炉裏の部屋で一緒に。

昨日まで曇りだった天気は嘘みたいに晴れていて、とてもすがすがしい朝でした。

女将「行ってらっしゃいませ。またのお越しをお待ちしております」

澪梓「お世話になりました」

澪「いこっか、梓」

梓「うんっ」

生野銀山では資料館に目を通した後、観光用に舗装された坑道の中を見学しました。
恐がりな澪は最初、暗い坑道の中に入るのをためらっていましたが、私が手を繋ぐと覚悟を決め、私の手を引っ張っていきました。

澪「よ、よし…行こう」

梓「は~い、“澪”」

・ ・ ・

澪「お、思ったより明るいな」

梓「そうだね、でもすごくひんやりする」

澪「一年中、トンネル内の温度は13度って書いてあったもんな」

梓「少し肌寒いね。一年中ってことは、冬は暖かいのかな?」

澪「そういうことだな」

ガラガラガラ

梓「わっ…これ人?なわけないか」

梓「澪、やけに顔が濃いマネキンが鞴を動かしてるよ」

澪「な、なんだか不気味だなぁ。うわっ、上にもいる…」

梓「あはは、穴から顔出してるw」

澪「すごいなぁ、よくあんな狭い穴に入れるよな」

梓「しかも昔は金槌と杭だけで掘り進んでたんだよね」

澪「うん、大変そうだ」

ピチャッ

澪「ひあっ!?」ビクッ

梓「ど、どうしたの!?」

澪「上から水滴が!背中に!」

澪「くぅぅ…」プルプル

梓「えへへ、澪かわいいw」

澪「こ、このぉ~…///」

梓「えへへ…うわっ冷たっ!?」ビクッ

澪「ぷっ、あははは!梓にも落ちてる!」

梓「くぅ~…!」

澪「梓もかわいい」ナデナデ

梓「うぅー…」

梓「澪だけ頭撫でてずるいよ…」

澪「ん?じゃあ梓も撫でるか?ほら」

梓「ん……」ナデナデ

澪「………」

梓「………」

・ ・ ・

ザババババ…

澪「こ、これは水滴どころじゃないぞ…」

梓「これ湧水だよね?天井の穴から降ってきてる…ここを通らないといけないのかぁ…」

澪「傘か何か持って来ればよかったな」

梓「うん」

澪「よし、じゃあ一気に通り抜けちゃおう」

澪「ほら梓っ」ギュッ

梓「あ、うんっ…」ダッ

パシャパシャパシャ

梓「はぁ…はぁ…」

澪「濡れた?」

梓「すこしだけ」ゴシゴシ

澪「あ、待って。ハンカチ…」フキフキ

梓「んぅ……すみません」

澪「よし、と」

澪「なかなか過酷な所だな」

梓「観光地にしては、ね」

・ ・ ・

澪「はぁ~日の光が眩しい」

梓「楽しかったね、鉱山。勉強にもなったし」

澪「そうだな」

梓「そろそろお昼だけど、この後は…?」

澪「ごめん、実は決めてない。ここらの観光地で行ってみたい所はこれでひとまず終わりだ」

梓「いいよ別に。それじゃあお昼はゆっくりしよ?」

澪「うん、私もそうしたかった」

梓「えへへ」

・ ・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・

・ ・ ・

梓「おそば美味しい」

澪「うどんも美味しいぞ」

梓「私のおそばあげるから、澪のもちょっとちょうだい」

澪「いいぞ、ほら」

梓「ありがと」

梓「………」チュルチュルチュル

澪「………」チュルチュルチュル

・ ・ ・

梓「わ、石ってこんなに種類あるんだ」

澪「梓はどの石が好き?」

梓「これ、かな?」

澪「あ、それもいいなぁ」

梓「澪は?」

澪「これとか?」

梓「あ、やっぱり」

澪「“やっぱり”ってどういう意味!?」

・ ・ ・

梓「お土産屋さんは、いかにもって感じだよね」

澪「あぁ、ほとんど関係ない物まで売ってる…。高速道路のパーキングエリアみたい」

梓「あ、純銀のアクセサリー」

澪「梓、こういうの好き?」

梓「それほどでもないかな?」

梓「でもやっぱり、貰うと嬉しいと思うよ」

澪「うーん…」

梓「………」

梓「澪、あっち行こ?」

澪「あ、うん」

・ ・ ・

澪「ここらへんは本当に山ばかりなんだな。空気が美味しい」

梓「こういう自然に囲まれた場所もいいなぁー。今日はすごくいい天気だし」

澪「うん。かといって暑くも無くて、すごく気持ちがいい」

梓「あ、あっちにお寺があるよ?」

・ ・ ・

澪「だれもいないな」

梓「すごい静か」

澪「お、ベンチがある。ちょっと休憩しよ?」

梓「うん」

・ ・ ・

梓「じゃあ放課後は毎日病院に通ってたの?」

澪「この話あんまりしたくないなぁ。あのころは律しか友達がいなかったようなものだし…」

梓「とっても友達思いじゃない」

澪「でもあの時は本当にびっくりしたよ。律が私の目の前でキックボードに乗って車に突っ込んでったんだからな」

梓「律先輩ってほんとに今と変わってないんだ…」

澪「あぁ。ホント、骨折して入院はしたけど…笑い話になってよかったよ。車に当たった時なんかも、律すごい笑ってたし」

梓「あはははは」

梓「はぁ、いいなぁ…」

澪「なにが?」

梓「澪と律先輩」

澪「……そうかな」

梓「うらやましいです」

澪「あはは…」

澪「…んん…あずさごめん、なんかちょっと眠いかも…」

梓「わたしも、なんだか妙に眠…たい…です」

・ ・ ・

・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ ・

・ ・ ・ ・ ・ ・

私達が起きたのは夕方。
気が付けば辺りは夕焼けのオレンジ色になっていて、ひぐらしの鳴く声だけが響いていました。

梓「……っ」

梓「………んん」

澪「梓、起きた?」

梓「澪先輩…」

梓「ずっと寝てましたね」

澪「あぁ、私もさっき目が覚めた」

梓「んっ…もう夕暮れ時ですね」

澪「そろそろ帰ろうか」

梓「はい」

・ ・ ・

澪「………」

梓「………」

こうして、澪先輩との旅もこれで終わり。
気が付けば、まるで夢だったみたいに時間は過ぎていました。

本当に、夢だったみたいに。

私たちは電車の中でも、駅についても、ただ無言でいました。

でも私は、澪先輩の手だけはしっかり握っています。

結局、私の気持ちを打ち明けることはできなかったけど。
澪先輩との思い出だけはしっかりと覚えておけるように。

この澪先輩の手の温もりと、私の手を握り返してくれるこの感触だけは…。

澪「じゃあ、また学校でな」

梓「はい、とっても楽しかったです。澪先輩」

澪「うん、私もすごく楽しかった」

梓「………」

澪「………」

梓「………」

澪「あのさ、梓」

梓「?」

澪「………」

澪「ん……やっぱりなんでもない」

澪「気を付けてな?」

梓「はい…さようならです」

私たちは別れの挨拶を交わした後、反対方向を向いて歩き始めました。
その足取りは何故だかすごく重たくて、なんだか胸も苦しいです。
このまま家に帰ってしまえば、もう澪先輩には一生会えないような気さえしました。

梓「………」

梓「……ぅぅ…」グスン

澪先輩、もっと澪先輩の事が知りたい。
もっと澪先輩のいろんな顔が見たい。

せっかくこんなに仲良くなれたのに、このままで終わらせたくない。

でも、やっぱり私にはその一歩が踏み出せなかった。

わたしはもうこのまま…

澪「あずさっ!」

梓「!」

時間が一瞬だけ止まったように感じました。
周りの雑音は全て聞こえなくなり、私の耳には澪先輩が呼ぶ声の余韻だけが残っています。

梓「澪せんぱっ…」

梓「!!」

振り向くと澪先輩がいます。
夕日で逆光になり、少しわかり辛いですが…澪先輩の顔は笑っています。
少し切なそうだけど、わたしに微笑んでいます。

澪「梓っ…?」

梓「ぁ……ぁぁっ…!」

それ以上、言葉が無くても分かりました。
澪先輩が私を呼んでいます。

澪先輩が、私を…

梓「みぉ…澪っ…!」

互いにその表情を確かめ合うと、二人は手に持っていた荷物をそのまま地面に落として走り出しました。

そしてそばまで駆け寄って、私たちはどちらからともなく互いを強く抱きしめ合い…

梓「んんっ…」

澪「梓…」

梓「みお…澪!私…澪のことがっ…」

澪「分かってる、分かってる!私もそうだ、私もずっと言いたかったんだ!梓のこと…」

梓「まだ言わないで。このまま……もう少しこのまま…」

澪「わかった…わかったよ」

梓「澪…澪ぉ…」

澪「………ん」

澪「いや、駄目だ。やっぱり言わせてくれ、梓」

梓「ダメ、私が先に言いたいから…」

澪「…梓」

梓「澪…」

梓「澪、もっと一緒にいたい」

梓「もっと澪のことが知りたい」

梓「もっと澪のいろんな顔が見たい!」

やっと言えた。
やっと、澪に伝える事ができた。

ありがとう、うさぎ。

澪「うん、私もだ」

澪「私も、もっといっぱい梓と一緒にいたい」

澪「もっと梓と…」

梓「みお…」

澪「あずさ、ずっと一緒にいよう」

梓「うん」




終わり

最終更新:2013年09月18日 22:03