澪(かつて、私たちのバンド『放課後ティータイム』は熱狂的ブームを巻き起こした)

澪(その結果、行きすぎたファンによる無差別なペロ行為があとをたたず、政府は対策を余儀なくされた)

澪「そうして施行されたのが、対ペロリスト特措法・・・」

澪「これによって、表面的には事態は沈静化した」

澪「・・・けいおんブームも今は昔、か」

澪(今ではあまり見なくなった無差別ペロだが、特措法は今でも健在だ)

澪(私たちの周りには、常にSPが付き護衛をしてくれている)

澪(特に、一番被害の多かった梓には厳重な警備体制が今でもしかれている・・・)

澪(メンバーである私たちにでさえ、梓の現在地や今後の予定。今、何をしているのかすら知らされていない)

澪(この法律が出来てから、逮捕者があとをたたなかった)

澪(私に関してのペロ行為も、私が知る限り2名が連行されている)

澪(一件は曽我部先輩がペロに関与した疑いで警察に強制連行され、事情聴取を受けて翌日に帰って来た事があった)

澪(もう一件は現行犯)

澪(私を『頭から食べてやろうと思った』と聴取で語ったという、自称・お笑い芸人の男だ)

澪(これは危ないところだった)

澪(私のそばに近付いて来たその男を、すんでのところでSPが取り押さえてくれた)

澪(取り押さえられたあとその男は警察に連行されて行き、事情聴取の後裁判所に向かう護送車の中で射殺されたそうだ)

澪(事件はすべてうやむやになってしまった)

澪(他のメンバーにも、似たような事件がたくさんあった)

澪(そんな世情、私たちの活動は著しく制限されていった)

澪(いや、名目上は制限などされておらず、『ペロ警戒のための講演延期』や
『保護のための一時的な重要人物の隔離措置』だ)

澪(そんな事が続き、結果的に放課後ティータイムは空中分解した)

澪(政府としては、過熱したけいおんブームを治めるためには
私たちを攻撃する方が大勢のファンを相手どるよりも容易いと判断したのだろう)

澪(制限されたのは、私たちのバンド活動もそうだったが、メンバー同士の接触自体も実質的に禁止されていた)

澪(メンバー同士が集まれば、それを目当てにペロリストが集まってくる恐れがある為。だそうだ)

澪(そんな日々が続き、私自身も鬱陶しさを感じてはいた)

澪(でも、私には彼女のような行動を取るほどの理由も、勇気もなかったのだろう)

澪(あの時は本当に驚いた)

澪「唯がペロリスト達と密かに通じ、反政府ペロ組織を立ち上げて蒸発したんだ」

澪(反政府ペロ組織『放課後の夜明け団』)

澪(それが唯をリーダーとした組織の名前だ)

澪(・・・放課後なのに『夜明け』って)

澪(いつから桜高は夜間学校になったんだよ)

澪(そのちぐはぐなネーミングセンスが、どこか唯らしく、私たちらしくもあって、当時思わず笑ってしまった思い出がある)

澪(活動目的は『あずにゃんをペロペロする』というペロリストの最も基本的なスタンスで)

澪(『そのために政府からあずにゃんを取り戻す』のが主な行動方針)

澪(そして、その手段こそが『無差別なペロ行為』なのだという)

澪「『日本・イギリス同時多発ペロ』」

澪「あの12月3日は、今でも憶えているよ」

澪「日英同時に100万人を超えるペロリストたちが一斉に決起したあの事件」

澪「100万人が政府の施設を取り囲んで、梓のフィギュアや抱き枕をペロペロしまくる歴史的な大事件だ」

澪「あの日、唯はどこにいたんだろうな」

澪「あの日、梓はどこにいたんだろうな」

澪「・・・二人、会えたのかな」

澪「・・・。」

澪(その日以来、ペロ組織放課後の夜明け団は地下に潜り込んで活動をしているらしい)

澪(その日以降の唯の行方も、完全に途絶えてしまっている)

澪(すでに死亡しているという説すらある)

澪「まあ、それは無いとは思うけど」

澪(梓の情報が政府により遮断されるようになったのは、その時からだったかな?)

澪(梓に関しては時折、プライベートで撮ったという写真が政府から公開される事がある)

澪(しかし、それがCGによる捏造だとする噂もあとを絶たない)

澪「『本当はあの12月3日に、梓は政府より奪還されているのではないか?』という噂だ」

澪「噂が本当だとしたら、唯と梓は今いっしょにいる事になる」

澪「・・・わくわくしないか?」

澪「政府による強制的なバンド解散。今でも私は納得していないよ」

澪「放課後ティータイムを思い出の一部には、まだしたくない」

澪「『放課後の夜明け』は、私たちにもやってくる時が来たんじゃないかな?」

澪「・・・なあ、ムギ」

澪(ムギ、お前なら聞こえているんじゃないか?)

澪(この部屋に設置されている監視カメラ。お前なら傍受できてるんだろ?)

澪「私、そろそろ律に会いたいんだよ」

澪(カメラごしとは言え、私は今ギリギリの発言をした)

澪(政府が監視の手を強めるかもしれない)

澪「動くなら、もう今しかないと思う」

澪「私、一人でもやるからなっ」

澪「私、律のところに行くよ」

澪「ここを抜け出して、律の居場所を探す」

澪「唯にも出来たんだ。私だってやる時はやるんだぞ!」

澪「そして、律の窓辺に行くんだ」

澪「ほら、私、ロミオだしさ」

澪「律を連れ出すの、私の役だと思うんだ」

澪「じゃあ、ムギ」

澪「最後にはメンバー全員そろうように頑張るからさ」

澪「また会ったら、いっしょにバンドしような」

澪「詩だって、いっぱいたまってるんだ」

澪「ムギに曲を付けて貰わないと、もう集まってる唯と梓も始まらないだろ?」

澪「また、放課後にな」

澪「待ってる」

澪(そして、私は椅子から立ち上がる)

澪(もう、この箱庭の中にはいたくないからな)

澪「意外と、あっさり出られるものだったんだな」

澪(今、私は箱庭を抜け出して外に飛び出した)

澪(崖の上。強い風を全身に浴びている)

澪(箱庭の中にいた時の服は、もう脱いでしまった。この服では少し寒いけど、平気だ)

澪「出てしまえば、何をあんなに気にしていたのだろうか」

澪「もう、戻れないけどさ」

澪(この先に、どんな世界が待っているかはわからない)

澪(でも今、私は踏み出した)

澪「あっ」

澪「詩が、浮かんだかもしれない」

澪「・・・はやくみんなが集まればいいな」

澪「どうせ新しい一歩なら、みんなといっしょに踏み出したい」

澪(いや、みんなといっしょなら歩くどころか飛べるかもしれないな)

澪「なーんて、さ」


澪(そんな事を思って、ふと振り返ると)

澪(そこにいたのは・・・)


おしまい!