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「ひゃーっ!」


「うえーっ!」


二人して間抜けな声を出しながら、並んで自転車を漕ぐ。
唯とサイクリングなんて久し振りだったけど、
単なる思い付きで行動するとこういう目に遭うから油断出来ない。
たまのサイクリングくらい清々しくやらせてくれー……。
何だよー……、今年は厄年だったっけか、私?

視界をほとんど奪われながら、隣を走っている唯にどうにか視線を向けてみる。
唯の癖っ毛気味の髪が顔面に完全に貼り付いて、半分ホラーみたいだった。
半分以上目を瞑ってるのは、私と同じく目の中に水が入っちゃうのを防ぐためだろう。
シャツもズボンも身体に引っ付いて、白いブラジャーが完全に透けちゃってる。
この調子だと靴の中も濡れてるだろうし、パンツまでぐっしょりだろうな。
まあ、私も唯と似たような状態なんだけどな。


「りっちゃーん、大丈夫ー?」


おまえの方こそ大丈夫か?
確認するまでもなく大丈夫なわけないし、私はそう訊ねずに別の言葉を返そうと口を開いた。
あー、くそっ、喋ろうとすると口の中に雨が入ってくる。


「私は平気だー、一応なー!
身体に服が貼り付いて気持ち悪いけどそんだけだー!
半分くらい帰って来たはずだし、おまえも残り半分車に気を付けろよー!」


唯に言葉を届けようと思うと自然と声が大きくなった。
そうしないと自分自身が何を言ってるのかも分からなくなりそうだった。
私達が遭遇しちゃったのは、それくらい強い夕立だった。
何せ降り出して一分経たずにパンツが濡れ始めるくらいだったもんな。
ゲリラ豪雨ってやつだろうか、目的地に着くまで雲一つなかったっつーのに。
天気予報を見てなかった私達も悪いのかもしれないけどさ。
たまに傘を持たずに遠出してみるとこれだ……。


「りっちゃーん、赤だよ赤ー!」


「おっとと……」


唯に注意されて私は自転車を急停止させた。
目の前の信号は唯の言う通り赤。
走ってる車は一台もないけど、交通法規はちゃんと守らなくっちゃな。
ただでさえ視界が悪いんだ。
車が見当たらないからって信号無視して、予想外の場所から車に出られても困る。


「ほんっとすっごい雨だねー」


「マジ勘弁してほしいよな。
最近雨降ってなかったのに、何で今日に限って降っちゃってんだって感じだよなー……」


「りっちゃんの日頃の行いが悪いんじゃないの?」


「それを言うなら絶対おまえの日頃の行いだぞー、唯。
何故なら私は晴れ女だからな!
何かのイベントの日に雨が降った事なんてほとんどないぞ!
高三の時の夏フェスの時以外はな!」


「夏フェスの時には降ってるんじゃーん」


「よく考えろ、その日に私と一緒に居たのは誰だ?」


「……私?」


「うむ、その通り!
憶えてる限り、私がイベントの日に雨に降られたのはあの時くらいだ。
多分おまえの雨女オーラに私の晴れ女オーラが負けちゃったんだろうな。
つまり私達が今日ゲリラ豪雨に遭っちゃったのは唯の責任って事になるな!」


「えーっ、りっちゃんひどーい!」


「ひどくねーよ。
寮に戻ったらお詫びとしてあのお菓子半分頂くから覚悟しとけよー」


「ぶーぶー、りっちゃん横暴ー!」


口を尖らせながらも唯の目元は笑っていた。
私も文句を付けながらも笑っていた。
晴れ女とか雨女とか私も唯も本気じゃないし、単なる軽口の叩き合いに近い。
我ながら馬鹿な事をやってるって思うけど、軽口でも叩き合わなきゃやってられなかった。
雨に降られるまでは本当に楽しかったんだもんな。
せっかくの楽しい一日の最後にケチが付いたみたいで結構悔しい。


「よーし、信号が変わったし進むぞ、唯!」


「あいよー、りっちゃん!」


信号を確認し、念のために左右を見てからペダルに力を込める。
信号を待ってる間にも、雨は弱まる様子を全く見せなかった。
雨宿りをするよりはこのまま自転車で突き進んだ方が賢明だろう。
一人なら心が折れてたかもしれないけど、今日は隣に唯が居る。
また軽口を叩き合っていれば、すぐに寮に辿り着ける事はずだ。


「ねーねー、りっちゃーん?」


「今度はどうしたー?」


「大雨になっちゃったのは残念なんだけどね……」


「残念っつーか、しんどいっつーかだけど、それで?」


「懐かしかったよねー、あの山」


「まあなー」


あの山……、いや、野原か?
山なのか野原なのか何とも言えないけど、
とにかく高二の頃に梓の歓迎会で遊びに行った場所。
夕立になるまで私達は自転車でその場所に遊びに行っていた。
寮から意外と近い事に気付いて、サイクリングしてみようって事になったんだよな。
言い出しっぺは私の方だ。
何となく唯と二人で遊びに行きたい気分だったんだ。
いや、何となく、じゃないか。


「あずにゃん元気にしてるかな?」


雨に降られながらも、唯が軽く遠い目になった。
今はちょっと遠い空の下で、軽音部の部長をやってる梓の事を思い出してるんだろう。
私も前部長だったわけだし、梓の事はとても気になる。
でもそれを唯に察されないように笑ってみせた。


「元気だと思うぞ、梓の奴は。
たまに憂ちゃんとメールしてるんだけど、元気に部長やってるってさ」


「そうなんだー……って何でりっちゃんと憂がメールっ?」


「ふっふっふ、前にたまたま地元で会ってからよくメールするようになったのだ。
憂ちゃんってやっぱりいい子だよなー。
丁寧なメール返してくれるし、困った時に相談に乗ってくれたりするし」


「いつの間に……。
りっちゃんずるーい!
ずるいよ、りっちゃーん!」


「何がずるいだ。
おまえだって梓とよくメールしてるんだろ?
憂ちゃんからのメールで知ってんだぞ?
お互い様ってやつじゃんかよ」


「お互い様……かなあ?」


そうそう、と雨に塗れる前髪を掻き上げながら言ってやると、唯は小さく笑った。
私と憂ちゃんの意外な関係を認めてくれたから笑ったのか、
それとも梓が元気そうな事を知って安心したからか、そのどっちなのかは分からなかった。
どっちでもよかったし、小さくとでも唯の笑顔を見られたのは嬉しかった。
「それにしても」とその笑顔を崩さずに唯が続ける。


「りっちゃんってやっぱりあずにゃんの事が大好きだったんだねー」


「何だよ、いきなり」


「だって今日あそこに行ったのはあずにゃんと遊んだ時の事が懐かしかったからでしょ?
うんうん、楽しかったもんねー、あの日。
そういえばりっちゃんってばあずにゃんの好きな食べ物が鯛焼きってよく知ってたよね。
入部したての後輩の好きな食べ物を知ってるなんて、流石はりっちゃん部長だよ!
後輩に優しい部長の鑑!」


「ま、まあなー、私って頼りになる部長だしなー!」


胸を張ってみたけど、上手に笑えたかは自分でも分からない。
梓の事は卒業してからもずっと考えてる。
憂ちゃんからのメールで元気な梓の姿を知る度、笑顔になってしまう私が居るのも確かだ。
だけど今日唯と二人であの場所に行ったのは他の理由からだった。

勿論、他の誰でもない唯だ。
唯の事が気になっていたから、あの場所を口実に唯をサイクリングに誘ったんだ。
大学生になって初めての夏休み。
私達はバイトが忙しくてあんまり会えなかったし、部の合宿でも違うメンバーで組んで練習した。
同じ寮に住んでいるのに、想像以上に一緒に居られなかった。
遠くに居る梓や友達の事は大切だと思い続けていられる。
会えた時に、会えなかった時間の分、想いをぶつければいい。
だからこそ思う。
近いのに傍に居られない時は、本当の意味で離れていってるって事じゃないかって。
そう思うと怖くて不安になった。
確かめなきゃ怖かったんだ、私がまだ唯の傍に居られてるのかどうか。


「ねえねえ、りっちゃん」


唯は雨に降られながらも眩しい笑顔を私に向けてくれる。
元気な姿を見せてくれる。
あの場所でも唯は元気で前向きだった。
私もサイリングはすっごく楽しかった。

「それでね、りっちゃん」


服が全身に貼り付いて気持ち悪いだろうに唯は楽しそうだ。
楽しそうなだけじゃない。
ギターはどんどん上達してるし、将来の事も私より考えてる。
物怖じしない態度であの晶ともあっという間に親友になっていた。
ゆっくりとでも確実に前に進んでる唯。


「私、ちょっとやってみたい事があるんだよ、りっちゃん」


唯は前に進む。
唯も澪もムギも梓も進んでる。
進んでないのは、進めてないのは私だけなのか?
立ち止まったままで、置いてかれちゃうんだろうか?


「ねえ、りっちゃん……?」


気が付けば唯が自転車から降りていた。
私も慌てて自転車を停めて、唯の方に振り返った。
唯は川沿いの河川敷に視線を向けている。
小さくて細い川が流れる河川敷。
雨はまだ強いけど、風が吹いてないせいかその川自体は荒れてない。
例えるなら大きな水溜まりってとこだろうか。

その河川敷では背の高いススキが雨に降られて揺れていた。
まだ黄色く染まっていない緑色のススキ。
雨に打たれて左右に規則正しく揺れる。
まるで私の揺れてる心みたいに。


「すぐ終わるからちょっと待っててくれる?」


唯が少し悪戯っぽい表情で私に訊ねる。
ぼんやりと自分の事を考えている内に、肝心な話を聞き逃していたらしい。
そういえば、やってみたい事があるって言っていたような気もする。
その何かをやりに河川敷に行くつもりなんだろう。
こんな大雨の中で何をするつもりなんだろうか。
分からないけれど、今の私はその唯の言葉に頷いて見せる事しか出来なかった。

自転車を道の隅に停めて、二人で河川敷に向かう。
ススキでも抜くのかとちょっと思ったけど、そういうわけでもないらしい。
唯は生い茂るススキを上手に避けて川岸に立って、楽しそうに微笑むと予想外の行動を取った。


「どーんっ!」


その言葉と一緒に勢いよく飛び上がって……。
って……。
唯の奴、川の中に飛び込みやがった!


「ちょ……っ、何やってんだよ、唯っ!」


「えっ、さっきちゃんと言ったよー?
聞いてなかったの?」


聞いてなかったとは言えない。
とりあえずやりたかった事とは川の中に飛び込む事だったらしい。
流れは速くないし、唯の膝くらいまでの深さだったけど、それでも川は川だ。
落ち着けと自分に言い聞かせ、出来る限り平常心を保って唯に訊ねる。


「川に飛び込んでどうするつもりだって聞いてんだよ」


「ちゃんと言ったでしょー?
私ね、一度川を歩いて渡ってみるのが夢だったんだー」


「ムギみたいな事言ってんじゃねえよ……」


「あ、これはうっかりしてたよ!
せっかくだし今からでもムギちゃんを誘って……」


「誘わんでいい誘わんでいい!」


話している間にも唯は川を渡り始めていた。
慌てて唯を追いかけようとして躊躇う。
大雨で全身濡れてるからって、川を渡ろうとするとか何考えてんだ唯は。
ん? 大雨で全身が濡れてる?


「おい、唯、ひょっとして……」


「どしたの、りっちゃん?」


「もう雨でずぶ濡れだから、川の中に入っても大丈夫って理論なわけか?」


「そうだよ?」


「小学生か!」


思わず大声で突っ込んでいた。
高校の頃から何度も唯にしてたのと同じ突っ込み。
あの頃から唯は何も変わってないように思える。
でも違う。
唯は少しずつ変わってるし、何より変わったのは私の方だ。

高校に入って唯と出会って、我ながら自分はかなり変わったと思う。
自分で言うのも変だけど、私は人を引っ張るタイプの人間だった。
澪相手にもそうだったし、中学時代も色んな友達を引っ張って面白い事をしてきた。
だけど唯と知り合って、私の中で何かが少しずつ変わり始めたんだ。
部長なわけだし、見かけは私が引っ張る事が多いかもしれない。
でもその実は唯に引っ張ってもらっていた。
卒業旅行や梓に贈る歌を発案してのは唯だし、
そもそも軽音部をメインで引っ張ってくれていたのも唯だった。

いつだったか『私を置いて大人にならないでよ』って唯は言ってた。
だけど私達より前を進んでいたのは実は唯の方だったんだ。
唯が自分と比較していたのが大人びた和だったから、唯も私達も気付けなかっただけで。
唯の方こそ大人に近かったんだ。
『お姉ちゃんは私よりしっかりしてますよ』。
これもいつだったか憂ちゃんが私にメールで送ってくれた言葉。
今ならそれが本当だったんだってはっきりと分かる。
唯はゆっくりしてるけどしっかりと前に進んでる奴だったんだって。
最近唯と近くに居るのに会えなかったからこそ、私はそれに気付けたんだ。


「りっちゃんはどうするー?」


無邪気な笑顔で私を川渡りに誘う唯。
何の得もない行為。
大雨でずぶ濡れだからって普通はやらない行為。
唯の気持ちが理解出来ないと言ったら嘘になる。
実を言うと私も歩いて川を渡ってみたいと考えた事なんて何度もある。
本当は一度はやってみたかった。
でもその機会はなくて、靴やズボンを濡らしてまでしたい事でもなかった。
誰かに見られたらちょっと恥ずかしいしな。
それでその夢を叶えないまま私は大学一年生になった。
そういうのが一般的なんだろうと思う。

だけど唯は躊躇わずやってみせるんだ。
大雨でずぶ濡れってきっかけはあったにしても、そんな普通はやらない事を。
小さな頃からの夢を叶えるチャンスを見逃さずに。
そんな唯だから、置いてかれそうで怖かったんだ。
引っ張られる事に、誰かの背中を追い掛ける事に慣れてなくて。


『待てよー、唯ー!』


そう言いそうになって私は口を閉じた。
それは冷たい雨が口の中に入ったからでもあるけど、
それ以上にそんな事は言っちゃいけないって思ったからだ。
唯はいつも楽しそうに前に進む。
私が立ち止まったら心配そうな顔で待ってくれる。
今までもそうだったし、これからもきっとそうだろう。
だからこそ待っててくれる唯に頼ってちゃ駄目だって思ったんだ。
唯に心配そうな顔なんてさせたくない。
私がずっと見ていたいのは、いきなり川の中に飛び込んだりする唯の笑顔なんだ。
だから――。


「よっしゃあっ!」


ポーチだけ木陰に避難させて、私は思い切り川の中に飛び込む。
いい踏み切りだったおかげか、それだけで唯よりもずっと対岸に近い場所まで飛び込めた。
靴だけじゃなく、全身に流れる水のしぶきを感じる。
意外だったのは川の水がそんなに冷たくなかった事だ。
やむ気配を見せない大雨の水滴よりずっと温かい。
それもそうか。
雨は上空から降り注いでいるのに対して、
川の水は夕立になるまでの日差しでずっと温められてるんだもんな。
当たり前の事だけど、川の中に飛び込まなきゃきっと一生気付かないままだった。


「もいっちょ、どーん!」


「うわっと!」


不意に柔らかい物が体当たりしてきた。
勿論唯だ。
これだけの雨に当たって川の中にまで入ってるのに、唯の感触はまだ温かくて柔らかかった。
私は唯にチョークスリーパーを軽く極めて言ってやる。


「いきなり何すんだよ、唯ー!」


「えへへ、りっちゃんが私に付き合ってくれたのが嬉しくて」


「嬉しいからっていきなり人に体当たりしちゃいけません!」


「それはごめんねー。
だけど、川の中に入ってみてどう?
水が意外とあったかくてびっくりしちゃったでしょー?」


「それは正直驚いた。
やってみなきゃ分かんないもんだよなー。
うん、いい経験になったよ。
ぶっちゃけ私も一生に一度くらいは服着たままで川を歩いてみたかったしな。
その点に関しては唯ちゃんを褒めてしんぜよう」


「ははー、ありがとうごぜえやす、お代官様ー」


そうやって二人で密着しながら、笑う。
完全にびしょ濡れになった服の下から唯の温かさを感じる。
同じように唯も私の体温を感じてるはずだ。
笑いながら思う。
やっぱり私は唯の近くでずっと一緒に笑い合ってたいんだなって。
それはきっと唯に待っていてもらったり、
私が立ち止まって躊躇ってばかりいたら出来ない事なんだ。

前向きで元気な唯の姿を見てると、たまに不安になる。
いつまで唯の傍に居られるんだろうって。
いつまで唯と笑っていられるんだろうって。
そう思うのは一瞬で、唯の笑顔を見ればすぐになくなっちゃう不安だとしても、
私の胸の中にはそんな不安がずっとあって、唯と少し離れる度にまた心が揺れ動いちゃうんだろう。
我ながらちょっと情けないけど、それも私の本当の姿の一つなんだよな。

揺れている。
私の心もだけど、川岸に生えているススキも。
雨に打たれて、私の心みたいにざわざわ音を立てて。


「アオススキって言うんだって」


私にチョークスリーパーをされたまま、不意に唯が囁いた。
雨と風に揺れるススキを見ていた私の視線に気付いたらしい。


「アオススキ?」


「うん、前に憂に教えてもらったんだ。
夏のススキって秋くらいの黄色じゃないでしょ?
緑って言うか草的に言うと青って言うか……。
だからアオススキなんだって」


「何だよ、草的に言うとって。
いや、言おうとしてる事は分かるけどさ。
つーか、夏のススキってあれだよなー。
秋のススキと比べたら雑草みたいでちょっとカッコ悪いよな」


「あははっ、カッコ悪いって言ったら可哀想だよ、りっちゃん。
まあ、確かにちょーっとカッコ悪いかもねー。
でも私、夏のアオススキも嫌いじゃないよ?」


「どうしてだ?」


「だって夏のアオススキがあるから、秋にあんな綺麗なススキになれるんだよ?
ススキっていいよねー、お月見にススキがないと何か足りないって思っちゃうもんね。
うん、ススキって素敵だよ!」


「おまえが月見で興味があるのは団子だけなんじゃないか?」


「そう言われるとそうなんだけどねー」


「こらーっ!」


腕にちょっと力を込めると、少し苦しそうになりながらも唯は笑った。
私も何故か嬉しくなって笑顔になった。

アオススキ。
ざわざわ揺れてばっかりの青い雑草。
夏の間は正直邪魔に思われてる事も多いだろう。
だけどアオススキは風に煽られたり、雨に打たれたりしながら色を変えていく。
日本の四季を象徴するくらい見事に色付いていく。
ちょっと違うけど私の大好きな黄色に近い色に。
だったら今は揺れていていいんじゃないだろうか。
揺れてばっかりの自分に呆れながら、それでも進んでいけばいいんじゃないだろうか。


「隙ありっ!」


私が物思いに耽っていたのを見抜いたらしく、
唯が私の腕から抜け出して楽しそうに対岸に走り出していく。
一つの夢を叶えに笑顔で進んでいく。
待てよ、なんて言わない。
待ってくれても嬉しくない。
代わりに私は大声を出して唯を追い駆け始める。


「負けるかー!」


「あははっ、りっちゃんこっちこっちー!」


一緒に走っていく。
一緒に夢を追い駆けていく。
明日には風邪を引くだろうけど構うもんか。
これからも私は唯と一緒に小さな夢も大きな夢を叶えていくんだから。
だからおまえはおまえのままでいてくれよ、唯。
そうしてくれる事が私の一番の望みだよ。
今は青くて揺れるばっかりの私だけど、いつかはきっと追いついてみせる。
その時こそ私もおまえに負けない笑顔を見せてやるからな!


そうしてその日――。
私は雨に降られながら、風に吹かれながら、
下らなくて小さいけれど、いつかは叶えたかった一つの夢を唯と一緒に叶えたんだ。


終わりです



最終更新:2013年09月28日 01:24