11月11日。今日は私の誕生日。
だけど、小さい頃の時ほどワクワクしたりはしない。大人になったら今よりももっと関心が無くなるのかな?

憂「おはよう、梓ちゃん!」

梓「あっ、憂。おはよう」

憂「寒くなってきたね〜」

梓「来週からはもっと寒くなるらしいよ」

憂「マフラーと手袋出しとかないと」

梓「ああ、あのマフラーね……」

憂のマフラーは少し変わったデザインで、唯先輩からのプレゼントらしい。たしか、首元でサカナが向かい合っていたような。

「おはよう、二人とも!」

梓「あっ、純。おはよう」

憂「おはよう、純ちゃん」

純「ここんとこ、勉強ばっかでイヤになるよ〜……」

純の言うように、最近は受験勉強ばかりで少し疲れる。学祭も終わってしまった私たちは受験生になった。この辛さを自分が体験してみると、難関校で有名な女子大に五人揃って合格した先輩たちはやっぱりすごいと思わせられる。

憂「仕方ないよ」

純「まぁ、がんばるけどさ……」

そう。私たちはがんばるしかない。今は受験生なんだから。

憂「元気の出るように、お菓子も作ってきたから!」

純「やった!」

梓「まったく……」


放課後 部室

純「あー今日も疲れたー……」

直「今日もお疲れさまです」

学祭が終わってからも私たち三年生は部室にお邪魔して、毎日下校時刻まで勉強をしている。
去年の先輩たちと同じだ。かわいい後輩と会える。こういう伝統も悪くない。

菫「お茶淹れました」

憂「ありがとう、スミーレちゃん」

直「生き返る……」

純「私も〜……」

勉強後のゆるやかな一息。菫の淹れてくれた紅茶がおいしい。こういう時間もやっぱり必要だ。
くつろいでいる四人を見ていてそう思った。

……そういえば、今日は私の誕生日だった。勉強に集中していたからすっかり忘れていた。
誰も覚えていないのかなぁ……。祝ってくれることを期待していたわけではないけど、少しだけさみしい気もする。

純「……ねぇ、憂。元気の出るお菓子は?」

憂「あ、そうだね。ちょっとトイレ行ってくるからそれまで待っててね」

そういえば、朝にそんな話があった。憂も忙しいなぁ。憂は部室を後にした。

菫「受験勉強はどうですか?」

純「やることが多くて多くてクタクタになっちゃうよ……」

梓「それは純が今までサボってきたからでしょ」

純「うっ……」

梓「そこは否定してよ……。けどまあ、部室でみんなと一緒にいられるのがうれしいからがんばれるよ」

心の底からの本当の気持ち。

菫「そう、ですか……」

梓「私たち、菫と直には感謝してるんだよ。ありがとう!」

私がそう言うと、二人は顔を赤らめた。特に、直の照れている姿は貴重だ。

菫「い、いえいえっ! そんなことないですよ!」

直「…………」

やっぱり、かわいい後輩だ。先輩たちもこんな気持ちだったのかな……。
そんなふうに思っていると、部室の電気が消えた。

純菫「わっ!?」

直「停電ですかね」

突然消えてしまったから驚いたけど、持っていたティーカップをゆっくりと机に戻す。
部長としてはここはひとまず。

梓「みんな落ち着いて!」

直「はい」

梓「直は落ち着きすぎ……」

純「まぁ、すぐに点くでしょ」

梓「そうかなぁ……」

菫「わ、私と直ちゃんでちょっと確認してきます!」

梓「えっ!? ちょ……」

直「梓先輩は座っていてください!」

梓「でも……」

純「まあまあ。後輩が進んで行くって言ってるんだから」

そういうものなのかなぁ……。私にはずっと後輩がいなかったからそういう扱いは純の方が詳しいのかもしれない。純の言う通りにしよう。

梓「わかった。でも、気をつけてね」

菫直「はい!!」

二人は立ち上がって、ゆっくりと歩き始めたらしい。真っ暗で何も見えない。
ガチャリと扉が鳴った後に純が口を開いた。

純「いやー良い後輩を持ったね」

梓「だね」

素直で優しい後輩だ。二人にはこれからも部活をがんばってほしい。

純「応援してくれている分、私たちもがんばらないとね」

梓「まったくその通りだよ」

これから試験までもっとがんばらないと! 単純だけど、やる気が出てきた。つくづく周囲の人に恵まれている。
再びガチャリと扉が鳴った。二人が戻ってきたのかな?

すると、奥の方からぼうっとしたオレンジ色の灯りが見えた。どうして倉庫の方から?
小さな光がいくつか並んでいる。それはゆっくりと、こちらに近づいてくる。そして、聞き慣れた声が聞こえた。

「直ちゃん、今日は何の日?」

「今日はプラスマイナスの日。漢字で書くと、十一月十一日」

「……言われてみれば」

「違うよ、直。もっと有名な日があるでしょ?」

「えっ、何ですか」

「ポッキーの日だよ!」

「違うよ、純ちゃん。もっと大切な日があるでしょ?」

「え〜? 何の日〜?」

「今日はね……」

「あ、思い出した!」

「よかった。じゃあさ、せーので言おうよ!」

「わかった。二人もそれでいい?」

「はい」

「わかりました」

「じゃあ、いくよ。せーの……」

「「梓先輩の!!」」

「梓の!」

「梓ちゃんの!」

「誕生日!!!!」

灯りの正体はロウソクの光だった。灯りが憂、純、菫、直を照らしている。四人は私を見て微笑んでいる。私は思わず立ち上がって、吸い寄せられるように灯りの元へと歩いた。

梓「こ、これって……」

憂「誕生日おめでとう、梓ちゃん」

純「おめでとう、梓」

菫「おめでとうございます」

直「おめでとうございます、梓先輩」

バースデーケーキ。その上に乗せられたチョコに、“誕生日おめでとう! 梓ちゃん!”と白い文字で書かれていた。
そっか。今回のためにみんなでわざわざこんな仕掛けを……。
少しだけ泣きそうになるけど、ここは笑わないと。

梓「みんな、ありがとう!」

純「さっ、ロウソク消しちゃいなよ! どんどん溶けちゃうよ」

梓「はいはい」

相変わらずの純に思わず苦笑いした。
大きく息を吸う。この喜びを味わうように。そして、息をはいた。

梓「ふぅー」

ロウソクの火を消すと、再び部室が暗くなった。数秒もすると、憂が電気を点けてくれた。
明るさに目を細める私に四人が拍手をしてくれた。

梓「ありがとう。最高の誕生日だよ」

菫「よかったー……」

直「失敗しないか緊張しました……」

憂「今回のこの企画、この二人が提案してくれたんだ!」

梓「えっ、そうなの?」

菫「は、はい」

直「そうです」

うれしさが湧き上がる。本当に優しい後輩に恵まれた。この二人の先輩になれたことを誇りに思う。
私はしみじみとそう思った。

憂「じゃ、ケーキ食べよっか!」

純「やったー!」

菫「あ、じゃあもう一度お茶淹れますね」

直「私も手伝うよ」

菫「ありがとう」

純「さあさあ、主役は座って座って!」

純にそう促されて私は席についた。ケーキを切り分ける憂と純。お茶を淹れる菫と直。
そんな様子を見ていると、なんだか、あたたかい気持ちになってきた。先輩たちもこんな軽音部が好きだったに違いない。私は本当に幸せだ。
すると、携帯のバイブレーションが鳴った。サブディスプレイを見ると、『唯先輩』の名前が。私は携帯を開いた。

唯先輩

件名:あずにゃん誕生日おめでとう!!!!
本文:誕生日おめでとうあずにゃん!
[添付画像]


画像が添付されている。ボタンを押すと、唯先輩、律先輩、澪先輩、ムギ先輩の写真が表示された。中央にケーキが置かれていて、全員が笑っている。そして、唯先輩が「Happy Birthday あずにゃん!」と書かれた用紙を手にしている。
私は目を閉じて、微笑んだ。

梓「菫、直ちょっとこっちに来て」

菫「?」

直「どうしました?」

梓「いいからいいから」

不思議そうな顔をする二人を私の所まで呼んだ。私は立ち上がってから、二人を思いきり抱きしめた。たくさんの愛情を込めて。

菫直「!!」

梓「ありがとう!」ギュッ

憂「あっ、ずるーい! 私も!」

純「私も入れてよ!」

梓「えへへ〜♪ あったかあったか」

私たちは五人で抱きしめ合った。あたかかくて、優しい絆。
みんな、最高の誕生日をありがとう。


終わり