HAPPY BIRTHDAY YUI & AZUSA



黒がいいかなと思いつつもやっぱり白じゃなくちゃ、とか。
ワンポイントの赤は外せないし、けれどシンプルなのも捨てがたい、とか。
悩んでいたらいつの間にか私の趣味で選んじゃいそうになるし。
決め手は外側からは見えないけれど、ひとたび脱げば露わになる豊満な果実。
普段ならこれだけ揃えば十分だね。
だけど今日はこれがないとダメ。
私が注文すると純白のそれに手をかけて、指をあてがう。
そのままぴたりと止まってしまったので、私はすかさず催促した。

唯「ひらがなで『あずにゃん』、でお願いします!」


遅くなり続けている帰宅時間をさらにすり減らしてやっと決まった。
ロウソクもおまけも付けてもらったしプレゼントその1はこれでよし。
その2は……どうしょーもないです。
家に帰るまでに出来ればとあーだこーだ考えたけど何も進展しないまま到着してしまった。
明日の朝までに何とか用意でき……ればいいなぁ。

唯「ただいまー」

梓「おかえりなさい」

唯「ケーキ買ってきたよ」

梓「わぁ、ありがとうございます」

唯「いえいえ~」

唯「どうする? ちょっと遅い時間だけど……明日にする?」

梓「まだ大丈夫ですよ。食べたいです」

唯「じゃ食べよう」

梓「私準備しますから先輩は着替えとかしてください」

唯「ありがと~」

着替え終わってリビングへ行くともう準備万端でした。

唯「おおっ、流石あずにゃん手際がいいねえ」

梓「……実は先輩が帰ってくる前から準備してました」

ちょっと照れ気味。
かわいい。

唯「えへへ、そんなあずにゃんに用意したケーキはこれです! はいっ!」

梓「おぉ……」

チョコがいいかなと思いつつも今回はやっぱりホワイト。
それにいちごは外せないよね。
ロウソクを等間隔に差して火をつけたら部屋の明かりを消して……。

唯「あずにゃん Happy Birthday!」

ホワイトチョコのプレートに書いてある言葉をあずにゃんに贈った。

梓「えと、ありがとうございます」

唯「ささ、一気にいっちゃってください」

梓「はい……ふぅー」

あずにゃんがひと吹きで火を消したあと、明かりを点けてケーキを切り分ける。

梓「あ、私がやります」

唯「いいからいいから、今日はあずにゃんの誕生日なんだから」

そう言うとあずにゃんは手持ち無沙汰に私の手つきを見ていた。

唯「おっと」

梓「ぁっ……!」

……というより、不安がってる?
まったく失礼な。
ケーキを取り分けるくらいちょっちょこちょいだって。

……。

唯「さ、食べよう」

梓「そうですね」

綺麗に切り分けられたあずにゃんのケーキにはもちろんチョコのプレート付き。
そこで私はケーキの箱からおまけを取り出した。

梓「なんですかそれ」

唯「ふふん、お店の人にもう一つプレートくれませんかって言ったらオマケしてもらえた!」

唯「ちゃんと文字まで書いてもらっちゃった」

梓「はは」

唯「ほら、HAPPY BIRTHDAY AZUSA って」

梓「人の誕生日なのに自分が食べるプレートまで用意する人なんて聞いたことないですよ」

倒壊してしまった方のケーキにプレートを載せて自慢したら、あずにゃんは眉を下げて小さく笑った。

梓「いただきます」

唯「どうぞどうぞ」

シンプルなショートケーキと見せかけて中身には秘密があるのだよ。

梓「んむ……あっ、バナナ入ってるんですね」

唯「豊満な果実だよー。これだ! って思ったね」

梓「おいしいです」

唯「これにしてよかった~」

梓「先輩今忙しいのにわざわざ買ってきてもらっちゃって……なんだかすいません」

唯「全然、大丈夫……だ……よ……あ!」

唯「そうだ! もう一つのプレゼントなんだけど……」

梓「うたを作ってくれるって言ってたあれですか?」

唯「そうそう。明日には何とか……」

梓「仕事でも作らなきゃいけないのにそんな無理しなくていいですよ。今こうしてもらってるだけで十分です」

梓「それに先輩最近スランプだーって言ってたじゃないですか」

唯「いやぁスランプっていうか、こう、方向性っていうの?」

梓「方向性……今までとは違う感じの曲や詩を作るんですか?」

唯「そう、そんな感じ。何か新しいことしなきゃダメかなーなんて」

梓「先輩のうたは明るくて元気っていうイメージだから、新しい方向性っていうと……」

梓「悲しい、切ない……とか?」

唯「そうそうそんな感じ! ここいらで新しい私を見せちゃいましょうかねえ」

梓「うーん……想像できないですね」

唯「ふふん、びっくりさせてあげよう」

梓「はいはい。ところで何か飲みます?」

唯「え? あーそうだねー……”炭酸ぶどうジュース”とかケーキに合いそうじゃない?」

梓「あー、この前開けたのが残ってましたね。持ってきます」

唯「ありがとー」

あずにゃんが2脚のグラスと”炭酸ぶどうジュース”とついでにおつまみまで持ってきてくれた。
お互いのグラスに注ぎ合って、改めておめでとうを伝えて乾杯した。

唯「ぷはぁ。おいしー」

梓「食べ過ぎないようにしてくださいね。いくら太らないからってこの時間はまずいですよ」

唯「食べ過ぎたら明日の朝食抜けばいいんじゃないかな?」

梓「だめに決まってるでしょ」

唯「冗談だよ~。あ! 明日の朝はあれが食べたいな!」

梓「あれ?」

唯「あずにゃんハムエッグ!」

梓「名前ついてたんですか。ていうかただのハムエッグですよ」

唯「いやいや、あずにゃんが作るハムエッグは世界一おいしいよ!」

梓「大げさですね。そりゃあ少し工夫してますけど」

唯「私あれ大好きなんだよね~」

梓「なら明日の朝はハムエッグにします」

唯「やったー!」

梓「なので今は食べ過ぎないようにしてくださいね」

唯「はーい」


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唯「……」

珍しく寝覚めがいい。
まだ隣であずにゃんが寝ているってことは早起きしたみたい。
目は覚めたんだけど気怠いような頭が重いような。
これは……ちょーっと飲み過ぎちゃったかなー……?
すごく飲み過ぎていた場合、この後どんどん気持ち悪くなってトイレに行く羽目になるんだよね。
そうならないように祈ろう……どうか、ここはひとつ見逃してくだせえ。
この状態で動きたくないし、やることもないのであずにゃんの寝顔をぼーっと見ていると何かが頭にひっかかった。

唯「……ぁ」

しまった。
あずにゃんへのプレゼント完成してない。
昨日は飲んでフラフラになって寝ちゃったから……ああどうしよ。
曲は一応ストックあるけど……使い回しになっちゃうな……ここはアナザーバージョンということでひとつ。
でも新しい私を見せるって言っちゃったし曲も新しく……そんな時間ない……うーん。
いやいや問題は詩の方だよ。こっちも作ったのはあるけどいまいち代わり映えしないっていうか、本当にこれでいいのかなって思っちゃう。
あずにゃんの言うように新しい方向性っていうのを模索してみましょうかね。

例えば……私のそばで寝ているあずにゃん。
無防備な顔立ちはいつにもまして幼く見える。
寝顔は昔と変わらないなあ。かわいい。
あと怒られないからいいね。
おとなしそうに見えて口うるさいところもあったり、いつも細かいところを色々言われたり……あずにゃん厳しいっす。
そんなあずにゃんがいてくれて助かってるんだけどね。
……じゃあ、そんなあずにゃんがもし私の前から――

あずにゃんてこんなに静かに眠るんだ。
知らなかった。
もう起きる時間だしちょっとイタズラしちゃえ。
頬をつついてみた。
おきない。
鼻をつまんでみた。
おきない。
瞼を無理やり開いてみた。
おきない。
あずにゃんが寝坊なんてめずらしいな。
一緒に暮らしてから一度もなかったのに。
一度も……。
死んだように眠るあずにゃんを見ていると、さっきまでとは全く別の感情が湧いてきた。

あずにゃん……?

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「ご家族の方ですか」という問いに一瞬言葉が詰まるも「はい」と返した。
けれど次の問いにどう答えていいのかわからず、閉口した後「あ、間違えました……家族じゃないです」という間抜けな答えを返してしまった。

おかげで私はあずにゃんの顔も見られず、あずにゃんがどうなったのかもわからずただ病院のソファに座っていることしかできなかった。
暫くしてから駆けつけたあずにゃんの両親が医者に呼ばれて席を外してまた戻ってきて、そこであずにゃんの両親からようやく状態を教えてもらう。
その日は面会謝絶であずにゃんには会えなかった。



一週間後、あずにゃんのお母さんと一緒に面会へ行った。
この日も家族以外は面会謝絶とのことだったけど、あずにゃんのお母さんの計らいで私も面会できることに。

あずにゃんのお母さんの後に続いて病室に入る。
遠慮がちにあずにゃんに声をかけるとあずにゃんは私の名前を呼んで笑顔になった。
ベッドで横になってるけど思ったより全然元気そう。
お見舞いの花を飾ってからたっぷり話をして、日が暮れたあたりであずにゃんのお母さんと一緒に病室を後にした。

廊下に出て病室から離れたところであずにゃんのお母さんに呼び止められた。
あずにゃんの病気に関する大事なことを教えられた。
私はその日から一週間何も手につかなかった。


次の面会。
あずにゃんは身体を起こしていて元気そうなんだけど、どこか怒っているようだった。
どうやら前回のお見舞いから間を空け過ぎたみたい。
頭をかいて謝った時にお互いの目が合う。
そしたらあずにゃんはハッとして顔を俯けてしまった。
さっきまでの怒ってますオーラも消えている。
これでお互いが大事なことを知っている、ということがお互いにばれてしまった。
私がひどい顔してたからだよね。
目の腫れ……治らなかったんだもん。

あずにゃんの顔はちょっとだけやつれていた。



何度目かの面会。
あずにゃんは入院生活の退屈さを嘆いた。
「ベッドの下に隠れて私がずっとそばにいてあげるよ!」と言ったらあずにゃんは少し考えてから「やめてください」って言った。
なるほど相当寂しいらしい。
一方私はあずにゃんハムエッグが食べられないことを嘆いた。
けれどあずにゃんは作ってあげるとは一言も言ってくれなかった。


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花瓶の花を新調してくるとかすれた声でお礼を言われた。
最近はずっと横になったままだけど、私が来る時は眠らずに起きていることが多い。
かえって無理をさせている気がする。
それをあずにゃんに言った時は「私が好きでこうしているんです」って言ってたけどどうしても申し訳なくなる。

そんなことを思っていると不意にあずにゃんから「あずにゃんハムエッグ、なんですけど」と言われた。
あずにゃんハムエッグがどうしたの? と返すと「作り方を教えてあげます」って。
私の返事を待たずに淡々と作り方を述べていくあずにゃん。
私はそれを遮った。
見越したように「メモした紙もあげますから忘れても大丈夫です」とか言う。
そうじゃない、って言い返したら叫びに近い声色が出てしまった。

何度も反論したけどうまいこと丸め込まれてしまって、おとなしく作り方を聞く羽目に。
「最後に、一番重要な部分があるんですけど」と言って焼き時間を教えてくれた。
先輩は焼く時間がアバウト過ぎるんですとか色々小言をぶつけられてへこんでいると、
あずにゃんはひと呼吸置いて優しい声で言った。

「だから私が手伝ってあげます」


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私は寝起きがよくない。
秋の朝は余計に布団から出たくなくなる。
だけどそうしているとお腹が空いてきて、仕方なく起きることに。

パジャマの上からカーディガンを羽織ってキッチンへ。
まずはトースト。
それから冷蔵庫の中を確認する。
ハム、たまご、牛乳、りんご。
……よし。朝はやっぱりこれ。

フライパンを熱しながら調味料を取り出していく。
もうメモがなくても揃えられるようになった。
油をひいて、ハムを軽く炙ったら卵を割り入れる。
それから――

「あずにゃん、おはよ。今日もよろしくね」

日課の挨拶をして灰色の砂時計を返すと、今日もゆっくりと時を刻み始めた。



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唯「……END。ぐすっ……ふぇぇ」

梓「ん……ふぁぁ……え?」

唯「ぐす……うっ」

梓「……先輩? どうして泣いてるんですか?」

唯「あっ……あずにゃんが生き返った……」

梓「寝ぼけてるんですか? おはようございます」

唯「あずにゃん、おはよ」

梓「それで、どうしたんですか?」

唯「うん、あのね、あずにゃんが死んじゃって……」

梓「ええぇぇ……」

唯「昨日新しい方向性の話したでしょ? それでもしあずにゃんが死んだらって考えたの」

唯「――――っていう感じで……」

梓「どんだけ感受性豊かなんですか」

唯「だってぇ……」

あずにゃんは軽くため息をついてから、私の頭を撫でてくれた。
これすごく気持ちいい。

唯「ん……えへへ」

梓「まったくもう。…………ちなみに私はどういう風に死んだんですか」

唯「えっと、病気なんだけど、こう、ふわっと死んでいく感じの……」

梓「ふわっと殺さないでください」

唯「でもこれであずにゃんへのプレゼントがかんせ……あ、この詩に合う曲がないや」

梓「ていうか誕生日に本人が死ぬ歌詞をプレゼントってどうなんですか」

唯「あ……しまった。だめだぁぁあ間に合わなかったごめんねあずにゃぁぁん」

梓「先輩」

唯「……ほい」

梓「そもそも無理に新しい方向に行かなくてもいいんじゃないですか?」

梓「私は今までの先輩の曲好きですよ。明るくて元気で、先輩もそういう曲が好きですよね」

唯「うん」

梓「だったら今はそれでいいじゃないですか。って私が軽々しく言えることじゃないかもしれませんけど」

唯「でも、新しいことしないと飽きるって……」

梓「……もしかして何か見聞きしました?」

唯「だって気になるんだもん……」

梓「――それで『同じような曲ばっかり』みたいな批判を見た、と」

唯「まぁ……はい」

梓「そんなの言わせておけばいいんです。今の先輩が好きな人は沢山いますし、先輩が新しいことをやりたくなったらやればいいんです。ついてくる人はいます」

唯「そんな簡単に言われてもー。私だって他の引き出し見せたいっていうか……」

梓「もっと自信を持ってくださいって意味です」

梓「同じことやってたら引き出しがない。違うことやったらそんなの求めてない。個人の意見なんて山のようにありますよ」

唯「……そうだよね」

梓「はい。だったら先輩のやりたいようにやった方がいいです」

唯「そっか……うん! それに今の私のファンも大事にしないとね~♪」

そう言ってあずにゃんの頭を撫でてあげると少し頬を赤くしてうつむいた。
これ気持ちいいでしょー?

唯「そっちはOKとしても、やっぱりあずにゃんには歌をプレゼントしたいよ」

梓「さっきはああ言いましたけど先輩が今作った詩、嫌いじゃないです」

唯「でもあずにゃんが死んじゃってるよ?」

梓「それはそうですけど、その、そこまで想われてるっていうのは嬉しいです……恥ずかしいけど。えっと、いっそ病気じゃなくて寿命ってことにすればいいんじゃないですかね」

唯「そっかーそれいいかも! しわくちゃのあずにゃんか~」

梓「そこは考えなくていいです! ……それまでも、その後もずっと一緒っていうの、すごくいいと思いました。先輩はずっと私を使ってくれるんでしょう?」

唯「そりゃあね。あずにゃんハムエッグは一生食べ続けたいしね」

梓「まあ実際の作り方は違うので今度改めて教えます。……と思ったけどやっぱりやめます」

唯「えー!?」

梓「作り方はまだ秘密です。なので私しか作れませんね」

唯「あずにゃんのいけずー」

まあ……あずにゃんが作ってくれるならいい、のかな?

梓「じゃあ着替えたら朝ごはん作ります。昨日飲み過ぎたせいか寝過ぎちゃいました」

唯「わーい!」

梓「先輩は洗濯お願いしますね」

唯「わーい……」

梓「あ、そうだ。今日の予定覚えてますよね?」

唯「もちろん! 今日の夜はみんなと焼肉!」

梓「そういうことは絶対に覚えてますよね」

唯「だって焼肉だよ~焼肉! おいしいよね~焼肉! 食べまくるぞ~焼肉大好き~♪」

梓「……」

唯「も、もちろんあずにゃんハムエッグの次に大好き! あずにゃんハムエッグなしじゃ生きていけないです!」

梓「……そうですか」

唯「……ほっ」

梓「先輩も早く着替えてくださいよ」

唯「おおぅ、あずにゃんいつの間に」

梓「朝ごはんできたら呼びますね」

唯「うん! でもその前に」

梓「はい?」

唯「あずにゃん、誕生日おめでとう。これからもよろしくね」

梓「ありがとうございます。こちらこそよろしくです」

唯「うん!」

……でも、もし私が先に離れてしまったらどうしよう。
あずにゃんには砂時計必要ないだろうしなぁ……んー……うーん……ほ、骨ギターとか??

梓「唯先輩」

唯「うえぁ!?」

いつの間にか私の目の前に立っていたあずにゃんにすごくびっくりした。

梓「私も、その時は砂時計がいいです」

唯「え……?」

梓「ずっと私のそばに、置いておきたいです……独りは辛そうなので」

唯「あずにゃん……」

梓「ぅ……せ、先輩の砂時計はあまりあてになりそうにないので、機能面では期待してません」

唯「ひどくない!?」

梓「……だめですか?」

唯「もちろんいいよ。永遠にあずにゃんの刻をきざんであげる♪」

そして心を癒してあげる。
だからあずにゃんも、その時はよろしくね。



END