唯「澪ちゃん、シュールストレミング知らないの!?」

澪「うん、知らない。聞いた事も無い」

律「メイルシュトローム?」

梓「それはフォルネウスです」

律「シュトロハイム?」

梓「それはナチ公です。ていうか話が進まないんで律先輩は黙っててください」

律「はい……」シュン

澪「それでシュールストレミングって何?」

紬「スウェーデンの食べ物で、ニシンの塩漬けの缶詰めよ。すごく臭いの」

澪「ええっ、臭い……?」

紬「そう。缶詰めの中で発酵させ続けるから、すごい悪臭を発するのよ」

律「あっ、思い出した。前にテレビでそれやってたぞ。缶詰め開けさせられた芸人が大変な
  事になってた」

澪「そ、そんなに臭いのか……」

梓「そのシュールストレミングがどうかしたんですか? 唯先輩」

唯「うん。お父さんとお母さんが北欧旅行から昨日帰ってきてね。それでスウェーデンの
  おみやげって、シュールストレミングを買ってきてくれたの」

律「なんでそんなもんをおみやげにしようと思ったんだよ。お前の両親は」

唯「でね、みんなと食べようと思って持ってきたの」ゴソゴソ サッ

澪「うわああああああああ!」ガタッ

律「なんで持ってくるんだよ!」ガタッ

唯「だってー、家じゃ怖くて開けられないんだもん」

梓「うわぁ…… 缶がパンッパンに膨らんでるじゃないですか……」

紬「発酵が進みすぎてガスでいっぱいになってるのね。これはちょっと、さすがに……」

唯「はい、りっちゃん開けて」

律「やだよ! お前、私を何だと思ってるんだ!」

唯「じゃあ、澪ちゃん」

澪「絶っっっ対やだ!」

唯「じゃあ、あずにゃん」

梓「退部しますよ」

唯「じゃあ、ムギちゃん」

紬「ごめんね、唯ちゃん。これだけは……」

唯「ええ~、それじゃ食べられないじゃん」

律「食べなくていいよ! なんでここで食べようと頑張るんだよ!」

梓「ティータイムにニシンの塩漬けって、エリザベス女王がコンコルドで緊急来日して
  殴りに来るレベルですよ」

唯「ちぇー、せっかく持ってきたのにー」ブーブー

コンコン ガラララ

和「ちょっと失礼するわね」

唯「あ、和ちゃん。いらっしゃーい」

和「律、この前の部長会議の件だけど―― あら? それ、シュールストレミングじゃない」

律「知ってるのかよ」

梓「さすが、和先輩」

唯「和ちゃーん、聞いてよー! せっかくティータイムの時に食べようと持ってきたのに、
  みんなひどいんだよー!」

律「ひどくないから! 百人中百人が私達の方が正しいって言うから!」

和「大抵は臭いから敬遠しがちになるわね。でも最近では、臭みを消して美味しく食べる調理
  方法もあるのよ。臭みさえ何とかすれば、旨味があってすごく味わい深いものなの」

唯「ええっ!? そうなの!?」

澪「へえ。和がそう言うなら本当に美味しいのかも……」

律「テレビじゃふざけて面白がってたもんなー」

唯「和ちゃん、美味しい食べ方教えて! それでみんなで食べよう!」

紬「私もあの臭いは苦手だけど、美味しくて臭くないのなら食べてみたいな」

梓「絶対に臭みが無いんだったら、私も興味がありますね。どんな味なのか」

唯「よーし、決まりー! さっそく食べようよ」

和「ちょっと待って。臭みを消す調理と言っても、缶詰めを開ける時は勿論臭いし、発酵した
  汁も飛び散るわよ」

唯「あ、そっか。うーん、どうしよう……」

紬「そうだわ。部室じゃなくて外に出て開けたらどうかしら。屋外なら臭いも散るかも」

和「誰が開けるの?」

唯澪律紬梓「……」

唯「じゃ、じゃんけん…… 平等に、じゃんけん……」プルプル

律「そうだな…… それしかないな……」ワナワナ

紬「美味を口にする為には犠牲は付き物なのね……」ドキドキ

澪「いや、私は別にそこまでして食べたくは……」

梓(もう味とかそういうのより、誰が腐汁まみれのひどい目に遭うのかが楽しみだなぁ。
  自分になったら嫌だけど。出来れば律先輩か、澪先輩キボンヌ)

唯「い、いくよ? じゃーんけーん」

唯澪律紬梓「ぽん!」

唯 チョキ

澪 チョキ

律 パー

紬 パー

梓 チョキ

律「うわああああああああ!」

紬「ああっ……」ヘナヘナッ

唯「セーフ! セーフ!」

澪「良かったぁあああ!」

梓「ふぅ、助かったです」

律「うぅ…… じゃ、いくぞ。ムギ……」

紬「ええ……」

律紬「じゃーんけーん、ぽん!」

律 チョキ

紬 グー

紬「やったぁ!」

律「おぎゃあああああああああああああああ!!」

梓「よし!」グッ

律「おい、今『よし!』って言わなかったか。『よし!』って」

梓「気のせいです」

唯「じゃあ、頼んだよ。りっちゃん隊員」ビシッ

律「そんなぁ、マジかよ……」

紬「私、先に出て色々準備してくるわね」タタッ

和「ねえ、律。着替えた方がいいわよ? 臭いが付いたら簡単には落ちないから」

澪「そうだな。制服はまずいぞ」

律「着替えろって言われてもなぁ。ジャージだって体育で使うからダメだし……」

梓「前に唯先輩とムギ先輩が着ていたスクール水着はどうですか。あれなら汚れても大丈夫ですし、
  動きやすいですよ」ヒクッ

律「半笑いなのが気に入らないけど、それが一番か……」

唯「それじゃ、移動移動!」



~講堂の裏~

澪「よし、ここなら人の目にも触れないだろ」

唯「りっちゃん頑張って」

紬「りっちゃん、これ。水泳帽とゴーグル着けて。髪や目を守らなきゃ」サッ

律「なんで私がこんな目に……」ゴソゴソ スチャッ

梓「ぷっ」

律「梓。今、笑ったろ」

梓「別に」

律「よ、よし、開けるか……!」

澪「ちょっと離れよう。ちょっと。8mくらい」

和「律、缶を少し傾けて缶切りを刺した方がいいわよ。汁が片寄って少しは飛び散らなくなるから」

律「え? こ、こうか?」グリッ

和「ちょっ! 刺すのは傾けた下じゃなくて上よ!」

プッシャアアアアアアアアアア

律「うわあああ! くっさ! おええっ! ぅおえええ!!」

唯「くさーい!」

紬「これは…… 強烈ね……」

澪「も、もう少し離れようよ。うえっ……」

梓「wwwwwwwwww」

和「穴が小さいと汁が吹き出し続けるわよ! くさっ! 一気に開けてしまいなさい!」

律「そ、そんな事言われても! おえっ! ぅうおえええええ!!」ギコギコ

梓「女子高生ともあろうものがダウンタウンの浜ちゃん並みにえずいてますよ」

唯「りっちゃん頑張れー!」

紬「頑張って! りっちゃん!」

澪「あ…… 私、ちょっと気分悪くなってきた……」ウップ

律「ぅおええっ! ああぁ…… ゔぇあああっ!!」ギコギコギコギコ

梓「もうほぼウルトラマンじゃないですか」

律「うぶぶぅううう…… あ、開いたぁ…… ぅおえ……」

和「よくやったわ、律。さあ、中身を回収しなきゃ」

唯「じゃあ、じゃんけんで二番目に負けたムギちゃんお願い」

紬「えっ、やだ……」ビクッ

梓「今、素で『やだ』って言いましたね」

唯「ムギちゃん!」

紬「わ、わかったわ……」

和「よく汁を切って、このビニール袋に入れて。そうしたらすぐにこの料理酒をたっぷり注いで、
  袋の口をしっかり縛るのよ。出来る?」

紬「う、うん。いってきます」

律「ああ…… おえっ……」

紬「りっちゃん、大丈夫? 頑張ったね。うぷっ……」ヒョイヒョイヒョイ ドボドボ ギュッ

和「うん、これで大きな山は越えたわね。律はシャワー室を借りてよく身体を洗ってきて。
  他の皆は家庭科室に移動しましょう」

唯「よーし、家庭科室にレッツゴー!」

律「はぁ、ひどい目に遭った……」トボトボ



キャー、リッチャンクサーイ!

タイナカサン、ソノカッコウドウシタノ!? クサッ!

コラータイナカー! オマエナニヤッテンダー! クサッ!



~家庭科室~

唯「さてと、いよいよ調理だね」

律「もうお嫁に行けない……」シクシク

紬「元気出して、りっちゃん。もうすぐ美味しいシュールストレミングが食べられるわよ」

澪「でも、誰が調理するんだ……?」

律「私は絶対嫌だからな!」

紬「わ、私も役目は果たしたよね?」

唯澪梓「……」

唯「はい、じゃーんけーん!」

唯澪梓「ぽん!」

唯 チョキ

澪 グー

梓 グー

梓「っしゃあ!」グッ

澪「神様ありがとう!」

唯「いやああああああああ!」

和「大丈夫よ。私が手順を指示するから」

唯「そういう問題じゃなくてぇ~……」グスン

梓「唯先輩。この洗濯バサミは私の愛情です」スッ

唯「うぅ、ありがとう…… あずにゃんは優しいねえ」ナデナデ

梓「さあ、これで鼻を挟んで」ギュムッ

和「唯、準備はいい?」

唯「うむ! じゅむびおっけーだよ!」クルッ

澪「ぷっ!」

律「ぶふっ!」

紬「フフッ……」プルプル

梓「wwwwwwww」

和「まずはビニール袋を開けて、新しい料理酒でニシンをよく洗うの」

唯「はーい。おおっ! ぜむぜむくさくだいよ! さすがあずだむ!」ジャブジャブ

律「ぶはははははははは! そりゃその鼻ならな!」

梓「ああ、唯先輩! 今、すごく輝いてますよ! 最高にアホの子です!」

和「次はフライパンにゴマ油をたっぷりひいて」

唯「はーい」チリチリ

和「そこでしっかり潰したショウガと細かく刻んだセロリを炒めて」

唯「ほいほい」ジュワァアアア ジャッジャッ

律「うお、すごくいい匂い」

紬「香り高いわね」

澪「これは期待出来るかも……」

梓「私は唯先輩の意外な手際の良さに驚いてます」

和「炒め物マジックでそう見えるだけよ。下拵えは私がしたんだし」

梓「はい、鬼畜眼鏡発言いただきましたー」

和「お酒で洗ったニシンを入れて、よく炒めて。塩漬けだから味付けはしなくていいわよ」

唯「はいはーい」ジャッジャッジャッ

澪「あれ? 臭って来なくなったぞ!?」

律「ホントだ! すげー!」

梓「いや、それどころかすごく食欲をそそる匂いですよ」クンクン

紬「本当にシュールストレミングが美味しく食べられるのね。信じられないわ」

和「よく炒めたら、しっかり汁気を切って、このパンに挟んでサンドイッチにするの」

唯「いよいよかむせいだでー」セッセセッセ

梓「美味しそうなフィッフュサンドですよ、これ」

紬「まあ、梓ちゃんたらそんなに顔を近づけて。いやしんぼさん」

梓「いやー、こんなに美味しそうな―― ぐっ!?」ズザザッ

律「どうした梓!」

澪「顔が真っ青だぞ!」

梓「そ、そのサンドイッチ…… ちょっと顔を近づけて匂いを嗅いでみてください……」ガクガク

澪「ええっ? こんなにいい匂いなのに―― うわ! くさっ!」

律「くっさ! さっきの思い出した! ぅおえ!」

紬「全然臭みが消えてない…… 文字通り、臭いものに蓋をしただけだったのね」

梓「例えるなら、梅雨時の放置生ゴミサンドイッチですね」

唯「えー? そーだど? わたし、ぜむぜむくさくだいよー」

律「鼻に洗濯バサミ挟んでるからな」

梓「でも、面白いんでそのままでいてください」

和「おかしいわね。この方法で臭みが消えるはずなんだけど」

律「いや、現に臭いし……」

澪「これはちょっと食べられないだろ……」

梓「どうしましょうか、このバイオケミカルウェポン」

唯「どどかちゃむでぃたべてぼらおうよ」

和「えっ」

律「まあ、そうなるよな」

澪「和の言う通りに作ってこの結果だから、責任は取ってもらわないとな」

和「そうなんだ。じゃあ私、生徒会行くね」

紬「和ちゃん?」ガシッ

梓「自分で食べるのと、ムギ先輩の怪力で口をこじ開けられて無理矢理詰め込まれるのと、
  どちらがいいですか?」

和「わ、わかったわよ。食べればいいんでしょ」

紬「はいはい、席に着いてー」ニコニコ

律「お待たせしましたー。シュールストレミングのサンドイッチでございますー」ニヤニヤ

和「い、いただきます……」ヒョイ

和「はむっ……」パクッ モグモグ

和「!?」ガタッ

唯「どうしたど!? どどかちゃむ! きゅうでぃたちあがってどうしたど!?」ダキッ

和「んー! んー!」ジタバタ

梓「和先輩! 私、前から和先輩の事が好きだったんです! 抱いてください!」ガシッ

和「んんー!」ポロポロ

律「ぶはははははははは!」

澪「唯、梓、そろそろ離してあげろよ。和、泣いてるぞ」

唯「はーい」パッ

梓「残念」パッ

和「んんっ!」ダダッ

ガラガラッ ダダダダダダダダダダダダダダッ バタン オロロロロロロロ

澪「凄まじい破壊力だな……」

紬「和ちゃんがあんなになっちゃうなんて……」

律「あのすまし顔の和が便所で泣きながらリアルなえずき声上げてゲロ吐いてるかと思うと
  ゾクゾクするな」

梓「怒られますよ。マジで」


~5分経過~


オロロロロロロロ


~15分経過~


和「うぅ……」フラフラ

唯「おかえでぃー、どどかちゃむ」

澪「大丈夫か? 和」

和「う、うん…… うぷっ……」

律「その生徒会長ヅラを涙でグシャグシャにして『ごめんなさい』って謝ったら、残りを食べるのは
  許してやる」

和「ご、ごめ゙ん゙な゙ざい゙ぃ……」グスッ エグッ

律「うおぅ」ゾクゾク

梓「新境地を開拓してる場合じゃないですよ、律先輩。この殺人魚雷を何とかしないと」

律「そうだなぁ…… 梓、何とかしてくれ」

梓「はあ!? 嫌ですよ! なんで私なんですか!」

律「中野。お前さっき、私が腐れ汁まみれになってる時、大爆笑してたよな。この野郎」

梓「えっ……」

唯「先輩の命令はちゃんと聞かないとダメなんだよ。中野さん」

梓「このタイミングで洗濯バサミ外すのは反則じゃ……」

澪「まあ、そういう訳だから頼んだぞ。中野」

梓「そ、そんなぁ…… はっ! ムギ先輩、助けてください!」

紬「中野さん、『奴隷の一号生、鬼の二号生、閻魔の三号生』っていう言葉を知ってる?」ニコニコ

梓「ダメだった……」ガックリ

律「よーし、帰ろうぜー!」

澪「使った器具はちゃんと洗っとけよー」

唯「和ちゃん、帰りにクレープおごるからもう泣かないで」

和「うん……」

紬「スウェーデン政府に圧力を掛けとかなきゃ……」ブツブツ

梓「……」


~40分後~


梓「はぁ…… やっと片付け終わったよ……」トボトボ

梓「これ、どうしよう。食べるのは嫌だけど、捨てるのも気が引けるし。お皿に盛ってあるから
  持って帰るのも難しいし……」

純「おーい、梓ー」

梓「あっ、純」

純「梓も今、部活終わったとこ? 一緒に帰らない?」

梓「うん、いいけど……」

純「おおっ、美味しそうなサンドイッチ! ひとついただきっ!」ヒョイ パクッ

梓「あっ」

純「んん? このサンドイッt

オロロロロロロロ



おしまい