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『はいカットー! お疲れさん!』


梓「・・・ふぅ」


ああ、疲れた。
ナレーション?でいいのかな、心情を一人で語るのがこんなに疲れるなんて。

純「梓、お疲れさんさん」

憂「お疲れ様ー、梓ちゃん」

梓「うん、二人もね。はぁ、もう二度とやりたくない・・・」

純「なにさ、この程度で」

梓「純は何回か経験あるんだっけ? こういうの」

純「まぁね。でも今回のが一番スタッフも豪華だったから緊張したよ」

梓「どっちなのよ・・・」

憂「やっぱり出資者の存在って大きいね・・・」

まさか自分がこうして映画(と言えるのかはわからないけど)に出ることになるなんて微塵も思ってなかった私だけど、結局のところは「頼まれたから」に過ぎない。
誰に、とは言わないけど。言わずともわかってもらえると思うけど。
とはいえその人も細かいところまで手を回したわけではなさそうで、現地の監督に腕にかかっている所は大きかったらしい。純の言だけど。

純「というわけで私監督に挨拶してくるよー」

梓「えっ、あ、うん・・・」

憂「行っちゃった」

梓「すごい行動力だよね。あ、でも普通撮影が終わったら真っ先に行くべきものなのかな?」

憂「よくわからないけど、そうかもしれないね。純ちゃんの後に私達も行こうか」

梓「だね」

純が走って行った方向を見るに、私達が話している間に監督は控え室のほうに引っ込んでいるらしい。
監督も事情は知っているから私達の意思優先で自由にやらせてくれているのだろう。ありがたい話だ。

梓「そういえば憂も演技上手かったね、こういうのやったことあるの?」

憂「ううん、無いよ」

梓「そっかー。またやりたいとか思う?」

憂「・・・次があるなら、もうちょっと良い役がいいなぁ」

梓「う。ま、まあ肝心な所はぼかされたままだったから悪い役だったとも言い切れないって!」

出資者様が脚本を書いてくれればきっとこうはならなかったんだろうけど、いろいろ事情があるんだろう。

憂「そういえば、その『肝心な所』、梓ちゃんはどう思う?」

梓「ん? んー・・・私は役に入り込むために脚本のとおりにしか考えてなかったけど・・・」

でも、せっかく憂がこうして話を振ってきてくれたんだ、少し考えてみよう。
とはいえ、状況からしてあれは憂・・・あ、作中の憂ね、の仕業なのは揺るぎないと思う。さすがに。
だから、問題は。

憂「どうして、作中の私はそんなことをしたのか」

梓「うーん・・・」

わざわざ作中の私と純を家に呼び、部屋で待たせた。狙ったかのようなタイミングで音も鳴った。
どうやったのかはわからないけど、結局のところあれを見せ付ける意図があったのは多分確実だと思う。
なら、なんのために?

梓「・・・作中の憂が人殺しを躊躇わないような腹黒さを抱えてるとしたら・・・あ、もちろん本物の憂はそんなんじゃないってわかってるよ?」

憂「梓ちゃん、大丈夫だから。わかってるから」

梓「あ、はい」

憂「それで?」

梓「・・・見せ付けることで、私と純を脅そうとした?」

憂「・・・それは、作中の私に具体的にどういう思いがあって?」

梓「えっ、と・・・『仲良くしないとお前らもこうなるぞ』みたいな?」

憂「なるほど・・・」

梓「・・・憂は、どう思ったの? なるほどってことは私とは違うの?」

憂「私は・・・『もっと私を見て』とかかな、って思った」

梓「あ、確かに。こんな脅し方されればクローンの唯先輩よりも憂の動向に気を払う必要が出てくるもんね、結果的に」

憂「・・・あ、そっか、クローンなんだよね」

梓「え?」

憂「もしかしたら、単に『クローンなんて大嫌い』って言いたかったのかも」

梓「・・・すべての原因がクローンなのは確かだもんね。八つ当たり気味になるけど、ありえなくはないかも」

となると作中の私と純にあの後でクローンの『処分』を命じてきたりとかするのかな。
クローンの唯先輩の・・・

唯「あっずにゃーん! ういー! 何の話してるのー?」

梓「あ、唯先輩。お疲れ様でした」

唯「私最後のほう全然出番なかったけどね!」

憂「でもお姉ちゃんも演技上手かったよ!」

唯「ありがとう憂! 憂に褒められるってことは私才能あるのかな?」

梓「いや・・・うーん、どうなんでしょうね・・・」

上手くなかったと言えば嘘になるけど、憂ならだいたい褒めそうな気がするし。
余談だけど私と純の死体が人形だったのに対し、唯先輩のクローンが二人いるシーンは最新技術であーだこーだするらしい。ちょっとズルい。
・・・って、今思えば唯先輩の出番そこだけじゃん・・・

唯「で、何の話してたの?」

梓「えっと・・・」

憂「・・・怖い話だったね、って」

梓「そ、そうそう、そうです」

唯「怖い話の中でも憂とあずにゃんの可愛さは際立ってたよ!」

梓「は、はぁ」

憂「ありがとう、お姉ちゃん!」

唯「もちろん純ちゃんもね! あれ、そういえば純ちゃんは?」

梓「あ、監督に挨拶に行ってます。私達もそろそろ行こうと思うんですけど、唯先輩も一緒に行きます?」

唯「行く行くー」

唯先輩が来たことで憂も話を逸らしたし、こうしても問題はないはず。
純が戻ってこないのは気になるけど、向こうで待ってるのかもしれないし。
憂との推察も続けていればまだまだ説は出てきそうではあるけど、それはいつでもできる。
というわけで話を切り上げて3人で純が走っていった道を追うと、監督はすぐに見つかった。

唯「あ、監督ー! お疲れ様です!」

監督は結構名の売れてる人らしいんだけど、相変わらずそんなのお構い無しに誰に対しても物怖じしない唯先輩に、きっと私は苦笑し、憂は微笑んでいたんだろうな、この時。

監督「ああ、皆。お疲れ様。そしてありがとう、こうして滞りなく撮影が終わったのも君たちのおかげ・・・ん?」

ただ、その場に純の姿はなかった。

梓「あの、監督、純・・・じゃない、鈴木さん、来てませんでしたか?」

監督「うん、私も今それをキミたちに尋ねようとしたんだけど・・・中野くん、会わなかったのかい?」

梓「え? いえ、会ってませんけど・・・どういうことですか?」

監督「おかしいな。キミ、さっきそこを通っただろう?」

そう言って監督が指し示したのは、私達の来た方向とは逆のほう。
もちろん、私には全く身に覚えがない。監督の問いに静かに首を振った。

監督「・・・鈴木くんとはさっきまで話してたんだがね、彼女が中野くん、キミを見つけたと言ってそれを追っていったんだ。私も遅れて見たが、あの後姿はキミだったよ」

憂「・・・誰かと見間違えた可能性はないんですか?」

唯「私、一応ここにいる人みんなと会ったけど、あずにゃんにそっくりな人なんていなかったよ? 監督も把握してると思うけど」

梓「・・・監督、鈴木さんとグルで私達を驚かそうとしてるんじゃないですよね?」

監督「まさか。仮に鈴木くんの提案があったとしても、キミ達の機嫌を僅かでも損ねるようなことをしたら私のクビが飛ぶよ」

梓「・・・すいません」

唯「でもそれじゃあ、純ちゃんは誰を追っていったんだろう・・・?」

おしまい



最終更新:2014年01月14日 06:25