………

夜の桜高。
いつもは無断侵入などできないのだが、何故か今日はすんなりと忍び込むことができた。
執行者や断罪者の騒ぎで警備が疎かになっているのか、プログラムが改ざんされているのか、わからない。

一同は亀の置物の前に集合していた。
各自、校内から集めた掃除用具などの武器、防具を持っており、戦闘準備は万端だ。

梓「この亀の置物、そんなに重要なものだったんですね」

律「公園のゲートといいこれといい、なーんでこんな重要なものが桜が丘に集まってるんだか…って思ってたけど、この地域がメインのゲームだからだったんだな」

澪「今も、私達のことを色んな人が見ているのか…ぞっとするよ」

…ごめんよ。
私はこのゲームが嫌いだから今まで遊ぶことはなかったけど、今回の騒ぎについては最初から見させてもらっていた。
これも彼女達のプライバシーを侵害しているのに変わりはない。

紬「断罪者を消してもらったとしても、そこは解決したことにならないのね…社長に交渉して、このゲームに干渉できないようにしてもらえないかな」

和「それも難しいんでしょうね。ハッカーがどうとか言っていたし…」

そう言いながら和が亀の置物に触れると、紋章が発動した。
次元の扉のようなものが開く。
向こう側には、真っ暗闇の中に浮かぶ一本の道。その先には巨大な扉が見えた。

純「うわ…今度こそ本当に神の世界に続いてるって感じ」

憂「本当だね…この先に、社長さんが」

平沢母「…私は戻らなきゃ。ごめんなさい、みんなに任せっきりで…」

唯「ううん。お母さん、ありがとう…私頑張るね!」

平沢母「…ええ!頼んだわよ、唯!」

母を残し、一同は暗闇へと進んで行った。

………

暗闇の中に浮かぶ光の道。
その終点にある、黄金の大きな扉。

唯「…行くよ」

皆で一斉に扉を押す。
開いた扉の隙間から眩しい光が差し込んでくる。
その先には、巨大な球状の空間が広がっていた。
まるで時計台の中のように、光り輝く歯車や機械の部品のようなものが浮かんでいる。
天井からは、長さ数十メートルはあろうかという振り子がぶら下がっている。
球の中心に向かって道が伸びており、そこには円状の広い台座が浮かんでいる。マスターコンピュータと思われる端末と、それに向かう社長の姿もそこにあった。

律「すげぇ…なんだここ…」

梓「これが神の世界なんでしょうか…」

紬「…ううん、あの社長さんが作り出したものよ」

純「なんか趣味悪っ!」

一同はゆっくりと社長のもとへと歩いてゆく。

社長「…早かったな。上位消去プログラムもこうもあっさりと破られるとは」

梓「…何を考えてるんですか?断罪者は倒しました。消去プログラムを早くアンインストールしてください!」

紬「…教えてください。あなたの目的は何なんですか?」

社長「全データの消去だ」

唯「…えっ!?」

なんだってっ!?

律「…全…って、おい!宇宙ごと消すってか!?」

澪「そんな…!?」

そんなばかな!!そんなことをすれば、精神投影している社長自身も…!

和「何を考えているの!?それじゃあなた自身も消えてしまうんじゃ…」

社長「その通りだ。私はもう満足した」

純「何が!?だからって何で消すのさ!」

社長はゆっくりと振り返ると、唯のほうを見て、語り出す。

社長「…お前の能力を社長室で見させてもらったが、その時確信したのだよ、私の敗北をな」

唯「え…?何が負けたの…?」

社長「私は自分のこの頭脳を試したかっただけだ。この宇宙シミュレーションシステムを作って公開したのもそれの一環にすぎない。私を超える頭脳が現れるのを待っていた」

社長「このシステムには各国が軍事やビジネス目的で食いついてきたが…日本のゲーム会社だけだ、アニメキャラの観察などという馬鹿げた目的で使いたいと言ってきたのは。だがそれは私にとって都合がよかった。国家間の面倒な闘争に巻き込まれずに済んだからな」

頭脳を試したかっただけだって…
天才の考えそうなことだ。それだけのために、この子たちの人生を…

社長「世界中のハッカーがこのゲームに侵入し、その力を示そうとしてきた。そのせいで様々な被害が出ているが、それは私にとって問題ではない。私がこれと思うような高い頭脳をもつ者は現れなかった。それがまさかゲーム内から現れるとはな…」

唯「それが…お父さんなの?」

社長「そうだ。お前の父親が何をしたのか、どのようなプログラムを組んでお前達が我々の世界に出てきたのか、私は理解できなかった。これが私の敗北だ」

和「だからってなぜ私達と心中しようとするのよ!」

社長「私は私の頭脳を試し、そして負けた。これで満足だ、もはやこの世界にもこのゲームにも用はない」

純「意味わかんない!そこからなんで心中につながるのさ!?」

紬「私達も…この世界の全てのパラレルワールドの命も、あなたの会社の人も!全部巻き添えにするんですか!?」

社長「このような罪深きゲームを生み出した首謀者には死を、関わった者たちには制裁を、もはや修復不能なほどハッカーに侵され全世界に拡散してしまったこのゲームには完全なる消去を。真っ当で、合理的な結末だと思わぬか?まぁ、私にとっては些細な問題だが」

律「ふざっけんな!」

律が社長に向けて駆け出す。
しかし、社長の周りには透明なバリアが張られていて、弾き返されてしまう。

律「うわっ!?」

澪「律っ!大丈夫か…!?」

律「あ、ああ…」

社長「そこで大人しくしていたまえ。無限に広がる全パラレルワールドの削除には時間がかかる」

既に削除は始まっているようだ。
わざわざ断罪者を仕込んできたのは、時間稼ぎの為だったのか。

憂「やめてください!」

憂がバリアを解除しようと紋章を発動する。
バリアが揺らぐが、しかし破るには至らない。

社長「…プログラム改竄力が増している。理屈を知らずとも精神と連動させて感覚でプログラムを理解しているのか」

和「唯、もう一押しよ!」

唯「うん!」

唯が紋章を発動し舞い上がる。
上空からビームを放つと、バリアに穴が空き、消え去った。

律「よっしゃ、今だ!かかれーい!」

律の号令で紬、梓、純が武器を構え一斉に突撃する。
さすがの社長も端末を操作する手を止めざるを得なかった。

社長「小賢しい…邪魔をするな」

社長がこちらを振り返りながら後ろ手で端末のボタンを叩くと、その体の周りに紋章が出現した。
そして、律達の攻撃をかわすように上空へと飛び上がる。
その背中からは、無機質にうごめく翼が生えていた。

律「飛んだ!?」

梓「向こうも紋章が使えるんですか!?」

紬「紋章はプログラムって言ってたから…社長もそれを操れるのね」

社長「その通りだ。ここにいる限りは私はプログラムを操り全てを思い通りにできる全知全能の神に等しい…はずだった。お前達が現れるまではな」

社長がいつの間にかその手に持っていた槍を振り下ろすと、それにそって衝撃波が発射される。

律「うわぁ!!」

梓「きゃぁぁ!?」

一撃で、律、梓、紬、純の四人が吹き飛ばされた。憂に強化された防具を持ってしても、ダメージが大きいようだ。

社長「邪魔をするのであれば容赦はしない。お前たちは所詮、かの父親に組まれたプログラム以上のことはできない存在だ。私はかの父親には負けども、お前たちは私を超えることはできない」

社長は床へと降りてくると、呪文の詠唱のような動作をした。
唯、憂、和、澪が集まっている下の床が赤黒く変色する。

澪「な、なんだこれ!?」

戸惑う澪に対し、唯達三人は直感的に何かを感知して上を見上げた。
…遺伝子に組み込まれた紋章が、社長が放ったプログラムの何たるかを感覚的に理解させているのだろうか。

唯「なんか降ってくるよ!」

憂「逃げて!」

憂と和は咄嗟に駆け出し、唯は澪を抱えて飛び立ち、床が黒い範囲から抜け出した。
直後、黒い床に目掛けて上空から大量の光線が降り注ぐ。間一髪、避けることができた。

社長「感覚的にプログラムを理解する…面白い能力だ。だが、真の理解無しに精神論や根性論だけで私を超えられはしまい」

社長は攻撃の手を休めない。
再び飛び上がると、光を纏っていく。エネルギーを溜めているようにも見えた。

社長「完全対称…全く粗がなく、つけいる隙の無いプログラムを見せてやろう。感覚で防げるものなら防いでみるがよい」

唯は皆を翼で覆い隠し守った。
憂は皆の防具、床、空気全てを変換し守った。
和は空間に干渉し、なんとか敵の攻撃を逸らそうとした。

しかし、社長が放った凄まじい衝撃波は、彼女らの妨害を無視し、球場の空間の中心から全方向に均等に拡散していった。
そして、その跡にはボロボロになった彼女達が残されていた。

社長「仕留め損なった…?わずかに対称性に乱れが生じた。かの父親に外から干渉されているようだ。つくづく理解できないプログラムを組んでくるものだ…まぁよい、これで邪魔は入らぬ」

社長はコンピュータへと再び向かう。
倒れている唯達はピクリとも動かない。
生きてはいるようだけど…これで終わりなのか…
私には彼女達がやられている様を見ていることしかできないのか…!

社長「あとはこのパラレルワールドだけか…」

社長がエンターキーに手をかける。
しかし、それに指を触れた瞬間、パチっとショートが起こり、思わず社長は手を引っ込めた。
平沢夫妻、真鍋夫妻が外部から妨害を続けているようだ。

社長「…忌々しい、まだ悪あがきをするつもりか……何っ!?」

社長が気配を察して振り返ると、高速で飛びこんできた唯が目前に迫っていた。
避けることはできず、唯の渾身の体当たりを受けた社長は数メートル先へと吹き飛んだ。

社長「ぐっ…!!」

なんと、唯だけでなく全員が復活している。完全とまではいかないが、夫妻がプログラム改竄を行って回復させたようだ。

唯「はぁーーっ!!」

唯は畳み掛けるように社長に向かってレーザーを発射する。

社長「…小癪な…っ!!」

レーザーの直撃を受けても、社長はまだ耐え続けている。
それどころか、それに逆らい唯に向かって突撃してきた。

社長「何故どんどんプログラム改竄力が増している…お前の父親がそうさせたのか」

社長が槍を振り下ろす。
唯はそれを翼で受け止める。

唯「お父さんもお母さんも、和ちゃんのお父さんもお母さんも、みんな助けてくれてるけど…私だって頑張ってるもん!」

翼が更に輝き、社長を押し返す。

社長「この翼…これが…お前の父親が組んだプログラムか…感覚で理解する…これが…これは…面白い!」

唯「え…?」

社長が唯の翼に触れたことで、何かに気づいたようだ。

社長「く、くく…ははははは!面白い!頭で考えてもわからなかったことが、わからないまま感覚で理解できるとはな!」

社長が急に衝撃波を出し、唯は弾き飛ばされる。

唯「うわわ!?」

社長「実に屈辱的だが、これでもはや妨害は受け付けぬ!」

社長がコンピュータのところへ戻り端末を操作すると、この場には似つかわしくない巨大な樹が社長の足元の床から生える。
樹は社長とコンピュータを幹の中に覆い隠し、天井付近まであっという間に伸びた。

社長「実に面白い。自分が何をやっているのかわからずとも新しいプログラムが湧いて出てくるぞ!」

大樹の根本から赤黒い瘴気が発生し、床一面を覆う。

澪「これは、またさっきの赤いやつか!?」

和「いえ…何か違うわ!」

社長「もはや誰にも邪魔はさせぬ!これで干渉はできまい、私はお前を上回ったのだ、理解できない力ではあるがな」

あたりが暗くなった。
どうやら、社長は唯の翼から「感覚でプログラムを操作する」方法を吸収したらしい。
「お前」、つまり平沢父のことだろう、その干渉を完全にシャットアウトするプログラムを組まれてしまったようだ。
本人は納得していないようだが、平沢父を上回る頭脳を持ってしまった…これでは、なす術がない。

社長「いい加減に、死んでもらおうか」

床から無数の木の根が飛び出してきて、唯、憂、和を縛り、高く吊るし上げる。

唯「ううっ…何これ、力が…」

憂「離してっ!」

和「紋章が…使えないわ…!」

3人は木の根に紋章の使用を妨害され、抜け出すことができない。
樹の幹が怪しく光り、瘴気を纏ってきた。
おそらくは…吊るし上げた3人に瘴気を浴びせてとどめをさすつもりだろう。
それを悟った他のメンバーは慌てふためく。

律「やばいっ!この、この!」

憂に強化されたホウキやモップなどの武器で木の根を叩くも、ダメージはほとんどない。

紬「やめて、やめて…ああっ!!」

紬は木の根を掴んで倒そうとするが、触っただけでダメージを受けてしまう。

梓「…このっ!みんなを、離してくださいっ!」

梓は樹の幹を攻撃するも、びくともしない。中にいる社長の姿は太い幹に隠れて見えない。

純「憂~!この根っこは弱くできないの!?」

憂「だ、ダメ…うまく力が使えないの…」

澪「あ、あぁ…どうしたら…このままじゃみんなが…」

和「澪…!落ち着きなさい…!慌てないで!」

澪「……落ち着く、落ち着くんだ…」

澪は立ち止まり、手のひらに人の字を書いて飲み込んだ。

澪「……みんな、落ち着け!唯の木の根をまず切り落とそう!!」

澪の言葉に皆が振り向く。

律「澪…よっしゃ、わかった!」

全員が集合し、唯の木の根に一斉に攻撃を仕掛ける。

律「せーの!」

澪「それっ!」紬「えいっ!」梓「たあっ!」純「はいっ!」

木の根に大きな傷が入った。
完璧なはずのプログラムに、傷をつけることができている。
これは何の力なんだろう。いや、もう理論では説明できない域に達しているのかもしれない。
あの子達と、両親達と、社長の、全力の戦いなんだ。
私は…私がここで念を送ったり、端末を操作したりしたら何か影響があるのじゃないかと錯覚する。
そもそもなぜ私のログインは保たれているのか。平沢父の干渉すら受け付けない空間になったはずなのに。その事実がさらに、私に不思議な力があるのではないかと錯覚させる。
いや、そうだと信じよう。精一杯、あの子達を応援するよ!

社長「死ぬがいい!」

律「もう少しだ、せーの!」

唯目掛けて瘴気が噴出されたのと同時に、一斉に武器が振り下ろされ、木の根は切断された。

解放された唯はすぐさま翼を出し、瘴気をすんでのところで避け、そのまま飛び回って憂と和の木の根を一撃で切断した。

澪「やった!」

唯「みんな、ありがとう!!」

社長「おのれぇぇ!!!」

瘴気は止まらず、ついに全方向にむけて噴出される。

梓「まずい、こっちに飛んできますよ!」

純「やばっ、逃げないと!」

憂「だめ、逃げないで!その場で止まって盾を構えて!」

純「…え?」

憂「お願い、信じて!」

純「…わかった!」

梓「信じるよ、憂!」

もはや社長のような天才にすら理解不能なプログラム合戦となったこの戦場では、感覚に頼るしかない。
憂の言葉を信じ、皆はその場にとどまって盾を構えた。すると、振り注ぐ瘴気は全て跳ね返され、ダメージを受けることはなかった。

唯「みんな、一緒に行こう!」

唯が皆の前に降り立ち、翼を広げる。
その言葉の意味をなんとなく理解した一同は、翼に手を触れ、力を込めた。
唯の体が輝いてくる。

…私も、力を送るよ。

唯「いっくよー!びーーーむ!!!」

最大級のレーザーが発射された。
それは瘴気を打ち払い、大樹に直撃しその幹を焼いていく。

社長「ぐ…馬鹿な…理解できぬ…何もかも…!だがもう終わりだ…!このような理解できぬ世界は…消えるがいい…ぬぅぁぁぁぁぁぁっ!!!」

激しい閃光と、社長の断末魔と共に、大樹は消え去った。
残されたのは、きれいに元通りになったマスターコンピュータだけ。
社長は…消えてしまった。

唯「……」

憂「終わったのかな…」

しかし突然、地震が起き始める。

律「なんだ、まだなんかあるのかよ!」

澪「あれ…あのコンピュータ、エラーみたいなのが出てるぞ!」

コンピュータの画面は赤く点滅している。これはもしかしたら…

紬「まさか、もう削除が始まってる…?」

梓「そんな!?」

一同がコンピュータに駆け寄って画面を見る。
何が書いてあるかわからないが、尋常ではないことはわかる。

和「操作も受け付けないわ…!」

純「これやっぱ削除ボタン押されたんじゃないですか!?」

憂「社長さん…もう終わりだ、って言ってたよ。だから…」

確かに、そう言っていた。
あの樹の中でコンピュータの操作を続けていて、唯の攻撃を受ける直前にこのパラレルワールドの消去を実行したのだろう。

揺れは激しくなっていく。
床が、壁が、波打っている。

梓「きゃぁ!?」

もう立っているのもやっとの状況だ。
天井からぶら下がっていた大きな振り子は止まり、あたりに浮かんでいた歯車のようなものは動きを止め、崩れ落ちて行く。

律「間に合わなかったのかよ!…くそおっ!」

澪「私達…消えちゃうのか…?」

床が、壁が、少しずつ透明になり、光の粒となって分解していく。
そして、彼女達の体も…

紬「体が…透けてきてる…」

どうすれば、どうすればいい。
私には何もできない。ああ、何故私はただの漫画家なんだ。
何故、社長を止められるだけの権力者でなければ、この状況を解決できるスーパーハッカーでもないんだ。
あの子達を助けることもできずに、何が原作者だ…!

純「ど、どうすんのさ!逃げれば…って扉も消えてるし!」

梓「消える…消えちゃう…」

憂「…私、信じるよ」

梓「…え?」

憂「私達は消えないって信じるよ。だって…」

唯「だって、ここにいるもんね!」

唯、憂の言葉に皆がはっとする。

律「…そうだな。消えろって言われてはいそうですかって消えられるかってんだ!」

紬「そうよ!消えるわけないわ!だって…確かにみんなここに存在するんだものね!」

紬が隣にいた澪の手を握る。

澪「そうだな…。体が透明になってる気がするけど、でもちゃんと手を握った感覚がある。消えるなんて、思えないよ」

自然と、みんなが手を繋ぎ始める。

梓「私達はデータなのかもしれないけど…ちゃんと生きてる人間なんです。ボタン一つで消されたりなんかしません!」

純「プログラム、プログラムってあの人散々言ってたけどさ、結局最後は気持ちの戦いだったし。案外気持ちでなんとかなるんじゃない?」

和「うん…もうこの際よ、信じましょう、私達自身を」

皆が手を繋ぎ、円陣を組む。
ついに、床が傾いた。
バランスを崩すものの、皆慌てることなく、絶対に手を離さずにしっかりと立っている。

唯「…揚げ物さん!」

…え!?

唯「ずっと見守っててくれて、ありがとう!揚げ物さんのお祈り、すごく効いたよ!」

…まさか、伝わっていたのか…?そんなはずは…

唯「私達、絶対消えません!さようなら、揚げ物さん!!」

唯ちゃん、それはどういうーー

律「床が崩れるぞ!みんな飛べーっ!」

唯「行くよー、せーの!」

「「「「「「「「消えるもんかーーーーーっ!!」」」」」」」」

………

唯「…う…」

憂「お姉ちゃん!よかった…」

和「やっとお目覚めね」

唯「あれ…ここ、部室?」

紬「そうよ。みんな、助かったの」

唯「あ!そうだった、消えるかもしれなかったんだっけ」

律「ま、ハッタリだったってことだな。この通りみんなピンピンだし」

澪「断罪者とかも、いなくなったみたいだ。何事もなかったみたいに、普通の街並みに戻ってるよ」

梓「結局、なんだったんでしょう…本当にFD空間なんてあったんでしょうか。夢みたいです」

純「うーん…でもはっきりと記憶あるしなぁ」

憂「データは消えちゃったのかも知れないけと、私達の心までは消せなかったんじゃないかな」

和「よくわからないけど、そうとしか言えないわね。私達がお互いのことを認識してる限り、存在が消えたとは言えない、ってとこかしら」

律「なんだか哲学的だな…」

紬「多分だけど、これでFD人からの干渉は受けなくなったんじゃないかしら…?」

澪「そうだな。全部のパラレルワールドが、FD空間から独立したんだと思う」

唯「…あれ、なんか背中に…」

憂「あ、お姉ちゃん、背中で何か潰してるよ。起きてみて」

唯「うん…あ、これ揚げ物さんの!」

梓「私達の似顔絵ですね!」

澪「当たり前だけど、似てるな…やっぱり、これを見るとFD空間は本当にあったんだなって思えるよ」

律「そだな。てかなんで唯の下敷きに…いつの間に貰ったんだ?」

唯「あれー、貰ったあとどこにやったかな…覚えてないや」

憂「揚げ物さんの車に荷物と一緒に置いて来ちゃったんじゃないかな?」

和「ならなんでここに…って、まぁ細かいことはいいわね」

紬「きっと唯ちゃんが大事だって思ったからここにあるんじゃないかしら」

梓「忘れてきたのにですか?」

唯「あう…」

澪「唯らしいな…まぁ何はともあれ、元の生活に戻れそうだよ」

純「ちょっとした冒険でしたね。人には言えないけど、私達だけの秘密ですよ」

憂「うん。辛いこともあったけど…本当によかった」

唯「そうだ、お父さんお母さんに会わなきゃ!」

和「ええ。行きましょう」

律「てか、今何曜日…?」

澪「日曜の午前だな。一晩ここで寝てたらしい」

律「よーし、じゃ唯と憂ちゃんと和の親に挨拶して、その後みんなで遊び行こうぜ!」

紬「さんせーい!」

梓「練…いえ、賛成です!」

純「…私も行っていいですか?」

澪「もちろんだよ、一緒に冒険した仲じゃないか」

純「えへへ…ありがとうごさいます!」

律「おっしゃ、出発しようぜ!」

唯「おー!!」


唯「…揚げ物さん。私達のこと描いてくれてありがとう。そのおかげで私達がいるんだよね。心配しないでね、これからは私達だけでも生きていけるから!」


憂「お姉ちゃーん、行くよー?」

唯「はーい!」


おわり



最終更新:2014年01月13日 15:24