「んじゃ、目を瞑ってくれよ、澪」


「う、うん……」


律に促されるままに瞳を閉じて目を瞑る。
世界が暗転……しない。
目を瞑る直前まで瞳に写していた律の表情が残照みたいに離れない。
律、私を祝おうとしてくれてる律。
その頬が軽く染まってるように見えたのは、私の自意識過剰なんだろうか。
だけど単なる自意識過剰なら、今日この日に私達が二人っきりで居るはずもなくて……。

高鳴る。
心臓が喉から飛び出してしまいそうなほどに。
震える。
全身が期待と緊張でハムスターみたいに小刻みに。
ああ……、頭の中が真っ白になりそうだよ、律……。


「よっしゃ、まだ目を開くなよ、澪。
もうすぐプレゼントの準備が終わるからそれまで待てよー」


「わ、分かってるって……」


喉の奥から絞り出した上擦った声。
私の声が震えているのは当然だけど、律の声も普段より半オクターヴは高い。
律も……、緊張してくれてるの……?
私に何をプレゼントしようとしてくれてるの……?
ねえ、それはひょっとして……?

私の心臓の音、律の息遣い、時計の音が痛いくらい耳に響く。
それぞれが時を刻んでいく。
私と律の時間を刻み込んでいく。
今日はそうして刻んだ私達の時間のある意味で集大成の日だ。

そう、今日は一月十五日。
私の二十回目の誕生日だ。
今日私は二十歳になって、成人を迎えた。
唯もムギも晶も幸も菖も、その私の誕生日を祝ってくれた。
盛大なパーティーを開催して、私が大人になった事を祝福してくれた。
勿論律も笑顔で祝福してくれた。
祝福してくれたんだけど、その表情が何となく普段と違ってる事に私は気付いた。
今日は単なる誕生日じゃないのは分かってる。
それでも律がその笑顔の裏で、私と同じくらいに緊張しているように見えたんだ。
だからパーティーが終わった後、誰にも気付かれないように耳打ちされた時はやっぱりって思った。


——パーティーの片付けが終わったらさ、私の部屋に来ないか?


やっぱりって思いながらも、頭の中は真っ白になりそうだった。
二人きりで過ごす私の誕生日なんて珍しくない。
だけど今日は特別じゃない特別な誕生日なんだ。
私にとっても、律にとっても。
二十歳の誕生日。
私が大人になった記念の日。
私と律の二人が成人した日なんだ。


——お付き合いはお互いに成人してからだな……。


高三の冬、律に彼氏が出来たかもしれないって話題になった時の私の言葉。
唯から漏れたのかいつの間にか律にも知られていて、しつこいくらいからかわれるようになった。


——澪ちゃんは成人しないとお付き合い出来ないんでちゅよねー。


なんて、軽い感じに。
私はその成人になった。
分かってる、成人になったからって何が変わるわけでもない。
私達は毎日少しずつ歳を取ってるだけで、誕生日は単なる節目でしかない事も分かってる。
分かっているのに、私はやっぱり胸の鼓動を抑えられなかった。
思い出すのは律の表情だけじゃなく、大学で自分から作れた友達の表情と言葉。

幸。
背が高くて大人しくて、だけどベースの腕前は見事で、その性格はちょっとだけずれてる。
そんな私の大切な友達の幸の言葉が、今日を迎えるまでずっと頭の中で響いてたんだ。
今だってはっきり思い出せるよ。
あの日、幸が口にした言葉を耳にした時の衝撃と、胸の鼓動を——。




「えっ……?」


「あれ? 言ってなかったっけ?」


「い、言ってないよ!
だってそんな……、本当なの?
幸と菖が……」


「うん、高校の時から付き合ってるよ」


絶句した。
何て言ったらいいか分からなかったし、何も考えられなかった。
私の常識が完全に崩れ去ってしまったような気分だったんだ。

きっかけはいつものように幸の部屋で律と菖の話を始めた事だった。
私と幸はたまに二人で律と菖の愚痴をこぼし合うのが、いつからか習慣になっていた。
自由で奔放な二人だもんな。
いつも振り回されてる私達としては、たまには愚痴をこぼしたくなる事だってあるよ。
勿論本気で愚痴をぶつけ合ってるわけじゃない。
手の掛かる友達の思い出話を語り合う、その程度の認識の言わば女子会だ。
幸に律の昔の話をするのは楽しかったし、幸から菖の昔の話を聞くのも面白かった。
お互いの過去を共有する事でもっと親しい友達になっていく。
そのための大切な女子会だった。

その日も私と幸は奔放な友達の事を話し合っていた。
どうしてそんな話になったのかは覚えてない。
だけどとにかくその日の私は、高二の頃に律が風邪を引いた時の事を話題にしていた。
律の機嫌が悪くなって、私もそんな律を見ているのが嫌で喧嘩してしまって、
その結果、律が体調を崩して風邪を引いてしまった時の話だ。


——分かるよ、澪の足音は。


お見舞いに行った時、ちょっと嬉しそうに呟いてくれた律の言葉。
律もたまにはしおらしい事を言うよな、なんて私はそんな事を呟きながら幸に苦笑を見せた。


——何だか夫婦みたいだね。


私の苦笑に幸が返してくれたのはそんな言葉。
夫婦喧嘩は犬も食わない。
まるでそう付け加えたげな幸の表情を見ていると、何だか急に恥ずかしくなった。
だから私は照れ隠しに返したんだ。
幸も菖のお嫁さんみたいだよな、って。
それくらい仲が良く見えるよ、ってつもりでからかう感じに。
だけど幸からの返答は私の想像もしてなかった言葉だった。


——うん、もう今年で付き合って三年目になるしね。


平然とした様子だったのに、衝撃的な言葉だった。
冗談だよね、なんて問い返せなかった。
だって幸がそんな嘘を吐かない子だって事くらい、私にだってよく分かってるから。
しばらく呆然としてから辛うじて訊けたのは、こんな間抜けな質問だけだった。


「い、いつから……?」


「さっきも言ったでしょ?
高校の頃からで、付き合い始めて今年で三年目。
あっ、そういう意味じゃなかったのかな?
菖と付き合い始めた日って事だよね?
それなら私の誕生日にね、菖が告白してくれたのがきっかけなんだよ」


「た、誕生日……?」


「うん、誕生日。
その誕生日は例年通り晶と菖と私の三人で誕生日パーティーをしてたんだけど、
片付けをしてる時に『後で私の部屋に来てくれる?』って菖に呼び出されたんだ。
何だろうって思って菖の部屋を訪ねたらね、急に抱きしめられて言われたの。
『幸、私と付き合って!』って。
いきなりでびっくりしたけど、私も菖の事はずっと好きだったしね。
顔を真っ赤にして私に告白してくれた菖が可愛くて、
何だか胸がいっぱいになっちゃって、それでオッケーしたんだよ。
その後すぐに『じゃあ私が幸の誕生日プレゼントだよ!』ってキスされたのは困っちゃったけどね。
……うーん、改めて思い返してみると、ちょっと照れ臭いね」


基本的に表情があまり変わらない幸の頬が桜色に染まった。
幸せなんだな、って思った。
幸は菖の事が本当に好きなんだ。
きっと菖も幸の恋人になれて幸せなんだろう。
何となく微笑ましく見ていた二人のやりとりを思い出す。
仲の良い二人、笑い合う二人、平然と胸を揉み合う二人……。
……最後のは余計だったけれど。


——女の子同士なのに?


なんて訊けなかった。
二人にとってそんな事が重要じゃないのは、幸の表情からもよく分かったから。
幸は幸せで、菖もきっと幸せで、二人は幸せな恋人同士なんだ。
たくさんの困難があったって、そんな困難なんて平然と乗り越えて行く。
幸の表情にはそんな強さも感じられた。
二人は幸せなんだ。
だから重要なのは幸せな二人の事じゃなくて……。


「澪ちゃんは?」


頬を染めたまま幸が続けた。
その瞳の中は私達を見守ってくれてる、いつもの優しさの色があった。


「澪ちゃんはりっちゃんと付き合ってるの?」


「わわ、私と律が?
なな、何で……っ?」


「その様子だと本当に付き合ってないみたいだね……。
うーん、澪ちゃんとりっちゃんなら、いいカップルになれると思うんだけどなあ……。
なんて、大きなお世話だよね」


「そんな事は無いけど、でも……。
でも私は……」


「あ、澪ちゃんは成人するまでお付き合いしない人なんだっけ?」


律からでも聞いていたのか、幸がわざと悪戯っぽく微笑んだ。
私の迷いを悟ってくれたのかもしれない。
幸はそういう気配りの出来る子だった。
その両手で優しく私の手を包み込んでから、幸は続けてくれた。


「私はね、幸せだよ、澪ちゃん。
菖の事は大好きだし、これからもずっと一緒に居たいって思ってる。
菖の傍に居られる事が私の幸せなの。
りっちゃんと付き合った方がいいなんて、そんな事は言わないよ。
でもね、りっちゃんとの事、よく考えてあげてほしいな。
私は菖と恋人になれて幸せだから、すっごく幸せだから、
澪ちゃんもりっちゃんの事をどう思ってるか考えてあげてほしいの。
それがお節介で背の高い友達からのお願いだよ」


わざわざ自分からコンプレックスの話を出して場を和ませる幸。
その日はそれを最後に幸と菖の恋人関係の話は終わった。
私もその日はそれから律の話じゃなくて唯とムギの思い出話に徹した。
自分の部屋に戻った後は、枕を胸に抱えて深く深く考えた。
私は律の事をどう思っているのか。
これからどんな関係になりたいのか。
幸に言われた事じゃないけど、せめて成人するまでにはその答えを出したくなった。
それが私と律を思ってくれてる大切な友達に出来る事でもある気がしたから。

私は……、律とどうなりたいんだろう……?




その日から私は幸と菖のやりとりを何となく見るようになった。
どうして気付かなかったんだろう。
幸と菖の会話や行動はまさしく私の考える恋人同士そのものだった。
交錯する視線、たまに触れ合う指先、見せ合う笑顔。
どれも私が理想とする恋人達の姿だった。


「どうしたんだよ、澪。
最近二人の事ばっかり見てないか?」


一度律にそう問われた事がある。
どう答えたらいいものか私が逡巡していると、律は楽しそうに笑った。


「ひょっとして幸の事が好きなのか?
この前も二人で買い物に行ってたみたいだし、
澪も遂に私から巣立っていくのね、よよよ……」


「な、何を言い出すんだよ……」


「お、だったら菖の方か?
菖も元気で楽しくていい奴だもんな、澪が好きになるのも分かるぞ!
でも、くっそー。
それじゃ私が今までみたいに菖の部屋に気楽に行けなくなるじゃんかよ……。
菖の事が好きな澪に嫉妬されちゃうの嫌だしなー……」


「だからそうじゃなくて……」


「ははっ、冗談だよ、冗談。
その様子だと別に二人の事が好きってわけじゃなさそうだな。
よかったよ、澪が二人の事を好きじゃないみたいでさ」


「えっ……?」


律の言葉に私の心臓が高鳴る。
まさか律は私の事が……。
そう思い掛けたけれど、そういうわけじゃなかった事は律の次の言葉で分かった。


「幸と菖、いいカップルだもんな。
横恋慕なんかしても、失恋しちゃうのは目に見えてるよ。
澪も幸と仲良くするのはいいけど、恋しちゃわないように気を付けろよー?
その先に待ってるのは失恋だぞー?」


だから横恋慕なんかしてないよ。
そう返すより先に、私は衝撃的な律の言葉を訊ね返す事しか出来なかった。


「知ってたのか?」


「何を?」


「菖と幸が付き合ってる事」


「ああ、うん、知り合ったばかりの頃に菖に聞いたよ。
『私達付き合ってるんだよ!』って妙に嬉しそうに言ってたな。
今まで言えそうな相手が少なかったのかもな……。
澪は知らなかったのか?」


「最近幸に教えてもらったばっかりだよ」


「そっか」


「どうして教えてくれなかったんだよ、律……」


「いや、とっくに幸から聞いてるもんだと思ってたし」


「そっか……。
まあ、そういう事は進んで話題にする事でもないよな……」


二人で口を閉じる。
視線の先にはじゃれ合う幸と菖の姿。
恩那組のベースとドラムの姿。
黙っている私達もベースとドラム。
対照的なリズム隊。


一分くらい経っただろうか。
先に口を開いたのは私の方だった。


「幸達の事、どう思う?」


「いいと思うぞ、幸せそうだしな。
こう言っちゃ何だけどベストカップルだと思うぞ」


「女の子同士でも?」


「あれ?
澪ってそう言うの気にするタイプだったっけか?」


「いや、そうじゃなくて……、
今まで周りにそういう子が居なかったからびっくりしてるだけだよ。
うちの高校にもそういう子が居るって噂だけは聞いてたけど、誰かは知らなかったしさ。
こんな近くに女の子同士の恋人が居るなんて思ってなかったんだ」


「そっか、そうかもな……。
私もラブ・クライシスの事を初めて聞いた時はびっくりしたし」


「ラブ・クライシスがどうしたんだ?」


「アヤちゃんってベースの子、憶えてるか?
ロンドンでも会っただろ、澪のベースのファンの子だよ。
そのアヤちゃんとマキちゃんもさ、結構前から付き合ってるらしいんだよな」


「そうなんだ……」


「珍しい事じゃないんだけどね、ってマキちゃん笑ってたよ。
リズム隊の常って言うのか?
ベースとドラムはいつもリズムを合わせてセッションしてるから、
マキちゃん達や菖達以外でもプライベートで付き合い出す子が多いんだってさ。
梓から聞いたんだけど、純ちゃんも菫ちゃんとすっごく仲がいいらしい。
あの二人はまだ付き合ってるわけじゃないみたいだけどな」


「そう……なんだ……」


私はそれ以上何も言えなかった。
何を考えているんだろう、律もそれっきり黙り込んでしまった。
私の視線の先と頭の中には何組ものリズム隊の姿。

幸と菖。
ラブ・クライシスの二人。
純ちゃんと菫ちゃん。
そして、私と律。

幸達とラブ・クライシスの二人は恋人同士だ。
二組とも仲がいいのは分かっているけれど、仲がいい事と恋人になる事は全然違う。
訊ねてみた事はないけれど、あの二組は当然私達以上に肉体的接触が多いんだろう。
手を繋いでいるんだろう。
一緒に寝てもいるんだろう。
キスもしているし、愛撫もセックスもしているんだろう。
それが恋人同士になるという事なんだから。

私は……、私は律が好きだ。
単なる幼馴染みじゃない。
傍に居てくれないと、寂しさで泣き出しそうにもなる。
頭を撫でられると落ち着くし、抱きしめられると笑顔になるのを禁じ得ない。
律の居ない人生なんて考えられない。
だったら私はやっぱり決心するべきなんだろうか。
お互いに成人を迎えた時、私の方から告白するべきなんだろうか。
『律の恋人になりたい』って。
先送りなのは理解してる。
けれど二十歳の誕生日を迎える日まで、私はその答えを出せないだろうと何となく感じていた。




目を閉じている。
たくさんの思い出と感情に目眩がしてしまいそうだ。
律の足音と衣擦れの音が聞こえる。
何か大きな物を移動させてる音が響いている。
律は一体何を準備しているんだろう。
私に何をプレゼントしようとくれてるんだろう。
ひょっとして……。
ひょっとして菖が幸にそうしたように私に告白してくれるんだろうか。
『プレゼントは私だ!』ってキスしてくれてるんだろうか。

分からない。
だけど単なるプレゼントではありえない。
プレゼントならさっきのパーティーで皆からって事で新しい予備のベースを貰った。
それだけでも二十歳の誕生日には十分過ぎるプレゼントだった。
泣き出したくなるくらい嬉しいプレゼントだった。
それ以上のプレゼントとなると、本当に特別なプレゼントしか思いつかない。
それこそ律自身というプレゼントも冗談ではなく思えるくらいだ。

私は自分と律がキスする光景を脳内に思い浮かべてしまう。
大好きな幼馴染みの律とのファーストキス。
キスから始まる恋人関係。
そうして私達はずっとずっと一緒に居る約束をする……。
誕生日に貰うには大き過ぎるプレゼント。
嬉しいけれど、何かが間違っている気もする。
何が間違っているのかは分からない。
だけど何かが違うとだけ胸が叫んでる。

もしかしたら私は自分から告白したいんだろうか。
私が成人するまで待ってくれた律に、私の方から想いを伝えたいんだろうか。
私は今まで律に引っ張られてばかりだった。
そんな私が律から半年遅れてやっと二十歳になった。
私は二十歳をきっかけに変わりたいんだろうか。
律に引っ張られるんじゃなくて、肩を並べて歩いて行ける強さを持ちたいんだろうか。
強くなりたいのは確かだ。
これからも律と一緒に笑い合うためには、強くならなきゃいけない事はよく分かってる。


——みーおっ!


いくつもの律の笑顔が頭の中に浮かんでは消える。
幼馴染みとして一緒に生きて来た律との思い出。
律が居たから音楽に出会えた。
律が居たから楽しかった。
律が居たから幸せだった。
私はそんな律の事が大好きだ。
その笑顔をずっとずっと見ていたい。
そのためには律と恋人になるのが一番いい方法……のはずだ。


「よーし、目を開いていいぞ、澪」


律の言葉が私の耳に届く。
大好きな律の声。
その声をずっと聞いていられるためにも、私は勇気を出さなくちゃいけない。
少しずつ目を開いていく。
プレゼントが例え律からの告白じゃなくても、自分から勇気を出せるように決心して。


「……えっ?」


目を開いた瞬間、思わず変な声が出た。
私の想像もしていなかった光景がそこに広がっていたからだ。
律の部屋の中、所狭しと律のじゃない小さめのドラムが配置されていた。


「これって……?」


「菖にさ、借りたんだよ、小さめの練習用のドラムセットをな。
流石に普通のドラムセットじゃこの部屋には大き過ぎるもんな。
おっと騒音問題は心配すんなよ。
皆に頼んで、今日だけ特別に大きな音を出してもいいって事にしてもらってるから」


「ど、どうして……?」


「まだ分かんないのかよー、澪。
これがプレゼントだよ、誕生日プレゼント。
私さ、澪の誕生日プレゼントに歌を作ってみたんだよな。
あ、勿論ドラミングもオリジナルだぞ?」


「歌……?」


「みなまで言うな!
らしくないのは分かってるっつーの!
でもな、澪の二十歳の特別な誕生日だし、特別なプレゼントを贈りたかったんだよ。
苦労したけど、自分だけの力で作詞作曲したのを贈りたかったんだ。
ドラムだけでも結構いい曲に出来たと自負しております!
私達、これでも長い付き合いだし、腐れ縁の幼馴染みなんだもんな」


律の頬だけじゃなく、耳やおでこまで赤く染まる。
恥ずかしそうに微笑む律の笑顔。
子供の頃から大好きだった律の……、りっちゃんの笑顔だ。
明るくて元気なのに変な所で恥ずかしがり屋で、私の事を大切に思ってくれていて……。
小さな頃から少しも変わらない素敵な笑顔だった。

誕生日プレゼントが告白じゃなかったのが残念じゃないと言ったら嘘になる。
だけどそれ以上に嬉しかったし、自分の想いを深く実感出来た。
私は律が大好きだ。
だけどそれは恋人になりたいって意味じゃない。
幼馴染みの親友として大好きだって意味だ。
勿論先の事は分からない。
もしかしたら律の恋人になりたいと思う事がいつかはあるかもしれない。
幸と菖達みたいな幸せを得たいと思う事があるのかもしれない。

だけど今は。
今はそうじゃない。
昔から変わらない律の笑顔を見て、やっと気付けた。
私はりっちゃんのこの笑顔が大好きだったんだって。
この笑顔を見続けられる事が私にとって一番の幸せなんだって。
幼馴染みの上が恋人ってわけじゃない。
親友の上が恋人ってわけでもない。
幸と菖、ラブ・クライシスの二人は恋人と言う幸福を手に入れた。
それはあの子達の幸せの形であって、私達の幸せの形に無理矢理当て嵌めていても意味が無い。
それぞれにそれぞれの幸せがあって、それでいいんだと思う。
私は律と今の関係のままで幸せになれる方法を探していく。
それが私の幸せの探し方なんだ。


「なーに、黙ってんだよ、澪ー」


律がちょっと頬を膨らませて拗ねる。
拗ね方も昔と変わってない。
可愛らしい、私の好きな律の拗ね方だ。
だから私も笑おう。
今の私に出来る私の笑顔で。


「いや、律にどんな歌詞が書けたのかなって心配になってさ」


「何をー!
私の作詞の才能を見せてやるから覚悟しろよー!」


「楽しみにしてるよ」


「おうよ!」


律が笑い、私も私の笑顔を向ける。
私は私のままで。
律も律のままで。
無理せずにそのままの二人で歩いて行こう。
その先で私達が恋愛関係になるのなら、それはそれで幸せな未来に違いない。
だけどそれまでは、私達は憎まれ口を叩き合うような幼馴染みの親友だ。

でもこれだけは伝えよう。
私の特別じゃない特別な誕生日、私を祝福してくれる大切な幼馴染みに。


「誕生日プレゼントありがとう、律。
すっごく嬉しいよ、これからもよろしくな!」


「ああ、誕生日おめでとうな、澪!」


笑顔で律がドラムスティックを下ろしていく。
そうして私は多分人生で一番の幸せを感じながら、律の作詞作曲した歌に耳を傾けたんだ。


⌒(=・ x ・=)⌒ <オワリデス