病院ロビー
梓「携帯の充電……6%しかねえじゃん」

梓「生徒手帳にテレカ仕込んどいて本当によかったな……」

カラカラ

梓「そういや、公衆電話使うのなんて久しぶりだな」

カチカチカチ

PRRRRRRRRR

PRRRRRRRRR

憂『はい……平沢憂です……』ゴホゴホ

梓「憂、大丈夫か?」

憂『梓……くん……?』

梓「風邪引いてるって聞いたから心配なって電話したんだけど……」

憂『うん……』

憂『あんまり、大丈夫じゃないかも……』

梓「あんまり無茶なことするなよ?俺は何にもできないけど、少しは回りに甘えてもいいんだからな?」

梓「唯センパイだってああ見えてやるときはやるんだし……」

憂『……ふふっ』

梓「え?」

憂『梓くん、お姉ちゃんと同じこと言ってる』

梓「同じことって……」

憂『昨日お姉ちゃんを手伝おうとしたら……憂はもっとわたしの事頼りなさい。って、すごい怒られちゃった』

梓「あのなあ……」

梓「唯センパイが本気で怒るなんて相当なことだぞ?」

梓「俺も本気で怒ったの、1回しか見たこと無いんだから」

憂『うん……』

憂『梓くん……』

梓「なんだ?」

憂『梓くんと話したら、少し元気出てきたかも』

憂『だから、もちょっと元気もらっていいかな?』

梓「もちろんだ。テレカ持つまで元気やるよ」


たまこ「あれ?相部屋の子は?」キョロキョロ

北白川「ロビーに電話かけに行った」

たまこ「そうなんだ……」

北白川「〜〜♪」

たまこ「あ、またその歌歌ってるんだ」

北白川「どっかの誰かのお陰で、思い出しちまったんだ、よ」


病室

憂「あーずさくんっ!」ギュッ

梓「だから抱きつくなって!まだ完治してないんだって!」バサッ

澪「ホント嘘みたいに治っちゃったな。憂ちゃん」

憂「はい。皆さんのお陰で……」

律「で……こっちは……」チラッ

律「……退院予定日は来月28日」

唯「学祭は来月20日から21日……」

唯「はぁ……」

梓「一番ため息吐きたいのはこっちです」ハァ

梓「こんなアホな怪我のせいで学祭リタイアなんて……」


唯「あ、そうだ」

唯「これあずにゃんに」スッ

梓「何スか?これ」

紬「新曲のリズムギター譜面よ。どっちも唯ちゃん作詞、私作曲の」

唯「そうなんだよ!」フンス

梓「新曲……ですか」

紬「き、っ、と、覚えていても損は無いと思うわ」ニコ

梓「……」

梓「はい、そうしときます」ニヤ

憂「?」


梓「そうだ。皆にも」カチャ

唯「これ……大福?」

梓「お隣さんのお見舞いの人がいっつもくれるんですけど、ちょっと量多くて」

梓「それで食べきれない分冷蔵庫にしまってたヤツなんです」

梓「こっち来るんでお茶会できなかったと思うから、これで埋め合わせてください」


カララララ

北白川「あれ、たまこがお前にやった大福だぞ」

北白川「確かに量が多いのは認めるがな」

梓「いいじゃないでか。オレ一人で食うより、ずっといいでしょ」


病院・患者ホール

梓「さて、自習練習いきますか」スチャ

梓「もし文化祭間に合わなくても、いつか弾くことにはなるだろうしな……どれ」ペラ

梓「ごはんはおかず……どんな曲だよ……」ペラ

梓「……絶対作詞唯センパイだな。これ」

梓「それともう1曲か……U


文化祭当日・軽音部部室

唯「結局退院間に合わなかったね。あずにゃん」

澪「練習はしてくれてたみたいだけどな……」

律「去年の梓みたいにイントロで繋いでも来れないかもだからなぁ」

律「しゃあない、梓の分まであたしらが盛り上げるしかないか……」

ガチャ

紬「最後のアンプ運び終わったわよー」ニッコリ

唯「お疲れ様ー、ムギちゃん」

澪「遅かったな」

紬「少し電話してから来たからね」ニコ


数十分後 病院
梓「今ごろ軽音部のステージかあ……」ピロピロ

梓「ケガさえなけりゃなぁ、憂にかっこいいとこ見せられたのに」ピロピロ

梓「あ、ちくしょ!そこでフィバるか普通!
?」ピロピロ

看護師「中野さん?面会の方ですよ」

梓「はい」

梓「(誰だろ、面会なんて……母さんか?)」


ガララ

?「失礼します」

梓「(せ……セバスチャン……!?)」

斎藤「私、琴吹家使用人の斎藤と申します」

梓「は、はい。宜しく」

斎藤「紬お嬢様のお願いにより、失礼ながら中野様を学校までお連れさせて頂きます」

斎藤「下に車を用意しております。直ぐにでも出発できますので、支度願います」

梓「支度って……何を……」

斎藤「紬お嬢様はギター一本でよろしいと伺いました」

梓「ギター一本で……って……」


講堂
唯「えーと、こんにちわ。軽音楽部です」

唯「今日はちょっとした事故で一人来れなくなってしまいましたが」

唯「精一杯頑張りたいと思います!」

唯「それでは、『私の恋はホッチキス』!」

♪〜〜

純「……やっぱさ」

憂「……うん」

純「なんか、物足りないね」

憂「だね……」

憂「梓くん……」


ワーワーワーワー

澪(なんか……さっきの、物足りなかったな)

律(梓のギターがないとなあ、一味足りないというか)

律(だよな、ムギ……)

紬(大丈夫、なんとかなるわ♪)ニッコリ

唯「それじゃあ、次の曲。『ごはんはおかず』、いきます!」



「ちょぉーーっと待ったぁぁぁぁーーーーー!」バアアアンッッ



唯律澪純憂「!?」



律「あれ何だ!? リムジン!? キャデラック!?」

唯「それに……あれ!」

紬「……やっと来たわね」ニコ


憂「やっぱり、来てくれたんだ……」

純「いや、それでも登場が派手すぎだって……あれじゃ映画だよ」


梓「遅れてすんません! みなさん!」


ガラガラガラガラ

斎藤「紬お嬢様。梓様をお連れいたしました」

紬「でかしたわ。斎藤」


梓「本当にすいませんでした。遅れて」

律「当たり前だ! それに登場が派手すぎるんだよ! お前はヒーローか!」

梓「それに関してもすいません!」

梓「でも、ヒーローは遅れてくるもんでしょう?」

澪「……だな」

澪「それじゃあやるぞ、ヒーロー」

梓「はいさ」スチャ

唯「あずにゃん! 行くよ!」

梓「行きますか! 唯センパイ!」


ジャジャジャジャーン
唯「ごーはんーはすーごいーよー♪」

梓「(改めて歌で聴くとすげー歌詞だな……)」

梓「(カレーうどん愛を歌にしたマーシーじゃないんだから……)」

唯「わたしぜんせは! かんさいじんっ!」

澪律紬「どないやねん!」

梓「ど……どないやねんっ!」

律「(どーした?梓。突っ込みにキレがないぞ?)」

梓「(なんで演奏にツッコミ力要求されるんですか)」ジャジャジャーン

律「(お前、いつからうちが真っ当なバンドだと勘違いしていた?)」

梓「(ああ……)」


ジャーーーン

澪「(次で、最後か……)」

紬「(そうね……)」

唯「次の曲、行きます!」

唯「『U&I』!」

梓「(U&I……か)」

〜〜〜〜数週間前・病室

梓「新曲、U&I……ね」ペラリ

梓「唯センパイの作詞か……」ペラリ

梓「……これって」ペラリ

梓「この歌詞、憂のことじゃねえか……」ペラリ

梓「唯センパイらしいな」

スチャ

梓「っし、練習しなきゃな」

梓「オレがミスったら、そりゃ格好つかねえよな」

梓「ヘッドホンとシールド、持ってきてもらってよかったな」スチャ

ペンペンペペン

北白川「……」


たまこ「おとーさーん、来たよー」ガララ

北白川「別に毎日来なくてもいいって言ったろ……」

ペンペンペンペン

たまこ「お隣さんも、こんにちわ」

梓「……」ペンペンペンペン

たまこ「あれ?」

北白川「今は取り込み中だ、話しかけない方がいいぞ」

たまこ「本当だ、すごい真剣な顔……」

北白川「男にはな、一生に何度か、絶対に格好つけなきゃいけない時ってのがあるんだよ」

北白川「そこの坊主は今な、それの練習中だよ」

たまこ「ふーん……」

たまこ「それじゃあ、お腹減ったらこの草餅食べてね」スッ

律「ワンツースリーフォー!」

梓「(車椅子ってのがちょっと笑えるけど……)」

梓「(今までで一番カッコつけなきゃな!)」チャキッ

ジャジャーーーーン!!

唯「きーみーがいないとなんにーもできなーいよ♪」

澪「(凄い……梓飛ばしてるな)」

律「(和を乱してもないのに、凄い印象に残るメロディだな)」

紬「(梓くんだけ特別アドリブ多めの譜面にして上げてよかったわ)」ニコ

紬「(まさかここまでになるとは思わなかったけど……ね)」

梓「(……まだ、まだ!)」ジャジャッジャーン



唯「だからーきみにー!つたえーなくちゃー!(凄い……)」

唯「ありーがーとーうぉー!(あずにゃん、張り切ってる!)」

梓「(よし、やるぞ!)」チャキッ

ギュイィィーーン!!

澪「(と、とんでもない速弾きだ……)」

紬「(リードを殺さないで、こんな複雑なリズムギターの旋律を完成させるなんて)」

梓「(……ここ考える時間だけはアホみたいにあったからな)」ギャギャギャァ!!

梓「(唯センパイ、悪いッスけど)」

梓「(この23秒間だけは、オレに下さい!)」ギュアァァァ!!


純「うわ、梓張り切り過ぎだって……周りドン引きだよ」

憂「だね」アハハ

憂「でもやっぱり、凄いよね。梓くん」

純「確かに凄いっちゃあ凄いけどね。あんなの弾ける執念みたいのはさ」

唯「きみの むねに とどくーかなー」

梓「(最初にオレに声をかけた時、実はお前のことがちょっと怖かった)」

唯「いまは じしん ないけーれどー」

梓「(その後もどんどんオレと距離を縮めてくるのも、正直恥ずかしかった)」

唯「わらわなーいでー どうかきいてー」

梓「(でも、お前を通じてオレは軽音部に馴染めたし、クラスにも溶け込めた)」

唯「おもいをうたにこめたーかーらー!」

梓「(そんでもって……お前のことが頭から離れなくなった)」

唯「ありーったけのー! ありがーとうー!」

梓「(百万人のために歌われたラブソングは、いくらでも弾いてやる)」

唯「うたにーのせてー! とどけーたいー!」

梓「(でも、多分、一人に向けたラブソングはこれっきりだ)」

唯「このきーもちはー! ずっとーずっとー! わすーれーなーいーよ!」

梓「(多分通じない気はするけどさ、これがお前への気持ちだ……っ!)」

唯「おもーいーよー」
梓「(思いよ……)」

唯「とーどけー!」
梓「(届けっ!)」

ジャンジャンジャンンジャーン!!!

唯「あ、あずにゃん、凄かったね……」

梓「センパイ」

梓「マイク、借りていいっすか?」ニヤ

唯「あ、うん……」スッ

梓「ありがとうございます!」

梓「……」スゥッ


梓「ういーーーーーっ!!」ィィィーーーーンッッ!!


唯澪「!?」ビクッ
律「おやおや、ついにですか」
紬「ついにですね」


梓「すきだぁぁぁーーーーっっ!!」


純「……何言ってんの、あいつ?」

憂「……」


憂「わたしもぉぉーーーっ!!!」


梓「……」

梓「……ふぅっ」ガクッ

唯「あ、あずにゃん!?」ビクゥッ!

澪「……緊張が解けたのか?」

律「さんざんカッコつけといて、この終わり方かよ」

紬「でも、この方が軽音部らしくていいじゃない」ニコ

澪「だな」

梓「(結局、この文化祭ライブ告白事件はその後数ヶ月以上にわたって話題に上がり、そして伝説となった)」

梓「(自分でやったこととはいえ、マジで恥ずかしくて文化祭から一週間は学校行きたくなかった)」

梓「(まあ、憂から最高の返事が聞けただけで十分良かったのだが)」


梓「(そんでもって、文化祭ライブを最後にセンパイがたは引退した)」

梓「(引退と言っても、他の部活のようにスッパリ来なくなるわけでもなく、あの人達はその後もずるずる部室に入り浸っていたのだけど)」

梓「(それでもセンパイがたは受験勉強、オレは定期試験や進路関係で、同じ部室にいながら確実に距離は離れていった)」


梓「(そして受験勉強も終わった頃、突然センパイがたが卒業旅行に行くと言い出したりもした)」

梓「(四泊五日のロンドン旅行。唯センパイは俺も誘ってくれたけど、まあ、俺は断った)」

梓「(当然だ。それは四人の卒業旅行であって、オレは部外者なわけだ)」

梓「(連れションじゃあるまいし、オレが行ったってどうにかなるわけでもない)」

梓「(ただ、その代わりに卒業ライブと称した屋上でのゲリラライブには存分に加わらせていただいた)」

梓「(多分あれがあのメンバーでの最高の演奏だったんじゃないかとさえ思えるほど、いい演奏だった)」

梓「(まさか、サプライズでオレ宛てに一曲送られるなんて、思ってもいなかったけど)」


梓「(そいでもって今日は、新学期一日目)」

純「おはよー、憂、英雄」

憂「おはよ!純ちゃん!」

梓「おはよ。いい加減その呼び方やめろ」

純「はいはーい……あ、梓」

純「例のもの、用意できたよ。後で渡すから」

梓「あいあい」

憂「本当にいいの?純ちゃん。ジャズ研やめちゃって……」

純「別に心配される程のことじゃないってば」

純「そりゃ未練はあるけどさ。軽音部だって今年憂入るとはいえ、人いなくてピンチじゃん」

純「いくらなんでも困ってる親友夫婦を見捨てることはしないよ」

憂「純ちゃん……ありがとっ!」ギュッ

純「あっはは、憂、苦しいってば……」

梓「……鈴木、あんがとな」

純「貸しに今度マックかなんか奢りなよ?梓ぁ」

梓「おっけ。覚えとく」


〜〜音楽室

憂「ふわふわたーいむっ!」ジャーーン!!


憂「いい感じになってきたんじゃないかな?」

梓「そうだな。手応えは凄いある」

梓「ドラムとキーボードが抜けたのがやっぱりまだ気になるのはあるけどな……」

純「それはどーしようもないからねぇ」

憂「あとツインボーカルじゃないのもちょっと何か変かも……」

純「だよねぇ。二人で歌ってこそのあの曲ってカンジだもんね」

純「てなわけで、梓。やっぱ歌えば?」

梓「男が歌ってて楽しいと思うか?あの歌詞」ヘッ

憂「わたしはいいと思うよ?」ニコ

梓「……ちょっと考えとく」

純「(うわ、ちょっろ)」

カチャ

??「あの……軽音部ってここでいいんですか?」

END



最終更新:2014年01月21日 14:59